TRPGをやりたい!

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TRPGリプレイでどれくらいの表現ができるの?【英雄志望と二つの剣の裏側3】

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 このブログではすでに2年以上にわたって、ソード・ワールド2.0キャンペーン「英雄志望と二つの剣」のリプレイが連載されています。物語の世界を感じてもらうために、普段のリプレイではプレイヤー目線での議論や裏側でのてんやわんやは省略されています。ここで3回にわたって、そんなてんやわんやの方にフォーカスを当てて、ゲームマスターやプレイヤーの目線から、長期キャンペーンについて語り合います。

 対談の最終回である第3回のテーマは「TRPGリプレイの形式で表現ができるの?」という話です。英雄志望と二つの剣にご興味の方はもちろん、オリジナルの舞台で遊びたいと考えている方にも気づきがあるかもしれない、実体験に基づく対談形式のレポートです。

ハカセ:はい、というわけで今回もノイちゃんラジオを我々がジャックしたというテイでお送りいたします。シナリオ、GM、リプレイ執筆を担当している私ハカセと
うっかり:挿絵全般とプレイヤーキャラクターの1人を担当しているうっかりですー

ハカセ:第3回は「TRPGリプレイによる表現」についてですね。このキャンペーンで何をしようとしていたのかという話と同時に、一般的にリプレイで物語をやろうとすることの難しさとかを話したいと思います
うっかり:結構重そうな話やな。プレイヤーの目線でも結構いいところも悪いところも見えるし……
ハカセ:そうですね、せっかくのこういう機会ですから、極力リアルにその辺りの事情を整理したいと思います
うっかり:同じように挑戦したいっていう人らに何かしらヒントになったらええけどな

TRPGのメカニズムを物語にする

 そもそも、物語を重視したキャンペーンを組むにあたって、ソード・ワールド2.0というゲームシステムの内部で実現できる物語を構想しなければなりません。TRPGシステムを使って物語を描くときの制約と利点について話します。

システム上できないことがある

ハカセ:物語の選択肢って無限にあって、ものすごく自由だと思うんですけど、「特定のTRPGシステムで遊べる(遊びやすい)物語」となると話は変わってきますよね
うっかり:たしかにな。そのためにシステムがあって、世界観とかルールが違うようになっとるわけやからな
ハカセ:それでソード・ワールド2.0を前提にしたときに、どうしてもできない話があるんですよ
うっかり:ほう?

パーティ内初期レベルの統一

ハカセ:たとえばですけど、パーティの中に一人だけ凄腕の冒険者がいて、序盤で死ぬ展開とかよくあるじゃないですか
うっかり:アニキィィィ! とか、アネゴォォォ! ってなるやつや
ハカセ:それですそれ。やってやれなくはないんですけど、じゃあプレイヤーたちは楽しいのか? と頭をよぎるんですよね
うっかり:どっかで絶対死なんといかんし、それまではアニキ頼りになるもんな。じゃあここで死んでねとプレイヤーに言うのもどうなん? とかな

ハカセ:これができるシステム自体はあるんですよ。だからソード・ワールド2.0でやることを選んだ以上、この手の話は無しにしようってことになるじゃないですか
うっかり:そうやって使える物語が狭まっていったわけやな
ハカセ:他にもレベルの制限とか、戦闘なしのシナリオはどうなんだとか、じゃあ恋愛メインでやれるのかとか、いろんなところで選択肢を狭めることになります

通常のシナリオより真剣に

うっかり:でもそのへんはいうたら普通のシナリオと一緒よな?
ハカセ:うーん……実は普通のシナリオより重いんじゃないかなと
うっかり:それはまたなんで?

ハカセ:実は1回もののシナリオって、「今回はこういうコンセプトでいきます!」って言えば、わりとなんでもありなんですよね
うっかり:今回はゾンビとの恋愛をやります! って言われたら付き合えるもんな
ハカセ:それはわかりませんけど
うっかり:なんでや!

ハカセ:でも長期のキャンペーンともなると実は難しくて、やっぱりゲームの製作者が作り込んだシステムとそこに織り込まれた「楽しさ」ってすごいんですよ
うっかり:あー マンパワーが違うよね
ハカセ:そこに投資された情熱と労働力と知性ってやっぱりすごくて、実際ソード・ワールド2.0はキャラクターを作って戦闘して難敵を倒していくだけでもすでに面白いんです
うっかり:あ、だから他の面白さで引っ張ろうとしたら、その楽しさを逆に切らないといかんのやな
ハカセ:そういうことです。それをしてまで2年3年も楽しめるものを僕が作れるかって、無理に決まってるんですよね

システムのおかげでできることがある

ハカセ:そういうわけで、システムを決めると物語の種類や幅が決まりますけど、同時に物語の楽しさが一つ加えられるという大きな効果があるんです
うっかり:今度はシステムが補助になるわけや

ヒロイックシステムではない

ハカセ:たとえばソード・ワールド2.0って必殺技的なシステムがないんですよね
うっかり:シナリオ1回だけ使えるとかいうのはアイテムとか魔法でちょっとあるくらいで標準装備ではないもんな
ハカセ:ということは、よくある「ちょっと苦戦して、大逆転して、必殺技でフィニッシュ!」みたいな構成はとれないんですよ
うっかり:必殺技風にキャラクタープレイしてもダイスがのらんと虚しいもんな
ハカセ:実際大逆転を狙うときに、アツいキャラクタープレイで啖呵切って、それでダイスが付いてきて万々歳ってこともあるにはあるんですが、とてもそれを安定して出せるゲームじゃありませんよね

うっかり:やから展開がリアル寄りなのよな
ハカセ:そういうことです。主人公も肝心なところでミスることはあるし、大活躍が約束されているわけでもない。でもそういうリアルさのある物語の方が僕好みなんですよね
うっかり:そうやね、結局その辺は好みよな
ハカセ:だからこそ、前回話したように、極力世界も細かく細かくリアルになるように、僕なりに一生懸命作ってみたという感じです
うっかり:政治がグダグダしてて全然動けてないのとか、妙なリアルさがあるのよな

ハカセ他のシステムだと出せなかった味みたいなものが物語に加わったんじゃないかなと思っています。具体的なことは注釈でしゃべりますわ*1
うっかり:なんやその圧縮言語みたいな方法はw

システムで誘導する

ハカセ:それから、まだプレイヤーたちがレベル4か5の頃に、レベル10のエネミーを出したんですよ。もうそりゃ無理に決まってる敵ですね
うっかり:あったなぁ。たしか巨人をだしたのよな。無理やから逃げないと! ってなったからよう覚えとるわ

ハカセ:あの回ってちゃんと意味があって「キャラクターたちはまだ駆け出し冒険者で何もできずに逃げ出すしかなかった」っていう物語上の演出なんですよね
うっかり:そうやなぁ、これからリプレイではその巨人を打ち倒しにいくんやからな
ハカセ:この「過去に倒せなかった敵」を「倒せるようになった」っていう成長の演出って、長期キャンペーンでソード・ワールド2.0みたいな成長メカニズムのゲームだからできると思うんですよ

うっかり:あれよね、プレイヤーたちが「逃げる」とか決めるのも、無理がないのよね
ハカセ:それです、それです! 物語の伏線になる展開を作りたいときに、システムの中でプレイヤーが判断しやすい形でどうやって演出できるかなーと考えるんですよ
うっかり:システムがなかったらやり放題になってプレイヤーが好き勝手して収集つかんわな

ここまでのまとめ

ハカセ:この辺でまとめときましょうか

ハカセ:つまり、ゲームシステムの特徴をよく考えて物語を作るのが大前提って話ですね
うっかり:えらい単純にまとまったな

ハカセ:ゲームシステムから描き出せる物語のラインみたいなものをよく考えておくと、システムのもつ楽しさが物語を生み出す原動力になってくれるという印象を抱いていますね
うっかり:というかどんどん寄っていくよな。物語の主導権をゲームシステムに片輪だけ任せるみたいな
ハカセ:そうですね、物語の雰囲気も「明るい冒険譚!」って感じではない苦悩の連続なのは、ゲームシステムの力もあるんじゃないかなと思います

うっかり:……ソドワってそんなゲームやったっけ?
ハカセ:一つの解釈ですよ!


プレイヤーの判断とゲームの判断

 といって、実は自分たちがそれを上手にできたとは全く思っていない。というのも、長期的にキャンペーンをする中で、ゲームシステムの解釈も揺れながら進んでいるからだ。ここではゲームマスターとプレイヤーの間のそうした解釈の揺らぎがどういう影響をもたらしたのかを隠さずに語ります。

物語の選択肢と判定

ハカセ:しかしほんとうに、冗談ではなく「一つの解釈」なんですよね。反省と再構築の積み重ねです
うっかり:急にどうした

ハカセ:実はリプレイのシーズン(5シナリオ)ごとにコンセプトというか、ゲームシステムの力点が変わってるんですよ。プレイしていて感じませんでしたか?
うっかり:……え、素直に言っていいの?
ハカセ:どうぞ
うっかり:すごい変わったってほどは感じてないかな
ハカセ:ならよかった

プレイヤーが物語を選ぶ部分

ハカセ:ある程度物語が進むと、プレイヤーたちに物語の選択肢を開く必要がありました。そういう自由がないと一本道でTRPG感もありませんからね
うっかり:世界がわかってきて自分たちのポジションとか選べるようになったっていうのも大きいわな
ハカセ:そうですね、それで第6シナリオからはプレイヤーに細かく選択肢を渡すようにしています
うっかり:……言われてみればそうやね、ちょうどシーズンが変わったときか
ハカセ:前回話した陣営選択関係はここからですね

うっかり:でもそういう選択ってシステムとは別のところよな?
ハカセ:全くその通りですね。ですから、この選択はダイスではなくプレイヤーたちの相談で決めてもらってます
うっかり:判断材料はダイス判定であつまるけどもーってことやな

判定が利益を保証しない

ハカセ:TRPGの判断って、普通は「自分たちの冒険に有利になるかならないか」っていう前提があって、判定に成功するとどんどん有利になるんですよ
うっかり:まぁそうやな。報酬が多い方とか、人助けられる方とか、成功を重ねたら一番いい方にいくよな
ハカセ:しかしここで「どっちの物語の方がいいか」っていう判断基準で選択することになったんです
うっかり:たしかにそうやね。キャラクターも扱い慣れたし、世界もわかってきたし

ハカセ:だから判定の成功が利益を保証しなくなったんですよ
うっかり:あ、ほんまや。そうなるな
ハカセ:これは本来ゲームにはあってはならないことかもしれません
うっかり:でもやったのよな?

ハカセ判定に成功した数が最も多い「ベストルート」を僕が描いて、判定失敗が重なって少しずつ「ノーマルルート」や「バッドルート」に近づいていくっていう展開をやって、それってプレイヤーと一緒に物語を作ったって言えるんでしょうか?
うっかり:うあー……わからん。それやったらゲームマスターとダイスが作ったとも言えるよな
ハカセ:これは僕もわかりません。僕は第6シナリオからの4つのシナリオでは、プレイヤーが選んでいくことに意味があるんじゃないかと思ってやってみていました
うっかり:ある意味では、ゲームシステムから外れたことをやったってことよな
ハカセ:その通りです。プレイヤーの皆さんに多くを要求したわけですね

伏線をたたむ

ハカセ:そういうことを考えていた時期もありましたが、僕の中での「物語観」が変化していくことで、この考えも変わっていきます*2
うっかり:試行錯誤の連続やね

ハカセ:その辺の意識が変わったのは、シナリオ数を25から20に減らすことにして、ここから後半にしようと決めた11シナリオ目あたりですかね
うっかり:そろそろ伏線とかフラグを立てる側じゃなくて、たたむ方を意識せんといかんって話した頃やね
ハカセ:まさにその頃です。このころからまた逆に、1本道のシナリオが増えます
うっかり:たしかに、また変わってるわ

ハカセ:1本道ということは、つまり全ての判定に成功したらシナリオが終わるということですね。判定の成功が利益を保証するようになります
うっかり:あんまり悩まんでプレイできるようになったわけや
ハカセ:いえ、実はそうでもありません

キャラクターの物語を閉じる

ハカセ:ここから始まったのが、キャラクターの物語を進ませるという課題でした。これは結構骨の折れる仕事でしたし、うまくやれたとも思いませんね
うっかり:はじめに話したヒロイックじゃないって話もあるもんな
ハカセ:できる限りのことはしたと思います。それぞれ忙しい中で相談しながらこういう展開でどうだろうとか打ち合わせて、キャラクターにスポットが当たるシーンを用意して……

うっかり:おれ以外も相談したんや
ハカセ:はい、それぞれに。結果として、それぞれできた部分とできなかった部分があって、そればかりは僕の力不足ですね
うっかり:シナリオ数が少なくなったら、あれよな、新しい伏線も詰めんし、話の展開にも限界があるのよな
ハカセ:ですねぇ……うっかりさんに伺って、やりたいことの何割できたかって尋ねたら
うっかり:2割やね
ハカセ:ねぇ……そう聞いていたので、たぶん他のプレイヤーもそんなものだろうと。僕自身もこのキャンペーンでやりたかったことの何割が実現できたかと問われると……まぁ……4割かなぁ……

システム的決着がない

ハカセ:でもしょうがないかもしれません。このへんはシステムへの見込みが甘かったところでもあって、キャラクターの心理的変化なんかを描くためのシステムではないんですよね
うっかり:そうやね、あくまで気楽に冒険していくゲームやからね
ハカセ:システム的に心理的止揚が実現〈できる/できない〉を決定するシステムが組み込まれているわけじゃ当然ありませんし
うっかり:やりたいことというか、やってあげたいこととシステムが食い違ってたところよな

ハカセ実際にキャンペーンとして遊んでみるまで、自分が何を望んでいたのかっていうのは案外わかりにくいんじゃないかなとも思いますね。自分の失敗を擁護するわけでもありませんけど
うっかり:そんなに経験豊富ってわけでもないんやろ? ハカセさん自身
ハカセ:そうですね。きっと僕のやりたいことをやるなら、こっちのシステムの方がいいよっていうのは、提案できる方もいると思います
うっかり:次はそれでやるのん?
ハカセ:いやーーどうでしょう。しばらく考えられませんかね(苦笑

ここまでのまとめ

うっかり:つまりよ、システムの特徴を考えてシナリオを作らないかんけど、実際に遊んだら思ったのと違うことがやりたかったってこともあるわけよな?
ハカセ:そうですね……しかもプレイヤー1人1人が全然考え方が違ったりします。じゃあそれを判定成功の量で測るのか? となると……
うっかり:判定に成功した分だけ“いい道”にいけるっていうのもな。キャラクターの話で何がいいかなんて人によるし
ハカセ:そして僕らの場合、急に短くなったので新しい伏線というかステップを踏ませることもできないので、現実的な範囲は制限されて……

うっかり:うぅん、厳しいな
ハカセ:厳しいですね。なので是非続く方々には、キャラクター作成時点で「どういう問題を抱え」「何のために行動し」「何を経験して」「何を達成するキャラクターなのか」の4点だけでも必ずゲームマスターとプレイヤーで合致させてからスタートすることをお勧めします
うっかり:……でもそれ、茶番やない? ゲームマスターがその達成を約束するんやろ? やったら小説の方が……
ハカセ:…………何が正しいのかはさっぱりわかりませんね(苦笑


セッションの容量

 1シナリオには扱いきれる物語の容量がある。それを超えるとプレイヤーも混乱するし、ゲームマスターも処理しきれなくなる。これを意識することが極めて重要だ。

物語とキャラクター

ハカセ:この辺りの件で付言しておきたいことがあって、シナリオ数とそれが抱えられる物語の容量みたいなものはイメージを持つといいかもしれません
うっかり:ほう?

第1シナリオを例にする

ハカセ:1シナリオってやっぱり1つの問題しか扱えないんですよ。たとえば第1シナリオを具体的に思い出してみましょう

第1シナリオ「少年は海を目指す」あらすじ

 公王の息子であるフレデリックは、その閉鎖的な教育を嫌って宮殿を逃げ出した。自分を海に連れていくように冒険者たちに依頼し、その身分を疑いながらも冒険者たちは警備の役目を果たす。
 その帰り、フレデリックの家出を察知した公王家が派遣した騎士団を率い、公王の娘でフレデリックの姉であるクリスティンによってフレデリックは拘束されそうになる。
 人の馬に乗せられて守られながら旅をしていたフレデリックはクリスティンの激しい叱責を受ける。
 冒険者たちは依頼を完遂するのが冒険者の務めだとしてクリスティンを追い返し、フレデリックはそこから自らの足で帰路を歩んだのだった。

うっかり:懐かしすぎるな
ハカセ:この話って、明らかに「貴族の息子が自由を望むけど、自分の足で歩いているわけではない甘さ」みたいなテーマがあって、小さくても大きな一歩を彼は歩みだしたんだって話なんですよね
うっかり:そうやね、アマちゃんやったもんな
ハカセ:じゃあここに他のキャラクターの物語を乗せられるの? と

4つの要素が物語を生む

うっかり:結果的には乗ってたのよな
ハカセ:んー 難しいところです。キャラは乗ったと思いますが、物語は乗っていなかったかなと
うっかり:微妙な話やな

ハカセ:キャラクターの物語って、さっきも掲げたように「どういう問題を抱え」「何のために行動する」キャラクターが、「何を経験して」「何を達成したのか」っていう4点があると綺麗なんですよ
うっかり:結構シビアやな
ハカセ:この例で考えてみましょう

「自分の足で歩かないという甘さを抱え」たフレデリックは、
「自由を経験するために行動する」のだが、
「それが見せかけのもので、自分で歩くことはより険しいものだと突きつけられ」、
「自らの足で歩いて帰るという決断をとった」

ハカセ:ね? 綺麗にあるんですよ
うっかり:たしかにあるな

混線する物語

ノン・プレイヤーキャラクターの物語が無難

ハカセ:これをプレイヤー相手にやるといくつかの問題があります

  • プレイヤーは先を知らないので必ずしも綺麗な物語を描かない
  • 判定の結果、綺麗な物語にならない可能性がある
  • キャンペーンの進行と関わらない小話になりかねない

うっかり:怖いな
ハカセ:そうなんです。怖いんです。プレイヤーがこっちの用意した演出チャンスに全然食いつかないかもしれなくて、食いつかなかった場合その1シナリオは丸ごと無駄になるんです
うっかり:でも相談するのもなっちゅう話よね
ハカセ:相談して先に展開決めておいても、その通りになることは稀ですし、だったら物語要素はノン・プレイヤーキャラクターで軽く表現して、プレイヤーたちはその伴奏者にとどめたほうがいい
うっかり:そうなるわな

ハカセ:でもだったらなんでこんな世界観細かく書き込まれたキャンペーンに参加してんだ? とプレイヤー側も感じるかもしれない
うっかり:そうよな、キャラの物語をやってくれんのかい! ってなるわな

物語容量の限界

ハカセ:でもノン・プレイヤーキャラクターで物語を組むと、キャラの物語が並存したとき、読者的には混線するんです
うっかり:話としてまとまってない印象を受けるわな

ハカセ:そして僕自身も、そんな情報量を管理しきれないんですよ
うっかり:なんかやり忘れたって話もよく出るもんな
ハカセ:シナリオに書いてあっても、セッション中に全文を読むわけではありませんからね……

うっかりゲームマスターが混乱するレベルの情報量に読者がついていけるとも思えんもんなぁ
ハカセ:そうなんです……だからもっともっと格段に情報量の少ない話の方が、最終的にはよかったんですよ……

うっかり:そういうところがやりきれんかったわけやな
ハカセ:ということになります。物語が混線する状況を僕の中でも制御しきれなかった。キャラとキャンペーンの優先順位もどっちつかずに
うっかり:でもそれも、システムの都合とか、小説じゃなくてTRPGでやる意味とか考えてのことよね
ハカセ:そうですね……しかし僕の経験と能力の不足も大きいかなと思います。システム選びとかまで含めて
うっかり:反省は多いなぁ


まとめ……の前に

ハカセ:とはいえ、ですよ。全部をまとめる前に、じゃあ僕がこのキャンペーンでしたかったことってなんなの? って話をしようと思います
うっかり:最後に読者向けにってことやね

ハカセ:僕がやりたかった一番のテーマは「神による宿命と意志の煌めき」です
うっかり:でかい話がきたぞー

神による宿命と意志の煌めき

ハカセ:ソドワ世界の最大の不条理って、人間が自分たちの意思で生活できないことだと思うんですよ
うっかり:そうやね。蛮族とは戦うべきって神様が実際に声かけてくる世界やから
ハカセ:それって現実ならほんとに不愉快な話ですよね。それこそ十字軍とかの時代くらい狭量な話ですよ
うっかり:そうやなぁ、邪教徒は一切許さんって信じられてたらしいもんな

ハカセ:そんな中世末期の状態から、ルネサンス科学主義革命がおこって、出版文化から宗教改革がおこって、結果的に自由主義国民国家革命がおこっていったのが私たちの歴史じゃないですか
うっかり:ざっくりまとめたらな
ハカセ:だから「神様なんて知るか!」っていうのが実は一番やりたかった話なんです。ソドワ世界の宗教改革+科学主義革命ですね
うっかり:……この企画で何度言うたかわからんけど、そんなんプレイヤーにはわからんわなw
ハカセ:わかりませんよねw

ハカセ:つまり「神様の横暴に従わない自由の英雄が登場することで、世界が貴族主義から変化していく」っていう話なんですよ
うっかり:ラクシアってあれよな、神様の代理戦争してるベトナムみたいな場所やもんな
ハカセ:そうそう。身を守るためっていうところもあるんですけど、実はそれぞれ神様の言いなりになって戦わされてるんですよ
うっかり:そういう状況にノーを突きつけるわけやな

ハカセ:いいえ

うっかり:えっ

小さな決断が大きな力を持つ

ハカセ:はじめはそういう話になるかなと思っていました。しかし実際にプレイするとそうはならなかったんです
うっかり:それってテーマがぶれたんじゃないの?
ハカセ:いえ、そうは思っていません。このテーマに向けてプレイヤーたちが自分たちなりの「意志の煌めき」を見せたときに、どういう展開が現れるんだろうっていう意識でしたから
うっかり:あ、そうか、小説のテーマ設定とかと違って、プレイヤーがどういう答えをするのかはわからんもんな

うっかり:でも、あれだけ政治の設定が書いてあって、最悪プレイヤーは政治に関わらんでもいいって考えてたってこと?
ハカセ:いやーー それは実に微妙なラインですね。はじめはゴリゴリに政治主張ぶつけてもらおうかなって思ってましたし
うっかり:あれだけ書いてあったからな当然そうよな
ハカセ:それがね、あるときにダイナミックに方向転換したんですよ。リプレイ的にはまだ掲載されていない第4シーズンの第1シナリオの後ですね
うっかり:またえっらい終盤で

ハカセ:僕が当初想像していたよりもかなり小さな話になるんですけど、でもそれも美しいんじゃないかなと
うっかり:受け入れることにしたわけやな
ハカセ:そうですね。考えてもみれば、これまでもプレイヤーの小さな決断の方が大きな意味を持っているように演出されていたじゃないかと
うっかり:具体的にはどういうとこ?

ハカセ:そもそも主人公のアークが自分が英雄になるっていう意志を受け入れるプロセスもそうですね。あれ神様に選ばれたわけでもなく、ほんとに個人的にそう決断するだけなんですよ
うっかり:そうやったな、神様でてきて「その剣のことよく知らないから欲しいなら見つけてね」みたいな雑な感じやったよな
ハカセ:あれも神様と対立する口数の多い主人公なら違った話になったとは思いますけど、これはこれで美しいんじゃないかなと

ハカセ:あとはレイラが騎士道精神から冒険者自由主義に変わる話もそうなんですよね
うっかり:それはレイラのキャラクターとしてやりたかったからな。凝り固まった考えを捨てるっていう……
ハカセ:あれは個人の話として描いている一方で、世界もそうなっていくっていう暗喩になっていて、個人の話じゃないんですよ。あれ以前は支配される市民しかでてこないんですが、あれ以降は自由を主張する人々がでてくるんですよね
うっかり:そういう風に使われとったんか

ハカセ:他にもカシウス一人の優しさがいつも悪巧みに利用されている話もそうなるようにしています。大きな政変が引き起こされる小さな歯車なんですよね、彼は
うっかり:騙され続けてるのよな……自分はいいことしとるんやけど……
ハカセ:プレイヤーキャラクターが仕掛けるわけではなくて、状況の方が圧倒的に大きいんですけど、その中で一つの小さな決断には意味があるよっていう構図が多いキャンペーンですね。14番目、第3シーズン第4シナリオなんかはその最たるものかもしれません

状況が引き起こす必然

ハカセ:最初から登場している3人を例にあげましたけど、僕自身も、小さな意志が小さな変化を起こしていて、それは歴史と状況の必然だったとして語るのは好きなんですよ
うっかり:また難しい話やな

ハカセ:いわゆる運命の歯車ですね。僕は誰も自分の運命の歯車を回せないとも思っています。それは回されるものだろうと
うっかり:そしたら意志ってないんじゃないの?
ハカセ:いいえ。意志はあるんです。一個だけ外れていた小さな歯車をそこに添えるだけの、本当に小さな意志が
うっかり:人生観やなぁ……
ハカセ:今後も小さな決断の積み重ねがもたらす小さくも大きな結末、そして神様がいる世界で「英雄」を描くことについての、僕らなりの答えを楽しみにしていただきたいなと思います


まとめ

ハカセ:ちょっと脱線しちゃいましたが、今日の内容をまとめましょうか

システムの力を借りよう

うっかり:まずはシステム選びやな。システムによってやりよい物語があるから、慎重に選ばんといかんって話よな
ハカセ:自分が一番楽しみたいところ、表現したいところ、問いかけたいところがどこなのかを、可能な限り吟味して慎重に選ぶのが理想ですね
うっかり:やけど実際に遊んでみるまでわからないところもあるし、遊ぶ中でもどういうことをやりたいってのは変わっていくのよな
ハカセ:その意味では、思い切って一つのシステムを決めてしまって、そのシステム内で「こういう演出はどうすればできる?」というのを考えていくというのも方法かもしれません
うっかり:魔物のレベルとか成長要素とか、システムの中にある要素が演出の道具になるって話やったな

物語的な判断と物語の容量

ハカセ:しかし物語を作ろうとすると、中には「どちらがいいのか決められない判断」が出てくることもあるんですよね
うっかり:そういうときは判定しても集まるのは情報だけで、どっちの方が利益が大きいかは決められんのよね
ハカセ:そういう要素はゲームマスターが決めたベストルートをたどるだけのゲームからプレイヤーと物語を作る遊びにシフトさせる力を持っていますが、プレイヤーへの負荷は大きい方法です
うっかり:ほんで物語を作ろうとすると綺麗な起承転結を描けなかったり、起伏が小さくなったり、判定で物語がしまらんかったりもすると
ハカセ:ですので、ゲームマスターとプレイヤーの間で、そのキャラクターが何を達成したいのかを初めから明確に共有して、それを達成できるかどうかを判定で左右するというような、周到な計画性が望ましくなるかなと反省しています

うっかり:でもそれをやるにも、シナリオの数とか幾つのシナリオをプレイヤーキャラクターメインでやるかとか、悩みは尽きんのよな
ハカセ:ノン・プレイヤーキャラクターでやるなら構造自体は綺麗にまとまるんですが、主人公であるプレイヤーキャラクターたちの前進はそこに添えられるだけで、印象的に明示されるわけではありませんからね
うっかり:それをやろうとしすぎても、今度は情報が増えるからセッションするのも大変で、読者もついていけるかわからんようになって……
ハカセその辺りを調停して綺麗にまとめるという技術は、物語を意識したリプレイ前提卓の運営では必要不可欠になってくるでしょうね

最後に

ハカセ:というわけで、全3回でお送りしてきました対談記事もこれでおしまいです。今週の土曜日から、改めてソード・ワールド2.0リプレイ「英雄志望と二つの剣」の最終シーズンの連載が再開されます!
うっかり:結構長く休んだな
ハカセ:ほんと申し訳ありません。これからは一気にラストスパートをかけていこうと思いますので、ぜひぜひよろしくお願い申し上げます。
うっかり:よろしく〜

*1:序盤に主人公の攻撃がなかなか当たらず、自信を喪失した主人公が奮起していく物語へと発展した。その裏でパーティメンバーがバシバシクリティカルして超火力を叩き出したこともこれに寄与している。こうした展開一つとっても、必殺技やダイス修正リソースが多分に用意されているシステムとは違った個性の物語となった

*2:1キャンペーンで1つの話になることより、1シナリオで1つの話になることを優先することにした。それゆえ第1シーズンのような結末が前提されたシナリオが増え、プレイヤーはその結末へ向けて進むだけでよくなった。リアルタイムで状況が変化していくライブ感を減らして、予定調和の中でのキャラクター表現に重きを置いてもらうようにシフトすることで、キャラクターの伏線を回収することを意識したということでもある。