【クトゥルフ神話TRPGリプレイ】忘却の結末【part.08】
【前回のあらすじ】
現時点での状況を整理した伏原。大間々地域の古代信仰について調査しつつ、鬼子を捧げる場所を特定すべく、情報収集を行う必要があることが明らかになった。
早速、夢の中で見た八宮神社が、大間々をはじめ、上野国に散見される赤城神社の分社であることを突き止める。古代動物信仰から豊城入彦命(トヨピー)信仰への移行が意味することとは…?
再び、夢の大間々へ
KP「あなたは目覚めます。真っ赤に染まった空、しかし太陽はなく、風も吹かない。舗装されていない土の道路の上、夢の大間々の只中に、あなたとハルカは立っています。」
伏原「ハルカちゃんは、八宮神社、行きたくないんだったよね?」
ハルカ「行きたくない…。」
伏原「なんでだったっけ?」
ハルカ「変なおじさんがいるの。それより、わたしのおうち、行かない?」
伏原「十二神社か…。うーん…あ、この間いないって言ってた、お友達は?」
ハルカ「うーんとねぇ…。」
KP「〈幸運〉で振ってください。」
〈幸運〉ロール→失敗
伏原「あちゃぁ。」
KP「では、あなたの視界の隅に、何か大きめの生物の影が見えます。あなたが不意にそちらの方を見ると、そこには、全身を黒い体毛で覆われているほか、わき腹のあたりから左右に二本の副腕が生え、首が溶け落ちるように右胸のあたりについている、大きな角の生えた奇妙な生物が立っています。SANチェックです。」
SANチェック→成功 減少値 1
KP「相変わらずの鋼メンタルですね。さて、その生物ですが、あなたたちの姿を認めると、付近のボロ家の扉を開けて、帰ろうとしますね。」
ハルカ「待って!」
KP「ハルカがそう言うと、後手に閉じられかけていた扉がピタリと止まります。扉越しに、会話することもできるかもしれません。」
伏原「…ま、何を話すのか決めてないんですけどね。」
KP「その初セッションから続く悪癖なんとかならないんですか。」
伏原「ハルカちゃん、この人も、鬼子だったの?」
ハルカ「うん、そうだと思うよ。」
伏原「よくは知らないの?」
ハルカ「私より先にいたから。」
伏原「なるほど…。つまり、これが成れの果てってことでしょう?鬼子がこちらの世界に届けられて、『十二様』の力でこんな姿になって、生き続ける、と。で、そもそも、鬼子は『十二様』の子だから、地上に残っても似たような鬼になるわけで…。」
KP「それで?」
伏原「うん、特に聞くことありませんでした。」
KP「おいおい、それでいいの?」
伏原「いいでしょ。今のところ、死が迫ってるわけでもないし。」
KP「夢では一回しか行動できないんですが、これだけで目覚めてしまっていいですか?」
伏原「そうなんですか?それはちょっと惜しいことをした。」
KP「近くにある八宮神社なら行ってもいいことにしましょうか。」
伏原「うーん…ハルカちゃんが嫌がってるんで、どうしても必要とわかってから行きますよ。本格的に敵だったらどうしようもありませんから。」
KP「了解です。では、夢の大間々をぶらついて、目覚めたことにしましょう。MP−1です。」
3日目の探索開始
ハルカ「おはよー!」
KP「ハルカがそう言って、あなたにボディプレスを仕掛けてきます。」
伏原「ぎゃあ!でも楽しげな目覚めだ。」
伏原「よし、ハルカちゃん!十二神社に行くぞ!」
ハルカ「私のお家に行くぞ!」
伏原「吉幾三!」
ハルカ「おにーちゃん!ちゃんとお供え物持っていってね!」
伏原「吉幾三世代の女の子ではないみたいだ。」
KP「…なんの確認なんですかねぇ。」
伏原「ハルカちゃんの実年齢ですよ!」
ハルカ「50年くらい前?」
伏原「え?」
ハルカ「わたし、もう50年くらい生きてると思うよ。」
伏原「いわゆる合法ロリってやつですか?」
KP「非実在青少年ですね。」
伏原「ここは群馬だぜヒャッハー!…あ、おまんじゅう買ってから行ってあげますよ。」
十二神社は廃れきっていた…
KP「山間の道をしばらく進んでいると、左手の舗装された壁面の上に、忘れ去られたような赤い鳥居がポツンと立っていますね。…これ、Googlemapからのスクショです。」
伏原「…こりゃぁひどい。鳥居の右手の柱に重なって見えてるのが、ちっちゃな祠ってことですか。」
KP「はい、それが拝殿です。」
伏原「なんか…しょっぱい神様ですね…。」
ハルカ「むー。それでもわたしは神様なの!」
伏原「いやぁ、あまりにも…小さかったから…。」
ハルカ「わたしのお家なんだからね!ここではわたしが神様なの!」
KP「ハルカちゃんが拝殿で両手を腰に当てて、エヘンと構えてみせますよ。」
伏原「じゃあ参拝しますかね。お饅頭をお供えしますよ。拝礼は、三跪九叩で。」
ハルカ「…へんなお参り!」
伏原「え?本当はどうやるの?」
KP「ええと、ハルカちゃんが二礼二拍手一礼をしてみせますよ。」
伏原「今度はわたしがエヘンと構えてみせますよ。」
KP「わー不敬(笑)」
ハルカ「わたしが神様なの!おにーちゃん神様じゃないでしょ!」
伏原「ハルカちゃんばっかりずるいでしょ?」
ハルカ「むー!わたしが神様なの!」
伏原「ほら、僕の方がおっきいでしょ?」
ハルカ「でも!おにーちゃんは神様じゃありませんー!」
伏原「あー、ハルカちゃんが可愛くて楽しい。」
KP「この神社でやっておきたいことはありますか?」
伏原「そうだ、ハルカちゃん、お供え物って、夢の世界に届くの?」
ハルカ「うん。だからこのお饅頭はわたしのものでーす!」
伏原「ここにこの棒を置いてたら、届くかな?」
ハルカ「…棒は食べられないよ?」
伏原「食べないよ!お供え物のお皿、食べないでしょ?」
ハルカ「…わたし、棒いらない。」
伏原「届くんならいいんだよ。置いておくね。」
ハルカ「わたしいらないけど。」
再び図書館へ
KP「それで、次はどうするんですか?」
伏原「赤城神社とか、十二神社とか、そのあたりと鬼子との関係を調べないと。」
KP「図書館ですか。」
伏原「ええ、そうですね。」
KP「では、車で移動して、みどり市の図書館に向かいましょう。」
伏原「今日は読む時間もありそうですから、図書館でのんびり過ごしますかね。」
KP「ハルカちゃんには?」
伏原「ゲームでもしててもらいましょう。それとも、この子、本も読むんですかね。」
KP「では、ゲームをしててもらうことにしましょう。伏原さんは、調査項目と〈図書館〉ロールをお願いします。」
伏原「ええと、古代の動物信仰について…は、昨日の本を読めばいいのか。となると、十二様と鬼の関係を知っておきたいですね。」
〈図書館〉ロール → 成功
KP「では、『信仰の対象としての鬼』という民俗学の専門書を見つけることができます。著者は滝原馨とありますね。」
伏原「これも実在の本ですか?」
KP「いいえ、これは架空の本です。」
伏原「とりあえず読んでみましょう。」
KP「専門書ですし、結構時間かかりますが、次の情報を得ることができます。」
信仰の対象としての鬼 滝原馨
異形の存在として、頭に角の生えた人間状の生物が想定されるのは実際奇妙なことだ。この発想は、おそらくは仏教思想に伴って伝播した大陸系の信仰なのだろう。しかしこの仮説を否定する資料も存在する。
その典型的なものが豊穣の神として知られる十二様の姿に関する複数の資料である。十二様の成立は弥生時代にまで遡るため、縄文時代の蛇神信仰とも密接に関わっていると思われる。しかし弥生時代以降、ただの食料に過ぎなかった鹿が祭器に登場するようになる。これに前後して、鹿神に仕える人間として角の生えた人間が登場するのである。これを鬼の源流と考えることも十分に可能である。
特に食物を煮炊きする調理用の土器に鹿をかたどったものが登場することは興味深い。そもそも調理用や穀物の保管に際して蛇文様(一般には縄文と呼ばれるが)をかたどった蛇紋土器を利用していた。これは当時の蛇が豊穣と多産、生まれ変わり、太陽など多様な現象を司る神とみなされたことに由来している。その土器に鹿が用いられはじめたということは、この蛇の神格がなんらかの理由により鹿に習合された可能性を示唆している。
このことは本書の基本的な前提である、ひとつの奇妙な仮説に我々を導く。つまり鬼とは本来恐れられる対象ではなく、むしろ信仰の対象、少なくとも神使だったのではないかという仮説である。神と同じように角をもった存在としての鬼は、仏教の流布以前の日本の宗教を象徴する存在だった可能性がある。
このことを裏付けるように、仏教を推し進めた蘇我氏、やむなく神仏習合した仏教を普及させた物部や藤原両氏の統治する奈良・平安時代以降、鬼は急速に悪の記号へと変換されていく。まるで本当に存在した鬼を討伐して見せたかのような『鬼退治物語』が生み出され、続く鎌倉時代までには『鬼の子』にまつわる伝承が日本全国に遍く行き渡ることになる。
日本の古代末期において、鬼信仰を攻撃するなんらかの戦争があったと考えれば、こうした仮説も現実味を帯びてくる。
伏原「話が大きくなってきたぞ…。」