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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】糸に囚われて(改訂版)4/4

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 その結末は、おそらくは必然だった。——運命の糸をたどるように、日本屋敷の宿にたどり着いた探索者たち。養蚕業を営んでいたというその屋敷には、歴史を語る機織り機が置かれている。平穏に思われたその宿で、思いもよらぬ恐怖の渦中に身を置くこととなるのだった。

プレイヤーの情報

二階:養蚕施設跡

 養蚕施設跡が残っている二階は鍵のかかった扉で塞がれている。これを開くためにはフロントで保管されている二階の鍵を獲得するか〈鍵開け〉に成功する必要がある。
 二階は窓も小さく薄暗く埃臭い養蚕施設跡だ。すべての探索者はここに足を踏み入れた際、POW×4の判定を実施する。判定に失敗した探索者は、このロの字型の二階の全周にわたって古い糸繰が規則正しく並べられており、それらがひとりでにに回り続けている光景を見る。しかし判定に成功した場合、その探索者だけは異なる光景を目にする。

正気度判定

ひとりでに動く糸繰 0/1D3

無限の糸繰

 POW×4の判定に成功した探索者の目には、ロの字型をなしていた内壁が失われており、全周の糸繰を一望することができる。そしてそれらの糸繰から白く輝く細い糸が中央めがけて円錐形に登っていくのを目にする。全体から中央へ伸びた糸は、建物全体の中央で輝いて一つの糸へとより合わされると、直下へ少しずつ伸びていく。中庭があるはずのその場所には、ただどこまでも続く暗闇が続いており。糸はその中央に浮かぶ白く独特な輝きを持った大岩へと、静かに静かに巻き取られていく。
 見ればそれらの糸繰は虚ろな目をした人々の手で動かされている。糸へと加工されているのは蚕の綿ではなく、壁の代わりにただただ白く輝く謎の“もや”だ。

正気度判定

無限の糸繰 1D3/1D10

 すべての糸に触れることはできず、壁の代わりに輝いている“もや”にも触れることはできない。糸繰の動かし手には稲葉一家や元木なども加わっている。すべての糸の繰り手は声をかけても反応せず、触れようとしてもその周囲に丸い透明の、しかしやや粘性を帯びた壁がある。これは実際にはレンの蜘蛛の体表面である。
 このことに気づくためには、無限の糸繰の正気度判定において一時的狂気か不定の狂気に陥る必要がある。それらの狂気に陥れば、それまで稲葉明子はじめ人間の姿をしていた糸の繰り手たちはたちどころにその姿を変貌させ、黒い体に赤い瞳を複数持った巨大な蜘蛛へと変貌し、ただ穏やかにその足で糸を繰り続けているのを目にする。この光景を目にすれば、さらに正気度判定を実施する。

正気度判定

無数のレンの蜘蛛 1D6/1D20

動かない糸繰

 中にはいくつかのまだ動いていない糸繰がある。その背後にも白く輝く奇妙な綿がある。探索者がそれに触れるたび〈幸運〉判定を実施し、初めて成功した綿については、接触するだけで安心感を得る。この効果により、一度だけ正気度を直ちに1点回復する。このとき、同じ次元から訪れた探索者(つまりグループAとグループB)は同じ綿からこの効果を得る。

 一つの解決策として、この目の前にある糸繰を用いて探索者の体の糸をほぐし、対応する現実の綿と撚り合わせるという手段がある。これを発想するためには、敏朗の消滅に伴う狂人の洞察力か、あるいは笹原の消滅に伴う情報獲得(不言先生との会話)が求められる。これらの情報を獲得しているにも関わらず、プレイヤーがこの手段を思いついていない場合には、〈アイデア〉によってこの発想を得ることができる。ただし、それが良い結末に結びつくかまでは判断できない。

 ただし、糸繰の操作には正気度の消費を求められる。探索者一人を自分の現実の綿と撚り合わせるためには、5点の正気度を消費する必要がある。この効果によって一時的狂気に陥ったかどうかを判定する必要もある。しかし糸繰を操作すれば、その探索者はこのセッションから離脱し、結末を待つことになる。

 なお、探索者が永久的狂気に陥るか、自らの体を一階の機織で布へと織り込んだ(このシナリオにおいてロストした)場合、探索者は従業員たちと同じように糸繰の席についており、黙々と糸繰の作業を続けていることだろう。

正気度判定

糸の繰り手となった仲間 0/1D6

箱庭

 ロの字型になった建物の中央には箱庭があり、日本式の庭園となっている。その中央にはどうやって運び込んだかしれない大岩が置かれており、火山岩なのか独特な輝きを有していて実に美しい。その岩がひときわ目を引くことを除けば、一見してそこに何の違和感も覚えることはない。

糸の先の大岩

 二階で真実の姿を目にした者ならば、束ねられた糸が箱庭の中央にある大岩へと吸い込まれていたことがわかる。
 大岩そのものを攻撃して破壊しようとした場合、10ポイントの装甲を持つものとしてダメージ算出する。装甲を貫通してダメージが発生した場合、黒い筋状の液体が流出して攻撃者の口を包むように、明らかに意思を持って噴出する。ただちに溺れの処理を開始する。この黒い液体を除去するためには、大量の流水で処理する必要があるが、この庭にある池の水はその用を果たすだろう。液体を流して安全を確保した頃には、岩の傷はすでにふさがっている(耐久力は減少しない)。

おミキの覚醒

 異なる世界から来訪している探索者(グループAおよびグループBの探索者)がそれぞれ1名ずつロストした場合、中庭の大岩は糸を手繰り寄せるのに合わせて、穏やかな回転を始める。

 その只中から黒い液体が噴出すると、岩は割れて、中から赤い着物を着た少女が浮かび上がるように姿を表す。その目には黒い瞳がなく、その背からは蝶か蛾のような羽が現れる。その羽には無数の目があり、少女が美しくひとつ身を返すように回ると、その目が少女の周囲に立ち並び、黒くキラキラと輝く。それは美しくも恐ろしい光景だ。

正気度判定

おミキの覚醒 1D6/1D20

 この光景の次には、生き残った探索者に対して少女は微笑み、その指先から糸を伸ばす。その糸が探索者に触れると、探索者は瞬く間にすべての正気度を喪失し、少女の元へ歩み寄ることになる。正気を保っている探索者ならば、この危険性を察知できたとしてもよい。その場合、おミキの目覚めに伴って、宿を包んでいた全ての白い糸が消滅していることに気づける。すなわち、踵を返して逃走すれば、その探索者だけは、この場での死亡を免れることができる。


結末

 このシナリオには複数の悲劇的な結末が用意されている。探索者の状況によってそれぞれの描写を行うこと。これ以外の結末に到達することもありうる。ゲームキーパーは適宜資料に反さない結末を描写すること。

現実と撚り合わせる

 屋敷の二階で探索者が存在する現実である綿と自らの糸を撚りあわせた場合、探索者はその場で意識と肉体を喪失する。このとき正気度5点を消耗しているため、一時的狂気のチェックが必要になる。いずれの場合でも、探索者は自らの元いた現実の全く唐突な一場面で意識を取り戻す。そこが日本とは限らない。どの程度自分の生活領域に近い場所で意識を取り戻すかについては、〈幸運〉などで判定を行おう。
 なお、一時的狂気に陥った場合、その探索者は現実が16次元の糸で構成されており、この世界そのものが一本の糸であるという確信めいた理解を得る。同じように超次元の糸が複数存在し得るし、それらを束ねることで超現実を構成できるはずだと主張するだろう。しかし不定の狂気に陥っていない限りは、そうした混乱も短い時間にとどまる。苦労はするだろうが、突如見知らぬ土地で意識を取り戻した人物として、一時メディアを騒がせるかもしれない。

正気度回復

元の現実へ 1D6

繭を破壊して逃げ出す

 繭の破壊には装甲値12を凌ぐ強力な攻撃によって玄関の繭の耐久力10点を失わせる必要がある。あるいはおミキの覚醒後に逃走した場合にも同じ結末に至る。炎や化学薬品を用いてもよいが、そうした道具の有無は厨房での〈幸運〉判定に依存するものとする。
 繭を破壊して逃げ出した探索者が帰る現実は、必ずしも探索者が本来いた現実とは限らない。異なる現実の世界では、探索者はそもそも存在しない人間かもしれないし、ほぼ確実に同じ場所に家があることはない。どの程度近い現実に帰れたのかを〈幸運〉の半分で判定し、成功した場合には少なくとも家があったり、捜索に来た知り合いに保護されるなどの結末をたどる。ただしやはり現実は異なるものであるため、正気度の回復は少量にとどまる。

正気度回復

異なる現実へ 1D3

発狂の末糸の繰り手となる

 これは結末というよりロストの描写である。探索者はレンの蜘蛛となり、自らの属していた現実を捧げる糸の編み手となる。すでに探索者に意識はないものの、その姿と糸繰とが大蜘蛛の姿と化していく様子を描写してセッションを結ぶ。

おミキの糸と接触する

 これも結末というよりロストの描写である。おミキの糸に触れた場合、正気度を喪失した探索者は、おミキの抱擁を受けようとおぼつかない足取りで接近を始める。その体からは四方へと糸が伸びており、その糸が伸びるにつれ探索者の体は崩壊する。おミキの元に到達したとき、探索者はこれまでに感じたことのない最上の幸福感を覚え、そしてその体は糸となって消滅する。ただしこの場合には、眼球だけが中空に残され、おミキの周囲で全ての世界を見つめる瞳たちの仲間入りを果たすことができる。なんと幸福な結末だろうか。