【クトゥルフ神話TRPGリプレイ】忘却の結末【part.01】
【前回のあらすじ】
親友の出産祝いと休暇を兼ねて、秋の大間々に訪れた伏原。カンフー修行時代の親友と再会の組手を交わし、互いの腕と友情が衰えていないことを確かめたのだった。親友の奥さんが伏原を出迎え、用意したプレゼントを抱えて伏原は親友の家にお邪魔するのだった。
渡辺洋一、真紀、沙紀
KP「というわけで、渡辺家です。奥さんがまだ生後ひと月もたっていないような赤ちゃんを抱いて玄関まで迎えに出てくれますね。」
渡辺真紀「遠いところをお越しくださりありがとうございます。いつも映画でご活躍を拝見させていただいております。洋一の妻の真紀と申します。結婚式以来ご挨拶にも伺えず申し訳有りません。」
伏原「うわー、できた人だ!できた人が出てきましたよ!狂信者じゃない!」
KP「喜んでもらえて何よりです。」
伏原「いえいえ、奥さん、変わらずお綺麗ですね。それに元気そうなお子さんだ。洋一が羨ましいですよ。」
真紀「ええ、ほんとうに、元気に生まれてきてくれて、私も安心しているところです。」
洋一「はっはっは!せいぜい羨ましがるんだな、伏原!お前も早いところいい相手を見つけろよ!」
伏原「いや全くだね。お子さんが生まれたばかりで大変なところとは存じあげますが、少しお邪魔させていただいてもよろしいですか?」
洋一「部屋の中で組手をやらないなら入れてやってもいいぞ。」
伏原「赤ちゃんのいるところでそんなことできるかよ(笑)」
KP「というわけで、リビングに通してもらえますね。赤ちゃんは赤ちゃんカゴに寝かされて、奥さんがお茶を入れてきてくれます。あ、この子、ついでですから命名してあげてください。ゲーム内では先に決まっていた体にしますが、PLの方で決めてあげていいですよ。」
伏原「えーっと、奥さんが真紀さんでしょ?そしたら、沙紀ってのはどう?」
KP「お、いいですね、今風で。」
伏原「え?今風なのは、もっとこう、『ぷりん』とかじゃないんですか?」
KP「キラキラネームはちょっと…。沙紀ちゃんということにしましょう。」
伏原「生後何ヶ月くらいですか?」
洋一「まだ退院してきて一週間ってところだから、ひと月も経ってないよ。ほら、目だって焦点が定まってないだろ?」
伏原「覗いてみます。」
KP「伏原さんの右上のあたりの中空をぼんやりと見つめていますね。まだ目もはっきり見えていないようです。」
伏原「『それじゃあ、ちょっとこれは早かったかなぁ。』と言って、買っておいたプレゼントを渡しますよ。」
真紀「わあ!お気遣いいただいてありがとうございます。」
KP「真紀さんはそう言うと、差し出されたものを両手で受け取って、一つ一つ沙希ちゃんの視界に入るところに持って行って、見せてあげながら、『よかったねー、話せるようになったらありがとうって言わないとねー』と話しかけて、頭を撫でてあげますね。」
伏原「…このKPがいい人を演じることに違和感を禁じ得ない。」
KP「やめて。」
洋一「ありがとな、伏原。結婚式の時といい、もらってばっかりで悪いな。お前が結婚する時には、ちゃんとお返しするからな。」
伏原「いやぁ、俺たちの業界では、結婚ってのは、リスクなんだよね(キリッ」
KP「あんたアイドルとかじゃないでしょうが。」
くすぶる火種
KP「さて、このできた夫婦と話していると、子供の出産が大変だった、というような話になりますね。真紀さんは大したことなかったと強がってみせますけどね。」
洋一「いや、真紀はこう言うけどね、ほんと心配させられたんだよ。やっぱり、初めての出産ってのは、いろいろ分からないことだらけでさ。それに、思ったより安全じゃないらしいんだよ。男はそんなこと知らないよなぁ。」
伏原「そうなのかぁ。洋一はちゃんと支えてあげられてましたか?」
真紀「ん〜、まぁ及第点ですかね。」
伏原「だとよ、洋一。子育てでは挽回しないとな。」
洋一「なんにも言い返せねぇよ。もうね、一人で勝手に慌てることしかできないんだよ。予定日より出産が遅れたんだけど、その数日間はもう何も手につかなくてさ。痛い痛いって言ってる真紀の方が俺の様子を見て笑う始末さ。」
真紀「だって、こんなガタイのいい人が、ずっと落ち着かない様子で歩き回ったり、両手をバタバタさせたりしてるんですもん。心配してくれるのはいいんですけど、ふとした時にちょっとおかしくなっちゃって。」
伏原「たしかに、こんなゴリラみたいなのが隣で踊ってりゃ、笑っちゃいますわ。」
洋一「それでも、無事に生まれてきてくれた時には、ほんとに安心したなぁ。でも、ちょっと長くお腹にいたせいか、なんかもう乳歯が生えかかってるらしくてね。」
真紀「もうご飯が食べたいのかも。あなたに似て食いしん坊になりそうね。」
洋一「女の子で食いしん坊はないだろ!」
伏原「あー、仲が良さそうで、いい夫婦だなぁ。子供も元気に育つだろうなぁ。」
KP「なんか演じてて心が痛くなってきました…。」
伏原「…っと、でも、ちゃんとTRPGはしないといけませんからね。つまり、この赤ちゃんには生まれつき歯が生えていた、と。」
KP「そうなりますね。」
伏原「これ、なんかどこかで聞いたことある気がするんだよなぁ…。」
KP「〈オカルト〉ロールでもやりますか?」
伏原「いえ、どうせ調べればすぐに出てくるでしょう、このくらい。」
KP「では、その後も4人の席は、伏原と洋一の香港時代の思い出話や、最近の伏原の出演作の裏話などで盛り上がり、伏原に沙紀ちゃんを抱いてもらって、写真撮影をするほか、4人で一緒に写真撮影をしますね。もらったプレゼントが綺麗に写るように、真紀さんは、座った足元にプレゼントを立てかけて並べたりします。」
伏原「いまどき、こんなできた女性少ないですよね。これはプライベートですけど、『俺のこの手が真っ赤に燃える!』をプレゼントしちゃいますね。」
KP「気に入っていただけて何より。今回は『ハートフルホラー』なので、のびのびとプレイしてください。いつもとは全然雰囲気が違いますから。」
伏原「導入の時点で狂人がいませんからね。…いや、まさか、彼女が狂人なのか!?」
KP「だから違いますって、その線は捨てておいたほうがいいですよ。」
伏原「まぁそうですよね。シナリオにどう関わるかもわかりませんし。」
KP「というわけで、真紀さんが『何年かぶりに会えたんだから、遠慮せずに、二人で食事に行ってきてください』と言って、洋一と伏原を送り出してくれますね。」
伏原「必ず早めに返しますから、ご安心ください。」
真紀「いえ、本当にご遠慮なさらず。積もる話もあるでしょうから。」
洋一「すまんな、何かあったらすぐに連絡してくれよ。」
真紀「あら、そちらこそ、何かあったら遠慮なく連絡してくださいね。」
洋一「酔いつぶれやしないから大丈夫だよ!(苦笑)」
真紀「どうだか。伏原さん、よろしくお願いしますね。」
伏原「はっはっは。洋一はいいおくさんを持ったなぁ。本当に羨ましい。任せてください。しっかり自分の足で帰らせますから。」
KP「というわけで、彼の家からそう遠くない、商店街南の居酒屋で二人、積もる話をしますね。洋一さんは何時頃に返しますか?」
伏原「9時過ぎには返してあげましょう。真紀さんを待たせるわけにはいかない。」
KP「おお、良心的。で、伏原さんは、ホテルまでどうやって帰りますか?」
伏原「んー、ま、ちょっと夜風に当たって、たそがれながら帰りますよ。昔馴染みのあんな幸せな姿を見せられちゃあね、たそがれたくもなる。」
KP「了解です。では、あなたは秋の夜の涼しい風を身に受けて、ほろ酔いの酒を冷ましながら、自分の結婚や人生について、ちょっとした感傷に浸って歩きます。田舎町大間々の少ない街灯の間を、あなたの心と同じように、満月に少しだけ及ばない月が照らしてくれますね。」
伏原「ホラーだけじゃなくて、そんな描写もできたんですね。」
KP「小粋でしょう?あなたが通りを一つ曲がると、しかし、そんな感傷も吹き飛んでしまうものが目に入ります。」
伏原「えっ!急だな!」
KP「人気のない夜の路地。あなたが角を曲がった先に見たのは、袴を着た、年端もいかぬ少女の姿でした。」