【クトゥルフ神話TRPGリプレイ】忘却の結末【part.04】
【前回のあらすじ】
鬼の少女ハルカに促されるまま、眠りについた伏原は、ハルカが『夢の世界』と呼ぶ場所で目を覚ます。そこは現実の大間々と土地自体は似ているが、あるのは古びた茅葺の家ばかりだった。
ハルカは自分のことを『鬼子』あるいは『とおとふたつのかみ』と呼んだ。日本の古い山神信仰の神格『十二様』との関係を見抜いた伏原は、ハルカの正体をつきとめるために、調査を開始する…。
オープニング終了とタイムリミット
KP「目覚めると、ハルカちゃんがあなたの顔を覗き込んで、ニコッと笑いますね。もう袴を着て、準備はバッチリです。」
ハルカ「おはよ、おにーちゃん。」
伏原「いい目覚めですね。」
KP「さて、今日の行動を決める前に、MPを1点減らしてください。夢の世界で行動した代償です。また、このシナリオ中、MPは自然回復しません。」
伏原「つまり、15日間、残り14日でタイムリミットってことですね。」
KP「そういうことです。それだけあれば余裕でしょう。」
伏原「TRPGのシナリオなんですから、いくらなんでも、5日はあればクリアできるでしょう。」
KP「そんなもんでしょうね。では、いよいよオープニングは終了です。自由探索を始めてください。」
夢と現実、二つの大間々
伏原「まず、ハルカちゃんをその『チョージュケン』とやらに連れてってあげないといけませんね。ロールケーキ食べたいらしいですし。」
KP「ハルカちゃんは歩いて行きたがりますね、宿から近いので。」
伏原「営業は何時からですか?」
KP「9時からですよ。のんびり歩いていったらどうですか。」
伏原「そうですね。」
KP「では、『長寿軒』に移動しましょう。実在の和菓子店です。和菓子屋なのに、みどり市一押しの生ロールケーキがあるそうですよ。なんでもふわっと口の中で溶けるような生地が特徴だとか。」
伏原「ダイレクトマーケティングですね。」
KP「回し者ではありませんけどね。さて、ハルカちゃんはこれを一本丸ごと、両手で抱えて食べ始めます。」
伏原「どう?ハルカちゃん、念願の味は。」
ハルカ「おいしー!」
伏原「それで、ハルカちゃんのその服なんだけど、どこで買ったの?」
ハルカ「『前の前の人』が買ってくれたの。えっとねぇ…滝原さん。」
伏原「『前の前の人』?…ああ、大間々には何回も来てるんだったね。」
ハルカ「そうだよ。なんかねー、『袴を着てるだけで、初めて見たときの驚きが違う』って言ってた。」
伏原「あー、わからなくはないなぁ。人じゃないものに出会ったって感じがすごかったよ。」
ハルカ「でも、『前の人』は、わたしを見たら逃げてっちゃったよ?」
伏原「そりゃそうだろう。びっくりするもの。それで、『前』とか『前の前』とかっていうのは、いつのことなの?」
ハルカ「ええと、2012年と、2008年だったかなぁ。昨日テレビで見たけど、今年は2015年なんだね。」
伏原「うん、そうだよ。ハルカちゃん、結構短いスパンで大間々に来てるね。他にはどこに行ったことあるの?」
ハルカ「香港行ったことあるよ。あと成都とか、熊本とか。たくさん。東アジアがわたしの担当なの。」
伏原「担当?なんの?」
ハルカ「……なんだろうね。」
伏原「教えてくれないと困るなぁ。」
ハルカ「…食べ歩き?」
伏原「うそでしょ。」
ハルカ「うー…次、かりんとう饅頭が食べたい!」
伏原「こら!話をそらすな!」
ハルカ「わかんないもん!わたしはお菓子を食べに来たの!」
伏原「キーパー、心理学で、知ってて隠してるか確証を持ちたいんですけど。」
〈心理学〉ロール→??
KP「ハルカちゃんはこの話題を続けたくないようですね。明らかに知っててはぐらかしています。」
伏原「うーん…機嫌をとっていけば教えてくれるのかな?あ、そうだ、ハルカちゃん、夢の中って、大間々なんだよね?」
ハルカ「うん、そうだよ。」
伏原「それじゃあ、八宮神社って、こっちにもあるのかな?」
ハルカ「うん。八宮神社はね…あっち。」
KP「ハルカが北西の方を指差します。」
伏原「現実の方にも、変なおじさんはいるの?」
ハルカ「いないよ?八宮神社行くの?」
KP「ちょっと嫌そうですが。」
伏原「いや、行かないよ。」
ハルカ「わたしのおうちに行こうよ!あっちの山の方にあるんだよ!」
伏原「十二神社か…そうだね、しばらくしたら行ってみよう。」
日本に伝わる鬼子奇譚
伏原「通常のシナリオなら、ここで図書館籠りが始まるんですけどね。」
KP「今回はハルカちゃんが焦れそうですね。」
伏原「とりあえず、ウェブ調査にしますよ。鬼子について調べたいです。」
KP「〈図書館〉でどうぞ。」
〈図書館〉ロール→成功
日本の鬼子伝承
日本では、3年も腹にとどまり、生まれついて人語を解する3歳児くらいの子供が生まれることがあった。人々はこれを「鬼子」と呼んで、産後直ちに殴り殺さなければ、人を食らう鬼になると恐れた。この伝承は日本全土に及んでいるが、古くから伝えられている伝承ではなく、中世以後に唐突に登場した伝承である。伝承は各地に異聞が存在しており、地域によって微妙に異なっている。
伏原「やっぱり忌み子か。」
KP「今回は触れませんが、双子の弟・妹が鬼子扱いされる場合もあったそうです。」
伏原「たしかに、一度に二人産まれるのは奇妙に映ったろうなぁ。」
伏原「つまり…ハルカちゃんは『鬼子』として生まれて、なんらかの理由で夢の世界に住むようになって、『鬼』の中でも特別な『とおとふたつのかみ』あるいは『十二様』になった。そして、何か言えない目的で、時折大間々や他の土地に現れて、お菓子を食べ歩いている、と。」
KP「そうなりますね。」
伏原「まず、鬼子伝承の大間々異聞を知らないといけませんね。そこに夢の世界へのヒントがあるかも。」
KP「賢いプレイヤーで助かります。」
伏原「あとは、『とおとふたつのかみ』が『十二様』ってことはわかりましたが、その『十二様』についても詳しく知りたいですね。」
KP「ウェブで調査しますか?なら〈図書館〉です。」
〈図書館〉ロール→成功
十二様についての諸学説
「十二様」は、日本の古い山の神の神格で、豊穣、多産、治癒、長寿、太陽など、様々な要素を司る神格とされる。最も古い信仰の一つであるために、神の姿には諸説があって定まらない。縄文時代前後の動物信仰との関わりも指摘されている。
伏原「古代日本の動物信仰…ね。〈オカルト〉いけますか?どういう動物が崇拝されていたのかを思い出すということで。」
KP「いいですよ。」
〈オカルト〉ロール→失敗
伏原「うーん…こりゃまた調査ですね。そうだ、ここでハルカちゃんに声をかけます。」
KP「伏原さんがネットをいじっていた間、ハルカちゃんはすっかりロールケーキを食べ終えて、そのあたりのお店をかたっぱしから覗き込んでいましたね。」
伏原「ハルカちゃん、尻尾、ついてたよね?あれ、なんの尻尾なの?」
ハルカ「ん〜ヒツジさんじゃない?」
伏原「ヒツジの尻尾の画像検索してみます。」
KP「似てますけど、昨晩見たのとはちょっと違いますね。」
伏原「…ヤギの尻尾の画像検索します。」
KP「…ヤギのうち、やや長めの尻尾を持つ品種のものに良く似ているという印象を受けますよ。」
伏原「ヒツジ…ヤギ…中国語…うっ、あ、頭が…考えるんだ、あの適当な中国語のこと…もしかしたら、もしかしたら…。推測ですけど、中国語って、ヤギとヒツジ、言い分けないんじゃありませんでしたっけ?」
KP「では、〈中国語〉ロール振ってみてください。予想通りの結果が出るかもしれませんよ?」
〈中国語〉ロール→成功
中国語におけるヒツジとヤギ
中国語では、ヒツジ・ヤギそれぞれを指す明確な単語は存在しない。家畜化されたヒツジとヤギを「羊(ヤン)」、野生化したヒツジとヤギは「山羊(シャンヤン)」と書く。これは家畜化されたブタを「豬(ジュー)」、野生化したブタ(=イノシシ)を「野豬(ィエジュー)」と書くのと同じである。たしかに、ブタとイノシシは交配可能な同種の生物だが、ヒツジとヤギは交配不能な別の生物種である。
伏原「やっぱり…。ってことは、この子、自分がなんの動物の神様なのかもわかってないってことか…。ヤギだったら、世界的にも豊穣の神として有名ですよね。」
KP「一応、そこを知ってたかどうか、〈知識〉の半分か〈オカルト〉でロールしてください。」
〈オカルト〉ロール→成功
KP「では、世界的に豊穣の神といえば、ヤギが知られていることを知っていた体にして構いません。」
伏原「十二様はヤギの神様、か。これで調べることは二つに定まったな。鬼子伝承の大間々異聞と、古代日本の山羊神信仰について、か。」