ペアシナリオライティングで学ぶシナリオ製作【第3回】
↓ 前回
※今回からパーソナルカラーが変わります。
ハカセ(以下ハ)「待たせたな!」
きつね(以下狐)「予告通りなら『きつね、暁に死す!』だけど…」
ハ「キツネよ…ついに雌雄を決するときが来たようだな…」
狐「師匠、いったい何が目的なんですか!? 俺たちが戦う理由は!?」
ハ「そんなことでは! 戦いの中に迷いを持ち込むようでは! その命を散らすだけぞっ!!」
狐「グワァァァァッ」
ハ「…狐さんがだんだんギャグ時空に適応してきている…早く開放してあげないと…」
茶番終了
今日の本編1:シナリオ概要を書く
ハ「さて、前回までで『問題と解決のパッケージ』を作りました」
狐「アトラック=ナチャ様に囚われた死のループから、呪具の破壊で逃げ出そう!」
ハ「そうですそれです。そして次の作業は『探索内容の分割と配置』だと予告しました」
狐「たしかに今の状態だと、どういうトリックで密室を抜け出すのかも、どうやって真相にたどりつくのかもわからないからね」
ハ「お、慎重さを身につけてきましたね! いい傾向です」
ハ「さて、そのためにも、まずはシナリオの概要を書きましょう」
狐「シナリオの概要?」
ハ「はい、シナリオ資料の一番初めに、『キーパーの情報』として掲載されているものです。読んだことはありますよね?」
狐「あー、あれのことか」
ハ「パーフェクト・ネタバレ・テキストなので、最終的に探索者に伝える必要がある事件の真相を書いてしまいましょう。謎かけにする必要はありません」
狐「ふむ…」
ハ「ここからはフツーのパラグラフライティングですよ!」
パラグラフライティング
英語の授業で長文を書くときに勉強させられたやつ。小論文でもやるのかもしれない。主題(トピックセンテンス)を短く段落のはじめにおいて、その内容の説明を後に続ける。つまり事件の核心から書き始めて、説明を書き並べればいいのだ。
狐「とりあえず、書かなきゃいけないトピックってなにがあるの? あと文章の長さは?」
ハ「今回の場合、次の三つでしょうね」
- 探索者は呪具を通じてアトラック=ナチャの死のループに囚われている。
- 同時に抜け出せない閉ざされた部屋に身を置いている。
- 密室の中で狂信者が邪神に協力している
ハ「ちなみに、長編シナリオでもこの部分はわりと短く収まるはずです。プレイヤーはそんなにたくさんの情報を処理できないので、長くて800字くらいに収めてしまっていいと思います」
狐「ふむ…」
(キツネ 執筆中…)
狐「こんなもんでどう?」
このシナリオでは、探索者はアトラック=ナチャによって同じ時間を幾度となく過ごす状態に置かれている。アトラック=ナチャは探索者に自分を信仰させるために精神を蝕む死の連鎖に探索者を捕らえている。
探索者は密室に閉じ込められた状態で目を覚ます。部屋を覆いつくす蜘蛛の糸と何かが蠢く音によって命の危機を感じた探索者は部屋からの脱出を試みることになる。
密室に閉じ込めているのはアトラック=ナチャを信仰している男で、探索者が目覚めた近くの扉を開くための呪文を知っている。しかし、閉ざされた空間から脱出することはこのシナリオの本来の目的ではない。あくまでアトラック=ナチャによる死の連鎖から逃げ出さなければ、狂気は続くのである。
そのアトラック=ナチャは、ある呪器を媒介として探索者に影響を及ぼしている。それを壊せばアトラック=ナチャは介入を維持することができなくなる。これが探索者の最終目標となる。
ハ「うん、オッケーです。狐さんの頭の中と矛盾がないかっていうのが一番大切です」
狐「アトラック=ナチャってご飯食べる必要あるのかな?」
ハ「その辺はわかりませんね。つまり、アトラック=ナチャ側の目的がよくわからないってことですか?」
狐「うん。なんか普通に探索者を食べようとしてるのか、信仰させようとしてるのか…その辺が曖昧」
ハ「………こういうときの発想法には何種類かありまして」
狐(あっ、なんかゲスなこと思いついたときの話し方だ)
ハ「まずは邪神のデータから発想します。たとえばアトラック=ナチャは『糸を紡ぐ』とありますけど、それが具体的にはどういう意味なのか、解釈の自由が残されています」
狐「人間の魂で作られた糸、とか?」
ハ(うわぁ、こいつゲスやな)「そういうことです」
狐「他の方法は?」
ハ「邪神などの元ネタになっている生物の習性を利用します」
狐「蜘蛛の習性?」
ハ「はい。狐さんはどのくらい蜘蛛の習性をご存知ですか?」
狐「いや、普通に生きてて蜘蛛の習性を知ってる人ってそんないない気が…」
ハ「では、体外消化という特殊な習性についてはご存知で…」
狐「ご 存 知 で す ! ハカセ、言いたいことはわかった、さすが狂気の権化!」
蜘蛛の体外消化
クモは牙から消化液を注入し、捕えた虫を先に溶かしてからその消化された体液を吸って栄養とします。結果として、クモに捕食された虫はその体表面のクチクラ外殻だけが残されて、体液を吸われたような状態になることがあります。
ハ「お、わかりましたか?」
狐「このループは、蜘蛛の糸で巻かれた状態で、死のループは消化液! つまり探索者の魂は今まさに消化されている… そういうことでしょ!」
ハ「うわぁ、キツネさんマジ狂気。ひくわー(棒)」
狐「ぐへへ、これはいいぞ…」
今日の本編2:情報の分割と配置
ハ「ところでキツネさん、今日の目標って『概要を書く』じゃなかったんですけど」
狐「え? なんだったっけ?」
ハ「『情報の分割と配置』ですよ。シナリオの展開を骨子として作っちゃうところ」
狐「いま、開始からどれくらい経った? 30分くらい?」
ハ「2時間半です」
狐「は?」
ハ「2時間半です」
狐「い、急ごう!」
ハ「キツネさんが想定しているイベントと手渡す情報をセットにして、並べてみれば、これはすぐに終わります」
(キツネ 執筆中…)
- 脱出しなければ危険が危ない!【糸であふれた部屋を見て】
- 近くにドアがあったが開かない【開かないドア】
- (謎解き) 密室脱出に必要なものは何だろうか【謎解き】
- 密室からの脱出を拒むギミック【諸々→要検討】
- 男がいる。あいつが鍵かもしれない【男と会話】
- 死んだと思ったら最初の場所に戻っている【死→始まり】
- 密室を脱出したが現実に帰れる気配がない【脱出後の静寂】
- 密室の外には蜘蛛がいる。戦っては勝てない【積みあがった死体】
- 蜘蛛から解放されるには呪器を壊す必要あり【それっぽい媒体】
- 呪器の場所と壊し方【メモ書きとか?特別っぽく】
狐「で、できたー?」
ハ「なんで不安げ?」
狐「いや、謎解きの部分とか、いろいろ曖昧なところが多い気がして…」
ハ「それが重要なんです。いままでキツネさんは、わりとシナリオの完成が近い気がしてましたよね?」
狐「うん、原因も決めたし、邪神も決まったし、解決手段も決めたし…」
ハ「でも、その実体は曖昧な部分が残っていて不安だった。これに自ら気づけたことは、人類にとっては小さな一歩でも、ひとりの人間にとっては大きな一歩です」
狐「それ本来逆のやつ…なんか自分がめっちゃちっちゃい存在な気がしてきた…」
ハ「よし、今日のまとめいっちゃうゾ☆」
今日のまとめ
ハ「今日は『シナリオの概要』を書いて『情報の分割と配置』を始めました」
狐「うん…えっ、“始めました”?」
ハ「このシナリオは結局プレイヤーに何をさせるシナリオなのかを伝えて、どういうステップでそこに到達するのかを整理したわけです」
狐「ねぇ…“始めました”ってどういうこと?」
ハ「ここから7回くらいをかけて、徹底した肉付け作業を行います!」
狐「な・な・か・い!?」
ハ「まだ『情報の分割と配置』は始まったばかり! 俺たちの『分割と配置』はこれからだ!」
狐「第三部 完!!」
次回予告
ハ「今日は長丁場お疲れ様! 次回は超書くよ!」
狐「シナリオ資料って何文字くらいあるものなの…?」
ハ「程度にもよりますけど、2万字くらいは覚悟しておいたほうが」
狐「」
ハ「次回、『キツネ、暁に死す!』」
狐「またそれなの!?」
ハ「次回、『キツネ、腱鞘炎に悩まされる!』」
狐「乞うご期待!!」
狐「…ねぇ、ほんとにそんなに書くの?」
ハ「うん、がんばっ☆」