【うろ覚えSWノベル】山賊退治ミッション:12(戦闘)
低い獣のような叫びをあげながら、体を大きく振った敵の動きに、キリトは後ろに飛び退く。確実に急所の一つを捉えた一撃にも動じない敵の姿は、忘れかけていた恐怖心をキリトに引き起こした。
敵の向こうから、ボブソンの声が聞こえる。
「レッサーオーガだ!」
ラビットがミーナに駆け寄り、彼女を玄関口まで引きずって移動させている。キリトはミーナを守るように、レッサーオーガとの距離を保ったまま、体を動かす。レッサーオーガはまだあの光のせいで混乱し、辺り構わず腕を振っている。この分なら、もう一度攻撃できる。
「二度貫けば!」
キリトは再び低姿勢の突進を仕掛ける。喉元に向かってレイピアを突き出すが、暴れるレッサーオーガを捉えることができない。
「これならっ!」
立て続けに右の刺突を繰り出す。しかし、これも敵の左腕によって弾かれてしまう。左腕の皮膚はレイピアの刃によって深くえぐれるが、化け物はそれを意に解することもない。
「ふんっ!」
後ろからボブソンが駆け寄り、レッサーオーガの腰に飛び蹴りを入れる。ボブソンのスパイクブーツについた金属の棘が、敵の肉を抉るように突き立てられる。その一撃は、レッサーオーガの意識をボブソンに向けさせた。
「蛮族風情が!」
ボブソンは振り向く敵の顎に向かって、ムーンサルトキックをお見舞いする。熟練の傭兵であるボブソンの攻撃を立て続けに受けたにもかかわらず、全く動じないレッサーオーガの闘志に満ちた目がボブソンに向けられた。そのとき、ボブソンの左肩の部分で、何か強烈な魔力が炸裂する。
左肩から胸のあたりまで、魔力の刃が深くボブソンを斬りつける。
「あ・・・がっ。」
ボブソンは声にならない叫びをあげながら、意識を失いかける。
「じいさん!」
カイトが後ろから叫んで駆け込み、レッサーオーガに一撃を加える。その叫びがボブソンの意識をようやく押しとどめ、ボブソンはその場に膝をついた。左肩の骨が露出し、吹き出す鮮血が体を伝って地面に滴っている。
「化け物がぁぁっ!」
キリトはレイピアを握りなおして、もう一度レッサーオーガに向かって駆け込む。
その後ろから、ラビットの放った銃弾が敵を捉える。振り向きざま、大きく振った腕が、カイトを捉え、カイトが弾き飛ばされる。
低い姿勢から、体重を乗せた左右の刺突が、同時に繰り出される。敵の首だけを狙った、キリトの刺突が、ついに敵を捉える。左右のレイピアが喉の中で交差するように、レッサーオーガに突き立てられた。
キリトが睨みつけたレッサーオーガは、キリトを睨み返したまま、ゆっくりと、意識を失った。キリトがレイピアを引き抜くと、レッサーオーガの首から大量の血液が溢れ出してくる。
小さな沈黙が訪れた。ここにいる全員が、まだ事態を飲み込めていなかった。
「ボブソン!大丈夫か!」
屋根から飛び降り、駆け寄ってきたあもちんぽは、聖霊の力で作り出した水をボブソンに与える。
死んでしまいかねない一撃だった。斧などなくても、敵は魔法一つで、冒険者を殺すほどの力を持っていた。もしもここで罠を張らなければ、明日、誰かが死んでいたかもしれない。
キリトは背中に冷や汗をかいているのを感じた。確かに彼は強かった。しかし、もしもこの仲間たちがいなければ、彼はアジトに突入することを選んでいただろう。そして、もしもボブソンが注意を引きつけてくれなければ、あの一撃を受けていたのはキリトかもしれなかった。それはおそらく、彼を死に追いやったことだろう。
「これが、冒険・・・。」
キリトは自らが名乗りを上げた世界の本当の姿を理解し始めていた。
彼は握りしめたままだったレイピアに気づき、滴る血を払って、鞘に収めた。
(俺は勝った。)
その事実だけは、彼の自信を支えてくれた。
(俺は勝ったんだ。勝てるんだ。何が来ようと。)
キリトは失いかけた自信を留まらせようと、内心で繰り返す。
ボブソンに処置を施すあもちんぽを横目に、キリトは一人、宿へ向かうのだった。