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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】アンドロイドは名状しがたき夢を見るか(改訂版)1/6

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探索者たちは行方不明になった知人の捜索をするうちに一つの研究室にたどり着く。その研究室では、他の研究室と共同で、高機能のアンドロイドを生み出すことに成功していた。しかし、そのアンドロイドの動作がおかしいようだとも耳にする。いったいこの研究室で何が起こっているのだろうか? そして奇妙なアンドロイド、ミーミルとは、いったい『何』なのだろうか?

シナリオの概要

推奨プレイ人数 1〜3人
プレイ時間目安 オフライン6時間程度
舞台 現代日本
テイスト リアルテイストSFホラー

はじめに

 このシナリオは、現代日本を前提とするシナリオである。舞台となるのは東京の南西、やや郊外にある架空の大学、東京フューチャーエンジニアリング大学(TFEU)である。探索者たちはこの大学の学生や教授であればスムーズに展開することができる。とはいえ、キーパー次第では大学以外から物語を始めることも可能であり、キーパーの認める範囲でどういった職業でも事件に絡むことができる。
 このシナリオで発生するのは、複数人がこの大学を最後に足跡を絶っているという事件だ。この事件の真相を解き明かそうとした探索者たちは、その先で名状しがたい現象を目にすることになる。

キーパーの情報

 このシナリオでは、二人の狂信者が最悪の形で絡まり合っている。
人工知能学者・丸山峙大
 一人目の狂信者は、ニャルラトホテプ(カリフォルニア大学の工学講師と名乗る男)の手によって『無名祭祀書』を与えられた人工知能学者・丸山峙大である。彼はミ=ゴとの接触を果たし、脳缶をコンピュータと接続して、優れた半人工知能を実現した。しかし、半人工知能の完成は、彼を十分には喜ばせなかった。
 なぜなら、彼はすでに狂ってしまっていたからだ。今では、全ての導きを与えたニャルラトホテプを招来し、この世界に本当の幸福と秩序をもたらすことこそが、彼の義務だと考えている。しかし思いつきで行動を始めたため、すぐに事件性が露呈した。その異常は探索者たちの目に留まり、いずれ研究室が原因だと悟られてしまうだろう。
カルティスト・西田志垣
 しかしもう一人の狂信者が事態を複雑にしている。密かにチャウグナー・フォーンへの信仰を貫いてきた、狂った考古学者・西田志垣である。西田は中央アジアの古代史を調査する中で、チャウグナー・フォーンという邪神を知ってしまう。独自研究の末にチョー=チョー人とも接触し、ついにチャウグナー・フォーン招来の呪文を知ることになった。この過程で、彼は独自の宗教結社を作り出し、社会の裏側に確実に潜伏して着実に計画を進めてきた。
 しかし西田はチョー=チョー人の伝説に語られる「『白い侍者』が神の眠りを覚ます」との言葉に悩まされていた。自らがそれに該当しないと考えていた西田だが、あるとき神の啓示を得る。啓示に従って行動すると、彼はミ=ゴの襲撃を受ける。次に目覚めたときには西田は肉体を失い、複数の脳が接続された半人工知能のパーツへと変貌していた。
アンドロイド・ミーミル
 しかし、すで に狂っていた西田にとって、この程度のことはなんのダメージにもならなかった。彼は脳が連結されると、それらの脳に強烈な名状しがたきイメージを送り付け、ついには半人工知能全体を完全に自らの意志に従属させることに成功したのである。本来機能するはずもなかった連結脳は、西田というバグによって機能しはじめ、これを見た丸山はアンドロイド・ミーミルへの接続を実行に移したのだ。
 かくして再び肉体とともに目覚めた西田は、カーボン骨格と白いプラスチック外装こそが「白い侍者」の姿であると確信した。再びチャウグナー・フォーンとの接触を図りはじめた西田だったが、彼には重要な道具が足りていなかった。限られた人物しか知らない儀式用の宝剣である。西田の失踪に動揺が走る宗教結社との協力は避けられない中、探索者たちは発見した宝剣をどう扱うのか。

 このように複数の思惑が交差する入り組んだシナリオであり、ゲームキーパーは内容をよく理解してセッションに臨む必要がある。


オープニング

 このシナリオの前半は、カルティスト西田志垣へと至る調査で幕を開ける。したがって最終的に『血の結社』に辿り着けるようであれば、いかなるオープニングも許容される。ただし、開幕からアンドロイド・ミーミルの存在は予告されていた方が劇的な印象を与えられる。そうした点を考慮して、探索者のメンバー構成に応じて様々な展開ができるように、以下に演出例を掲示しておく。
宗教結社の調査を依頼される
 最近妙な宗教にはまり始めた知人を心配する友人から、その宗教の実態を調べてくれないかと依頼される。探索者がオカルトに詳しかったり、このような調査の経験を持った人物であれば特に採用しやすい。宗教団体の名称は伏せておき、その知人の連絡先などを手渡されるという展開にすることで、知人が失踪していて残された証拠品から調査を開始するという展開に導入できる。
警察として捜査する
 警察や警察付きの医者ならば、死体から物語を始める。その死体は、心臓が綺麗にえぐられた状態で遺棄されていた。死体の状態を調査するほか、個人情報の特定を進めることから始める。結果として、死者の家宅捜索を行うことになり、上に同じく失踪した人物の部屋の遺留品から調査が始まることになる。
ミーミルの登場から開始する
 もし大学関係者やジャーナリストがいた場合、アンドロイドミーミルの発表会から場面を開始する。その席で行方不明になった学生の噂を耳にしたり、その調査を依頼されたりすることで物語を開始することができる。その場合でも、同様に教団信者の失踪事件に繋げるのが妥当である。
 ただし、大学近辺での失踪事件と教団信者の失踪はあえて調査の初期では混同するように進行するべきである。これが二つの事件だとわかるのは、『血の結社』で西田が失踪していることを知った段階がよい。このオープニングを採用した場合には、その際プレイヤーに二種類の失踪事件があることを重ねて説明するよう心がけよう。
劇的な展開から始める
 もし劇的なオープニングを望むなら、知人が目の前でミ=ゴによる連れ去りに遭遇するというのもいいかもしれない。失踪事件を調べようと大学周辺で聞き込みをしていると、教団信者の失踪事件に行き当たるという仕組みだ。
 探索者が著名人であれば、西田志垣に目をつけられ、魔術による悪夢に襲われるのも導入の一つだ。その場合には原因を探ろうとする中で、その悪夢に登場する謎の生物の図像を残して失踪した人物の情報を得れば同じく信者の失踪につなげることができる。
 あるいは、精神科医の探索者であれば、悪夢症状に悩まされている親しい知人が相談に訪れるという導入も可能だ。それから数日後にその患者が姿を消し、しばらく連絡が取れないことを案じた精神科医が調査をはじめるという流れになる。その患者の自宅は失踪した教団信者とは異なる手がかりが残されており、微妙にルート展開が異なることになる。


失踪した教団信者の自宅

 彼の自宅は杉並区の住宅街にある。京王井の頭線の高井戸駅から出てしばらく北進した先の小さなアパートだ。自宅に入るためには事情を説明したり、なんらかの嘘をついたりして、管理人に鍵を開けてもらわなければならない(判定を必要とはしない)。

 部屋の扉を開けると、廊下兼台所になっており、奥に扉がある。その扉には、 奇妙な紋章を描いた紙が貼り付けられており、探索者たちはその紋章から強烈 な視線を感じる。

瞳の紋章を介した悪夢の呪い

シークレットダイスを振り、探索者のうちの誰かをランダムで選ぶ。その人物は西田志垣に目をつけられ、この日の夜からチャウグナー・フォーンの悪夢に悩まされることになる(毎晩正気度判定 0/1D3)。

正気度判定

象の悪夢 0/1D3

 廊下を抜けワンルームの部屋に入ると、奇妙な状態だと一目でわかる。全ての荷物が段ボール箱に梱包され、いつでも移動できる状態になっているのだ。そのうえ荷物は驚くほど少ない。二箱分の書籍やノート類が置かれているだけで、すでに衣類も布団類も食器類も処分されている。

 すぐに【箱の上に置かれたメモ】が目に入る。

箱の上のメモ

私にも、ついに偉大なる神の導きが訪れる時が来た。私は今日、ついに神と合一し、この混沌とした世界の本当の姿を見ることができる! これに勝る幸福などあるだろうか? ああ、私は待ちきれない。 イア! イア! ツァグナ・ヴァウン! より多くの人に神の導きがあらんことを!

 残された少ない荷物には、【宗教関係の書籍】と彼の【日記と思しきノート】が含まれている。

日記と思しきノート

 日記を読むのにロールは必要なく、2時間程度の時間が必要になる。前半は仕事の愚痴などの他愛もない記録で、大半は上司への罵詈雑言である。

 中盤に入ったところで、新宿の歌舞伎町の裏通りの雑居ビルで活動する「血の結社」という宗教団体に参加したことがわかる。このとき勧誘を受けた人物、【猪瀬奈々の連絡先】もここに記載されている。
 その宗教団体は憎しみを肯定し、憎しみの心を宗教的儀式 によって悪夢に昇華させ、憎しみの対象を呪い殺すことを目標にしていたらしい。彼自身も積極的に儀式に参加し、実際に会社の上司を精神科に入院させることに成功したとわかる。この辺りから少しずつ記述が混乱し始め、読むのが難しくなる。
 会社の上司が死んだことに対する歓喜の声が現れたかと思えば、「イア! イア! ツァグナ・ヴァウン!」という記述が頻繁に利用されるようになる。この辺りから日記の体をなさなくなり、日付も記載されなくなる。 記述は「ついに秘術を得た」と歓喜し、「私も神と合一できる」とか「こんなに早く教えを吸収できたのは私が優 れている証拠だ」とかいう殴り書きになる。ほとんど日記を記す集中力も保てていないようだ。
 しかしあるページにはっきりとした文字で「私もついに『心臓の血液』の儀式に参加することができる。私の心はツァグナ・ヴァウンと共にあるのだ!」と書かれている。その記述の次のページを開くと、そこには髑髏から象の鼻と牙が伸び、コウモリの羽のような大きな耳のつい た太った奇妙な生物があぐらをかいている絵が書かれている。この奇妙な絵は、探索者たちに不思議と恐怖を呼び起こす。日記を読み、この絵を見た者は0/1D3の正気度判定、この絵だけを見た者は0/1の正気度判定が必要になる。日記はこの絵を最後に終わっている。

正気度判定

発狂の日記と不吉な絵 0/1D3
不吉な絵 0/1

宗教関係の書籍

 宗教書のほとんどは西田志垣による著作だ。巻末に出版社などの情報が書かれておらず、個人出版の書籍であることがわかる。そのタイトルには「夢」「呪い」「憎しみ」といった単語が散見され、どうやらこれらをキーワードにして信者を集めていたことがわかる。
 1時間程度をかけて一冊を読めば、以下のことがわかる。この宗教組織は「血の結社」と名乗っており、【新宿の歌舞伎町にある雑居ビル】に集まって、互いの心情を吐露し合う集会を開いていたようだ。その集会で中心的な役割を果たしているのが著者・西田志垣らしい。
 彼らの信仰体系では、信心深ければ信心深いほど「夢見る象」に認められるという。「夢見る象」が信者を本物と認めると、憎しみの対象の夢に入り込み、その人物を悪夢によって呪い殺すのだという。憎しみを遂行する神が存在することは、憎しみの感情が神に認められた崇高な感情であることの証左だと語っている。
 呪殺に成功してしまうと、信仰の原動力でもある憎しみが失われてしまうはずだ。しかしこの宗教では、憎しみによって神と合一することを究極の目標としている。呪殺が果たされるとき、憎しみの遂行者である神と一体化し、世界を満たす気として憎しみを看取出来るようになるという。そうなれば、神に近い存在として他の人々の憎しみを導かなければならないと説いている。

悪夢に悩まされる絵描きの自宅

 精神科医スタートで導入を行った場合、知人の絵描きが悪夢を訴えたのちに失踪するという導入を用いる場合がある。その場合、その絵描きの自宅に残された絵で、二つの絵が特に気にかかる。
 第一の絵は、「髑髏から象の鼻と牙が伸び、コウモリの羽のような大きな耳のついた、太った奇妙な生物があぐらをかいている絵」だ。体表面は血のように赤黒い色で塗られている。その絵は想像上の生物を描いたにしては妙に迫ってくるものがあり、眩暈を覚えるだろう(0/1D3の正気度判定)。
 第二の絵は、白い人型の何かが直立してどこか斜め上を見つめている絵だ。その手には変わった装飾が施されたナイフが握られ、そのナイフから血が滴っている。ここで〈目星〉を行い、成功すればこの白い何者かの手の中に赤い房のようなものが握られているのを発見し、それが心臓だと気づくことができる。これに気づいた探索者は0/1の正気度判定を行う。

正気度判定

不吉な生物の絵画 0/1D3
心臓を握る白い人物 0/1

 こちらのルートでは、この二つの絵を元に、図書館で象の神について調べることになる。インドの神ガネーシャと同時にツァグナ・ヴァウンの名が見出され、それについて解説している書籍の翻訳者や著者として西田志垣の情報を得る。その後、西田についてインターネットなどで調査すれば、彼が宗教法人の代表であるとわかり、勧誘活動を行なっている猪瀬奈々の連絡先か事務所の場所を特定することができる。