技能分類から役割と活躍機会を考え直す【クトゥルフ神話TRPG】
私は以前から、クトゥルフ神話TRPGにおける技能分類の存在と役割分担の重要性を強調してきました。技能分類に基づいたシナリオライティング法を提案したこともあり、少しずつこの認識が広まっていたらいいなぁと思っているところです。
さて今回改めてこのテーマを扱うのは、次の理由からです。
あの多様な技能をたった5種類に分類するというのはいくらなんでも横暴すぎやしませんかね? もう少しプレイングに即した有効な分類が作れないものでしょうか?
今日のテーマはつまり、技能をクラス制に基づいて再分類して、クトゥルフ神話TRPGのシステム構造をより詳細に把握することです。
結論として見えてくるのは、スキル制の技能取得が実現した細やかなキャラクター表現という魅力と、その反対で失われた「役割分担による活躍機会の分担」という意識です。私がクトゥルフ神話TRPGでも役割分担を強調する理由をご理解いただければ幸いです。
メニュー
1.公式ルールブックにおける分類
2.クラス制システムによる回収
3.ベーシック方式とスキル方式
4.結論:活躍機会の調整と技能分類
1.公式ルールブックにおける分類
公式ルールブックで採用されている分類は次のものです。
- コミュニケーション系技能
- 操作系技能
- 知覚系技能
- 運動系技能
- 思考系技能
たったの5種類のカテゴリーにすべての技能を押し込んでいます。
この分類だと、例えば次のような無茶が含まれているのが目につきます。
コミュニケーション系技能には芸術と変装と製作と説得が含まれている。
操作系技能には応急手当と機械修理と運転とショットガンが含まれている。
運動系技能には忍び歩きと重機械操作とマーシャルアーツが含まれている。
思考系技能には学術系全部が押し込まれている。
パーティで役割分担しようとしたときにこの分類で役割分担すると、どうにもしっちゃかめっちゃかになってしまうのです。
特に大きな難点は操作系技能と思考系技能にあります。いくら操作系を担うといっても、ショットガンを取るのはやはり戦闘担当の役割でしょう。また、思考系はどう考えても一人で担いきる技能量ではありません。
「役割分担を意識してね」なんて言っても、こんな分類では実際のシナリオ中に活用できるとはとても思えません。
2.クラス制システムによる回収
ここで今回の目標である技能分類を、いわゆるクラス制だと考えましょう。ソード・ワールドでいう「ファイター」とか「ソーサラー」、「スカウト」といったクラスのことです。一つのクラス名は多岐にわたる行動をひとつに束ねており、非常に利便性の高いシステムとして知られています。クトゥルフの技能もその認識で再分類することができるかもしれません。
- 運動技能:運転・跳躍・登攀など
- 感知技能:目星・聞き耳など
- 格闘技能:マーシャルアーツ・こぶしなど
- 操銃技能:拳銃・ライフルなど
- 隠密技能:鍵開け・追跡・隠れるなど
- 機械技能:機械修理・重機械操作・電子工学など
- 交渉技能:言いくるめ・信用・説得など
- 医学技能:医学・応急手当・薬学・精神分析
- 学識技能:図書館・ほかの言語
このうえ、学識技能に下位分類を作ってみましょう。
生化学系列・地理天文学系列・考古歴史学系列・心理人類学系列
このように分類すれば、おおむねセッション中での利用機会に合致した分類として機能してくれそうです。プレイヤーたちは2つから3つの技能を分担して担当し、3つを担えば成功率が下がり、2つなら成功率が保証される、そういう良好な役割分担バランスに落ち着いていくはずです。
クラス制で技能を考えれば、また違ったゲームシステムも考えられます。たとえばプレイヤーキャラクターの能力を「格闘技能レベル2・機械技能レベル1」などのクラスレベルで管理することができます。さらに判定処理も「行動難易度ー技能レベル」を目標値にした下方判定に変化させることができます。結果として、役割分担はより明確になり、プレイヤーたちは自分の活躍機会をより明瞭に自覚することでしょう。
3.スキル制とクラス制
しかしクトゥルフ神話TRPGではこの方法は採用されていません。標準システムの一つであるベーシックロールプレイング*1では、あえてクラス制を排除しスキル制を採用したのです。
その目的は「個性」を表現することにありました。たとえば同じ交渉が得意でも、丁寧に説き伏せるのか口先のでまかせを言うのかでは個性は大きく異なります。あるいは単にパンチで攻撃するのかキックで攻撃するのかというだけでも、個性が変化してきます。
TRPGではキャラクターの個性をシステム的に表現することが求められます。もしもクラス制にしてしまえば、精神分析はできるけど医学知識がないインチキ超心理学者や、運転だけはうまいけど車を降りたら運動音痴といった繊細な個性を表現することができません。この点こそ、ベーシックロールプレイングが採用したスキル制のシステムが好まれる理由なのかもしれません。
4.結論:活躍機会の調整と技能分類
もちろんその代償として、このシステムでは役割分担があまり意識されなくなりました。パーティを組んで互いの苦手な要素を補い合いながら困難を乗り越えるゲームとしてよりも、キャラクターの個性を表現するゲームとしての性質が強調されたからです。
同時に「それぞれのキャラクターが等しく活躍機会を得る」という楽しいセッションに必要なシナリオ調整も、設定が困難になりました。単に物理攻撃に弱い敵と魔法攻撃に弱い敵を並べれば全員の活躍機会を保証できるような、役割分担の明確なゲームではなくなったからです。
ここにこそ、私が役割分担の意識を強調してきた理由があります。
プレイヤーたちに活躍してもらい、セッションを楽しんでもらうために、シナリオライターこそが技能分類を意識しなければなりません。今回新たに提案したクラス制基準の技能分類は案のひとつにすぎませんが、このような分類を意識することでプレイヤーたちに活躍機会を配分することができるのです。
そうした意識が、きっとよりよいシナリオにつながっていくのだと、少なくとも私は信じている次第です。
*1:クトゥルフ神話TRPGやルーンクエストなどで採用されているゲームシステム。3D6でステータスを決定し、技能一覧にポイントを配分することに特徴がある。