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時間ができたのでタイヤル族まとめ

今日はタイヤル族の口伝神話についてまとめます。

 

全体的な印象としては、あんまり面白くありませんでした。他の部族に比べれば、あまり超常現象的じゃない神話と評価できます。特に、神話的生物があまり登場しないので、クトゥルフやその他のゲームシナリオとして利用するのは、やや刺激に欠けるでしょう。

 

そもそもタイヤル族は台湾の北部、台北・新北の南、宜蘭市・桃園市・新竹市などにまたがって広がっている山脈地帯に住む民族です。

 

その山脈地帯に、大覇尖山・南湖大山という二つの山があり、そこに挟まれた地域、今でいう「南山」と「武陵」の左右に広がる渓谷が、タイヤル族誕生の地とされています。

 

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1.創生神話

ピンシバカンとかピンサバカンとか呼ばれる「祖先の地」は、神話の中で二度ほど登場機会があります。

第一に、ピンシバカンは創造神話の土地です。大覇尖山か南湖大山か、どちらかの頂上に大岩がありました。それが割れて生まれたのが、始祖神たち、あるいははじめの人間と言われています。この辺は部族によって伝承が微妙に違っているので、注意が必要です。といっても、そのパターンは以下のように分かれます。

〈割った主体/生まれた存在/その子孫〉

①〈神様/人間(男女3人ほど)/初めての兄弟姉妹〉

②〈偶然(神様)/神様(男女3人ほど)/人間〉

③〈鳥/人間/初めての兄弟姉妹〉

 この神様たちですが、名前が特に定まっていないのか、多くの蕃社で名前への言及がありません。…あんたらの始祖神だろ、なんとかしろよ。

 

第二の登場は、大洪水神話の場面です。台湾島が沈没せんばかりの大洪水が起きたらしく、唯一、このピンシバカン、もとい大覇尖山(パクパクマーヤン)だけが水上に顔を出している状態になったらしいです。世界各地に散見される、洪水神話ですが、タイヤル族ではこのような形で言及されていました。

この際、海を鎮めるために、美女を生贄にしたり、近親相姦を行った兄妹を罰するために海に沈めたりしているようです(土地によって違います)。この洪水神話ですが、おそらくは海水が押し寄せてきた、いわゆる「津波」ではなく、渓谷の河川が増水した河川の「氾濫」ではないかと推測できます。

こう推測する理由については、さらに南に進んだ先に住んでいた、ブヌン族の神話が背景にあるのですが、そちらについては今度整理することにします。

 

 

2.興味深い神話

タイヤル族の神話のうち、興味深いものは、せいぜい二つくらいです。

第一には、地底に住む湯気を吸う人々の話です。

 

 参考:

trpg.hatenablog.com

 

前記事でも紹介した神話ですが、前回はオチの部分を書いていませんでした。捕らえられて豚小屋に入れられた夫婦(あるいは男)は、空高くを飛んだ鷹を射落とすことで、技術を持った人間と認められ、解放されます。

 

第二には、巨人ハルスに関する神話です。

巨人のハルスは、とにかく大きく、渓谷を渡せるほどの大きな柱を持っていました。洪水の時などにはそれを使って人を渡してもらっていたのですが、これが曲者です。巨人のハルスは、巨人のくせに女好きなので、女には優しいのですが、気に入らない男は洪水の川に落としたりします。そしてまた、気に入った美女がいれば辺り構わず勃起して、小屋を貫いて女性に突き立て、女性を突き殺してしまいます。ああ、美女が、また一人死んでしまった…ということが繰り返されます。

さらに、とにかく巨大なので、口を開けて待っているだけで、洞窟と勘違いした鹿が口に飛び込みます。ハルスはそうやってあたり一帯の動物を食べきってしまいます。これには蕃社の人間も困り果てます。女もいなくなるわ、肉もなくなるわ、ハルスには困ったものだ、と。

そこで一計を講じるわけです。「鹿を追い落とすから、食ってくれよ」とハルスに言って、5日間も火で炙った大岩を山の上から転がし、ハルスに食べさせてしまったのです。これにはさすがの巨人もひとたまりもなく、焼け死んでしまいましたとさ。

 大筋はこういうものです。いいですね、巨人。強いけど馬鹿な巨人。この巨人の話は、タイヤル族らしからぬファンタジーっぷりに、強い印象を受ける神話でした。

 

 

3.クトゥルフ神話シナリオ化できるのか

さて、こうした情報を整理していくと、クトゥルフ神話TRPGのシナリオとして利用できそうな部分がいくつか抽出できますね。

まず、地底人から処理しましょう。第一には、これを地底に住む蛇人間の末裔として扱ってみるのもいいでしょう。地底都市が発達しており、そのポータルゲートに偶然行き当たった古代人の伝承と見なすわけです。この解釈ならば、現代においてもなお、ゲートが偶発的に(あるいは故意に)開かれる可能性があり、その展開からシナリオにつなげていくことができます。

その場合、次の神話も興味深いものになります。

ある娘が結婚すると、嫁ぎ先に旦那がいない。不思議に思ったまま夜に寝付くと、なにかが寝床に忍び込んでくる。思わず「それ」を掴み上げると、それは蛇だった。嫁ぎ先の母が急に現れ、「それが汝の夫だ」と言う。驚いた女性は逃げ出して生家へ帰ったのだが、「私は恐ろしい蛇の嫁になってしまった!」とだけ叫ぶと、事切れてしまったのだった。 

大分形が見えてきますね。地底から人間界進出を目論んでいた過去の蛇人間の姿が明らかになり、イグを用いたシナリオの創作可能性が見えてきました。しかし、私はあえて、ツァトゥグァを押します。それこそが、巨人と結びつける最良の手段でしょう。

 

巨人といえばイタクァでもいいのですが、これは北国のグレート・オールド・ワンなので、できれば別の解釈を作りたいところです。そこで利用するのがツァトゥグァです。ツァトゥグァが太古の「焼き岩転がし」事件(実際には、この伝承以上の何かが起こったと解釈して、情報を補足するべきでしょう)以降、この土地に姿を現していないとすれば、蛇人間の一部にとっては残念なことでしょう。

 

蛇人間がこの地域で暗躍しているとして、一体どのような形で現代社会に紛れ込んでいるのでしょうか。いや、あるいは、日本統治時代の台湾を舞台にしても面白いかもしれませんね。この土地の伝承を収集しに来た学者と、その連れの学生、あるいは物好きな生物学者や医者、あるいは派遣された軍人や警察官、新聞記者やそれらの妻や子供だって、この土地で何かに巻き込まれかねません。

そんなことを考えてみると、台湾での安定した政権が長期間続いた過去がないということは、蛇人間が人間社会を牛耳ることを難しくしていたのかも、なんて妄想が始まります。

 

これは一作書けそうな気がしてきましたね。観光地として有名な宜蘭市を舞台に、蛇人間とツァトゥグァを軸にした神話参考型シナリオ。

 

クトゥルフ世界旅行の第1作は、これでいきましょう。

 

 

追記2015/05/27

イタクァでもいけそうな感じがしてきたので、この二つを念頭に入れて書くことにしました。イタクァの落とし子である「風の落とし子」の性質が、タイヤル族神話の「雷神キワイ」とずいぶん似通っていたのです。二つのパターンで組んでみて、面白くなりそうなほうを採用することになるでしょう。