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逆にとても難しいシナリオの書き方を紹介してみる企画1【クトゥルフ神話TRPG】

 簡単なシナリオの書き方を利用して生まれるシナリオは、そんなに面白くありません。当然です。努力もなしに結果だけを要求するのは愚か者のすることです。面白いシナリオが書きたいなら努力してください。

 そこで面白いシナリオにするために何を考えなければならないのかをものすごく長い時間をかけて一つ一つ取り上げてお伝えします。面白いシナリオを書きたいという方は簡単な書き方とかではなく、こちらの方を参照してください。

 

 とはいえ、初めに注意があります。僕のシナリオも一つ書くたび勉強させられていますので、毎回全然違うコンセプトやらメソッドやらが利用されていまして、はっきりいってこれといって定まった方法があるわけではありません。面白いシナリオを書きたかったら、自分で自分に新しい課題を課して、それを解決する方法を模索して、実際に機能するかを確かめて、ひたすらそうやって改善してください。

 

 という注意が済んだところで、始めて参りましょう。

 

 

破滅から始まるシナリオライティング

探索者を殺すことを想像しよう

 はじめに探索者をどう殺したいのかを考えましょう。精神的に殺したいのか、八つ裂きにしたいのか、仲間に裏切られて突然後ろから刺されて欲しいのか、探索者同士で撃ち合いになって死体だけが残されるのか、体を乗っ取られてしまうのか、ゾンビに食われるのか、いろいろと魅力的な破滅がありますが、どの破滅がいいか選びましょう。

 簡単なシナリオライティングでは悲劇とその回避手段を設定することで、クリアしやすいシナリオを作ります。しかし面白いシナリオを作りたい場合、解決手段は二の次にしましょう。シナリオは探索者を狂わせ、死亡させるためにあります。その前提があってこそ、克服した時に満足いく難易度のシナリオとして完成するのです。

なぜ開始直後に殺せない(殺さない)のかを考えよう

 めんどくさいので開始直後に抹殺したいのですが、残念ながらそれをすることができません。まだ殺すための舞台が整っていなかったり、殺す能力をもった存在がこの世界に現れていなかったり、殺す能力を持った存在と出会っていないだけだったり(この場合探索者以外が死んでいる)、さまざまな理由から探索者たちは『幸運にもまだ死んでいません』。

 探索はこの『幸運にもまだ死んでいない状態』から開始しましょう。あとは死ぬところまで重力に引かれて転がり落ちるような自然さで(ピンボールのように紆余曲折こそあれ)不可避的に吸い寄せられるのがシナリオです。このイメージは制作初期には欠かさないようにしましょう。

 

難易度概念が異なるシナリオについて

 あらかじめ注意しておきますが、死ぬのがクトゥルフ神話TRPGなのだから、探索者を殺すことを前提にシナリオを組めと言っているわけではありません。クトゥルフ神話TRPGにはいくつかのシナリオモードがあり、それを忘れていては様々な失敗に陥ってしまいます。

目標を物語作りにおいたシナリオ

 たとえば物語作りに重きをおいたシナリオというものがあります。これを遊ぶ際にはKPもPLも、物語としての演出を意識する必要があり、ゲーム的にクリアを急ぎすぎると物語がぶち壊されてしまったりします。ほどよく力を抜き、生存を目標にするのとは違った遊び方のスタンスを保たなければなりません。

 公式シナリオであれば「奇妙な共闘」や「その腕買います」などはこうした側面を意識するシナリオとして設計されているように思います。また、ねずぷろではこの側面を意識したシナリオを出版するよう意識しています。

ヒロイックストーリーとしてのシナリオ

 あまり僕は書きませんが(全く書かないとは言っていない)、ヒロイックストーリーとしてシナリオを利用する場合があります。この場合にはキャラクターの活躍によって世界を(少なくともヒロインを)救うというような話が好まれます。こうしたシナリオ構造を採用する場合には、それこそ悲劇とその回避手段をパッケージにして用意することからシナリオ製作が始まります。

 そしてシナリオは死から逃れるというよりは、解決策を求めてパズルを解くという感覚で進行し、ミステリー小説のように主人公は真相に迫っていくことになります。ホラーとミステリーが混合したクトゥルフ神話TRPGにおいて、ミステリーの側面を強調したシナリオというべきでしょうか。

 

探索者を殺せる圧倒的な力

 クトゥルフ神話TRPGの重要な要素は、敵が圧倒的な力を持っているということです。1人殺せる力では足りません。探索者を殺すためだけに、地球人類を抹消できる力を利用しましょう。探索者1人だけを殺すのだから、このくらいでいいやなどと手加減する必要はありません。どうせ殺すなら耐久力を-100以上まで吹き飛ばせるくらいどでかくいきましょう。死亡したらそこでカウンターストップではないのです。

神格を選ぶ:イメージ通りの死に様のために

 神格を選ぶのは探索者にイメージ通りの死に様を与えるためです。シナリオ中最大のSANチェックでもあるため、ここでどのレベルの存在を登場させるかは重要です。是非とも「1d10 / 1d100」レベルの神格を選びたいところですが、死に様との都合がつかなければ「1d6 / 1d20」クラスで構いません。

 なおこれ以下はクトゥルフ神話TRPGシナリオの難易度として問題があります。これ以下のものしか登場しない場合(またはこのクラスの神格が探索者を攻撃目標としない場合)シナリオの目標を物語やヒロイックストーリーに変更して、異なる製作手順を採用しましょう。

クライマックスには神格も奉仕種族もマシマシで

 クトゥルフ神話TRPGで遊ぶんだもの、そりゃせっかくなら邪神に会いたいじゃないですか。なので会わせてあげましょう。いつも邪神が招来されないまま終わりじゃ面白くありません。会ってなお生き残ることに意義があります。

 というわけで、クライマックスシーンには下級の独立・奉仕種族なら(探索者1人につき)6体以上、上級のそれなら1体に加えて下級種族を3体程度は必ず加えましょう。これらは下限であって、これ以上ならいくらでも好きにしてください。断じて上限ではありません。

 強いて上限を設定するならば、邪神が3体以上いると情報が多くなりすぎて困るので、邪神は2体までです。邪神2体と対応する下級の奉仕種族1種類100体とかはなんら問題ありません。(探索者が死亡できるという点で)平均的な難易度のシナリオです。ご安心ください。

 

次回へ向けて心構え

 今回で伝えたかったのは、実は非常に重要なことです。すなわち、“安定して面白い”シナリオにするためには、(好き嫌いの別れる)物語に依存するのではなく、クトゥルフ神話TRPGそれ自体が持っている“面白さ”に依拠してシナリオを作るのがよいということです。

 そしてクトゥルフ神話TRPGそれ自体が持っている面白さとはなにかといえば、すなわち探索者が生と死、正常と狂気の境界に立たされることです。なればこそ、まずは探索者を全力で狂気と死の側に配置することからシナリオ作成を開始する必要があります。ずっと生と正常の側から狂気を統治するような、あまっちょろい難易度にしないためにも、この意識は極めて重要なのです。

 

 それと同時に、物語やミステリーとして面白いものを作れるのであれば(物語やミステリーとして面白いものを目指しているのであれば)、このシリーズを読む必要はありません。それはまったく考え方の異なるシナリオ作りであり、利用される技術や発想法が全く異なるからです。

 

 ……総じて、いったいこいつは何を言い出したんだというような記事ですが、今後もこういう調子で続けてまいります。なお、これからも難しい話をしていきます。リソースの問題や情報による誘導の問題、緩急を作り出す話にNPCの使い方など、とにかくがっつりひたすら解説していく予定です。