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【データゲーとしてのTRPG】ソード・ワールド2.0のデータを解剖する(1)

TRPGにはたくさんのデータが使われています。

ゲームとしてのバランスはデータの中で調整されていて、プレイヤーは知らず知らずのうちにその調整の恩恵を受けることができます。

今回、ソード・ワールド2.0の基本ルールブック3冊に書かれているほとんどのデータを手入力でエクセルに打ち込むという作業を行いました。その目的は、TRPGにおけるバランス調整の方法を勉強するためです。

 

第1回の今回は、武器について扱います。

多様な武器が存在するソード・ワールド2.0では、メイス最強説に代表される最強武器仮説が存在します。もしもバランス調整に失敗しているなら、データの中でもメイスの強さが際立ってくるはずです。威力表とC値のもたらすダメージ期待値の変化に注目しつつ、武器間のパワーバランスを検証してみましょう。

 

メニュー

1.ふたつの相関直線

2.武器の個性の作り方

3.威力増加とC値減少の意義

4.まとめ

 

 

1.ふたつの相関直線

初めに行ったのは、ランクBの用法「1H、1H両」の武器だけを取り出して、必要筋力と威力の関係を見ることでした。ここには明らかな相関関係が見て取れます。

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浮かび上がったのは、ふたつの直線です。

実は、下の直線は格闘武器とソード、上の直線はフレイルやメイス、ウォーハンマーとはっきりと分かれています。

つまり、多様な種類があるように思われるソード・ワールド2.0ですが、威力と必要筋力の関係だけを見れば(つまり命中補正とC値を考えなければ)、武器は大きく2種類に分かれるのではないかという仮説を立てることができます。

 

この仮説に基づいて、ランクA、Sの武器の相関グラフを見てみましょう。

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ランクAのグラフに一つだけ外れ値になっている武器がありますが、これは攻撃にも使える盾です。それを除けば、すべての1H・1H両武器がふたつの相関直線を保って設計されていることがわかります。

 

この法則性は、2H武器でも保たれます。ランクB、A、Sの2H武器を同時にグラフ上に表示してみると、5本の直線が浮かび上がるのがわかります。

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以上のことからわかるのは、必要筋力と威力の正比例関係です。基本的に必要筋力が1上昇すると、威力は1上昇します。ランクが変わろうと、用法が変わろうと、この法則は不変です。

 

従って、武器の威力は次の加算式で決定されていることがわかります

 

武器の威力

=必要筋力+武器種ボーナス+ランクボーナス+用法ボーナス

 

 

2.武器の個性の作り方

さて、この4つのステータスで決定されているうえ、ランク・用法は全武器共通のデータです。つまり、剣に槍や斧、メイスやウォーハンマーなどの多様な武器の個性を作るには、威力というステータスだけでは不十分ではないかと首をかしげることになります。

 

そこで利用されているのが、C値と命中補正、打撃武器/斬撃武器というステータスです。

同じ用法でも武器種ボーナスが高くなる武器があるなら、強いほうの武器を利用するのがデータ上は最善の戦略です。しかし当然、武器種ボーナスが与えられる武器には相応の“癖”が用意されています。

 

これも概ねふたつの方向に分かれています。

C値が12になる代わりに命中ボーナスを得られるメイス系統。

C値が10に保たれる代わりに命中ペナルティを負うスピアやウォーハンマーです。

 

これらの要素に加えて、あまり考えることはありませんが、汎用性の高いソード系列の武器には最大のアドバンテージがあります。それは武器の種類が多いということです。

必要筋力が直接に威力に反映される以上、少しでも自分の筋力に合った武器を使いたいのが冒険者というもの。そのニーズに応える武器として、ソード系列のもつラインナップは実に魅力的です。

 

 

3.威力増加とC値減少の意義

様々なステータスを利用して武器の差別化を図っていることまでは理解できました。

しかし命中ボーナスやC値の増減は、本当に適切なバランス調整と言えるのでしょうか?

 

ここに用意したのは、威力表のダメージ期待値のグラフです。

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威力が1増加するたびに、概ね0.166点のダメージ増加を望むことができます。つまり、武器種ボーナスのある武器を選んで威力が5増加すれば、0.83点のダメージ増加が望めるわけです。

 

・・・1点も上がらないじゃないか。

そうなんです、実は武器種を変えただけではダメージ量はそう増えません。このうえ2Hにして10点のボーナスを得れば、ようやく1.66点、合計で2.49点のダメージ増加が期待できます。

こう考えると、威力が高い武器を利用することのメリットはあまり感じられなくなってくるかもしれません。

 

一方のC値はどうでしょうか?

C値の増減によって与えるダメージにどのような違いが発生するのかを検証するためには、数学上ちょっとした計算が必要になります。今回は簡単のために、同じクリティカルの出目が繰り返されるパターンだけを考慮しましょう。重要なのは、実際よりも期待値上昇効果は低く抑えられているということです。

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このグラフの横軸は威力の値(0〜100)です。なおこのうえ、他のクリティカル出目の組み合わせ分が加算されるため、C値による期待値増加量はもっと大きくなります。

このグラフから見えてくるのは、C値が1上がることで失っているダメージ期待値を取り戻すために必要な威力が、10〜30にも達するという事実です。

 

こうなってくると、C値を一つ下げることによって得られる利益の大きさをよく理解することができるでしょう。威力が5や10下であっても、C値が低い武器があるならそれを利用したほうがダメージの期待値は高くなるのです。

つまりC値が低くて威力が5〜10低くなるというソード武器の調整は、低威力帯においてはほとんど完璧な調整ということができます。

しかし威力が高くなると、C値減少による利益も大きくなります。つまりC値12のメイスはどんどん不利になるわけです。これに対してバランスをとるためなのか、メイス武器の高レベル帯では命中補正が2〜3に上昇しています。

 

その命中補正ですが、これも威力に比例して利益量は大きくなります。特に相手の回避力とこちらの命中力が拮抗しているとき、受益量は最高に達します。

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そしてこちらがC値12の武器で命中補正+1を得たときに得られる(C値10の武器に対する)ダメージ量期待値の差を示したグラフ(命中補正により2d6=8で命中の状態から2d6=7で命中に補正された場合)。

意外や意外、さすがの命中補正であっても、C値による利益分を覆すことができず、基本的にマイナス利益ということがわかりました。したがって、単純にダメージの期待値だけを考えるなら、C値の低い武器を選択するに限るわけです。

 

しかし、ソード・ワールド2.0のプレイヤーならば、相手にターンを回すということがもつ恐ろしい意味を知っているはずです。たとえ期待値が高くても与ダメージが0のターンが存在すると、それだけで生命の危機に瀕します。このリスクをどう評価するのかは、パーティの構成と互いのレベル帯にも依存することでしょう。

 

 

4.まとめ

こうして、すべてのデータを考慮しても、最強の武器種を断定できないことがわかってきました。それぞれの武器種たちは、個性を持ちながらも、しっかりとバランス調整が行われていたのです。

 

人口に膾炙する「メイス・ワールド」ですが、これもやや疑わしくなってきました。たしかに安定して命中するため、プレイヤーとしてのストレスは少ないのでしょう。しかし、無事に命中したときのダメージの伸び代が小さいことによって、思ったよりも大きなダメージ機会を損失しているのです。

 

こうしてみると、命中補正やC値変更によって威力を5増減させるという簡単な管理方法にもかかわらず、実に見事なバランス調整を達成しているのが見えてきます。「最強の冒険者」になるために、魔法との組み合わせやパーティ内でのチームワークなど、他の要素を加味する必要が生じるのは、このような調整が背後で行われていたからなのかもしれません。