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クトゥルフ神話TRPGの3つの年代を楽しんでみよう

 クトゥルフ神話TRPGのルールブックには3つの年代で遊ぶルールが書かれています。しかし全ての年代でプレイしてみたことのあるプレイヤーはどれだけいるでしょうか?

 今日はそれぞれの年代のルールを活用して遊ぶことのできる、全く雰囲気の異なるクトゥルフ神話TRPGの世界をひとまとめに説明してみようと思います。いつも遊んでいる現代の世界だけではなく、違った時空間を舞台にしたロールプレイもまた違った味があり、きっと新しい体験をあなたにもたらしてくれるはずです。

 

 

 

1890年代ルール

大英帝国(ヴィクトリア朝時代)

 1890年代は英国の全盛期にあたります。世界帝国となった大英帝国本国は各地の植民地との交易で莫大な富を築き、王侯貴族の最後の栄華の時を過ごしていました。折しも名探偵ホームズが活躍していた作中時期とも重なり、クラシカルな街並みでステッキ片手に怪奇事件に立ち向かうにはうってつけの時代です。

 ほんの少し先んじて切り裂きジャックなどの猟奇事件も発生したほか、この時代にはキリスト教以外の世界観が各地から持ち帰られたことで、神智学やオカルト趣味が勃興します。各地の文化伝承を収集した著作の最初のものとされるフレーザーの「金枝篇」も1890年に出版されています。

 この年代を遊ぶうえでの資料集として「クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ・バイ・ガスライト (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」というものがあります。「シャーロック・ホームズシリーズ」のみならず「ジーキル博士とハイド氏」などが生まれた時代でもある1890年代大英帝国は、クトゥルフ神話の魅力的な舞台の一つなのです。

 

アメリカ(フロンティア消滅)

 一方そのころのアメリカですが、ちょうど1890年にフロンティア(西部開拓前線)が太平洋に到達したと宣言されます。最後のインディアン紛争が終結し、時代は開拓から工業化へと移行します。鉄鋼王のカーネギーと、石油王ロックフェラーの開発競争もこの時代に発生しました。また、エジソンが様々な発明を世に送り出し、その会社には若きヘンリー・フォードが参加していた時代でもあります。すでに南北戦争終結後に開通した大陸横断鉄道が広大な国土を一つにしており、大財閥が工業化開発競争を展開するにはもってこいの時代だったのです。

 この時代は皮肉屋のマーク・トウェインによって「金ぴか時代Gilded Age」と皮肉られます。市場の独占や寡占によって一部の資本家たちが巨万の富を築き、73年恐慌から立ち直った人々もそうした成功を羨望して金を求めました。拝金主義とか成金趣味と言われる価値観が横行し、中身はボロボロの金メッキ(Gilded)のような時代だったのです。英国とはまた違った価値観の中でのセッションになるのは間違いないでしょう。

 こういった時代ゆえに、工業化や科学発明をテーマにしたシナリオ、あるいは排除が終わったはずのインディアンの生き残りの秘儀などをテーマにセッションをすることができる時代といえます。まだ南北戦争のわだかまりが残る時代でもあるのかもしれません。調べれば調べるだけ様々なテーマが見出されることでしょう。

 

日本(帝国議会の時代)

 この時代の日本もなかなかに魅力的な年代です。明治維新が一つの結実を見たのは1890年の大日本帝国議会の成立に他ならないでしょう。立憲君主制国家日本としての歩みが始まったこの年代、日本は様々な内部矛盾を抱えていました。急速な近代化に適応障害を起こす東京に、制度だけ改造されて困惑する地方農村、神仏習合が認められず教義の再整理を求められる寺社…人々の営みが近代化される中で、古い価値が塗り替えられていったのです。

 それでも華族・士族などの身分制は残され、これもまた最後の貴族的栄華の時を過ごしていました。福沢諭吉や森鴎外、樋口一葉、内村鑑三などが活躍した時代でもあり、文化・思想面でも優れた時代だったことが伺えます。

 不平等条約の改正に成功したのものこの時代であり、94年の日清戦争に始まる対外侵出の時代へ向けて、富国強兵は早くも大詰めの段階に入っていたのかもしれません。列強国の仲間入りを果たそうとしていた熱気あふれる日本を舞台に、様々なシナリオを描くことができそうです。

 

 

1920年代ルール

アメリカ(狂騒の20年代)

 クトゥルフ神話TRPGをプレイするなら一度はプレイしてほしいのがジャズエイジです。原作であるラヴクラフトの著作が生まれた時代であり、第1次大戦後の好景気に浮かれきったアメリカでは、禁酒法をうけて酒の密売で増長したギャングがトンプソン・マシンガンをぶっ放し、黒人たちはまだ残る差別の中で彼らの音楽をジャズとして結実して大流行を巻き起こしました。

 フォード車が大量生産され、ラジオが家庭に音楽をもたらし…科学技術が人々を未来に連れて行ってくれると誰もが考え、旧習や超自然への畏怖が失われたのもこの時代です。科学への妄信の裏側に人々の不安や社会矛盾が残されていたからこそ、あえて神智学やオカルトの知見を取り入れたクトゥルフ神話の世界が生まれたのかもしれません。

 クトゥルフ神話の原作に詳しくても詳しくなくても、ギャングになって山高帽をかぶって葉巻加えてマシンガンをぶっ放すクトゥルフをプレイするなら是非この年代でプレイしてみましょう。

 

日本(大正クトゥルフ)

 1920年代から1930年代は日本も非常に栄えた時代でもあります。西洋文化と日本の古い習慣が入り混じりながら迎えたこの最盛期はしばしば「大正ロマン」と呼ばれて人気を集めています。歴史用語としては大正デモクラシーと呼ばれる民権運動の時代でもあります。それだけ市民の活力が高まった時代だったということでしょう。

 和服にマントを着てハンチング帽をかぶり、ステッキ片手にカフェーに通う。そんなオシャレな生活に羨望の目を向けてしまうなら、1920年代の日本を舞台にプレイすることを強くお勧めします。銃砲類の所持も登録制で許可されており*1、警察がサーベルを持って郵便局員がピストルを携帯していて、士族は帯刀こそ禁止されましたが肩に刀袋をかけていても怒られない時代でした。つまりゲーム的には武器を持てる日本クトゥルフの舞台でもあるのです。

 なおこの時代を遊ぶにあたっては「クトゥルフ神話TRPG クトゥルフと帝国 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」というサプリメントが当時の東京についてのデータ集として販売されています。荒俣宏の「帝都物語」の舞台ともなったこの時代ならではの物語があなたを待っています。

 

 

現代ルール

アメリカ

 現代アメリカはクトゥルフ神話TRPGの標準的な舞台の一つです。そう勉強したことがなくても、ハリウッド映画を通じてアメリカの様子は何かしら知識として知っていることでしょう。私たち日本人がアメリカを舞台にしたクトゥルフ神話TRPGを楽しむ場合には、そうした「共通したアメリカ観」を利用しましょう。というのも、わざわざ日本ではなくアメリカを舞台にする理由があったほうが、よりセッションを楽しむことができるからです。

 特にアメリカを利用する場合には、人種的多様性に注意しましょう。人種のサラダボウルと呼ばれているアメリカでは、キャラクターがどういったエスニシティ(民族性)をもち、どういった信仰を持っているのかという点は物語の中で極めて重要です。

 それ以上に重要なのが、銃砲類の所持が全面的に許可されているという状況です。個人でアサルトライフルを所有していても何の問題もない先進国なので、現代舞台で武器庫と化した自宅ガレージなどを使いたい場合には舞台をアメリカに設定すれば無理がなくなります。技術水準などは現代日本と変わらないので、気軽に活用してみましょう。

 

日本

 最も多く利用されている舞台が現代日本です。現代日本を利用する最大の利点は「プレイヤー間の共通認識が得やすい」ということです。なんといっても私たちの住んでいるこの世界と文化や技術状況が同じなので、いわゆる「常識」を活用することができます。その点でこの時空間が最も使いやすいのは納得といえます。

 現代日本を舞台にする場合、現代に残された妖怪や都市伝説、ミステリー小説などを参考にしたシナリオなどを遊ぶことができます。もっとも身近なテーマなので気軽に楽しむことができ、理解も早くスムーズな進行を望むことができます。その一方で特殊な世界観の中でキャラクターとして行動するというロールプレイの側面は弱まります。せっかくなので慣れてきたら他の世界観を勉強してロールプレイする楽しみに手を伸ばしてみるのをおすすめします。

 現代日本で遊ぶうえでは、「クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2010 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」と「クトゥルフ神話TRPG サプリメント クトゥルフ2015 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」を参考にすることができます。職業や技術、怪事件や妖怪などの情報が整理されているので、シナリオソースとして活用してみましょう。

 

その他の国

 何も現代の舞台は日本とアメリカだけではありません。その他のあらゆる国を舞台にすることができます。たとえば私が執筆した「ナンとカレーなダンスを!」は現代インドでボリウッド映画を再現するシナリオとして書かれています。あるいはリプレイを公開した「小島に潜む巨悪」は現代台湾の蘭嶼を舞台にしていました。

 このように現代ルールを採用すれば様々な異国を舞台にシナリオを楽しむことができます。ハワイやバリなどのリゾート地や、観光地として知られる台湾やヨーロッパを舞台にすれば、行ったことはないにしても、全くそれらの土地について知らないという人もそういないでしょう。海外旅行に行けないなら、セッションで海外を楽しむのもまた一興かもしれません。

 

 

他の時空間を遊ぶためのサプリメント

 今回紹介した以外にも、様々な舞台がサプリメントによって用意されています。

 特に「クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ・フラグメント (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」には幕末・古代ギリシャ・猫探索者ルールが掲載されており、探索の舞台を大いに広げてくれます。他にも戦国時代を扱った「クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)」や950年代暗黒時代ヨーロッパをテーマにした「クトゥルフ・ダークエイジ (Role & Roll RPG)」などが用意されています。

 

 

まとめ

 ここで重要なのは、あまりその時代の事実にこだわりすぎないことです。重要なのはセッションを楽しく遊ぶことという原則は変わりません。雰囲気だけでもその時代のものに寄せれば、時代考証として正しいか間違っているかはあまり重要ではありません。現代日本を遊ぶのと同じ気軽さで、新しい時空間を遊んでみてもなんら問題はないのです。

 現代日本ばかりのプレイに飽きてきたら、他の時代を採用してみて、雰囲気だけでもタイムスリップを楽しんでみてはいかがでしょうか。

*1:コメントでご指摘いただきました。ありがとうございます