【うろ覚えSWノベル】山賊退治ミッション:11(決行)
拍子抜けするほどに、普通の男。もしも筋肉隆々だったり、顔に傷があったり、左腕が人と違っているなどしたら、どれほど冒険者たちの期待に沿ったことだろうか。しかし、彼は、ミーナの父親は、普通の男だった。
罠に差し掛かったところで、キリトとあもちんぽがトリガーの木材をぐいと押し下げる。普通の男にすぎない父親は、いともたやすく、罠にかかり、ロープを編んだ網の中に囚われてしまった。トリガーを固定し、落下しないようにしてから、二人は屋根の上から男を見る。
男は、声もあげずに、ただ二人を睨みつけていた。
「おい、貴様!これまでどこに行っていた!」
キリトが屋根の上に仁王立ちし、腰に手を当てて、大声を出す。しかし、男は応じることなく、ただ睨みつけるばかりだ。
「殺すつもりはありません。あなたの知っていることを全て言いなさい。」
あもちんぽも加わるが、男は全く口を開こうとはしない。このまま押し問答が続くかと思われた矢先、騒ぎを聞きつけたミーナが、玄関を飛び出してきてしまった。
「お父さん!タビットさん、私を騙したのね!お父さんを下ろして!」
ミーナを追ってきたラビットに対し、ミーナが大声をあげた。
このまま話しても何も得られないと判断したあもちんぽが、キリトに罠を降ろすよう合図する。地面に降ろされた父親は、それでも何も言わず、屋根の上に立つ二人を睨みつけていた。
「お父さん、大丈夫?もう、みんな出て行って!」
ミーナが泣きながら父親の足にしがみつく。
「ミーナちゃん、お父さんは山賊の味方かもしれないんだ。」
ラビットが入ってみるが、もはやミーナの耳には届かない。作戦は失敗した。一人の少女と、口を開かぬ男によって、冒険者たちの作戦は完全に打ち砕かれた。
あもちんぽが、突然小声で何かをつぶやき始める。キリトはその聞き取れない音が、魔法の詠唱であると気づく。
(何をするつもりだ?)
キリトがあもちんぽの方を見たとき、あもちんぽが大きな声をあげた。
「正体を見せろ!バニッシュ!」
寄り添う父娘のすぐそこで、光、それもただの光ではない、何か温かみのある光が炸裂する。強い光にもかかわらず、キリトたちの目が眩むこともない。
「何をした!?」
キリトがあもちんぽに問いかける。あもちんぽは一切応じることなく、父娘の姿を見つめていた。
「ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
とても人間のものとは思えぬ声が、夜の静寂を打ち壊した。温かみのある光の向こうで、ミーナの父親だけが、この光に苦痛を訴えている。そのすぐ足元で、ミーナが戸惑ったような表情をして、立ちすくんでいる。そして、父親は、「父親だったもの」は・・・!
父親の着用していた粗末な布の衣服が音を立てて弾け飛んだ。何か父親の体積が大きく膨らんでいくような、おぞましい膨張を目にしたとき、あもちんぽの放った光が消え、一瞬、その姿が見えなくなる。
慌ててあもちんぽが真語魔法ライトを詠唱し、父親がいたはずの場所を照らした。そこに立っていたのは、赤みを帯びた黒い肌をした、2mはあろうかという体躯を持った、大型の蛮族だった。
「ボスだ。」
その姿を見て、ラビットがつぶやく。その視界には、敵の足元で腰を抜かしへたり込む、ミーナの姿が捉えられていた。そしてそこに、もう一つ、凄まじい速さで降り立った人影が、蛮族の左肩にレイピアを突き刺していた。
敵を把握した瞬間、キリトは両方の剣を引き抜いて、屋根から飛び降りた。全身を戦闘体型に変化させながら、左腕のレイピアで敵の頭を狙う。
しかし、叫びをあげて暴れる敵に、狙いを定めることができない。キリトの初撃は、右肩をかすめるに止まってしまう。右半身を引いて着地したキリトは、すでに刺突の体制を整えている。一切の躊躇なく、キリトは敵の左肩をレイピアで貫いた。
しかし、敵は、一切動じない。キリトの渾身の攻撃も、この強大な敵の前では、かすり傷程度に過ぎなかったのかもしれない。
「ぐおぉぉぉぉっ!」
ミーナの家へ急ぐボブソンとカイトの耳に、おぞましい叫び声が聞こえてくる。
「おい、じいさん!何があったんだよ!」
カイトは尋ねるが、ぬいぐるみを抱えたボブソンは答えない。彼らが予想した以上の何かが、ミーナの家で起こっている。
「剣を抜いておけ。」
ボブソンの言葉に、カイトは黙って従う。
二人がミーナの家に駆けつけた時、庭に立つ化け物の左肩を、レイピアが貫くのが目に入った。