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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】糸に囚われて(改訂版)1/4

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 その結末は、おそらくは必然だった。——運命の糸をたどるように、日本屋敷の宿にたどり着いた探索者たち。養蚕業を営んでいたというその屋敷には、歴史を語る機織り機が置かれている。平穏に思われたその宿で、思いもよらぬ恐怖の渦中に身を置くこととなるのだった。


シナリオの概要

推奨プレイヤー人数 2〜4人
プレイ時間目安 オフライン4時間程度
舞台 現代日本
テイスト 怪現象+SF+和風

はじめに

 舞台は歴史ある日本屋敷だ。現在は改装して宿泊施設として運営されており、探索者たちは観光・慰安旅行の折に初めてこの宿に宿泊することを選んでいる。一見して普通の宿に思われるその屋敷だが、探索者たちはすぐに怪現象に見舞われることになる。
 シナリオ展開の都合上、探索者たちの人数にかかわらず、探索者は二つのグループに分割される。このとき同じグループに属する探索者は互いに知り合いであってもよいが、異なるグループに属する探索者とは面識がないものとする。また、宿泊施設という設定上、外国人探索者による参加も可能である。

キーパーの情報

真相

 この日本屋敷では1743年に尾栗弥三吉という主人の手で、娘のおミキを依り代にしてアトラック=ナチャが招来された。病弱だったおミキが永遠に生きられるようにするための措置であり、中庭には繭に包まれたおミキが当時の姿のまま眠って、すべての世界線から紡がれた糸を通じて無限の夢を見ている。この夢を断ち切るのが探索者たちの目標であり、生存の手段となる。

 この日本屋敷は複数の時空の糸が絡み合う特異点である。そのため異なる時空に存在する人物が同じ空間に共存できる。探索者たちも二つの異なる時空から来訪している。おミキは依り代となった代償に、そうした全ての次元を見つめる邪神であるイブ=ツトゥルへの変貌を始めている。さらに2人の紡ぎ手が加われば、ついに覚醒を迎える。探索者が3人以上いるなら、マレウス・モンストロルムのイブ=ツトゥルのデータを確認しておくこと。

 また、この空間で永久的狂気に陥ったり死亡した者は、その体が糸となって機織り機で布として編まれてしまう。このときその人物は本来存在していた時空から切り離され、この日本家屋の二階でレンの蜘蛛として自らの属する時空の糸を永遠に紡ぎ続けることになる。

 以上の設定から、この日本家屋にはアトラック=ナチャとレンの蜘蛛、そして潜在的なイブ=ツトゥルがいるのだが、それらをまさしくその邪神の姿として認識することはできない。アトラック=ナチャは一階の資料室に置かれた機織り機として知覚される。狂気に陥った探索者は機織り機に魅惑され自らの糸を布として編みあげようとしてしまうだろう。
 また、レンの蜘蛛たちは二階に立ち並んだ糸繰とそれを操る人々の幻覚として知覚される。この偽装を見抜くことができるのは、一時的狂気以上の発狂状態に陥った場合のみである。したがって一時的狂気に陥った探索者が現れた場合には、それらの装置は明確に邪神やその奉仕種族として知覚され、追加の正気度判定が実施されることになる。

3つの時空

 今回の探索者たちは2つの時空から来訪しているため、シナリオ内では3つの時空が展開される。一つは家族経営の旅館という時空で、経営者の夫婦と一人の子供の姿を見ることができる。もう一つは民泊事業者が経営する旅館風の民泊の時空だ。数の少ない接客担当者は職員である。いずれの時空のNPCであっても、その全てがすでに糸となっており、互いに互いの時空のことを感知しておらず、違和感を覚えることなく無限の時の中でサービスを続けている(といって機器や情報が更新されないわけではなく、ネット予約などにも対応している)。

 登場する最後の時空はアトラック=ナチャの時空だ。これこそが本来の時空だが、この時空は1743年時点から静止している。このためその当時この屋敷に住んでいた和装の人々が筋状の雲が揺らぐように現れることになる。したがって探索者の目標は1743年時空への門を開き、この屋敷をアトラック=ナチャの糸から解放することに据えられる。

 なお3つの時空が重なっていることで、この日本屋敷ではあらゆる物事の事実が確定しない。たとえば、この家には三人家族がいるかもしれないし、いないかもしれない。同様に、溌剌として態度のいい接客をする職員がいるかもしれないしいないかもしれない。ゲームキーパーは自在にその実在性を揺るがせにしてもよく、一瞬目を離しただけでNPCがその場から消滅したり、逆に出現したりする演出を自由に活用することができる。


導入

探索者のグループ分け

 シナリオ開始前に、探索者を二つのグループに分ける。プレイヤーには告知されないが、これら二つのグループは本来異なる時空に生活しており、互いに面識はない。たとえ探索者の誰かが著名人であったとしても、異なるグループには全く知られていないか、知っていたとしても微妙に認識が異なるものとする。ここで2つのグループをそれぞれグルーブA・グループBと呼ぶ。同一グループ内の探索者は違いに知人であってもよいが、単身の旅行者として訪れても問題はない。

 セッションは日本屋敷の宿泊施設に到着したところから開始される。それぞれの探索者の到着時間が微妙にずれるようにして、それぞれの探索者のグループ番号を確認してオープニング演出を行う。

グループA:家族経営の旅館「おぐり旅館」

 グループAに属する探索者は、旅館の入り口で「おぐり旅館」という看板を確認して玄関を開ける。すぐに主人の稲葉敏朗が奥から声を上げて姿を表す。物腰柔らかな男性で、探索者の荷物を預かって予約客の台帳を確かめると、鍵を手にとって探索者を右の通路へ案内する。
 右の通路を少し進むと左へ折れ、そこに並ぶ客室の一つへと案内される。ここでプレイヤー全体に間取り図を公開して、次のような注意を行う。

「Wi-Fiのパスワードとか、利用規約についてはこちらにまとめてありますのでご覧ください。先ほどの廊下を奥に進むと露天風呂もありますが、今日は6時から8時が男湯、8時から10時が女湯とさせていただいておりますので、ご協力お願いします。あとはお風呂の手前に交流ラウンジがありまして、そちらにあるものはお部屋への持ち出しは禁止とさせていただいておりますが、その場でならご自由にご使用いただいて構いません。それから、お食事の時間はどうなさいますか?」

 グループの二人目がいる場合、二人目が入館するとその後ろから女の子の声で「ようこそお越しくださいました」と声がかけられる。振り向けば制服を着た高校生がいまここにやってきたという様子で、こざっぱりと品のいい印象を受ける。「お手伝いをしています稲葉りりと申します。すぐに女将を呼んできますね」という調子で、言葉遣いは荒削りの印象を受ける。それでもその年頃の娘にしては随分できた娘だという印象をうけるだろう。
 すぐに稲葉明子が慌てた様子で現れて両手を揃えて挨拶をする。「なにぶん家族経営なもので至らず申し訳ありません」などと言いながら、稲葉敏朗と同じように案内してくれる。

 もしグループAの探索者が一人しかいない場合、この二つの要素を組み合わせた方が設定が伝わりやすい。

グループB:事業者の経営する民泊

 一方、グループBの探索者たちは、日本家屋の入り口で「OGRI」というアルファベットを毛筆で描いた洒落た看板を確認してこの宿泊施設に入る。玄関のすぐわきには男性従業員がおり、「ようこそお越しくださいました」と挨拶される。名前を伝えると古いラップトップコンピューターで予約確認を行い、鍵を手にとって玄関から左の通路へ案内される。職員の胸には笹原という名前のネームプレートがついている。

 注意の内容は同じであるため、説明は省略する。探索者たちの構成やプレイスタイル的に面白そうだと思うなら、露天風呂の男女入浴時間だけ逆に伝えてもよい。ただしこれはシナリオとしては遊びの部分に属し、プレイ時間想定などには加味されていないキャラクタープレイのおまけのような項目であることは注意しておく。

 グループBについては、何人いようと同じ展開である。ただ他の職員として元木という女性が対応する。このためグループ分けの際、特に理由がなければ人数の多い方をグループAとするのを推奨する。

 以上の導入シーンを終えると、探索者たちのグループA・グループBという区別は消滅する。以降、全ての探索者が稲葉親子にも職員の笹原や元木にも接触することができる。
 なお、以上の処理を個別に互いのグループが互いのグループの内容を見えないように進行することで、プレイヤー達の混乱を煽る方法もある。ゲームキーパーが管理しきれる場合、また、セッション当日より先にこの部分だけでも処理できる環境がある場合にのみ、そうした手法も採用を検討してみてほしい。

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