【うろ覚えSWノベル】山賊退治ミッション:6(旅路)
キリトにとって、ルテティアの外に出ることは初めての経験だった。ルテティアの城壁を越えれば、そこは攻撃的な動物や、魔物、蛮族がうろつく危険な土地だと聞いていた。人間の住むところではないような、荒涼とした土地を想像していたが、城壁の向こうに見えるのは、ただただ広がる大平原と、その先に見える小高い山、そして轍が作り上げた街道だった。そのあきれ返るほどの広い緑に、キリトは思わず感嘆の声を漏らした。
「ところで、ちょっと相談したいんですけど。」
城壁を出たところで、あもちんぽが口を開いた。
「もとはキビーに行く予定だったけど、ここはまずトーチに向かって、道すがら商人を保護したいと思います。」
すぐにボブソンが同意する。
「俺も同意見だ。キビーには自警団がいるし、敵の体制もすぐには整わない。ここはトーチに向かって、トーチ方面から山賊の拠点を攻撃するのもいい手だろう。」
タツとカイトは急な方針の変更に戸惑ったようだが、ラビットがこれに同意したことで、冒険者たちの意見に従うことにしたようだった。
「途中に護衛の足りてない隊商がいるんだろ?それなら俺もそっちの方がありがたいな。」
キリトもそう応じた。隊商の荷物を丸ごと盗めれば、ずいぶんな収入になるだろう。内心で取らぬ狸の皮算用を始めたキリトを横目に見ながら、ボブソンは頭を抱えていた。
道中は至って平穏だった。魔物が渦巻く異境をイメージしていたキリトにとって、それは退屈な旅路だ。愛用のレイピアを鞘から少し出しては戻し、カチャカチャ言わせながら、キリトは退屈を訴え始める。この剣に初めての血をつけるのは、隊商の商人かもしれないと考えると、それはそれで笑いがこみ上げてもくるものだった。
そんなことを考えていたところで、三台の馬車が街路脇に停車しているのが見えた。辺りを警戒しやすいように、ほんの少し道が高くうねった地点に隊をまとめているあたり、旅になれた商人が率いていることがわかる。
先頭を歩いていたラビットとあもちんぽが、大声を出して呼びかけた。
「おーい!トーチに向かう隊商っていうのはあんたちかー?」
向こうもこちらに気づいたようだが、応答はない。見知らぬ武装隊の登場に警戒しているのだろう。あもちんぽは一言パーティに断りを入れてから、ルテティアで「干し肉野郎」に書いてもらった紹介状を掲げながら、一足先に相手との交渉に向かった。
しばらくすると、あもちんぽから合図があり、隊商の中に迎え入れられた。背の高い大きなキルトの覆いに包まれた荷馬車が三台。商人と御者で構成されている様子を見るに、これなら間違いなく殺れるだろう。
よし。
キリトは鞘からレイピアを抜き出しながら、ヌッと歩み出る。しかし、レイピアが引き抜かれるより前に、ボブソンの左手がキリトを制した。
「おい、なんだよ、じいさん。」
小声で怒りをぶつけると、ボブソンはキリトを横目で睨んだ視線を一台の荷馬車に動かし、顎で合図した。
「なんだ、あの一台だけ奪うのか?」
キリトが小さな声で尋ねると、ボブソンは諦めたように頭を振った。ちょうどその時、ボブソンの示した馬車の荷台から、金属鎧を装備した兵士が二人姿を現した。
「チッ。立派な護衛がいるじゃねぇか。」
出しかけたレイピアを鞘に収めたキリトは、商人と交渉するあもちんぽたちの様子を見ることにした。
「決まりました。ここからトーチまで、交代で警備を担当して、一人頭200ガメルです。途中で日も暮れますけど、この人数なら大丈夫でしょう。トーチを越えれば、彼らの手勢で事足りるとのことです。50ガメルは交渉で引き上げといたので、わたしの功績と思ってくださいね。」
馬車を守るだけで200ガメルもらえるっていうんなら、それでもいいだろう。戦わずして50ガメルを四人分、200ガメルを引き出したあもちんぽの手腕は目を見張るものがあった。一体どういう手を使ったのだろうか。
しかし、あもちんぽはキリトを軽蔑すらしているようだった。ほとんど視線すら向けることなく、今夜の防衛体制について、警備兵を交えて説明を始めてしまうのだった。