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3つのことを「やらない」キーパリング【クトゥルフ神話TRPG】

 このブログ初期を支えた伏原さんのプレイヤーと久しぶりにセッションする機会がありました。このところいろいろなゲームシステムに触れ、様々なことを考え、クトゥルフ神話TRPGというシステムに不満も溜まっていたところだったのですが…

 

「そういえばクトゥルフ神話TRPGってこうやってキーパリングしてたなぁ…」

 

率直に言って、そのような感想を持ちました。

 

 どういうことなのかというと、ゲームに慣れた最近のプレイパートナーたちと違って、実に自由にプレイしてくれたのです。ルールやシステムに詳しくなってからというもの、ずいぶんと頭が固くなっていたなぁと思わされた次第でした。それは自分が持っていた全く別のキーパリングスタイルの再発見でもあったのです。

 というわけで、クトゥルフ神話TRPGのゲームシステムを活用するひとつのキーパリングについて、本日は3つのことを「やらない」という視点からお話しようと思います。

 

 

 

シナリオ資料に従わ"ない"

 まずはこの心構えが重要です。シナリオ資料に書いている通りにセッションを進行させると作業感が出ます。プレイヤーの心の赴くがままに、好き勝手行動させましょう(これは積極的なプレイヤーの場合に限られますが)。

 

 スーパー自由人である伏原さんは、今回「福山雅秋」という学者で土佐藩士で歌手の男をプレイヤーキャラクターにして遊びました。交渉技能の取得よりも〈芸術(歌唱)〉を優先する妥協を許さぬ自由人ぶりに驚きながら、セッションが始まります。しばらくして交渉が必要そうな場面になり、彼はおもむろに歌を歌い始めました。

 

「家族に〜 なろ〜よ〜♪」

 

 本来のクトゥルフ神話TRPGのルールに従っていれば、これは奇行に属します。しかしここで「真面目にやれ」と言うよりは「じゃあ〈芸術(歌唱)〉で判定して成功したら、あなたのファンになって情報を進んで提供してくれます」と運んだほうがセッションとしては成功します。

 …技能定義もクソもありませんね。でもいいではありませんか。その後、彼は様々に調査を行い、合計3回は歌を歌いました。しまいには田舎村で突然のゲリラライブを開催して、村の有力者へ彼の本気を伝えるというドラマチック(?)な迷シーンを作り出します。

 

 もちろん、シナリオ資料には「ここで〈信用〉か〈説得〉に成功すれば」と条件付けられています。「あるいは〈芸術(歌唱)〉で心をつかむことができる」などと書いてあることを期待するべくもありません。つまり、わたしはここでシナリオ資料を無視したわけです。

 シナリオ資料に演出やゲーム展開のすべてを依存すれば、プレイヤーの自由な発想を邪魔してしまいます。プレイヤーを楽しませるためにも、シナリオ資料に従わない柔軟性を心のどこかで忘れないようにしましょう。

 

 

「あるべき姿」にこだわら"ない"

 そもそもそのときに遊んだシナリオは、わりと真面目なシナリオでした。しっかりと時代背景を下調べして臨めば、明治初期の空気を味わうことができるシナリオとして丁寧に作っていました。それゆえ想定されていた遊び方は、丁寧に言葉を選んで近世舞台のホラーミステリーを演出するというものでした(「やさしい狂気のはじめ方Vol.3」に掲載予定)。

 

 しかし歌を歌うこの男に、そんな真面目な展開を期待してはいけません。そこでシナリオ全体の雰囲気からシリアスを取り除きました。本来設定されていた個別目標を変更し、登場人物をいくらかわかりやすい滑稽な人々に変えたのです。

 ミステリー調の要素は抜き取られ、ややコミカルタッチのホラーへとストーリーは転じていきました。それはこのシナリオ本来の姿ではありませんでしたが、しかしそれでもなんの問題もありません。結果としてセッションは成功裏に終わりましたし、おそらく最良のキーパリングを行うことができたと思います。

 

 ここで行ったのが、こだわりを捨てることです。ゲームキーパーのこだわりよりも、プレイヤーの趣向を優先したほうが楽しくなることも多くあります。もちろんゲームキーパーが楽しめる範囲でという条件はありますが、自分の思う楽しさにこだわるより、他の面白さの提案に対して心を開いておきましょう。

 

 

キャラクタープレイだけで進行し"ない"

 そこまで自由にセッションをしていては、セッション全体が締まりを失った茶番劇になってしまいます。そこでわたしが採用したのは、ダイスをやたらたくさん振らせるというスタイルでした。どんな細かいことにもダイス判定を行うことで、シナリオ進行を完全にダイスに委ねてしまいました。

 

 ただ単に街中で人に尋ねれば分かる情報を提供する間に、相手に与える印象を知るためだけに〈信用〉を振ってもらったり、歌を歌ったら〈芸術(歌唱)〉を振ってもらい、次には〈値切り〉を振ってもらって…とにかく探索者が習得した技能を次々に要求しました。それらのダイスロールは得られる情報を全く左右しませんが、NPCとの人間関係とキャラクタープレイを変化させるのです。

 つまり、ダイスロールをシナリオの問題解決を効率化するために使いませんでした。キャラクタープレイを効率化するために利用したのです。これはクトゥルフ神話TRPGキーパリングにおける一つの重要な発想かもしれません。

 

 

まとめ:キーパリングスタイルはたくさんある

 このときわたしが無意識に行っていたのは、クトゥルフ神話TRPGというシステムを脱ミステリー化して、キャラクタープレイの装置と読み替えることです。それはクトゥルフ神話TRPGというシステムが本来想定した遊び方ではないかもしれませんが、一つの遊び方として十分に成立します。

 そしてただ成立するというだけではなく、これはこれで非常に面白い遊び方です。おそらくは、今日クトゥルフ神話TRPGがこれだけ受け入れらた背後には、こうしたキーパリングの工夫が背景にあるのかもしれません。


 みなさんも自分のキーパリングを振り返って、どういう場面でダイスロールを要求しているのかを調べてみると、自分のキーパリングの方向性が見えてくるかもしれません。これをきっかけに、みなさんも自分の持っているいくつかのキーパリングスタイルを見つけてみてはどうでしょうか?