水中ってホント怖いという話【クトゥルフ神話TRPGの観点から】
また次のシナリオとして水中で探索するシナリオを書いています。これを書くにあたって水中のことを色々と調べてみたのですが、これがまた怖いのなんのって…陸上生物はやはり水中で行動するべきではないのです。
今日はクトゥルフ神話TRPGの中で水中行動を行う場合、どのような処理を行うのが妥当なのかちょっと“リアルに”考えてみます。
リアルにというのは、つまりはそれでセッションが面白くなるかはまた別の話という意味です。水の中で行動するだけでSANが減っていたら、それはそれでセッションを楽しめないかもしれませんからね。ひとまず一つの案として、水中行動のガイドラインを書いてみることにします。
水中行動のための装備について
季節にもよりますが、対応するダイビングスーツを着る必要があります。夏場ならウェットスーツ、冬場ならドライスーツと概ね分かれており、それぞれ生地の厚みや種類によってもう少し細かく分かれています。
これを着込んだうえで、エアタンクを装備します。このとき背負うのは酸素ボンベではありません。入っているのは酸素ではなくて空気です。酸素だけ吸ってたら酸素中毒になります。これを固定し、なおかつどの水深でも浮力が大きすぎたり小さすぎたりしないようにBC(Buoyancy Compensator、浮力補助装置)と呼ばれるベストのような調整装置を装備します。
このタンクに接続するのがレギュレーター、つまりは空気を吸うための装置です。同時にゲージと呼ばれる空気残圧を示す機材にもこれをつなげます。空気残圧を見ながら残りの継続潜水時間を判断するのがダイバーの基礎的な技術です。
このほかの装備として、水面近くを潜行するときにはシュノーケル(スノーケル)が必要になるため携行します。もちろんマスク(目から鼻までを覆う潜水用の特殊装備)を装備するのを忘れてはいけません。あとはダイバー用のグローブとブーツ、そしてフィンを装備すれば一応の基本装備が完成します。
・・・多いよ! と思ったあなた。ダイビングを舐めています。
これに加えて水中ライトとナイフくらいは持っていないと、下手したら死にます。そしてできればダイビングコンピューターというものを使うのが理想です。これの必要性については最後の項目中でお話ししようと思います。
というわけで、水に潜るためにはそれはもうたくさんの機材を装備しなければなりません。これだけのものを装備した状態であっても、水中で神話生物に遭遇すればひとたまりもなく一方的に蹂躙されてしまうことでしょう(それがたとえ深きものどもであったとしても!)。
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流れが滞っている湖などへの潜水
そのうえ今回のシナリオでは湖に潜る予定を立てていました。そこで私は湖の中がどういう状況になっているのか文献調査を行なって、恐ろしいことを知りました。それは「水の層」と呼ばれる滞留水に発生する名状しがたき恐怖の性質です。
水温躍層について
水の層とは端的に言えば水温層のことを意味します。水が滞留することでかき混ぜられずに放置された結果、冷たい水が底の方に溜まり日光を受けた温かい水がある水面近くの層とまさに層状に水温の違いが発生するのです。
地上でも登山すれば少しずつ気温が下がっていきますが、水中でも潜れば潜るだけ水温が下がることになります。ただし最大の違いは、ある一線を超えた瞬間に水温が極端に下がるという点にあります。
どれくらい水温が変化するのでしょうか? 水面から1、2mまでの温度は非常に温かい場合であっても、それより下に入った瞬間に水温は10度ほど下がります。この水温差は時に人間の筋肉を痙攣させ、泳ぎが得意な人であっても水の中で冷たい何かに足を引きずり込まれたような恐ろしい感覚を味わうことになります。なお、いわゆる河童が足を引く現象の正体とされています。
水温と酸素
水温が違うくらいならまぁ…などとお考えのあなた。水温が層状に変化するということは、その生態環境が全く異なる世界がそこにあるということです。
たとえばさらに深く潜って10m以上沈むと、そこには水温の違いで屈折率が変化する面が存在し、まるで水底が光るような状態になっています。これより下ではさらに水温が5度から10度低下し、いよいよ光合成が不活発になり始め酸素が不足し始めます。
当然生息する生物も酸素をあまり必要としない生物のみになり、さらに深くなれば無酸素層と呼ばれる層が現れることすらあります。この世界には大型生物は少なく、上層で死んだ生物の死骸が静かに分解され続けています。
視界不良と命綱
湖という特殊な地形には、絶えず川から水が流れ込みます。これによって僅かに水の流れが存在するのですが、それと同時に大量の泥と養分が運ばれてきます。川から運ばれた養分は大量の微生物が発生する原因になります。
この微生物が曲者です。大量の微生物と沈殿物は水を濁らせます。光の通る水面近くはまだしも、水の層を抜けると淀んだ水が濁りを増し、視界が通らなくなってしまいます。この視界レベルも水の層を越えると劇的に変化するのです。視界は1mと通らないこともあるのが水中です。ダイビングは普通2人がペアになって行うのですが、当然一緒に潜った人も見失ってしまうほどに視界が通らないのです。
ここで重要になるのが命綱を互いに握っておくことです。戦闘がロープを持ち、それを伝って二人目が泳ぎ、ロープのもう一端は水面のボートにそれを渡しておきます。非常事態に陥ればロープを引っ張ることでそれを伝えることができるわけです。
想像してみてください数センチ先までしか見えない世界で、握ったロープだけが仲間の存在を知らせてくれる世界を。それが湖の底にある世界なのです。
なお一番底に堆積しつつある泥と濁りきった水の層は境も曖昧で、不用意に接地すれば急に体が動かなくなり、抜け出そうともがけばその手足が泥に取られるという地獄の苦しみを味わうことができるそうです。
水中戦闘は可能なのか
クトゥルフ神話TRPGで水中を登場させる以上、そこには神話生物がいることでしょう。もしも攻撃されたときに、人類は抵抗を試みることができるのでしょうか?
水中で使える武器
素人でも水中で使える武器として最も重要なのは、質量を持っていることです。もちろん取り回しの利くナイフもいい武器ですが、致命傷を負わせるのは難しい武器といえます。
理想的な武器は水中銃です。日本で一般に言われている水中銃はスピアガンですが、それとは別に水中銃が存在します。とはいえこれは軍事機密級の品だそうなので、セッション中に利用機会が登場するとは考えにくいかもしれません。
水中銃(ASM-DT水陸両用アサルトライフル)
分類 アサルトライフル(基本命中率25%)
ダメージ 2D6+1(水中)
基本射程 10m(水深3m程度。深くなればより短くなる)
攻撃回数 1(水中)
装弾数 26発(水中)
耐久力 13
故障ナンバー 96
弾薬 5.4mm水中弾
陸上での運用はルールブックAK74準拠が妥当か
こんな武器が手に入っていれば、水中でも多少の戦闘をこなすことができるかもしれません。しかし現実は非情です。日本における水中銃、スピアガンを設定するなら次のように設定するほかないでしょう。
スピアガン
分類 ライフル(基本命中率25%)
ダメージ 1D8+1(水中)
基本射程 2m
攻撃回数 1
装弾数 1
耐久力 13
故障ナンバー 00
弾薬 スピアガン用ヤス
水中での通常武器にダメージボーナスが乗らないと考えれば、小型ナイフ(ダメージ1D4+db)で攻撃するよりはるかに有効です。水中では伝家の宝刀マーシャルアーツも使えないと思われるので、キック(1D6+db)するよりもダメージは高くなりそうです(フィンをつけた状態のキックにKPがペナルティを課すと思われるのでなおさら)。そんじょそこらの魚なら一撃で瀕死に追い込めますが、サメくらいになってくるとこれだけで活動を停止することはないかもしれません。集団で撃ち込んで撃退する必要があるでしょう。
最後に提案する武器ステータスはヤスです。聞きなれない名前ですが、某番組でよゐこの濱口さんが潜水して魚を捕まえるときに使っていた道具の正式な名前です。槍のような尖った部分に一度刺さったら抜けないように返(かえし)がついていて、その一番後ろに付いているゴムを引っ張って刃先に近い部分を握っておき、手を離してその張力で相手をひと突きします。魚程度なら一撃で動きを制することができる非常に扱いやすい便利な武器です。
ヤス
分類 ヤス(基本命中率20%)
ダメージ 1D4+2
基本射程 接触
攻撃回数 1
装弾数 1
耐久力 8
故障ナンバー ー
これでもナイフよりは強いのですが、相手に刺さってしまうと抜けないという特徴があります(スピアガンも同じ)。狩猟用なので刺さった獲物を逃してはならないのです。この性質をどのように表現するかはキーパー次第というところでしょうか。
水中で仲間が死んだとき
さて武器が整ったところで、ちょっと水底における水中戦闘を想像してみましょう。
視界は1mもありません。自分の伸ばした手の先がおぼろげに見える環境で、日本では限界の装備であるスピアガンを持っています。伝って進んでいるロープは泥の中に続いていて、その先には仲間がいることになっています。見えないのでまだ生きているかはわかりませんが、まだ引っ張られていないのできっと生きているはずです。
水中ライトで四方を照らしますが、その光が1mより先を照らすことはありません。恐怖の中で探索者たちは少しずつ目的地に向かいます。そのとき握ったロープが急に強く引っ張られます。冷静に泳いでいたあなたもこれに思わず体勢を崩すかもしれません。そのロープは乱暴に揺れ、あなたは非常事態にそのロープをたどって仲間の元に急ぎます。ドライスーツの下には恐怖から冷や汗が出ているかもしれません。
張り詰めていたロープが急に緩みます。あなたは安心して泳ぎ進めます。しかしそのロープの先は乱暴に切り裂かれ、そこにいたはずの仲間はどこにも見当たりません。あなたが慌てて異常事態をボートに待機する仲間に知らせるためにロープを引きます。あなたは少しずつ上昇しながら周囲をライトで照らします。
そのライトが濁りの一角に向けられたとき、鱗に覆われた魚人が姿を現すのです。あなたは死んでたまるかと水中銃を放ち、それが相手をとらえます。しかし気絶には至りません。魚人は自在に水中を動いてあなたのドライスーツに鉤爪を突き立てます。これまで低温の水から体を守ってくれていたドライスーツの一部が裂け、冷水が体に直接当たります。CON抵抗に成功しなければ足が痙攣してしまうことでしょう…
ね? 怖いでしょう?
深きものとの戦闘とは思えない緊張感です。「こんなところにいられるか! 俺は地上に帰るぞ!」とパニックに陥って逃げ出してしまいそうです。そう感じたなら是非SANチェックも行いましょう。水中でパニックに陥ればエアー使用量が増大し、死に直結します。やはり水中なんて人間が生きるべき場所ではないのです。
以上で紹介したデータと情報をうまく使って、水中での探索をセッションに取り入れてみてはいかがでしょうか。
おまけ:減圧について
深く潜ると水圧が上がって血中に空気(主に窒素)が溶け込みます。それゆえ突然水上に出ると炭酸飲料のキャップを開けたときと同じように血液が泡だらけになって大変なことになります。つまり異常事態が発生したからといって緊急浮上して逃亡することは死に直結します。
すぐに水上に出るのではなく、少しずつ浅い所に移動して待機し、血中の窒素を抜いてあげる処理をしなければなりません。これを補助するツールがダイビングコンピューターです。ダイビングコンピューターは水圧から血中窒素の状況を概算して浮上プランを設計してくれます。腕時計のように装着することができるので、安全な潜水作業のお供に是非とも利用しましょう。
もちろん減圧処理まで再現する卓は希少だと思うので、この部分は趣味として採用してみてはいかがでしょうか。
スペシャルサンクス
話を聞かせてくださったダイバーの方々に改めてお礼を申し上げます。ご協力ありがとうございました。