【ソード・ワールド世界考察】〈ガン〉にライフリングは刻まれているのか?
変なことが気になったので、検証してみることにしました。
それというのも、Twitterで妄想していた、ソード・ワールド世界を舞台にした推理小説を書くにあたって、その詳細な設定を検証する必要が生じたからです。
今回の検証課題は、ズバリ、「〈ガン〉装備にライフリングがあるのか?」というものです。
ライフリングとは、銃身に刻まれている渦巻き状の突起です。射出された弾丸はこの突起に沿って回転させられています。この回転は、ジャイロ効果により弾丸を安定させ、弾丸の直進性を大きく向上させています。
ライフリングが存在しているのかという問題を検討するためには、現実のライフリングが果たしている役割などを詳細に検討し、ルールブック内の〈ガン〉装備の仕様と比較する必要があります。
早速、検証を開始しましょう。
1.ライフリングの条件と結果
現実のライフリングについてもう少し勉強しましょう。
ライフリングがなかった頃の銃は、マスケット銃と呼ばれます。
日本では火縄銃がそれにあたり、ただ火薬で鉛玉を押し出してぶつけるタイプの銃です。この頃の銃は、概ね100m程度しか有効射程がなく、狙撃はまず不可能でした。
それゆえ、密集隊形を組んでの至近一斉射撃によって集弾性を補う運用が世界中で採用されていました。
ライフリングのアイディア自体は、実はかなり早い段階で生まれています。
15世紀末のウィーンでその構想が提案されていたのですが、諸々の理由から、流通には至りませんでした。ここでライフリングが直面した問題を整理しておきましょう。
第一には、溝に沿って回転する弾丸を、先込め式で装填するのは、時間がかかりすぎました。溝で回転するということは、銃身よりもやや大きい弾丸を詰めることになります。戦場において、連射性を損失することは、他に代え難いリスクに他ならなかったのでしょう。
第二には、製造費がかさむことです。一つ一つの銃身に溝を刻む作業は、当時の工作機器の状況から言って、製造効率の著しい低下を伴いました。現場で使いにくい銃を、少数生産しても、商売にはなりません。
第三には、従来の火薬の燃焼速度では、弾丸の初速低下に対応できませんでした。当時主流だった黒色火薬は、燃焼ガスの急速な発生で知られます。ガスが弾丸を押し出すことで、十分な初速を得ることができたのです。しかし、ライフリングによって速度がいくらか低下してしまうと、このガスがうまく抜けないまま、銃の内部構造にダメージを与えてしまいます(この問題は、新しい火薬の開発を促すことになりました)。
つまり、弾丸の装填法の改良と、製造法の改良、さらには火薬の改良を実現したことで、ライフリングは現実的に採用し得る技術として、日の目をみることになったわけです。
2.〈ガン〉装備の仕様を確かめる
マスケット銃の有効射程が100m程度。
一方のライフルは第二次大戦時に活躍したM1ガーランドでも450m程度あります。
TRPGのことならTRPGに聞け、ということで、M1ガーランドの射程を、TRPGではどのように扱っているのでしょうか?
クトゥルフ神話TRPGルールブックには、M1ガーランドの情報が掲載されています。その射程は、110mと表記されています。おそらく、命中精度を考え、ライフル技能で通常射撃が可能な限界距離として扱われているのでしょう。
実際のスペック表記としては450mとあるものが、110mとされていることから考えて、次の仮説を立てることができます。
仮説
【TRPGにおける、ライフル立射の射程は、実際の火器の有効射程の1/4程度に設定される】
この仮説の検証を行うために、他の武器でも調査してみたところ、拳銃では減衰率が小さく、マシンガンでは減衰率が多いなどの特徴はありましたが、概ね1/3〜1/6程度の射程減衰処理が行われているようです。
これを考慮に入れて、ソード・ワールドの〈ガン〉の射程を見直してみると、2H〈ガン〉の有効射程は、40m〜60mに設定されています。
これをライフルとみなして、カタログスペックとして、貫通力ある弾丸の威力を保った、有効射程距離を推定すると…
有効射程距離 160m〜240m
という数値が導かれることになるわけです。
う〜ん、ライフリングがある銃にしては短いし、ない銃にしては長い。
判断が難しそうです。
3.現時点での結論
しかし、お忘れではないでしょうか?
ソード・ワールド世界における銃は、魔動機です。そして、銃のダメージ算出は、魔法ダメージのルールに従うのです。
つまり、ソード・ワールドの銃は、銃弾を肉体に食い込ませてダメージを与えるものではありません。
むしろ、弾丸を魔力を伝える媒体として利用し、標的の体表面近くから、ピンポイントで魔力による攻撃を発動することで、相手にダメージを与える武器なのです。
この点から、「銃弾が貫通力を保つ有効射程距離」という概念は、ソード・ワールドにとってあまり意味を持たないことがわかります。重要なのは、「シューター技能さえあれば、弾丸を当てることが容易である距離」という点だけです。
そうしてみると、本来のマスケット銃よりも有効射程がいくらか伸びるのも頷けます。弾丸の安定性とは無関係に、相手にダメージを与えられる性質が、有効射程を伸ばすことに貢献するのです。
同時に、40m〜60mという、極めて短い射程距離が意味することも理解できます。すなわち、「ソード・ワールド界の弾丸は、直進性が低い」ということを意味するのです。
以上から、私は次のように結論します。
ソード・ワールドの世界では、ライフリングの技術は一般に流通していない。
「一般に流通していない」としたのは、アイディアとしては生まれていてもいいだろうと考えたからです。この考え方を採用すれば、同時に、それが流通していない理由を見出す必要があります。
4.ライフリングが流通していないわけ
これには、幾つかの理由を見出すことができます。
第一には、製造技術がライフリングに追いついていない可能性が十分にあります。
ソード・ワールドでは、〈大破局〉という大規模な文明崩壊が起こっており、人族は復興の途上にあります。そんな状況下で、ライフリングを施した〈ガン〉を生産する技術が伝承されているのか、怪しいところです。
第二の理由は、より深刻な問題です。
多くの魔法の射程が、視認可能な数十メートルにとどまっていることを考えると、魔力の発動距離に対する減衰量は極めて大きいことが伺えます。距離が開けば開くほど、魔力はその力をみるみる失うはずです。
この性質を考慮すれば、たとえライフリングを施したとしても、400mも先に到達した弾丸が、魔力の媒体として十分な機能を保っているとは考え難いのです。
したがって、魔力の媒体としての弾丸を射出する道具としての〈ガン〉には、150m以上の有効射程が、そもそも必要ではありません。弾丸の直進性よりも先に、魔力の伝導性の方が限界に達してしまうからです。
このことから、ソード・ワールド世界では、ライフリングが開発されても、おそらく流通することはないと結論づけられます。
しかし、大破局以前の技術を継承する、人里離れたルーンフォークやレプラカーンなどの村落で、その製造技術が継承されているという設定などは面白いかもしれません。その長距離狙撃能力は、ライフリングを知らない一般人たちを畏怖させることでしょう。