探索順にしばられない情報提供【クローズド構築ノート4】
クローズドシナリオの設計思想を技術別に整理して記録しておくシリーズ第4弾。今回もクトゥルフ神話TRPGのシナリオを書くのを前提に記事を書いていきます。
今回扱うのは、探索順にしばられない情報提供を行う「フレキシブル(柔軟性のある)シナリオ」という形式です。情報を特定の場所に設置せず、プレイヤーに渡す順番だけを決めておきます。これによって、プレイヤーがどういう順番で探索を行っても、得られる情報の順序はゲームキーパーが望んだ順序になります。
柔軟性シナリオを利用すれば、クローズドシナリオの中にも起承転結を織り込むことが可能です。事件の真相が隠されていたり、黒幕が忍び込んでいたりするシナリオならば、少しずつ謎が解き明かされるハラハラ感を演出しやすくなります。
というわけで、今日は柔軟性シナリオの構築方法について整理しておきましょう。
メニュー
1.柔軟性シナリオはとにかく柔軟
2.はうとぅーらいと
3.柔軟性シナリオは矛盾に注意
4.慣れたら組み合わせよう
1.柔軟性シナリオはとにかく柔軟
柔軟性シナリオの柔軟性をなめてはいけません。
丁寧に設計しさえすれば、どんなタイプのシナリオにも適用することができます。これまでに登場したパニック・謎解き・探索メインのどの形式であっても、柔軟に利用することができるのです。
さらにいえば、その利用範囲はクローズドシナリオに限定されません。私が以前寄稿させていただいた「技能でつなげる5ステップシナリオメイキング」(「TRPGシナリオ作成大全Vol.6」に掲載。元になった草稿はこちら)においても、その根底には柔軟性シナリオの発想があります。
つまり、シナリオを作成するときに、私が基本的な前提にしている発想法が柔軟性シナリオなのです。
2.はうとぅーらいと
柔軟性シナリオを設計するときには、他のシナリオスタイルと考えることがいくらか異なっています。
通常、マップ上に情報源を固定配置して、それぞれに獲得条件となる技能を割り振ってシナリオを設計します。しかし、柔軟性シナリオでは情報と設置場所(=媒体)を完全に切り離して運用します。
それゆえ、用意するのは「プレイヤーに渡したい情報の内容」だけです。
プレイヤーに渡す情報項目の例
- 事件の詳しい情報
- 真相を知っていそうな人(記されていそうなもの)の情報
- 過去の事件の真相と今回の事件の鍵
- 黒幕の居場所・正体
- 黒幕の倒し方
それぞれの項目について、シナリオ設定に応じて具体的な設定を書き加えておきます。
次に用意するのは探索ポイントと使用技能です。
探索ポイントと使用技能の例
- 本棚に〈目星〉か〈図書館〉
- 閉ざされた扉に〈機械修理〉か〈鍵開け〉
- NPC1に〈信用〉か〈説得〉、あるいは〈言いくるめ〉
- NPC2に〈組み付き〉か〈パンチ〉
ここまで設定しておけば、あとはプレイヤーがどの順番で探索ポイントを調べようと、情報を渡す順番を変えずに情報を提供すればいいのです。
3.柔軟性シナリオは矛盾に注意
しかし探索順に縛られないせいで、ありえない場所や人に重大な情報が隠されているという展開に陥ってしまうことがあります。NPCが神話的事実を知っていたり、本棚にあまりにも個人的な情報が書かれた本が見つかったり、様々な軋みが生じてしまうのです。
こういった事態が発生してしまわないようにするためには、どこからどの情報がでても違和感のない「媒体」を考慮しておく必要があります。
NPC1から得られる場合には語りとして聞くことができ、本棚からなら日記として、鍵のかかった箱からは手紙として発見されるなど、それぞれの場所にあった「媒体」を設定しておきましょう。そのうえでどうしても違和感があるなら、他の技術を利用して、取得順番を固定しましょう(これまでのクローズド構築ノートを参照)。
4.慣れたら組み合わせよう
すでに言及したように、柔軟性シナリオはキー形式との相性がよい設計方法です。
キー形式では、鍵の獲得前後で物語が区切られますが、その鍵の獲得までのプロセスを柔軟性シナリオによって運用することができます。3つから4つの探索点を処理して鍵に到達し、鍵を利用して次の柔軟性シナリオのフレームに侵入するという流れになります。
柔軟性シナリオを使いこなせるようになれば、即興でシナリオを構成してキーパリングする技術も身につくことでしょう。
というのも、キーパリングに際しては、少なからず柔軟性を意識する必要があるからです。シナリオよりもセッションの進行を優先するのがキーパーの務めである以上、本来そのシーンで手に入る予定ではなかった情報を手渡しておくように配慮することは多々あります。
そのときに、シナリオ資料を柔軟性シナリオと読み替えることで、より楽しくスムーズなセッションを演出することができるのです。
運用それ自体は難しくないのに、非常に奥が深い柔軟性シナリオ。
皆さんも試してみてはいかがでしょうか?
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