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【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】狂惑の輪廻(改定版) 前半

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探索者の自宅にもう一人の自分が現れる。不条理な物言いの末に自宅を追い出された探索者は、自分にそっくりな存在の正体を暴き、自らの人生を取り戻さなければならない。

シナリオの概要

推奨プレイ人数 1人(キーパー判断で3人まで)
プレイ時間目安 テキスト5時間程度
舞台 現代日本、ほか
テイスト 不条理ホラー

はじめに

 このシナリオは現代日本を舞台にした1〜3人用のシナリオである。プレイ時間はテキストで4〜5時間程度を想定している。現代日本を前提にしているものの、このシナリオを他の舞台に動かすためにはそう大きな改変は必要ない。キーパーはいつでもこのシナリオを自分の卓に持ち込むことができるだろう。
 1人でプレイする場合には、そのプレイヤーが被害者となる。複数人でプレイする場合には、プレイヤーの1人が被害者となり仲間と協力して問題を解決するか、あえてNPCが被害者となることで、シーンに登場しているのが本人なのか入れ替わった人物なのかわからないようにする演出を加えるのもよい。いずれの場合にしても、複数人をプレイヤーとして迎える場合、この資料内に記載された基幹となる情報だけでは進行するのが難しいため、このシナリオの扱いに慣れたキーパーのみが挑戦するよう心がけてほしい。

キーパーの情報

 このシナリオでは探索者に成り代わろうとしている魔術師と敵対することになる。周到な用意をした魔術師は探索者に一つの誤解を植え付けるために、事実とは異なる仮説を示す証拠を偽造している。その奇妙な現実に騙されることなく、真実を見つけ出すのが探索者の仕事である。
 最終的な結末としては、この魔術師を殺害するか、諦めて新しい生活を切り開いていくか、あるいは魔術を解除して自分の地位を復権するなどの方向性が考えられる。それぞれに対して道筋とエンディングを用意しておいたので、キーパーはプレイヤーの行動に応じて概ねいずれの方向で決着しそうか考えながら進行するよう心がけよう。

オープニング

 仕事を終え自宅に帰ると、郵便物の不在票が自宅ポストに入っている。書かれたドライバーの携帯電話に電話を入れると、自分と同性の人物が応じる。どこかで聞いたことがあるようなくすぐったいような違和感を覚える。しばらくすると伝えられた通りに荷物が届き、ベルを鳴らす。扉を開くと目深に帽子をかぶった人物が手に箱を持っている。差出人の名義は自分自身。受取人も自分自身。記憶にない荷物に違和感を抱いて配達人の顔を見ると、そこにあるのは記憶にある顔だ。

正気度判定

自分自身に遭遇する 1/1D6

 自分自身の顔にたじろいだその一瞬、相手は扉を抑えて自宅の中に踏み入ってくる。そして次のように言い放つ。

「まったく面倒な分身だ。よくも立場を奪ってくれたな」
(もちろん、探索者の性質によって語尾などを変えること)

 相手は探索者の腕をひっつかみ、思い切り扉の外に弾き出す。靴も履かずに外に出された探索者は、そこに一人残されることになる。
 この状態からシナリオは開始される。

プレイヤーの情報(前半)

 このシナリオは大きく前半と後半に分かれている。前半では探索者は情報不足の中でもがく状態に陥る。進行上の目的は、探索者が陥った状況が通常では考えられない状況であることを理解させることだ。あらゆる手段を試み、判定も成功することも多いにあるだろうが、後半に入るまでは根本的な事態の打開には至らない。
 前半の行動で注意しておくべきことは、探索者と警察などとの関係だ。賃貸の場合は管理人や管理業者との関係もこれに含まれる。もし探索者がそうした権威的な存在を早期に巻き込もうとした場合、それらの機関は総じて入れ替わりを試みる魔術師の側を本人とみなし、探索者の敵となってしまう。

玄関先での行動

 玄関で騒ぎを起こしたり長時間居座ったりすると、しばらくして警察が駆けつける。この場合、探索者側が錯乱しているとして警察に連行されることになる。この危険性を〈聞き耳〉や〈アイデア〉で事前察知できるものとして処理してもよいが、開始直後であることもあり、判定をせずとも危険性を察知できたことにしたほうがプレイヤーとの関係を作りやすい。

警察官に対する〈信用〉〈言いくるめ〉の行使

警察官が探索者側の主張を一時的に信じてくれる。上述の対立状態を回避できるほか、探索者が望むなら一度扉を開けさせて魔術師を玄関から出させることもできる。しかしその場での問題の解決は困難と判断され、二人とも別々に警察署に身柄を移されることになる。

自宅に忍び込む

侵入の条件は技能成功

 当日のうちに自宅に忍び込もうとした場合、中に魔術師がいるため気づかれて通報され、上と同じ処理を行う。
 一方翌日以降であれば、探索者は自宅に忍び込むことができる。自宅の形状や階数などについては探索者側が決定してよいが、収入ダイスとの間であまりに乖離があると感じた場合にはキーパーが修正を求めてもよいものとする。探索者の自宅の形状に応じて、1つの判定成功を条件として自宅への侵入を許可する。

自宅への侵入の例:〈登攀〉

探索者の自宅がマンションやアパートの2階以上にある場合、〈登攀〉に成功すればベランダから侵入できる。追加で〈鍵開け〉に成功すれば、さらに侵入した形跡を残さずに中に入ることができる。成功しなかった場合、ガラス片や物音を聞かれるなどして侵入の事実が警察や管理人の耳に届く。

自宅への侵入の例:〈言いくるめ〉

初日に騒ぎを起こしておらず、警察や管理人・管理会社に察知されていない場合、鍵をなくしてしまったなどと〈言いくるめ〉を行うことで鍵を開けてもらうことができる。追加で〈幸運〉に成功すれば、このことに違和感を抱かれることはないが、失敗すれば帰宅した魔術師が自らの鍵を使っていることやその後の鍵の切り替えの相談などの話が噛み合わないことから侵入に気づかれてしまう。

 他にも〈鍵開け〉や〈信用〉の活用も考えられるが、ここでの例示は省略する。以上のように一つの技能に成功した場合、確定的に侵入に成功するものとし、追加の判定で侵入が気取られたか否かを判断するという方法を標準的な判定方法とする。もちろん後者の要素はキーパーの判断で省略してもよい。

自宅内部の探索

 自宅内の様子は基本的に変わりはないが、よく探索すれば記憶と違っている点を発見することができる。

技能なしで提供する重要情報

本棚に見覚えのない厚手のノートを発見する。内容は人体を複製する魔術についての研究で、魔術を実行した結果、全く自分と同一の姿と記憶を持った存在が生み出されたが、魔術についての知識だけが欠落し、自分以上に常識的な自分として振る舞い始め、家も乗っ取られてしまったという経緯が書かれている。

〈目星〉に成功する

すでに重要な品の置き場所は入れ替えられてしまっている。しかしいくら探しても見つからない物品があり、相手が持ち去ったことがわかる。
● 印鑑・身分証明書類・預金通帳関係
● 携帯電話・手帳・ノートPC・タブレットなどの通信用品

〈アイデア〉に成功する

ウェブ上のアカウントなど、パスワードで保護されていたものを突破することは難しく、オンラインの端末があればそれらを利用して知人と連絡を取ることが可能だと気づく。ただしこれらについても電話番号による保護であれば携帯電話を奪われているため数日中にはアカウントを奪われる危険性がある。

自己証明の喪失

 探索の1日目が終わる頃には、相手はあらゆる手を尽くして探索者の証明書類を自らのものにしている。もし探索者が肌身離さずスマートフォンなどを所持していたとしても、この時点で遺失物として解約されて通信を行うことができなくなる。財布を持っていた場合でも同様で、クレジットカードやキャッシュカードなどが失効し、現金以外の手段が利用できなくなってしまう。

正気度判定

社会に居場所を失う 0/1D6

 もしそれらの契約先に赴いて事情を説明しようとすれば、長い時間待たされて警察が姿をあらわすことになる。これは魔術師が先に「そっくりな姿をして自分に成り代わろうとしている人間がいて急遽すべてのパスワードなどを変えることにした」と説明して回っているためであり、同じ顔をした人物の出現をうけて通報が行われたからである。これも冒頭の自宅前と同様に技能によって危険を察知できるとしてもよいし、技能なしで察知できたものとしてもよい。

蛇の道は蛇:ホームレス男性の証言

 探索者が自ら屋外を移動していると、ホームレスの男性が声をかけてきて次のように言う。

技能なしで提供する重要情報

「あんたそっくりなやつをさっき見たぜ。あんたあれだろ? 生活を自分そっくりな奴に乗っ取られた口だろ? ああ、俺は信じるよ。俺も全く同じだからな。結局、今は俺が誰なのかもわからねぇ。あっちの俺は今じゃ結婚もして子供もいるみたいだがな、俺はこのザマだ。いったい何がどうなっているんだか…… 俺もちょっとは調べたのさ。奴は人間を複製する魔術を使ったなんていうことが書いてあった。でもバカなことを言っちゃいけねぇさ。奴は……いやまぁ何人もいるのかもしれねぇから“奴ら”か。奴らはそうやって人間を騙してるのさ。あの化けの皮さえ剥がせたらな……ちぇっ。まあいい。もう俺には無理だ。あんたも困ったら悪くしねえよ。あそこの公園に住んでるからな、食いつなぐぐらいはできる。じゃあな」

 この情報の意義は三つある。

  • この現象は探索者にだけ訪れた事件ではない。
  • 入れ替わった相手が言っていることが事実とは限らない。
  • 解決せずに生きていく未来もある。

折り返し地点

 ここまでの情報が揃ったら、プレイヤーの指針を確認する。すなわち、プレイヤーが何を目指しているのかを尋ねる。プレイヤーが事件の解明による解決を目指しているなら解決へ向けた次の章の展開を続ける。一方、襲撃などの手段で解決しようとしている場合、次の章の情報は提供せずに終わる可能性がある。また、この時点で解決を諦めて新しい身分で生活しようとするなら、この時点でエンディングとすることもできる。


後半へ続く