火産霊神とクトゥグア、そして東アジア太陽征伐神話
日本神話の中でも中程度に知られている神様に、火産霊神(ほむすびのかみ)という神様がいます。あのイザナミ・イザナギによる神産みの最後の一柱で、名前に現れているように炎を司る神です。
今日はこの日本神話の神様について整理しながら、日本を舞台にクトゥグア(これもまた炎を司る邪神)を利用する際に知っておきたい情報を整理することにします。
はじめに、偶然気づいた小話ですが、火産霊神は別名を迦具土神(かぐつちのかみ)と言います。とりあえずローマ字でアナグラムしてみましょう。
KAGUTSUCHI
IS CKTHUGUA
そう書いてあるのだからしかたありません。この二つを関連付けて考察してみようじゃありませんか。
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1.そもそも火産霊神って何?
2.愛宕信仰と大山祇神
3.クトゥグアと迦具土神
4.おまけ:東アジアの太陽征伐
1.そもそも火産霊神って何?
日本神話の神でも中程度に知られている、などという書き出しをしましたが、だいたい日本人の9割はこんな神様知りません。
・・・え? なに? るろ剣、志々雄の不発だった必殺技?
あーはい、それです。それで通じる人にとってはそれです。
・・・え? なに? 少年マガジンで掲載されていた災害漫画?
はい、それでもいいです。それもカグツチでしたね、はい。
そうやって二次創作的にも利用されている火産霊神ですが、元はと言えば古事記に登場する由緒正しき神様です。
火産霊神はイザナミから産まれるのですが、炎の神という性質上、イザナミの陰部にやけどを負わせてしまいます。これが原因で、ついにイザナミは死亡してしまいます。これに怒ったイザナギの手によって、火産霊神は首を切り落とされてしまうわけです。
生まれてすぐにイザナミ殺しの罪を負い、そして殺されてしまう、やや特殊な神様ということがお分かり頂けると思います。
さらに、火産霊神はただ死んだだけではありません。その血液や体から、たくさんの神々が生まれているのです。
そのうち代表的なものは、建甕槌尊(タケミカヅチノミコト)でしょう。のちに藤原氏の氏神として極めて高い地位に祭り上げられる建甕槌尊でさえも、この火産霊神から生まれているのです。
2.愛宕信仰と大山祇神
そんな罪作りな神様なんですが、わりと日本中で信仰されています。なぜ名前が売れていないのかといえば、別名があるからです。
火産霊神(ほむすびのかみ)
=迦具土神(かぐつちのかみ)
=愛宕(あたご)さん
一般には「愛宕さん」として親しまれている神様が、火産霊神です。あなたの街にも、よく調べれば必ず「愛宕神社」があるはずです。
愛宕という名前の由来は、近畿地方にある愛宕山です。つまり京都の愛宕山にある愛宕神社が日本全国に広がる愛宕信仰の本山というわけです。
でも、最高の神に近いイザナミが死ぬ原因になった神様を信仰するなんて、なんだかちょっと・・・そんな気がしませんか?
愛宕信仰の実態は、防火・治炎の祈りです。たとえば東京都港区の愛宕神社は、江戸建設に際して建立されたもので、江戸の街が火事に見舞われないように祈って建てられたと伝わっています。
この愛宕さんと縁の深い神様に、大山祇神(オオヤマヅミノカミ)がいます。火産霊神の死体から生まれたとされる神様なのですが、つまりは山の神様です。*1
この記述から、かつての神話研究では、過去に京都近辺(おそらく愛宕山)で起こった大火のあと、山々に生命が再び芽吹く神秘を語っているのではないかと解釈されたりもしました。火産霊神と愛宕山には、ひょっとしたらそんな歴史があるのかもしれません。
3.迦具土神とクトゥグア
ここまでが古事記ベースのお話で、ここからがクトゥルフ神話と織り交ぜた雑談です。
炎の神ということと、アナグラムくらいでしか接点がないように見える二柱の神様ですが、もうひとつだけ共通点があります。
クトゥグアは、以前地球に招来されたとき、ニャルラトホテプの拠点であるンガイの森を焼き払っています。このことから、ニャルラトホテプの天敵と認知されています。
この設定は、火産霊神がイザナミにひどい火傷を負わせてしまったことと似ていないことはありません。どうにかしてこのあたりから、日本神話の中にクトゥグアを根付かせることができるかもしれません。
もしもかつて火産霊神を葬ったという「天之尾羽張(アメノオハバリ)」が手に入ったならば、ニャルラトホテプに痛撃を与えられる唯一の存在として、クトゥグアを利用することもできるかもしれません。その結果、火産霊神の亡骸からいかなる神が目覚めてしまうのかは、誰にも想像できることではありませんが。
4.おまけ:東アジアの太陽征伐
クトゥグアを討伐するなどという大それたことを口にしたところで、とある神話を思い出しました。それは中国や台湾に伝わるもので、かつて空には太陽が複数あり、そのせいで旱魃が続いていたという描写で始まる神話です。
その神話では、武芸達者な若者が弓を引いて太陽を射落とすことで、現在のように太陽はたった一つが輝くようになり、水が干上がることがなくなったとされています。なんというか、日本神話に比べればわりと実利にかなっているというか、プラグマティストというか・・・。
しかしまあこういう神話がある以上、きっと人間の手でも太陽のひとつくらい撃ち落とせるはずです(暴論)
なんだかド派手なシナリオになりそうな気がしますが、火産霊神とクトゥグアを使った現代日本シナリオを執筆してみるのも、また一興かもしれません。
*1:本来は複数のヤマヅミノカミが生まれていますが、簡単のために一柱としています