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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】糸に囚われて(改訂版)3/4

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 その結末は、おそらくは必然だった。——運命の糸をたどるように、日本屋敷の宿にたどり着いた探索者たち。養蚕業を営んでいたというその屋敷には、歴史を語る機織り機が置かれている。平穏に思われたその宿で、思いもよらぬ恐怖の渦中に身を置くこととなるのだった。


プレイヤーの情報

厨房

 たいていの時間帯で、稲葉敏朗が仕込みを行なっている。重大なイベントが挟まれるのは夕食後のみである。
 夕食前の場合、敏朗は仕込みを行なっていて忙しく、問いかけには応じられないと断る。

夕食後のイベント:稲葉敏朗の消滅

 稲葉敏朗が夕食の食器を洗っている。しかしその体からは操り人形のように、節々から真上に白く輝く糸が伸びている。声をかけたとしても反応することなく食器を洗うが、糸は静かに真上にたぐられつづけて、やがて敏朗の四肢は消失を始める。

「まだ足りない。次元の糸が、あと◯つ……」

 さらに食器類の湯気の中からも糸が立ち上り、それが続くにつれ、食器の立てる音がなくなってただ水の流れる音だけが残される。敏朗が消失したあとそこに残るものは何もなく、流れる水さえも消滅している。

正気度判定

従業員の消滅 1/1D10

 この正気度判定で一時的狂気に陥るか〈アイデア〉判定に成功すれば、次の着想を得る。

敏朗の妄言への狂人の洞察力

この宿は複数の次元が重なった状態にあり、糸を撚り合わせるように、複数の現実を結びつけて超現実を作り出している。どこかでそれを行なっている場所があるはずであり、そしてまた、この宿のどこかに複数の次元を結びつけた超常的な存在が実在するはずである。

交流ラウンジ

 夕食後の早い時間帯であれば、交流ラウンジに稲葉りりの姿を認めることができる。稲葉りりの消滅については、ゲームキーパーの判断でそのタイミングを遅らせることができる。ここでは典型的な消滅の過程として、交流ラウンジでの消滅を記載しておく。

稲葉りりの消滅

 もし他のキャラクターが消滅していない場合、この方法で稲葉りりをはじめに消滅させることを推奨する。すなわち、一緒にボードゲーム類で遊んでいる間に、突如として消滅するのである。

 次の手番をこなそうとコマに手を伸ばしたとき、あるいは山札や探索者の手札からカードを引こうとしたとき、その指先から糸が現れ、天井へ向かって伸び始める。すると指先から稲葉りりが消滅し、ものの十数秒の間にその姿は衣服ごと完全に消滅してしまう。

正気度判定

従業員の消滅 1/1D10

 他の従業員が消滅するイベントが先行した場合、稲葉りりは自宅に帰ろうとして玄関を出るところで同様に消滅するなどして処理するとよい。

資料室

機織り機

 屋敷の入り口から左に通路を進むと展示室があり、屋敷の歴史を語る資料とともに部屋の中央に機織り機が置かれている。機織り機を体験してみることができ、この部屋に入ると後ろから稲葉明子に声をかけられる。

機織り機を使う際〈目星〉

稲葉明子は「こちらに糸を通して」と言いながら、機織り機の正面側に糸を通し飛び杼に糸の先をつける。何度か機織りの基本動作を示すと、探索者に続けるよう促す。〈目星〉に成功した探索者は、この横糸が稲葉明子の指から直接に出ていることに気づくことができ、交代を促した右手の中指の第二関節までが消滅しているのを目にする。〈目星〉に失敗した場合、横糸用の糸を手に持っているのだろうと認識する。
 機織りを開始した探索者はPOW30に対して抵抗表を振る(自動失敗)。敗北すれば直ちに正気度1D6を失い、何かに取り憑かれたように無心で機織りを続けてしまい、稲葉明子はその全身が糸となって消滅してしまう。
 このとき、稲葉明子は次のように口にする。

「私を織ったらあなたを織って。それで“あの子”は永遠になる……」

正気度判定

ほつれる指先 1/1D6

正気度判定

人織りの目撃 1/1D10

 当然、探索者が布を織り成すにつれ、稲葉明子はその衣服ごと完全に消滅していく。それでも足先の最後の糸が消えるまで、静かにそこに立っているかのような姿勢をとり続ける。
 もし他の探索者がこの途中で異常を察知し機織りを中断させたとしても、機織り機はひとりでに動き続ける。稲葉明子はその動きに従って消滅してしまう。糸の切断は不可能であり、あらゆる物理的な攻撃を透過する。また機織り機への攻撃は12ポイントの装甲によってほとんど弾かれてしまう。

正気度判定

勝手に動く機織り機 0/1D3


尾栗弥三吉に宛てられた書簡

 資料室には尾栗弥三吉の娘であるおミキが病弱だったことを示す資料として、一つの書簡が展示されている。

尾栗弥三吉に宛てられた書簡

おミキが病弱であるのは病のせいではないと主張する書簡。たとえその財力でいかなる名医を招こうとも、おミキが快癒することはないと書かれている。その原因として狐憑きの類が指摘されており、不言先生に見てもらうべきだと力説している。不言先生とは、当時市民の間で絶大な信頼を寄せられていた山籠りの偉大な仏僧のようで、その霊力についても力説されている。

 この資料に対し、〈日本語〉の半分か〈歴史〉に成功した場合、次の情報を追加で獲得する。

資料に対し〈日本語〉の半分あるいは〈歴史〉

「不言」という文字に複数の読み方があり、一種のあだ名であろうと推測できる。最も一般的には「いわず」を意味するが、これは「口無し(くちなし)」の転であることから、クチナシの花を意味する場合があり、そのことから古く「不言色」とは「クチナシ色」すなわち黄色を意味してもいた。

 この情報と黄色の衣のレプリカが置かれていることから、弥三吉が不言先生を招いたと推測できる(プレイヤーが気づかない場合は〈アイデア〉を実施)。これに気づいたとき、探索者たちは〈オカルト〉および〈クトゥルフ神話〉で判定する権利を得る。

黄衣の高僧

〈オカルト〉による情報
 西洋で「口にするのもはばかられる大司祭」と恐れられているオカルト的存在が知られている。この事件にも関わっているのだろうか?

〈クトゥルフ神話〉による情報
 「口にするのもはばかられる大司祭」がまさに黄色の衣と「不言」という異名を兼ね備えている。この存在は、千の顔を持つ神と畏れられているニャルラトテップの化身の一つである。もしそれを招いたというのなら、この館でおミキという少女を巡って、深刻な魔術が発動された危険性がある。


探索者の客室

利用規約

 利用規約の端にわずかに糸が出ている。それに気づくと、引っ張ったわけでもないのに、その糸は繭のような塊を作ろうと凄まじい速度で回転を始める。それに合わせて、利用規約の黒い文字が刺繍の糸を抜き取るように後ろから順に消滅していく。後にはただのファイルと文字のない白い紙だけが残される。巻き上がった黒い繭は煙のように消えてしまう。

正気度判定

ほつれる文字 0/1

 しかし文字のなくなった利用規約を他の誰かに見せようとすると、そこには文字が戻っている。しかし冒頭の旅館の名称が変わっている。そこには「おぐり旅館」とも「OGRI」とも書かれておらず、「緒繰旅館」と書かれている。

掛け軸

 ランダムで1人の探索者の部屋に、おミキを描いた掛け軸がかけられている。鞠を手に持った小さな女の子で、赤い着物を着ている。その脇には、「おミキ」という表題の書かれた紙が置かれており、次のように説明している。

おミキの浮世絵

この屋敷を建てた尾栗弥三吉(おぐりやそきち)は、もとは武士ながら養蚕業で財を成しました。娘のおミキを描かせた浮世絵からも、子煩悩だったことが伺えます。この絵は1742年に描かれたと推測され、この屋敷の二階で大切に保管されていました。名もない浮世絵師の作と言われ、美術品としての価値は少ないものですが、この屋敷の歴史を伝える重要な品でもあります。

黄色の篠懸衣

 ランダムで1人の探索者の部屋には、黄色い篠懸衣が展示されている。本人が着ていたわけではないという注意書きとともに、おミキの命を救った人物が着ていたと書かれている。