ハードを越境して「RPG」について考えると見えてくるキャラクターの重要性
みなさんは、RPGと聞いて、どんなゲームを想像するでしょうか?
日本で最も売れているRPGジャンルの商品といえば、「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」、あるいは「ポケットモンスター」といった、コマンド制のRPGです。しかし、伝統的なソフトの中にも、「ゼルダの伝説」に代表される、アクションRPGが存在します。
これらに共通する性質は、大きな物語の主人公となって、その冒険を追体験することにあります。
しかし、これは、日本的なCRPGの特徴にすぎません。
今日は、このRPGという言葉の定義を、もう少し押し開いてみましょう。
その先に、他のRPGになく、TRPGだけが持っている魅力が見えてくるはずです。
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1.ロール・プレイング・ゲームの多様性
2.ロール(役割)を切り出す技術
3.ロールとチームワーク、そしてキャラクター
1.ロール・プレイング・ゲームの多様性
RPGは、ロール・プレイング・ゲーム(Role Playing Game)の頭文字をとったものです。直訳すれば、ロールは「役柄」とか「役割」、プレイングが「演じる」という意味になります。
つまり、特定の役柄・役割を演じるゲームは、すべて、RPGと呼ぶこともできます。
ここで注意しなければならないのは、役柄と役割の違いです。
役柄は、演劇や小説など、物語に対して利用される言葉です。
一方、役割は、組織化された集団行動における、個人の担当範囲を意味します。
それぞれ、プレイングの訳語も変わります。
役柄→演じる
役割→果たす、遂行する
ここで、やや演劇論めいたことを言うと、「役柄」と「キャラクター」は根本的に違うものです。「役柄」とは、物語を盛り上げ、演出するための存在であり、「作中人物」にすぎません。一方の「キャラクター」は、具体的な「人格」を指す語です。つまり、「役柄」は物語を演出するためだけの存在ですが、「キャラクター」は物語の流れに反することもあります。
その意味では、Roleは一貫して、
「物語や集団作業の目標など、個人を超えた方針を達成するために分担された役割」
を意味するのです。
2.ロール(役割)を切り出す技術
さて、改めて、RPGとは何なのでしょうか?
団体で、役割分担をして、一つの目標を達成しようとするゲームは、すべて、RPGです。
ここで、思い切った例を出しましょう。
数ヶ月前から大流行している、wiiUのソフト、Splatoonをご存知でしょうか?
このソフト、5分程度の試合を繰り返すゲームなのですが、その試合というのは、ざっくり言って、陣取りゲームです。インクを銃で撃ち出して、たくさんの面積を塗ったチームが勝つ、非常にシンプルなルールが人気を集めています。
しかし、ただひたすら塗るだけのゲームではありません。銃でインクを打ち出せば、相手を倒すことも可能です。また、銃の射程や威力、集弾性はそれぞれに異なり、使い勝手の違うローラーや筆、バケツなどの塗り道具も用意されています。必殺技もそれぞれに違っていて、どの武器をどう使うのか、というのがチームの勝敗を分かつのです。
実はこのゲーム、非常に典型的なRPGを構成する要素が揃っています。
シールドやバリアを駆使して相手と撃ち合う前衛ポジションと、遠距離から強力な攻撃を行う狙撃手、相手の足元をひたすら塗って妨害を担うデバフ要因、前線の後方で塗り残しを処理する縁の下の力持ち。
メンバーがそれぞれの役割を遂行して、勝利を目指す、一種のRPGです。
気づきましたかね?
サッカー、ありますよね?あれも、ポジションに応じた役割をしっかりと果たして、勝利を目指す、れっきとしたRPGと見なすこともできます。
こうした例に思考を広げていくと、あることに気づくはずです。
ゲームにおいて、目標達成のための効率的な動きを追求すると、役割遂行(ロール・プレイング)が発生します。
しかし、その役割遂行の具体的な姿は、いつも同じではありません。そのゲームが、どういうルールで、どういう目標を達成するようにプレイヤーに呼びかけるのかに左右されます。
サッカーがたった一つのボールと広いグラウンドによって、ポジションによる役割分担を発達させたように、Splatoonはブキの違いとオプション効果であるギアの違いで役割分担を発達させました。
同様に、ソード・ワールドはファイターやシューター、ソーサラーなどの技能によって役割分担を発達させています。ダブルクロスなら、シンドロームとエフェクトが役割分担の形成に寄与しています。クトゥルフ神話TRPGでも、習得技能によって役割分担することが理想とされています。
つまり、RPGを語る際には、
「ゲーム性とルールが、どうやってRole=役割分担を作り出しているか」
に注目する必要があるのです。
3.ロールとチームワーク、そしてキャラクター
では、この広い意味でのRPGを前提としたとき、TRPGは、他のRPGと違う、どんな性質を持っていると言えるのでしょうか?それを明らかにすることができれば、他にないTRPGの魅力として発信することができそうです。
実は、ここにきて、改めて重要性を増すのが、「キャラクター」の概念ではないかと、わたしは考えています。
この記事の前半で紹介したように、役柄とキャラクターは異なる概念です。
役柄に集中すれば、PCはときとして、物語の力によって死ぬことが優先されます。物語を盛り上げるために、最適なタイミングで最高の死に方をすることが、役柄に課せられた唯一無二の役割だからです。
しかし、キャラクターなら、そうはいきません。私たちが、物語のためなんかに死にたくないのと同じように、キャラクターは、最後まで、死に抗います。
また、キャラクターは、二つ以上の灰色の結末から、ひとつを選び取るための条件にもなります。勝利条件の達成のために生み出された役割だけでは、灰色の結末が並べられたとき、どちらを優先するべきか決めることができません。それを選び取ることができるのは、PCが、ひとつの人格と感情、価値という判断基準を持ったキャラクターだからなのです。
TRPGの歴史を遡れば、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの頃には、まだ役割としてのPCが重要視されていました。
ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)
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しかし、目的達成のための役割を遂行するゲームは、CRPGやカードゲームに主軸が移行していきます。そのとき、役割遂行としてのTRPGは、コンピューターやカードなどの道具を借りないために、処理が煩雑なものとみなされ、その魅力を低く見積もられてしまいました。
このことがむしろ、TRPGの独自性を際立たせる結果に繋がったのです。ただの剣士やただの魔法使いではなく、様々なライフヒストリーを持ち、悩みを持ち、強い意志を持ったひとつの人格=キャラクターとして、仲間たちと会話して、個人史を紡いでいく。そんな、他のゲームにない特徴が見出されたのです。
こうして、TRPGは、役割を切り出すという従来のゲーム性設計に加えて、キャラクターを切り出すという技術が、ルールに書き加えられて発展していきます。
ソード・ワールドにおける経歴表や信仰神、一般技能。ダブルクロスにおけるロイスや経験表。艦これRPGにおける個性リスト…。
いまもなお、多くの人を惹きつけてやまないTRPGの魅力のひとつが、こうして、明瞭に浮き彫りにされるのです。
新しいTRPGを製作するときや、シナリオを書くとき、こうしたTRPGの魅力を頭に入れながら、設計してみてはいかがでしょうか。