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台湾原住民神話を調べてみる

「せっかく台湾にいるんだし、1920年代アーカムキャンペーンが終わったら、現代台湾キャンペーンを書いてみようかな。」という思いつきで、台湾大学図書館に行ってきました。

 

目的?そんなの決まっているじゃないですか。

 

台湾原住民の口伝神話を調べるためです。

…口伝なのに図書館で調べられるのかよ、っていうツッコミはなしで(笑

 

 

台湾大学図書館は、学生でなくてもパスポートがあれば入場することができます。過去に培った図書館技能でロールし、戦前の日本統治期の書物を探します。

 

その結果見つけたのが、

生蕃伝説集 (アジア学叢書 251)

生蕃伝説集 (アジア学叢書 251)

 

 この書籍です。2012年に再販されているので、装丁自体は新しいのですが、中身の言葉遣いと漢字の古さはちょっとしたものです。ちなみに生蕃というのは、日本統治期の台湾山岳地域原住民の総称です。

 

今日はその中から一つの神話を取り上げてみます。

 

サイセット族ガラワン社の口伝神話で、タイトルは『龍女』というものです。

 

1.『龍女』の物語

狩りに出て帰ると、飯が炊いてある日が続いた。不思議に思って家を出たふりをして見守っていると、一人の少女が現れて飯を炊き始めた。これを捉えたのち、男と少女はやがて夫婦の契りを結んだ。少女の両親にも結婚祝いの餅を贈ろうと、男が餅を焼いて少女に手渡したところ、少女はそれを持って川の中に飛び込む。

慌てた男は大声で妻を呼ぶ。

妻の姿は漫々と湛へた深淵の間から見える。

「妾の家は水中にあるのです、あなたも來て母に會つてください」

飛び込む勇気を持てない男だったが、深淵の奥から母親のような女性が現れて手招きする段になって、ようやく飛び込みます。すると、

水底には華麗な家があつて、善美を盡した結構、珍奇を極めた調度、何一つとして此の世のものとも思はれぬ有様

で、そこで彼ら夫婦は一子をもうけます。しかし、次第に地上が懐かしくなって、彼は一人地上に帰り、今度は地上で新しく別の妻をもうけます。

 

ある日水中の妻が突然夫の元を訪れ、新妻のいることを知ると、どちらが良い妻なのか競いましょう、ということになる。結局喧嘩に負けた新妻が、前妻の胸ぐらを掴んで「水中に帰れ」と叫んだことで、前妻は水中に帰るのだが、その時に一つの提案をする。

…別れる時己れの子を二分して其の一を夫に渡し他を自らとり、「二年後に又會ひませう、誰の取った方が立派な人間になるか、その時初めて妾といふものがわかるでせう」と。 

そして二年後、果たして前妻は立派な子供を連れてきてみせたが、新妻の方の子は「既に腐敗して形もなかった」。

夫はようやく前妻を慕ったのだが、彼女は男を振り切って水中に帰り、それから二度と姿を見せなかった。

 

 

2.クトゥルフシナリオへの転用

皆さんお気付きの通り、「深きもの」を用いたシナリオに利用することができます。

「深きものの混血種」は、幼い頃は人間の容姿をとり、次第に変貌していくという設定でした。物語中、「少女」が地上を訪れているのは、まだ変貌が進んでいないうちに、地上の人間と関係を持たせるため、と解釈すればいいでしょう。つまり、「河口付近、川の底深くに都市を築いていた深きものが、人間との混血を図っていた」という物語として「クトゥルファイズ」すれば、すっかりこの土地も危険な匂いが漂い始めます。

 

人間との混血を進めていた「深きもの」たちの存在を伝えていた伝承が、20世紀初頭の混乱によって途切れてしまいます。その存在を伝えているのはわずかな書物とサイセット族の生き残りたちだけです。そんな状況を好機と捉えた「深きもの」たちは、大いなるクトゥルフの招来に向け、動き始めます。

 

探索者たちは、この物語の中に登場する「川」の場所、現在活動している「ダゴン秘密教団」の状況などを調べならがら、「深きもの」たちの企みに抵抗しなければなりません。

 

 

3.他の神話と絡めていく

実際の神話をもとにすることの強みは、「調べれば実際に書かれている」というリアリティにあります。そしてまた、実在の神話は、素人が急拵えで創作する神話に比べれば、ずいぶんと理にかなっておらず、不思議な要素を多分に残しているのです。これらを調べあげ、組み合わせていけば、それだけでクトゥルフ的な恐怖が沸き起こってきます。

 

たとえばアミ族の『女護島』という伝承には、大鯨の背に乗って、女だらけの島から脱出した男が登場します。どう読んでもいいのですが、「クトゥルファイズ」して「ダゴンとハイドラ」あたりと絡めると、先ほどのシナリオソースと響き合い始めます。

 

さらにインドシナに『龍女伝説』という異聞があり、そこでは水中に帰らねばならなくなったと妻が一方的に地上を去ります。そして子供だけが地上に残され、母は「地面を3度叩けば助けることができる」という言伝を残します。

のちにこの息子は、首長の娘と結婚するときに課された、「橋も船もない湖を靴を濡らさずに渡る」という難題に対し、地面を3度叩きます。すると水中から母親が現れ、その体を長く伸ばして橋をかけてみせます。

…水中に潜む大いなる種族の予感がしませんか?

 

 

4.今日の記事は予告にすぎない

今日から神話を調べ始めたので、掲載数の少ない海洋系神話に限って話をしてみました。なんといっても、生蕃は山岳民族です。話の表題をみていく限り、二つの神話が目に付きます。

 

ずばり、「蛇」と「地底人」です。

 

台湾を舞台にするなら、この二つの神話を利用しない手はないでしょう。しかし、これらの神話は収録数が多く、1日で全貌を把握するのは困難でした。これから2日ほどかけて、これらの情報を整理して、台湾クトゥルフの可能性を追求してみます。

 

そして、今回台湾原住民口伝神話を調べてみてわかったことは、「口伝神話はおもしろい」ということです。これから、各地の神話を調べながら、「クトゥルフ的世界旅行」ができるキャンペーンを書いていこうと思います。

 

…これは楽しくなってきやがった!

 

 

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