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シナリオの構成要素とその組み合わせについて【クトゥルフ神話TRPG】

 2017年3月初旬発売予定の「クトゥルフ神話TRPGアイディアブック Closed Rooms」関連の作業がひと段落し、ようやくその第1部で語っている内容についてこちらのブログでもお話しすることができそうです。

 

 予告してきたように「Closed Rooms」は部屋のアイディアを互いにつなげることでシナリオを作るためのアシストブックとなっています。様々なギミックアイディアが掲載されており、シナリオ製作者はその中から選んで自分専用のクローズドルームスシナリオを設計することができます。

 こうした作り方を可能にするコンセプトモデルとして、シナリオは最小単位である行為項(アクタント)の集まりであるという考え方があります。同書第1部で詳しく解説しているので、詳細は発売後にお買い求めください。

 

 とはいえ、そんなことだけ言ってあとは買えというのも品のない話です。そこで「シナリオの構成要素を組み合わせる」という発想について、ここでも同じように解説を行っておこうと思います。

 

 

シナリオの構成要素

 今回は試論として、シナリオを行為項(アクタント)の集まりと考えてみます。アクタントとは、ナラトロジーの用語です。専門的な解説は他所に譲るとして、ここでは「登場人物が行う物語的に意味を持つ行為」という程度の意味で理解しておきましょう。

 特にTRPGシナリオでは「登場人物」は「プレイヤーキャラクター」を意味します。クトゥルフ神話TRPGに限定するなら「探索者」でしょう。またシナリオは「物語的」であると同時に「問題解決的」でもあります。それらの点から拡張して、次のように理解しておきましょう。

 

シナリオの構成要素

 アクタント=探索者の行う物語的・問題解決的に意味を持つ行為

 

 この仮説に基づけば、シナリオとは次のようなものだということができます。

 

アクタント仮説に基づくシナリオの再定義

 シナリオ=アクタントの有機的*1な集合を指示するテキスト

 

 ここでは以上の定義がもっている二つの重要な意味について整理しておきます。

 

 

探索者の動きを誘導するのがシナリオ

 最も基本的な原則として「探索者が動かなければシナリオではない」という帰結を得ることができます。当然の話ですが、この基本的な条件は忘れてはなりません。探索者の可能な行動は〈技能・ステータス・対抗ロール〉〈SANチェック〉〈行動宣言・ロールプレイ〉の3種類です。シナリオ資料は少なくともこれらの行動を(直接指示しなくとも)導くように書かれている必要があります

 このアクタントを誘導するための工作こそ、シナリオの最小単位にあたる存在です。一般的に言えば、探索者に行動を促すための諸条件と言えます。

 

シナリオの最小単位=探索者の行為項を可能にする条件

 

 どうやって探索者に意味のある行動をさせ、無意味な行動をさせないように調整するのかが、シナリオの主要な課題になります*2。細かい考察はClosed Rooms第1部に譲りますが、この考え方に基づけば、すべての要素を「探索者の行動を可能にする条件」とみなして配置・調整することになります。

 例えば本棚を設置するのは探索者の〈図書館〉ロールを可能にするためかもしれません。それならじっくり本棚に向き合う時間を用意してあげなければならないでしょう。同時に、調べたい内容についての目算も得られていれば完璧です。これらの条件が整って初めて、アクタントが実現します。無事にダイスロールに成功すればシナリオは解決へと一歩だけ前進し、ここでその恐ろしい事実を目にした演出を加えて物語的にも意味のある行動として演出することができるのです。

 

 

「有機的な集合」とは何か

 次に有機的な集合という特徴についても整理しておきましょう。同じセッションの中で行動が複数実現すれば、それは自ずと一つの集合を成します。しかしただ乱雑に様々な行動を取ったとしても、それはシナリオにはなりません。

 そこでアクタントの定義の中にある「物語的・問題解決的に意味のある」という条件に注目しましょう。ただの行動とアクタントの違いはこの一点に置かれます。ではどのようにして「物語的・問題解決的な意味」が生まれるのでしょうか?

 

 このとき、クトゥルフ神話TRPGシナリオの基本的な理念に立ち戻らなければなりません。ルールブックではこれを玉ねぎ型の構造として説明しています。一般的には、一つ一つ表層的な皮を剥いでいくと核心に至るような積層構造と表現できるでしょう。

 つまり真実の化けの皮を一枚剥ぐことに貢献することこそ、クトゥルフ神話TRPGシナリオにおける「意味」と言えます。この目標を達成するために必要な手続きとして、アクタントのもつ「意味」を捉え直してみましょう。すると、クトゥルフ神話TRPGシナリオは次のような有機的な基本構造を持つことが明らかになります。

 

 

クトゥルフ神話TRPGシナリオの基本構造

巨視的な構造:積層構造

 シナリオを最も大雑把に見たとき、最終的な真実を隠している見せかけの事実や表面化してしまった事件(失踪や死亡事故など)といった「仮説の層」が数段階重なった構造があります。これはシナリオ全体の大まかな流れを形作っている構造です。起承転結や推論の流れ、あるいは追いかける事件の様相の変化などの言葉でも代用できます。

 

中間的な構造:層内構造(ハブ型構造)

 積層構造の内部にはアクタントの構造的な配置が行われています。ここでは典型的なものとして、巨視的な積層構造を移動する鍵となる一つのアクタントと、そこに到達するために必要な複数の並列的なアクタントが結びついた構造を挙げておきます(ハブ構造)。5つの情報源のうち2〜3個に当たって情報を獲得すれば、次のイベントが発生してより事態は恐ろしい方向に変化するといった関係がハブ構造で、クトゥルフ神話TRPGでは多用される構造です。

 層内構造は工夫次第で他の構造を取ることもできる点には注意が必要です。たとえば分岐を組み込み、二つの積層構造に分けるなどの方法が挙げられます。また、多数のハズレ情報のうちアタリ情報を引けば次に進めるなどの構造もありえます。どのような工夫があり得るか、少し考えてみるといいかもしれません。

 

微視的な構造:アクタント内構造

 既に述べた通り、アクタントはそれを可能にする条件の集合という構造を取ります。探索者が行動を取る条件として〈行動対象〉〈行動動機〉〈行動目的〉〈行動環境〉〈行動能力〉などの諸条件を挙げることができます。これらの条件はリスト構造をとっており、探索者は全ての条件が整っているかを無意識にセルフチェックして行動を決定してくれます。このセルフチェックが可能なだけの情報を提供するのが、シナリオ資料とキーパーの仕事ということになるでしょう。

 

 

シナリオの構成要素と組み合わせについてまとめ

 クトゥルフ神話TRPGシナリオの基本構造は「積層構造」です。

 「積層構造」の構成要素は「アクタント」で、しばしばハブ構造をとります。

 「アクタント」は「行動を可能にする条件」によって誘導されます。

 したがって「行動を可能にする条件」を組み合わせることによって「アクタント」が作り出され、これを「積層構造」の中で様々な整った構造(たとえばハブ構造)に配置することで、シナリオを作り上げることができます。

 

最後に宣伝

 2017年3月発売予定の「Closed Rooms」は、この仮説に基づいて「行動を可能にする条件」と「アクタントのアイディア」を多数収録したアイディアブックです。これを活用してアイディアを選び、あなたの考えに基づいて構造化すれば、無数のシナリオを生み出すことができます。ご興味の方は是非お手に取ってみてください。

 電子媒体でのみの発売予定です。販売は「ねずぷろ」BOOTHにて行います。

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*1:多くの部分が集まって作る全体があり、個別の部分が互いに関係して影響を及ぼしあっている状態

*2:これはシナリオの目標であると同時にキーパーの目標でもあります。つまり、キーパーはシナリオ資料になくともプレイヤーの提案する行動にシナリオ上の意味を与えるよう努力する必要があります