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クトゥルフ神話TRPGのシナリオの書き方:難易度2

ご好評をいただいたクトゥルフ神話TRPGシナリオライティングの(わたしなりの)技法紹介記事第2弾です。

 

前回をご覧になっていない方は、こちらのリンクからご確認ください。 

trpg.hatenablog.com

 

さて、前回までに、使用技能を決定して、いわゆる「正規ルート」を作るところまで紹介しました。

実は、シナリオ作りで難しくなるのは、ここからなんです。

 

今日やることは、主にふたつ。

A.ダイス失敗に備えた予備ルートの設計

B.別技能で突破する準正規ルートの設計

 

これを達成するために、(わたしは)次の手順を踏みます。

1.必須情報の数珠繋ぎを用意する

2.必須通過点を残して、自由度を引き上げる

3.情報獲得の二つの手段

 

順に見ていきましょう。

 

 

1.必須情報の数珠繋ぎを用意する

正規ルートが、使用する技能の連鎖として構成されていたのに対して、予備ルートや準正規ルートは、「正規ルートと同じ情報を収集する別の手順」として構成されなければなりません。

そこで、設計された正規ルートで、どのような情報を得ているのかを、一度はっきりと整理しておく必要があります。

 

まずは、前回作り出した、使用技能の数珠繋ぎを、「必要情報の数珠繋ぎ」と読み替えましょう。この「必要情報の数珠繋ぎ」を、シナリオ資料内「プレイヤーの情報」の冒頭、あるいは「キーパーの情報」として要約しておきましょう。

例:「アンドロイドは名状しがたき夢を見るか?」の場合

  • 失踪事件の背後に宗教組織が絡んでいる
  • 宗教組織の代表が失踪状態にある
  • アンドロイドのAIと教団代表が一体化している
  • 脳を取り出す神話生物の技術の存在
  • サーバールームが怪しすぎる

周辺情報を補いつつ、この箇条書きをテキストとして 整理すると、次のようになります。

プレイヤーの情報、冒頭文章例

PCの知り合いが失踪したという情報を追うと、その背後に、宗教組織「血の結社」が関わっていることが明らかになる。PC自身もその邪教の秘術のせいか、悪夢にうなされ始めてしまう。教団の代表、西田志垣は、チャウグナー=フォーンという夢見の象神を奉じているらしい。象神の悪夢から解放されるためにも、教団代表との接触を試みたPCたちは、彼が失踪状態にあることを知る。西田の失踪直前の日記には、神を招来する「白い侍者」への執着と、自らがミーミルと呼ばれる存在に変質する予感が書き残されていた。ミーミルといえば、昨今メディアでも話題の人工知能搭載型アンドロイドだ。高度すぎる人工知能の正体が、人間なのだとしたら頷ける。開発者である丸山峙大の研究室へと向かった探索者たちを待っていたのは、アンドロイドと心理を探り合う、前代未聞の舌戦だった。狂気を秘めたアンドロイドは何故生まれたのか?西田志垣と丸山峙大、二人の狂人と、ミ=ゴがもたらした、恐ろしい半人工知能の実態は、研究室地下のサーバールームに眠っている…。

 

こうした整理は、思わぬ効果をもたらします。

シナリオライターとKPが異なる場合であっても、シナリオクリアに必要不可欠な情報が何であるかを、KPが把握することができます。これを共有しておけば、情報の設置場所にはそうこだわらずに、柔軟に必要情報を手渡していく、自由度の高いキーパリングを支援することができます。

 

 

2.必須通過点を残して、自由度を引き上げる

続いて、すごろくにおけるストップマス、コンピューターゲームにおける中間地点を作りましょう。

これをたくさん作りすぎると、自由度が低いシナリオになり、逆に作らなすぎると、自由度が高すぎてPLを混乱させてしまいます。

 

なお、この辺りから、シナリオの構成の発想を変化させる必要があります。

前回までは「正規ルート」に象徴されるように、「レールを敷く」形式でシナリオを組み上げていました。

しかし、ここからは、川の流れにダムを設置する感覚で、シナリオを設計することになります。意識するのは「ダムの前後では自由にさせて、ダムのポイントでしっかりとシナリオを引き締める」ということです。

 

まずは、正規ルートの中から、一つか二つを選んで、それを必須通過点としましょう。

例:「アンドロイドは名状しがたき夢を見るか?」の場合

必須通過点:西田の日記を読む(AIと教団代表の一体化の情報)

必須通過点を定めることによって、シナリオは大きく二つの部分に分割されます。 前半戦の目標は、必須通過点に到達することに定まり、後半戦の目標がシナリオクリアに据えられます*1

 

さて、ここで、一度完成していた「正規ルート」を解体します。

一度「正規ルート」を構築したのは、結末にたどり着くまでのプロセスを分解し、展開を豊かにするためでした。いまや、必要情報回収のステップが明らかにされているので、正規ルートは、むしろプレイヤーの自由を阻害する、邪魔な存在に変わっています。

 

 

3.情報獲得の二つの手段

そのうえで、必要情報について、二つの手段を用意しましょう。

すなわち、人から聞いて手に入れるパターンと、物理的な情報リソースが手に入るパターンです。前者なら、交渉か交渉(物理)が有効です。後者なら、操作系技能か思考系技能で回収できます。

 

これを設定するだけで、シナリオの自由度は一気に高まります。必須通過点であるダムのポイントを除いて、すべての情報があらゆる手段で入手出来る状態になるからです。

 

もちろん、それぞれの情報の性質を鑑みて、どちらか一方だけを用意しておいてもいいでしょう。その場合には、交渉機会を2回設けたり、2人がその情報を知っていたり、似たようなものが2箇所に設置されていたりするなど、リトライの機会を1度だけ用意しておきましょう

 

ここまできたら、あなたのシナリオは、当初のイメージからずいぶん広がって、さらに高い自由度を獲得しているはずです。おそらく、想定していたプレイ人数や、推奨技能などの制限設定もかなり少なくなったのではないでしょうか?

今回の手順によって、何人でも、どういう技能の組み合わせでもプレイできる、自由度とゲーム性が保証されたシナリオへと昇華します。

 

しかし、まだ、ある種のプレイヤーを満足させるシナリオには到達していません。

ここで課題になるのが「高い自由度の中で、物語としての盛り上がりをどう作り込むか」という点です。

 

次回以降、この課題を、私なりのアプローチで解消する技術を紹介していこうと思います。

*1:通過点の設置は、次回扱う予定の、物語としての演出を作り込むうえでも、重要な役割を果たします。