TRPGをやりたい!

TRPGのトビラをひらこう!

【ホラー本読み漁り】玩具修理者 小林泰三

久しぶりにホラー本を読みましたのでご報告。

こちらの作品、それとなくクトゥルフ神話も参照されておりまして、非常に魅力的なアイディアの中で、その不可解性を演出することに一躍かっています。

 

本作の特徴を切り抜けば、次のような言葉が適切でしょう。それは「招き入れる恐怖」です。この作品は、様々な技巧を通じて読者の理解と認識、立ち位置を揺さぶり、恐怖の只中に読者を誘い込みます。

 

これまでにこのブログで紹介してきた書籍のいずれとも違った魅力を持った本作。今回はその恐怖を演出する技巧に焦点を当てつつ、その魅力を紹介していきましょう。

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

 

 

 

1.語り部、聞き手、そして読み手

本作を語る上で、周辺的な技巧から話さなければならないのは残念なことです。しかし、中核に据えられたアイディアがいかに魅力的かということを伝えるためには、この手順を欠かすことはできません。

 

本書に収録されている2作品では、ともに語り部が聞き手に淡々と物語る形式が採用されています。これにより、小説のなかに二つのレイヤー(層)が登場します。恐怖物語を過去に経験し、語って聞かせる語り部の層。未知の事態を聞き、その事実性を疑いつつも静かに耳を傾ける聞き手の層。この二層の形成にこそ、著者の企みが置かれているのです。

物語を読もうとしていた読み手は、しだいに立場を同じくする聞き手に癒着し始めます。まるで語り部の物語が目の前で展開されているかのような錯覚のなかで、その想像を絶する異常な物語に、聞き手と同じように小さな恐怖を覚えるのです。

 

しかし、ただ恐怖物語を聞く(読む)という体験で終わらせるなら、この作品の評価はそう高くならなかったことでしょう。すっかり聞き手と同一化してしまった読者は、最後に恐ろしい感覚を味わうことになるのです。

物語を聞いていただけの聞き手が、ほかならぬその物語の一部を構成していた事実が明るみに出されるのです。これによって、傍観者だった聞き手は、急に恐怖物語の登場人物に転向します。

一連の企ては、聞き手と同一化しつつあった読者にも眩暈をおぼえさせます。絶対的な安全圏から物語を追っていた〈聞き手=読者〉は、突如恐怖物語の登場人物という新しい性質を与えられるのですから。

 

本作はこの技法によって、語り部・聞き手・読み手という三つのレイヤーを恐怖物語のなかに共存させることに成功しています。その点で、恐怖演出の上で非常に優れた技巧的作品ということができます。

 

 

2.アイディアはシンプルに

本作が短編として魅力を持っているのは、中核にそう複雑ではないたった一つのアイディアを設置しているからです。

たとえば私たちが普段から抱いている小さな疑問、あるいは時折経験する小さな不思議…そういう些細で共感性の高い、言ってみればありふれたアイディアが置かれているのです。

 

このことは、本作の魅力を高めはしても貶めることは決してありません。

そもそも、本作が目指している恐怖の種類は、超常的な現象や逃げ場のない恐怖といった種類のものではありません。その技巧上の企みにもよく現れていますが、重要なのは読者を恐怖物語の中に連れ去るという点です。

その目標に照らせば、中核に据えられるアイディアはむしろシンプルで伝わりやすいものでなければなりません。本作を読んでしまった読者は、それ以降の生活の中で似たような疑問や不思議に直面するたびに、本作で語られた怪奇を思い出し、自らの意識を恐怖の只中に落としてしまうのです。

読後の感覚もさることながら、読者の生活の中にまで浸潤する恐怖を演出することで、多くの読者の記憶に残る作品の地位をほしいままにしているのです。

 

 

3.理解できるという恐怖

それゆえ、本作は「説明できない恐怖」とは全く逆の方向、「理解できてしまう恐怖」へと突き進みます。恐怖の演出に超常的な存在など必要ありません。必要なのはただそこに厳然と存在している物理法則です。

 

読者が恐怖物語の中に誘い込まれたとき、その世界の物理法則は何一つゆがんでいません。むしろ徹底的に議論され、まるで宗教者に神を問うたときのように、あらゆる疑問に対する答えが用意されています。とっさには突き崩せないその論理の城。聞き手と読者はたくさんの疑問を差し向けて、その城を打ち崩そうとするでしょう。そしてその強固さに舌をまくはずです。

しかしこの論理の城は、物語を守るためにあるのでは断じてありません。この城が築かれている理由は、誘い込んだ読者を二度とこの城から逃がさないためにこそあるのです。読者が聞き手とともに強度を確認した恐怖の城の中に、気づけば自分自身が籠城しているのです。

 

こうして、この小説の企みが完成するのです。

語り手と聞き手という技巧とシンプルなアイディアで誘い出し、築きあげた恐怖の城塞の中から読者を捉えて離さない。こうして、読者は恐怖とともに生活することになるのです。

 

多くの読者を魅了してやまない本作の力は、こうした企みによって成立しているのです。

みなさまも、この恐怖に囚われてみてはいかがでしょうか?

 

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)