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【うろ覚えSWノベル】山賊退治ミッション:1(導入)

いつもの夕時。仕事の依頼を受けていない冒険者たちは、誰からということもなく、一つの酒場に脚を運ぶ。ここルテティアの街ではよく知られた、冒険者と傭兵の集う酒場「いかづち亭」は、商業都市ルテティアにおける、情報の交易場だ。

 

若くして冒険者に名乗りを上げたはいいものの、その若さと異貌の容姿から、未だ仕事をもらえずにいるナイトメアの青年が一人、安酒を煽っていた。左右に佩くレイピアが、彼の冒険者としての資質を物語っていたが、未だ何の任務もこなしたことのない彼のもとに、そう簡単に仕事が舞い込んで来るはずもなかった。

キリトは今日の客を見渡したが、そこにいるのはどうやら仕事を受ける側の人間だけのようだ。近頃仕事を始めた、30いくつのおっさんがカウンターに座っているほか、最近この街に来たばかりというじいさんが、今日も人形と一緒に酒を飲んでいる。そのほかには、「むかつく野郎のゴート大先輩」がマスターのすぐそこで金属鎧をがしゃがしゃいわせながら酒を煽っていた。ため息をついたキリトの舌先を、近頃飲み始めたばかりの安酒が不快に痺れさせていた。

 

白けきった酒場の扉を次に開いた珍客は、この辺りでは極めて珍しい、タビットの客だった。小さな体躯に隠しきれていない銃器を見るに、これもまた、仕事を引き受ける側の人間だろう。体毛でゴワゴワした体表面についた土埃を見るにつけ、キリトはあの不愉快な獣の匂いを思い出させられた。あたりに聞こえるように舌打ちしてみせて、珍客の来訪に不満を示す。

 

そのタビットが慣れない高さの椅子にのぼって、これまた安酒をあおり始めたところで、キリトの望んでいる客がようやく現れたようだった。50はいってようかという、土臭い安マントを羽織った男が扉を開けて入ってきた。男は慌ただしく座席を掻き分けるようにカウンターまで進んでいく。

それとなく視線だけを動かして男を追っていたキリトの視界の隅で、次の客が入ってきたようだった。極めて簡素な装備をした男で、見たところ、本来は冒険者というわけでもなさそうだ。腕は立たないだろうが、妙に虚勢を張っているようだった。

遅れてきた男は落ち着いた様子で先に来た男の後を追って、その後ろに控えた。どうやら、彼の私兵か何か、あるいは武闘の心得がある若者を急ごしらえで装備させたか何かなのだろう。いずれにしても、二人とも大した金があるようではなかった。

 

「ハズレの依頼だな。」

キリトがそう考え、次の客を待とうと決めかかったところで、あのやかましい「むかつく野郎のゴート大先輩」の声が彼の名前を呼んだ。

「おい!キリト!お前確か仕事が欲しいんだったよな?おあつらえ向きの仕事があるみたいだぜ!」

ゴート大先輩はニタリと笑いながら、大きく手招きしている。その横で、依頼者のおっさんが小さく萎縮していた。

「なんなら人形のじいさんもどうだ?ぬいぐるみの修繕費くらいにはなると思うぜ。」

ゴートはその二人を呼びつけると。依頼者のおっさんに対して、報酬の少なさに対する悪態をついたあと、こちらに向かって歩いてきた。

キリトの肩に手を乗せると、小声で

「報酬は安いが、名前を売るにはまずは仕事だ、キリト。引き受けてやんな。」

とだけ言い残して、店を後にした。いつも勝手な都合で安い仕事を人に流すという噂は本当のようだった。

 

やむなく腰を上げたキリトは、依頼者二人組の待つマスターの正面の席まで移動した。ぬいぐるみのじいさんも、キリトの動きを見ると、すぐにこちらに移動し始めた。もちろん、ぬいぐるみを抱えて。

 

 

つづく