【クトゥルフ神話TRPGリプレイ】忘却の結末【part.03】
【前回のあらすじ】
夜道に一人立っていた少女は、ハルカと名乗った。頭に角が生えてこそいるが、人懐っこく無害な彼女を放っておけず、中華料理屋で食事をすると、少女は中国語を話し始める。
ハルカは神霊の類か、それとも触れるべきではない怪異なのか?判断をつけられずにいたが、ハルカは当然のことのように、伏原の宿までついてくる。
ピートンホテルの一室にて
KP「大間々駅から少し南に行ったところに、黄色い建物の安宿、ピートンホテルがあります。今日はそこに泊まりましょう。」
伏原「芸能人が安宿ですか?」
KP「ここは観光地ではないので、ランクの高いホテルは営業していないんですよ。元は大間々に一泊しかしないつもりでしたし、そのくらいいいんじゃないですか?」
伏原「まあいいでしょう。そこに帰る途中で、ハルカちゃんに寝るところがないのか聞いておきたいんですけど。」
KP「『ないよー。』とことも無げに返事されますね。」
伏原「お父さんかお母さんは?」
ハルカ「お父さんは知らない。お母さんはいるよ。」
伏原「どこにいるの?」
ハルカ「…あっち?」
KP「空を指差します。」
伏原「…この子から情報を得ようとしたのが間違いだった。」
KP「というわけで、ピートンホテルの一室まで、彼女はあなたの手をつないでついてきますね。部屋に入るなり、『ベッドだー!』と言って、袴のままベッドにダイブして足をバタバタさせますね。」
伏原「無邪気とはまさにこのこと。」
KP「それで、ぼちぼち眠りますよね?」
伏原「そうですね、シャワー浴びたら寝ますけど、ハルカちゃんって、袴以外の服あるんですか?」
KP「ありませんよ?」
伏原「さすがに袴で寝たらだめでしょう。手ごろなシャツでも貸してあげますよ。」
KP「ぶかぶかで手元から垂れてる感じですね。伏原さんがシャワー浴びてる間に着替えてますよ。と、ここで、彼女ズボンがはけない体質なので、ぶかぶかのシャツだけ着ているんですが…。」
伏原「体質ってなんだよ、体質って。」
KP「ええ、そう思ってあなたはハルカちゃんの足を見るはずです。すると、お尻の上の方から、白いふわふわした毛に包まれた、尻尾が目に入りますね。」
伏原「あ、ほんとに体質なんだ(笑)」
KP「と、まああまり大きな驚きではないかもしれませんが、SANチェックをお願いします。」
SANチェック→成功 減少なし
KP「ツノに気づいていたこともあって、このくらいの異常は身構えられていたんでしょう。伏原さんはまったく動じません。」
伏原「それじゃ、僕は眠ろうかな。ほら、ハルカちゃんも眠るよ。」
ハルカ「わたし、眠らないよ?」
伏原「へ?」
ハルカ「寝たらわかるから、おにーちゃんは眠って。」
伏原「ん…これは、寝てる間になんか起こりますね。携帯のカメラを録画状態にして、カバンから覗かせておきますよ。それから、テレビのリモコンを渡しときます。好きに見てなって。」
KP「了解です。それでは、眠りましょうか。」
伏原「はい、眠ります。」
夢の中、赤い世界
KP「あなたがまどろみの中で意識を取り戻すと、あなたは白い和装を着て、丘の上に立っているようです。」
KP「辺りは怪しげな夕焼けのように、あたりの空気それ自体が真っ赤に染まっています。眼下には、古い茅葺の屋根に漆喰と土壁の家屋がいくつかならんでいますね。あなたがその光景をぼんやりと見つめていると、あなたの右手を小さな手が握ってきます。」
伏原「ビクッとしてそちらを見ますね。」
ハルカ「ここはね、夢の大間々なの。」
KP「そこには、ハルカが先ほどの袴姿で、あなたの手を握り、あなたを見上げています。」
伏原「ハルカちゃんか。夢の大間々って、じゃあ、これは夢の中なの?」
ハルカ「うん。わたしのおうちがあるの。」
伏原「ハルカちゃんは、ここから来たのか。じゃあ、お母さんもここにいるの?」
ハルカ「お母さんはよく知らない。ここにもいるし、どこにでもいるよ。」
伏原「…お母さん邪神だろ、これ。」
KP「『幼女の母は邪神様!』うん、悪くないタイトルですね。」
伏原「何の話だ。」
KP「ロリコンが近所の幼女と交流していると、邪神様である母親があの手この手でロリコン野郎を狂気に陥れる、コズミック恋愛コメディのタイトルです。」
伏原「何それ読みたい。」
KP「現在進行形ですから、ご安心ください。さて、またしても、ハルカちゃんがあなたの手を取って、引っ張り始めます。」
伏原「元気な子だなぁ。ついて行ってあげますよ。」
KP「しばらく歩くと、一度あなたの意識が乱れて、今度は村の中に立っていますね。もちろん、ハルカちゃんも一緒です。」
伏原「シーンカット機能付きの夢って便利ですね。」
KP「道はアスファルトなどではなく、ただ踏み固められただけの土のようです。ハルカちゃんはしきりに辺りを見渡しますし、おそらく釣られてあなたも見渡すでしょう。しかし、人影は見えません。」
ハルカ「今日は誰もいないみたい。」
伏原「いつもは誰かいるの?」
ハルカ「うん。私と同じ、『鬼子』がいるんだよ。わたしももとは『鬼子』だったんだけど、わたしはちょっと特別なの。『とおとふたつのかみさま』なんだよ。神様だからね、か・み・さ・ま!」
伏原「ハルカちゃん、神様だったんだ。てっきり『鬼』なのかと思ってたよ。」
ハルカ「うーん…たぶん、わたし、『鬼』だと思うよ?だって、ツノ、あるでしょ?」
伏原「え!?神様なんじゃなかったの?」
ハルカ「うーんとねぇ…わたしもよくわかんないの。わたしは『鬼子』で、『鬼』で、『神様』なんだって。」
伏原「…誰かにそう教えてもらったの?」
ハルカ「ううん。わたし、神様だから、わかるんだよー。すごいでしょ?」
伏原「…参ったなぁ。この子、ひょっとしたら、自分の状況を理解できてないのかもしれないんですね。たぶん邪神の『母親』に言われるがまま、よくわかんない仕事に従事してて、よくわかんないなりに頑張ってるって感じかもしれない。」
KP「どうなんでしょうね。」
伏原「あ、いくつかのキーワードに対して〈オカルト〉振っていいですか?『鬼子』と『とおとふたつのかみ』についていきます。」
KP「どうぞ、どうぞ。」
『鬼子』 〈オカルト〉ロール→失敗
『とおとふたつのかみ』 〈オカルト〉ロール→成功
KP「『とおとふたつのかみ』が、おそらく、古い山の神の名である、『十二様』のことではないかと思い当たりますね。関東を中心に、全国に広く分布している『十二神社』で祀られている神様です。」
伏原「ハルカちゃん、ひょっとして、大間々以外にも、おうちがあるんじゃない?」
ハルカ「うん。いっぱいあるよ。でも、最近、お供え物減っちゃって、お腹が減るんだよね。」
伏原「そうなんですか?」
KP「ええ。十二様の信仰が未だに続いているのは、群馬の北部くらいのものではないでしょうか。ほとんどは、その存在すら忘れ去られたような、朽ちてボロボロになりつつある神社がかろうじて残っているような状況です。」
伏原「ハルカちゃん、安心して。僕は『十二様』知ってたよ。」
ハルカ「ほんと!?わーい!」
KP「ハルカはあなたの手を離して、その辺をピョンピョン飛び回りますね。それから、弾けるような笑顔をあなたに向けると、次のように言います。」
ハルカ「それじゃあ、それじゃあ、大間々のわたしのお家、お参りする?」
伏原「うん、そうしようか。夢の中にあるの?」
ハルカ「うん。でも、今から行ったら間に合わないかなぁ。明日、起きてるときに行こ?」
伏原「大間々のどのあたりにあるのかな?」
ハルカ「北の方。山をちょっとだけ登ったところだよ。」
KP「そんな話をしながら、集落の中を歩いているわけですが、あなたが交差点を渡ろうとすると、左に進んだ先に、鳥居が見えますね。そこだけ少し霞んでいるような印象を受けます。」
伏原「ハルカちゃん。あれは?」
ハルカ「八宮神社。わたしあそこ嫌い。」
伏原「嫌いなんだ。なんで?」
ハルカ「変なおじさんがいるの。」
伏原「変なおじさん?」
ハルカ「うん。なんか変な人。わたし嫌い。」
伏原「ふーん。なら行かないでおこうか。」
ハルカ「うん。行きたくない。」
伏原「…ここ、間違いなく重要スポットなんだろうなぁ。でも、ハルカちゃんが明らかに嫌がるのはここが初めてだし、やめといた方が良さそう。」
KP「他に、夢の中でハルカちゃんと話しておきたいことはありますか?」
伏原「ええと、ハルカちゃん、僕のこと、呼んでみて?」
ハルカ「??どうしたの?おにーちゃん。」
伏原「うん、これで大丈夫です。」
KP「妹萌えですか?」
伏原「真面目にやってますよ!現実のハルカちゃんと夢のハルカちゃんが同一人物かどうかを確かめただけです。同じ肉体を使っているだけってこともありえますから。」
KP「ああ、なるほどね。」
伏原「少なくとも、記憶は共有しているみたいですね。全く同じハルカちゃんなのかはわかりませんけど。」
KP「そこまでたしかめたところで、あなたの周囲が全体に、白い靄の中に沈んでいきます。あなたは理解するでしょう。夢の時間は短いのだ、と。そして、あなたの視界が真っ白になったかと思うと、今度はゆっくりとブラックアウトして、あなたはベッドの上で目を覚まします。」