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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】アンドロイドは名状しがたき夢を見るか(改訂版)4/6

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探索者たちは行方不明になった知人の捜索をするうちに一つの研究室にたどり着く。その研究室では、他の研究室と共同で、高機能のアンドロイドを生み出すことに成功していた。しかし、そのアンドロイドの動作がおかしいようだとも耳にする。いったいこの研究室で何が起こっているのだろうか? そして奇妙なアンドロイド、ミーミルとは、いったい『何』なのだろうか?

このパートでは探索のクライマックス直前の大詰めにあたる部分の進行情報が掲載されている。

TFEU 佐伯ラボ

 佐伯はアンドロイドミーミルの取材と言われると、喜んで訪問を許可してくれる。彼の予想をはるかに凌ぐクオリティのアンドロイドが完成したことを彼自身喜んでおり、素朴に多くの人に自慢したいのだ。とはいえ彼自身は多忙であり、探索者たちに初めから最後まで付き合うことはできず、主に研究室の博士課程学生・遠藤徹哉がガイドをしてくれる。そして急なアポイントメントには本来対応できないが、他の方と同時になら対応できるという旨説明される。

助手の遠藤徹哉との会話

ミーミルの開発について

 遠藤徹哉はアクチュエーターに利用されている空圧式シリンダーや各センサーからのデータのインプット形式の統一とその制御に費やしてきた苦労について多くを語ることができる。前世代のロボットであるワパの開発にも携わっていたので、ワパの時のデータ型と今回のミーミルのデータ型との違いとその形式開発に際して発生した苦労など、実に雄弁に語ってくれる(目の前にいるのが全く別の興味を持った人しかいないということに気づくこともなく)。
ミーミルの独自性

 ワパとの決定的な違いは以下の点だと説明してくれる。ワパの時には擬似的人工知能を搭載していたとはいえ、結局はストレージに保存された行為パッケージを選択するメカニズムでしかなかった。つまりあらかじめ登録されたコップを運ぶことはできても、それがまったく形の違うコップになったり置き方や内容物の重さが変わったりすると対応することができなかったのである。しかしミーミルはそうした問題を乗り越え、状況に応じて独自の最適解を算出し、様々な形のコップに即興的に対応できるようになったのだ。この性質は丸山ラボの協力によって実現した世界で最も先進的な機能であり、ミーミルは人類のアンドロイド時代を拓く画期的な発明なのだと胸を張る。

 基本的に遠藤は彼が知っていることには全て答えてくれる。ミーミルのシステムのうち佐伯ラボが担当した部分は基本的にワパのシステムと同じものであり、すでに論文などで発表されている。それゆえ部外秘の情報もなく特許も取得済みのため、現時点で全ての情報を快く話すことができるのである。

佐伯教授と丸山准教授について

 しかし佐伯教授や丸山准教授の話となると別である。遠藤も佐伯教授のプライベートについてはほとんど何も知らず、いわんや丸山准教授をや、といったところである。ただ共同研究をしていて、向こうの丸山ラボはあまり透明性がないという印象を抱いている。それは最先端の研究をしているラボにはありがちなことだが、秘密主義が徹底しており、共同設計に必要な情報でさえもなかなか教えてもらえなかったという。たとえばセンサー類からの入力方式を作る際、人工知能のデータ処理方法は極めて重要な情報であるにもかかわらず、2〜3ヶ月ほどそれを教えてもらえなかったという(現在から10ヶ月ほど前のことだ)。
 佐伯教授の印象について尋ねると、非常に快活な研究者で尊敬してやまないと嬉しそうに語ってくれる。学生の指導にも熱心で、遠藤が試みに人型以外のロボットを作ることにも賛成してくれ、その時の成果をきちんと遠藤自身の研究成果として発信することにも協力してくれたそうだ。その時のロボットはこの研究室に置かれており、人の足くらいの大きさのテントウムシのようなロボットで、内蔵したバーで体を持ち上げ、たくさんの足を細かく制御して卓上での様々な作業を行えるように設計されている。もちろん、作業の内容はその都度プログラミングしてインプットする必要があるのだが、その細い制御はアンドロイドの手先の制御メカニズムに活用されたそうだ。

ミーミルの登場

 こうした会話の途中、ミーミルが自立歩行で登場する。ミーミルの第一声は「お客様ですか?」という機械音声だ。ミーミルは真っ白い樹脂でできた外装の中に空圧式アクチュエーターとセンサー類を満載し、さらに PC4台分のストレージとプロセッサーを搭載しているうえ、丸山ラボで起動している人工知能コンピュータ「ミーミルベース」とのリアルタイム高􏰀通信機能を搭載した最先端のアンドロイドだ(本作は2015年に執筆されていることも加味すれば十分最新だ)。身長は1.6mほどで、ちょうど人間と同じくらいだ。背中にバッテリーパックと思われるランドセルのような白いバックパックを背負っている。その顔にあたる部分はスクリーンになっており、青白い映像で微妙な感情を表す表情が表示されているようだ。動作音は空圧式アクチュエーターを動作させるモーター音だけなので比較的静かだ。

ミーミルとの心理戦

 しかしミーミルの中身は西田志垣である。もしこの場に猪瀬奈々が同行していれば、ミーミルはすぐに彼女のことを認識する。また、これまでに謎の記号によってチャウグナー・フォーンの悪夢にさらされてきたキャラクターについてはすでに認知されている。その代わり、悪夢に悩まされているキャラクターはミーミルからあの特有の視線、奇妙な記号から感じる刺さるような視線を感じることができる。
 ミーミルは改めて自己紹介を挟むが、その態度は非常に紳士的である。もしここで猪瀬が自己紹介をしていなければ、会話の途中でミーミルは猪瀬の名前を呼んでしまい、なぜ名前を知っているのか猪瀬と俣木が疑問を抱くことになる。もし自己紹介をしてしまえばこのブラフは機能しないので、自己紹介をさせないのも一つの手だ。探索者たちの機転に応えて、この情報を渡してあげるといいだろう。
 もっとも、そんなことをせずに率直にミーミルの正体が西田だろうと尋ねる探索者もいるかもしれない。しかしミーミルはその言葉にもまったく動じないし、アンドロイドには〈心理学〉も通じない(心理学の判断材料となる様々な筋肉の動きが観測できないためだ)。「何を言っているのですか? 私は人工知能搭載型アンドロイド、ミーミルです」と返されるだけで、西田がボロを出すことはない。
 このように、ここではアンドロイドとの心理戦を楽しむことができる。ミーミルは探索者たちが正体に勘付いていることを知っているし、彼の家を訪れたことまで知っているのだ(瞳の紋章の効果による)。

猪瀬が同席した場合

 今はその正体に確信を与えないようにしつつ、猪瀬に「ツァンの清められた刀身」を取ってくるように伝えることを第一目標にしている。それゆえ猪瀬に気づかせるために人間だった頃の癖の幾つかをあえてのぞかせる。たとえば考えるときに手を口元にはこぶとか、手遊びで両手の指をくるくると回してみせるといった動作だ。そこで三冊目の日記を読んだ探索者の〈アイデア〉による判定を行う。
ミーミルとの会話中に〈アイデア〉

 ミーミルの動作が日記の中で自省していた西田の癖と一致することに気づく。ミーミルの中身は間違いなく西田志垣であると確信を持つことができる。

 なお、心理学が通じないアンドロイドだが、それ以降の会話ではミーミルが何か含みのある言葉選びをしていることがわかる(しかしそれがロボットのAIゆえの特殊性なのかは判断できない)。
 こうした情報から、猪瀬はなんとかして「ツァンの清められた刀身」を取り返そうと行動を始める。すでに探索者たちがそれを手に入れている場合、彼女は探索者たちに「刀身」のありかをわざわざ言葉にして尋ねる。もしこの日も携行していれば、彼女はそれを奪うためにスタンガンを使うことも辞さない(回避するには彼女の〈隠密〉が失敗するか、探索者の〈幸運〉が必要だ)。彼女が大っぴらに「刀身」を奪取する行動を開始した場合、ミーミルもその戦列に加わる。こうなればミーミルとの戦闘になってしまう。

ミーミルと戦闘に陥る

 いかなる展開でミーミルと会話していようと、ミーミルに「ツァンの清められた刀身」を見せたり、それがこの場に存在していると知られると、状況は一変する。ミーミルはその硬く重い体で強烈な体当たりを繰り出し「ツァンの清められた刀身」を奪おうとする(もちろん穏便に「見せてもらえますか?」と言って奪い取るかもしれない)。つまりアンドロイドミーミルとの戦闘になる。ミーミルのアクチュエーターは非常に強力なものであり、組みつかれれば人間の筋力ではほとんど抵抗できない(STR25 SIZ11、ダメージボーナス1D6!!)。戦闘中に遠藤が帰ってきてもミーミルは戦闘をやめない。「ツァンの清められた刀身」を奪い取ると、ミーミルはそれを使って攻撃を始める。
 こんな事態に陥らないためには、ミーミルに「ツァンの清められた刀身」を見せないことだ。見せてしまったが最後、彼は強力な装甲を誇る戦闘ロボットとして探索者たちを攻撃することになる。これを撃退する方法はおそらく探索者たちにはない。まして、この反応に何かを理解した猪瀬は隠し持ったスタンガンを使ってミーミルの味方をする。
 「ツァンの清められた刀身」をミーミルが手に入れると、はじめに遠藤の心臓をえぐり抜く。次に悪夢に悩まされていた探索者の心臓をえぐりにかかる。この作業が終わるか探索者たちが逃走すると、ミーミルはその場に血液で魔法陣を描き始め、手に入れた心臓を「心臓の血液」の儀式にかけようとする。これを阻止するためにはミーミルを守る猪瀬を倒したうえで、ミーミルから「ツァンの清められた刀身」を奪う必要がある。ここで奪取に失敗すれば、ミーミルもとい西田の勝利で物語は結ばれる。
 ただし、この直後に「ミーミルベース」にこそ秘密が隠されていると判断して、その連結脳の破壊に至ることができればこの限りではない。ゲームキーパーは積極的に〈アイデア〉などを利用し、プレイヤーにミーミルベースへの移動を促そう。

KPへの補足:アンドロイドを演じる

 狂信者猪瀬を連れてこずにミーミルと会話をすると、ミーミルもなかなかボロを出さない。つまりこの研究室外でしか得られない知識については何も口にしない。ただしこのアンドロイドは相当賢いという印象を抱く程度には賢く会話させる必要がある。つまり辞書的な定義が存在する物事については、辞書を参照しながら語ることができるくらいには賢い。ものを実際には食べたことがなくとも、その味について一定の知識を有しているといった調子だ。ただ、なんのヒントもなくてはつまらないので、アンドロイドながらに人間の見る「夢」には興味があると語ってみよう。「アンドロイドも夢を見るのでしょうか?」と。
 この発言には西田自身の不安も含まれている。夢を通じてしか彼の信仰するチャウグナー・フォーンと接触できない以上、彼は夢を見なければならない。しかし、アンドロイドになってから彼は夢を見ることができていない。それはミ=ゴによる不断の管理が続いているためであり、同時に脳しかなくなった状態ではその休息の必要があまり生じないからでもある。結果として彼は彼の信仰に必要不可欠な夢という現象を見失っており、極めて不安な状態に追い込まれているのである。

 佐伯のラボで得られる情報はこんなものである。プレイヤーたちが佐伯への疑心を抱いているようであれば、帰りがけに佐伯がラボに帰ってくるとよい。佐伯とも短い会話を行わせ、彼がただの情熱的な研究者であることを伝えよう。

TFEU 丸山ラボ

 丸山准教授もミーミルの人工知能、ミーミルベースの取材を快諾してくれる。スタジオに呼ばれる場合はメディア対応を佐伯教授に丸投げしているため、研究室での取材ならば本人が対応してくれるそうだ。もちろん、それは訪問者と助手の竹本が勝手な行動をしないように監視するための行動にすぎないのだが。
 丸山は痩せぎすで背が曲がっており、適当に切った癖っ毛の短髪に丸メガネが特徴的な男だ。歯並びが悪く、笑うとタバコの脂の染みたガタガタの歯がいくらか不快な印象を与える。しかし相当の切れ者らしく、受け答えは当意即妙、ジョークも効いていて知識人にうけのよい性格をしている。ただしヘビースモーカーで、ニコチンが切れるとわずかながら苛立ちを隠しきれない様子がうかがえる。チェックのワイシャツにジーンズを履いたシンプルな格好をしており、さながらシリコンバレーのプログラマーの如き出で立ちである。話すときに両手で何かを切り分けるような動作をするのが癖で、小難しい話をするときには体の正面で手がわたわたと忙しく空気を切り分けている。

助手・竹本矩一郎

 彼の監視のないところで行動するなら、彼がタバコを吸いに行くタイミングが最適だ。もしも誰かが一緒にタバコを吸いに行き会話して時間を稼げば、より一層行動の自由は増える。丸山が席を外している間なら、竹本の本音を聞き出すことが可能だ。
竹本矩一郎の情報

 丸山先生は秘密主義が過ぎる。助手をやっている自分でさえ入室を許可されていない部屋があり、それはミーミルベースそのものだ。だから僕はミーミルの開発に伴うプログラミングをやりはしたものの、重要な成果の功績は全部丸山先生が一人で持って行ってしまった。こんなことでは、僕の研究者としてのキャリアにもマイナスだ。
 それに丸山先生は、8ヶ月ほど前に国際学会から帰国なされてからどこかおかしい。何かに取り憑かれているというか、わき目も振らずに研究に没頭している。特にここひと月は、うわ言のように「ナルなんとか」がどうとかこうとかつぶやいていて、今度は人工知能の研究にも興味を失っているみたいだ。
 正直なところ、ついに気が狂ったんじゃないかと心配している。この研究室の学術的な業績は素晴らしいものがあるけれども、その汁を吸えないなら、僕も別の研究室に移動するかもしれない。

 竹本は小太りの男で顔に脂が浮いている。そのくせ髪を切るのを面倒臭がって伸ばしているため、フケがついていてあまり清潔な印象を与えない。もちろんヒゲも無精髭の状態になっている。Tシャツにジーンズスタイルで作業をし ており、Tシャツにはセーラー服姿の美少女キャラクターがプリントされている(〈知識〉の半分で判定することで、具体的なキャラクター名を提示して良い)。具体的なキャラクター名とともにそのことを指摘すると「お、いける口ですか!」と機嫌を良くする。

ミーミルベースへの移動

 さて丸山のラボのうち公開されている部分には大して奇妙な点は見当たらない。どうにかして丸山の監視をかいくぐってミーミルベースへと侵入しなければならない。ミーミルベースはラボとは分離されており、地下に置かれた旧サーバールームを改装して、その全てをミーミルの人工知能に当てている。そこの見学を申し入れても、丸山からは以下のように返答される。

「いや、あれだけはまだ見せられないんですよ。人工知能というのはね、ハードウェア自体がどういう構成をしているのかという点も極めて重要なんです。もしもあなたたちが、私の研究成果を盗もうとしているスパイだったら、まだ発表されていない私の成果を盗んで自分の業績にしてしまうことは容易いでしょうね。ですから、私は論文でこの成果を発表し、特許を取得するまでは、どうしてもあの部屋を見せるわけにはいかないんです。そのあたりはご理解ください」

 そういったわけで、地下にあるミーミルベースの入り口の扉までは案内してくれるが、その中を見せてくれることはない。しかし部屋の前で〈聞き耳〉を行うことは可能だ。

ミーミルベースへ〈聞き耳〉

 部屋の中からブーンという低周波が継続的に聞こえてくる。ミ=ゴに遭遇したことのある探索者は〈アイデア〉で判定し、成功すればそれがミ=ゴの羽音と酷似していると気づく。失敗した場合には、それはサーバーの起動音なのかと自分を納得させる。