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電源・非電源ゲーム全般の紹介・考察ブログ

キャラクターの動機からプレイング指針を作り出す【クトゥルフ神話TRPG】

 以前キーパーの視点から、どのような動機づけをプレイヤーに提供することができるのかを整理しました。

 

trpg.hatenablog.com

 

 ここでは6つの動機づけの種類を提案し、それを探索者に応じてキーパーが提供するのが望ましいと論じていました。今回は立場を逆転し、プレイヤー側がそれぞれの動機づけを与えられたときにどのように振る舞うことでシナリオに絡みやすくなるのかを検証してみようと思います。

 検証の中で、動機づけに応じたシナリオとの関わり方、職業性の使い方が明らかになり、キーパーにとってもプレイヤーにとってもセッションの補助になることでしょう。

 

 

自らの身に危険が迫る

演出しておきたいシーン例

 この動機づけからシナリオへ関与することになった場合、プレイヤーは是非一度は身に迫る脅威を嘆くシーンを演出しておきましょう。そうすることで、他のプレイヤーに「仲間の身に危険が迫る」動機づけや「助けが必要なPCへの庇護欲求」の動機づけを与えやすくなります。そのため怯えたり嘆いたり、喚いたりするのは他のPCが一緒にいる場面にし、冷静なキャラクターや優しいキャラクターがなだめたり対策を提案したりするシーンの演出に協力しましょう。

 全員の身に危険が迫る「脱出シナリオ」や「巻き込まれシナリオ」「パニックシナリオ」だった場合には、自らが全体の中でどのポジションをやりたいかによって振る舞いを変える必要があります。その後、さらに追い込まれたときに冷静を保つのか焦るのか、初めのSANチェックでの成功失敗に応じてキャラクター付けをすることになります。初め冷静だったのにSANチェックに失敗すれば、それはそれで美味しい展開です。また逆も然りでしょう。

動機づけを作り出すムーヴ

 いずれの場合であっても、危機のレベルが弱いと感じたり、まだそれらしい動機を得ていないと判断した場合には、序盤で積極的に危険に身を投じましょう。序盤で探索者を殺すことがある場合には事前説明が行われているはずなので、そうでない限り十分な動機づけを作るためにも、キーパーを信頼して危ない橋を渡りましょう。ずっと安全圏から調査を続けるセッションよりもよりスリリングなセッションになるはずです。

適正職業

 この導入を活用する際には、危機への対応力の多寡がキャラクターの個性を分けます。自分のキャラクターが普段から生命に関わる判断力を要求されているかいないかを考えてみましょう(職業なら医者、軍人、特殊部隊隊員などであるか否か)。一般的に言って、危機に直面する経験をもつ人間は少ないため、たいていは怯える方向でこの導入を受容することになるでしょう。

 

 

仲間の身に危険が迫る

演出しておきたいシーン例

 この動機づけだとわかったら、まずは危機に陥ったキャラクターと約束を交わしておきましょう。これが大安定のムーヴです。生き残ったならエンディングでその約束を実現しているシーンで結ぶことができます。逆にロストしてしまったとしても、約束が果たせなくなった寂しさはエンディングを味わい深くしてくれるでしょう。

 約束の内容は些細なもので構いません。一緒に焼き鳥の美味い店で酒を飲むとか、私の淹れた紅茶を飲むとか、ちょっとした旅行に行くとか、自分の興行に招くとか…どんなものでもいいフラグとして機能してくれることでしょう。

動機づけを作りだすムーヴ

 この場合には、その仲間とどのような関係を持っているのかが重要になります。自分のキャラクターが博愛主義者というわけでなければ、シナリオに積極的に絡むのは難しくなってしまうでしょう。そこで危機に陥った探索者と積極的に交流して打ち解け、その人を助ける理由を作るよう心がけましょう。恋愛感情や友情を向けるものから、人を紹介してもらう約束や金を貸すなどの品の悪い関係まで、様々な条件からその人を生きながらえさせる理由は生まれます。何か一つでもそうした理由が用意できれば、セッションはより味わいのあるものに変わるはずです。

適正職業

 ここで利用可能な職業的性質は、警察官や聖職者、医者、教師といった面倒見のいい職業です。それぞれ保護対象があるため、危機に陥った仲間が自分の保護対象であるかないかを考えて、自らの動機づけとしましょう。また動揺した被害者を落ち着かせる精神科医の仕事は重要です。頼りになるところを見せてあげるだけで、いいシーンになることでしょう。逆に任侠的な面倒見を視野に入れれば、もっと多くの職業でこの設定を活用できるかもしれません。

 とはいえ、これらの職業でなかったり保護対象に含まれない人間が危機に陥っていたとしても、上述のムーヴを取ればシナリオに絡むことができます。その点でこれもプレイヤー側で伸ばしやすい導入ということができるでしょう。

 

 

誰かの行方を捜している

演出しておきたいシーン例

 これは仲間が危機に陥るパターンの応用で対応できます。対象が不在のNPCであるぶん、セッション中に設定を追加するのは難しいのですが、やはり関係性を際立たせて約束などを作って物語性を際立たせる点では同じことが言えます。発見できるかできないかに関わらず、なぜその人を探す必要があるのかという理由付けは少しでも劇的にしておきましょう

動機づけを作り出すムーヴ

 セッション中に序盤で知り合ったNPCがいなくなるなどした場合、関係が薄いにも関わらず捜索しなければセッションに絡めない場合があります。その場合には「依頼による調査の実施」か「探究心をあてにする」動機づけとの組み合わせを狙いましょう。

 たとえば同じような失踪事件が複数報告されていないか調べてみるというムーヴを取れば、事件の匂いに探索意欲が湧いてくるかもしれません。あるいは行方をくらませた人物の近親者が最後にあった人物として話を聞いてくるなどするシーンを要求すれば、「助けが必要なNPCへの庇護欲求」の動機づけにシフトすることもできます。

 したがって、探す対象が探すに値するなら探す理由を劇的に演出し、値しないならその周囲の情報や人物への興味や協力から探索に参加するという展開を作るよう動く必要があります。

適正職業

 探偵や刑事はこの目的から動きやすい職業の筆頭です。とはいえいかなる職業であっても近親者や親友が姿をくらませば探すことがあるかもしれません。また、突然の失踪に対して過敏に反応するのは子供ではないかと思われるので、学生探索者でこの設定を活用するのは非常にたやすいでしょう。子供にとって人が消えるというのはあってはならない大事件です。

 

 

助けが必要なNPCへの庇護欲求

演出しておきたいシーン例

 すでに明らかですが、これも「仲間が危機に陥る」パターンの応用で処理することができます。しかし助けが必要なNPCの状況は様々です。一緒に行動できているとは限りませんし、人間とも限りません。約束を交わす以外にどういったシーンを演出するとよいのでしょうか?

 一つの案として、安請け合いでも一方的な情熱でも構いません。とにかく「あんたは私が助ける!」と力強く宣言するシーンを作りましょう。これをやっておくとやっておかないとでは全くシナリオへの身の入り方が違います。

動機づけを作り出すムーヴ

 どんな邪な理由でも構いません。助ければ金が入りそう、この人を手篭めにできそう、ゴシップ記事のネタになりそう…どれだけ探索者がゲスくても、探索に加わる理由がないから傍観しているよりはよほどましです。シナリオがNPCの救済を目標としているとわかったなら、せめて表面だけでも取り繕う理由を作って宣言しておきましょう

 そういったものがどうしても作れない場合には、「探究心をあてにする」方向にシフトを狙いましょう。助けてやる気はないけど気になったから片手間に調べたら、なんか気になる情報が出てきたぞ、と運べば、探索の理由を作り出すことができます。

適正職業

 この動機づけによって探索者を動かす場合、NPCがいわゆるヒロイン属性を持っていることが一般的です。したがって職業に関わりなく人間として協力を申し出るだけの理由がどこかしらに用意されていることでしょう。職業的性質を言えば、弁護士や探偵、警察官はそもそもこういった状況で補助をすることを仕事としています。また深刻な危機に陥っているなら自衛官なども活躍機会が望めるでしょう。

 

 

依頼による調査の実施

演出しておきたいシーン例

 当然依頼を引き受けるシーンが必要になります。この動機づけを利用するシナリオならばキーパーの方でセッティングしてくれることでしょう。そのうえで、調査を開始してしばらくしたら「この事件にはただならぬ何かがある」と直感する演出を加えるとシナリオにメリハリをつけることができます。そのシーンを境に「依頼」による動機から「探究心」による動機へとシフトしましょう。ただの依頼ならば逃げ出してしまいかねない状況であっても、多少の無茶をする理由として利用することができます。

 そしてエンディングまで生き残れば、仕事をやめたりさらなる調査を続けるために関連する人物のところへ足を運ぼうとするシーンでシナリオを結ぶよう誘導してみましょう。一つの依頼に人生を狂わされた人間を描くうえで、この「探究心」シフトは非常に効果的です。

動機づけを作り出すムーヴ

 しかしあくまで「依頼」を動機とし続けることも可能です。その場合には相応のプロフェッショナリズムを演出する必要があります。つまり自らの生命に危機が及んだとしても仕事を完遂する覚悟を演出する必要があります。「なぜまだ調査を続けるんだこれ以上深入りすれば危険だ」などという言葉を向けられたときが見せ場です。キャラクターの個性に応じて「依頼を完遂するのが職業人というものさ」というニュアンスの見栄を切りましょう。

適正職業

 この動機との親和性が高いのは探偵、新聞記者、研究者といった職業です。そうでなくとも依頼から行動を開始する場合がありますが、職業上の依頼でなければそれを完遂するだけの理由がありません。自分のキャラクターにプロフェッショナリズムがないと判断したら、途中から探究心へシフトすることを心がけましょう。

 

 

探究心をあてにする

演出しておきたいシーン例

 探究心から調査しなければシナリオが進まないと判断した場合には、探究心を具体的にし、とにかく序盤から危険に突っ込むのが重要です。また、探究心の具体化において、「何が知りたいか」よりも「なぜ知りたいか」を意識しておくとより効果的です。職業的成功のためなのか、金銭的成功のためなのか、過去の払拭のためなのか、秘術や邪心に心惹かれつつあるのか…それを明示的に抱いておくことで、キーパーや他のプレイヤーとのコミュニケーションがより円滑なものになります。

動機づけを作り出すムーヴ

 「とっかかり」が重要です。どうしようもない誤解でも構いません。人影を死んだ妹と錯覚したり、発見された呪具の模様がどこかで見たことがあるような気がしたり…このシナリオで解決しない過去の何か(あるいはクトゥルフ的に言えばデジャヴや未来視なのかもしれないが)が脳に訴えかけるような宿命性を演出してみるのも一つの方法です。自らの祖先などルーツとかかわらせるのも一つの手でしょう。

 とはいえキーパーやシナリオによってはそうした設定を嫌うことがあるので、探究心の演出には注意が必要です。その意味で、どのシナリオでも使いやすい一方、プレイングスキルとしては最も多くを要求される動機ということができます。キーパーが提案する動機づけが他にある場合には、自信がない限りそちらを利用するよう心がけましょう。

適正職業

 探究心といえば研究者です。特にクトゥルフ神話TRPGならば考古学者と人類学者は間違いなく探究心を発揮できます。そうでなくとも、魔術に興味を持つ狂信者や古物鑑定家、超心理学者といった職業はこの動機づけを利用しやすい職業です。プレイングに慣れてきたと思ったら、これらの職業を利用して探究心から探索を続け、いつか狂気に堕ちてゆく探索者で遊んでみるのをオススメします。

 

 

まとめ

 今回の記事で言いたかったのは、動機づけはただキーパーが与えるものというわけではないということです。プレイヤーの側でシーンの中にセリフを挿入して、より強い動機づけであるかのように演出してみせることは十分可能です。また、動機づけが薄いと感じたときにはシナリオの展開に応じてキャラクターを動かし、いずれかの動機づけを得られるように進行を誘導することも可能です。

 こうした方法によってシナリオの展開を盛り上げ、より積極的にセッションに関われるように探索者を運んであげる技術こそ、プレイヤースキルの一端かもしれません。一つのアイディアとして、頭の片隅に置いてみてはいかがでしょうか。