ペアシナリオライティングで学ぶシナリオ製作【第5回】
前回 ↓
きつね(以下 狐)「ずいぶん遅かったじゃないか」
ハカセ(以下 ハ)「この間に起こったこと、それは…」
狐「シナリオが書き上がりました!」
ハ「そして販売開始! 無事にきつねさんはシナリオを書き上げたのです!」
ハ「これで一段落ですね、ペアシナリオライティング、無事完結!」
狐「ハ・カ・セ? ごまかしちゃいけないよ?」
ハ「な、なんのことですかね…」
狐「いろいろお世話になったからあまり強くは言えないけど、やっぱりこの経験は自分一人にとどめておくには惜しいと思う」
ハ「きつねさん…そんなに評価してくれて…」
狐「だ・か・ら、早く記事にしてみんなにも読ませるんだよぉっ! 早く書けぇっ!」
ハ「ひえぇーっ」
そして時間はシナリオライティングをしていた当時へと巻き戻る…
クローズドリドルをゲームに変える3つの方法
ハ「さてときつねさん、いま自分のシナリオを見て重要な事に気が付きませんか?」
狐「重要なこと? オチも決まったし、謎解きの中身も決まったし、そのあと裏での話し合いでギミックは全部決まったし…なにか残ってる?」
ハ「では、今すぐプレイしてみましょうか?」
狐「えっ? …あ、ああ! ダメ! まだダメ!」
ハ「なぜです?」
狐「まだSANの減少量とか決めてない! 使える技能とかも!」
ハ「そういうことです。物語というか、謎解きの筋は決まりましたが、具体的にゲーム的に解決する方法と条件が決まっていません。つまり今日のテーマは…」
ゲーム上の処理を決めよう!
狐「このままだとフリーの脱出ゲームとかゼルダの伝説で使えそうな感じになっちゃう…」
ハ「ゼル伝…死んだら戻る…RTA…デスルーラ…うっ…頭が…」
狐「ひとまずそれぞれのイベントにSANチェックの数字を決めたらいいの?」
ハ「いいえ、そういうわけでもありません。そもそもSANチェックってなんですか?」
狐「またとんでもなく大雑把な質問を…ええと、キャラクターが動揺したかどうか、狂気に近づいたかどうかを判定するルール、でいいのかな?」
ハ「それはプレイヤー目線の回答ですね。ストーリーテラー系のキーパーさんも同じように言うかもしれません」
狐「じゃあ他の考え方があるの?」
ハ「はい、SANチェック…それは…」
ハ「プレイヤーのリソース(資源)を削るイベントです!」
狐「うっわーすっごいシンプルなのきた(苦笑」
ハ「これからきつねさんはゲームを作るんです。すべてのルール上の処理を『ゲーム的ツール』と認識してください」
狐「綺麗さっぱり演出とはおさらば?」
ハ「はい。単純にこのシナリオで合計どれくらいのSANを削り、どれだけの数の技能ロールを要求するのかを考えてください」
狐「すごいな、そこまで作業を分解するのか」
リソース(資源)を消費させる
ハ「クトゥルフ神話TRPGにおけるゲーム的イベントを分類すると、大きく3つにわけられます」
狐「3つしかないの!?」
ハ「これがクトゥルフ神話TRPGというゲームが親しまれている理由でもあります。とにかくシンプルなんです」
狐「じゃあひとつ目は、さっき言ってた『リソースの消費としてのSANチェック』か」
ハ「そうなります。他もありますけどね」
リソースの消費でゲームにする例(クトゥルフ神話TRPG)
- SANチェックを行う
- 耐久力にダメージを与える
- MPを消費させる
- 貴重なアイテムの残り個数が減る
- ゲーム内時間が経過する
狐「なるほど。先に非常時に効くお守り石みたいなのを渡してて、襲撃を受けたら身を守ってくれるけど、ひとつずつ割れていくっていうのもありなのか」
ハ「そういうことです。肉盾が一人ずつ減っていくとか…げふんげふん。リソース削りはプレイヤーたちに緊張感を与えるうえで重要な役割を持ちます。というのも、目に見えている数字が減って、あとどれくらい耐えられるのかも数字としてはっきりと認識できるからです」
狐「緊張感を与えるために、SANチェックのポイントと減少量を調整する…と。それで、他にもあと2種類あるんでしょ?」
ハ「もう一つはわかるんじゃないですか?」
ダイスロールが必要なポイントを設ける
狐「だよね、これだと思った」
ハ「クトゥルフ神話TRPGにおける、最も基礎的なゲーム要素です」
狐「ここではこの技能を使ってねって指示を…あ、これなんか記憶にある。前ハカセがなんか書いてたよね?」
ハ「ふふふ…その通り! TRPGシナリオ作成大全Vol.6 に収録された『技能でつなげる5ステップシナリオライティング』これこそ私のシナリオライティング技法の基盤なのだ!」
狐「そんなこと言われたって、みんながみんな買えているわけじゃないし…」
ハ「いいですね、これを読んでいる皆さん。あのシリーズはいいものです。買いましょう。今すぐ買いましょう。そのうえで! まだ手元にお持ちでない方には次の記事をご紹介します」
ハ「『大全』に掲載された原稿の草稿にあたる記事です」
狐「こんなのもあるんだね」
ハ「つまりは次のことを紹介したのです」
技能でつなげるシナリオメイキング法
シーン別に使う技能分類を選び、技能分類で数珠繋ぎを作る
技能分類=【交渉・操作・知覚・運動・思考】
シーン OPー( )ー( )ー( )ー( )ーED
ハ「【 】の中から選んで( )を埋めていってください」
狐「それだけ!?」
ハ「はい、それだけです。ですが今回は詳しいアイディアがすでにありますよね?」
狐「そうか、好き勝手に置けるわけじゃないんだ」
ハ「それぞれの( )がどのシーンにあたるのかは、前回示した通りです」
OP
スタート:扉の文字で合言葉が必要だと知る
探索:一つの部屋に入ると手記があり、狂信者の存在がわかる
イベント:狂信者に殺される=敵だとわかり排除する必要が有ると判断
シーン1
スタート2:狂信者の隠れ場所を見つけてシメる=断片1の獲得
シーン2
探索:並び替えの方法が水路の先にあるとわかる
イベント:始め冷たかった水路が沸騰していて通れない
イベント:自ら死んで時間を戻す
シーン3
スタート3:冷たく戻った水路を通る=断片2の獲得
謎解き終了:クリアキーを使って部屋から脱出する
シーン4
謎解き以降
ハ「では早速、利用する技能分類を入れてみましょう」
シーン1( 運動 )狂信者との戦闘
シーン2( 未定 )ヒントの獲得
シーン3( 運動 )水路の突破
狐「なんか運動ばっかりになった」
ハ「やはりゼル伝…」
狐「違う…はずなんだけど…」
ハ「ではここで毎回恒例の、ハカセのワンポイントアドバイスの時間だよ♪」
狐「…これ前回までなかったよね?」
ハ「今回のワンポイントは〜 ジャジャン! 物と人、二つの情報源を置くことです!」
狐「ほう?」
ハ「必須技能が発生してしまう原因は、このどちらか一方からしか情報が得られない状態にしてしまっているからです」
狐「じゃあいま運動技能ばっかりになってるのもそれが原因なの?」
ハ「今回の場合ちょっと事情が特別ですけどね、一般的に言ってそうなります。泳ぐシーンが決まってるシナリオなんてレアすぎて…」
狐「どうやればうまくいくの?」
ハ「たとえば狂信者を倒すシーンですが、この部屋に合言葉を示すメモが置かれていると考えてみてください」
狐「狂信者をシメなくても、相手を誘導したりうまく盗み見れば〈断片1〉は獲得できるってことか」
ハ「という風になりますよね? このように人から聞き出す情報には物媒体での“代わり”を用意して、物から分かることは人からも得られるように設定してみましょう」
狐「クトゥルフ神話技能持ちの教授から真相を一発で聞き出せばいいのかな」
ハ「ああそれはダメですよ、もちろん。これが有効なのはシナリオの前半だけです。後半、真相に近くなったら間違いなくキーパーソンのところに赴くように誘導したり、キーアイテムを調べるように誘導しないといけません」
狐「ああ、序盤の方でシナリオがこけないようにするために、いろんな手段を用意しとくってことか」
ハ「そういうこと。後半になれば失敗したとしてもプレイヤーも十分に情報を持っていますから、頭をひねってもらえばなんとかなるかもしれません。そしてこの辺りの工夫こそが、最後のゲーム化の方法です」
水路付けによるゲーム性の導入
ハ「水路付けは一番難しい技術かもしれません。つまり色々試行錯誤しても防波堤があって、結局流れる方向がひとつしかないような状態をシナリオに作ります」
狐「うわぁ 一番苦手かもしれない」
ハ「つまりリドル(謎解き)もそうですが、いろいろな可能性を検証して、シナリオライターが望む唯一の経路に落とし込む、仮説検証と考察の部分をゲームとして楽しんでもらおうという趣旨です」
狐「ああ、できたらいいんだけどねぇ」
ハ「なかなか難しいですね。今回の場合はクローズドなので、一応のところ探索して得られる情報が限られていますから、そんなに仮説検証する場面はありませんし、無理する必要はないかもしれません」
狐「ふむ」
ハ「もしこの方法を使うなら、プレイヤーが1つか2つの仮説を検証してみて、結局シナリオライターが用意した最後のひとつしかあり得ないと判断できれば、シナリオは作者側の勝利です」
狐「プレイヤーの頭のなかの動きを読むのか」
ハ「この辺は僕もそんなに得意ではありませんね。正直キーパリングする人の能力次第というのも間違いではありません。これを用意するとシナリオ資料が長大になってしまいますから…」
今日のまとめ
ハ「長くなっちゃったので、ここで一旦締めますよ!」
狐「ううむ、濃かった。シナリオをゲームにする3つの方法があって、それを組み合わせてシナリオをクトゥルフ神話TRPGのシナリオに変えていく。そういう話だったね」
ハ「はい。今日は理念だけお話しましたが、次回はこれをきつねさんのシナリオに適用して、具体的に3つの方法の使用例を見ていきます」
狐「もう狂信者を殴るところでは例示しちゃったけどね」
ハ「なお、ここからが『物語を書く』ことと『シナリオを書く』ことの違いです」
狐「うん、小説とかはなんとなく書いてみたりもするけど、こんなことは考えることなかったね。ゲーム用のシナリオを書いてる感じがある」
ハ「ここからの調整を疎かにすれば『物語としては面白いけど、ゲームとしては全然楽しめない』なんていう吟遊シナリオに陥ってしまいます。物語をどうやってゲームにするのか。シナリオライティング時にはこれを必ず意識しましょう」
狐「はーい」
次回予告
狐「ところでハカセ、本当は『シナリオ資料を書く』って話をやる予定じゃなかった?」
ハ「ギクリ」
狐「ごまかそうったって、そうはいかないよ?」
ハ「いえ、これには理由があるんですよ。シナリオの内容が完璧に決まってからでないと、シナリオライティングははかどらないんです」
狐「そうなの?」
ハ「はい。ですから、次回また補講回として『シナリオをゲーム化する3つの方法(実践編)』を行ったあと、『シナリオ資料を書く』話に進もうと思っています」
狐「ふーん、じゃあひとまず『このシナリオをゲーム化』するのが次回の内容か」
ハ「そうなりますね。というわけで乞うご期待!」
つづく