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人工知能と脱スキル化論

人工知能の発達が著しい時代です。

端的に言って、人工知能は人間を支配するようになるんでしょうか?

 

人工知能には二種類あるという伝統的な分類があります。

言語哲学者ジョン・サールによる分類で、「強いAI」と「弱いAI」です。

「弱いAI」とは、ルールが構造化されたゲームなどにおいて活躍する人工知能です。先日ついに囲碁で人類のトッププレイヤーに勝利する人工知能が開発されましたが、あれでもなお、「弱いAI」と呼ばれる分野に属します。

では「強いAI」とはなんなのか?

「強いAI」とは、人間のように多様な場面に対応する、総合的な人工知能です。こちらの開発について言えば、やはり人間のレベルに達することはできていません。

 

現在著しく発達する「弱いAI」は、たとえば金融市場に特化したり小説の執筆に特化したりしていますが、少しずつ社会の一部を担うようになり始めています。ある意味では、単一の活動のために構築された人工知能がその分野で人間より優れているのは当然といえば当然かもしれません。

 

さて、そんな「弱いAI」たちの高度な発達によって、人間の仕事が奪われていく時代がやってきました。人間にやらせるよりも人工知能にやらせた方が、早く正確によい成果を出せるんですから、仕方ありません。

このとき、人間は仕事を奪われて路頭に迷うことになり・・・ません。

今日はなぜそうならないのかを論じてみます。

 

そもそも、石器時代から人間の仕事は奪われ続けていました。きっとそこには、籾を綺麗に処理する職人や炎を絶やさないように維持する仕事など、現在のように雇用関係が存在しないものの、いろいろな仕事=技能があったはずです。しかし、簡単な脱穀機が発達したり、着火できる道具が発達したりして、仕事が奪われたのです。

工場機械の発達は言わずもがなですが、人類の歴史は仕事を道具によって奪われ続ける歴史だったのです。その意味では、人類はもうすっかり火を起こす仕事や土器を作る仕事を奪われてしまって、人間性を失うところまで・・・

 

え? ああ、はい、そうですよね。土器を作らなくても人間性は維持できますよね。

 

実は、このように道具や機械に仕事を奪われるという考え方は、脱スキル化論(deskilling)と言われています。次から次に人間の技術を道具が奪っていき、人間は能力を失っていきます。その挙句、殆ど自分一人では何もすることができない人間が残され、道具や機械の方が人間よりも多くの技術を持つことになるという考え方です。

しかし、お気付きのように、土器の作り方や打製石器の作り方を人類が知らなくてよくなっても、人間は怠け者にはなりませんでした。工場機械が糸を紡ぐ必要をなくしても、やはり人間は怠け者にはなりませんでした。サーバーコンピューターが生まれても、グーグル検索が生まれても、人間はやっぱりそれを使って何かを作り出そうとし続けています。

 

ここで発生しているのは、技能を「失う」ことではなく、技能を「変化させる」ことです。

巧みに馬を扱うことで実現していた素早い移動は、自動車の運転能力に変化し、さらには適切な公共交通機関の乗り換えを見出す能力に変化したり、経路別の必要時間を自動的に計算してくれるツールを使う技術に変化したりしています。

結局、馬に乗るという技能は失われてはいますが、早く移動するために必要な技能が全くなくなったわけではありません。新しい技術へと移り変わっているだけのことなのです。

 

このような考え方は「再スキル化(Re-skilling)」と呼ばれています。

人工知能と人類の未来を考えるうえで、この発想法は極めて重要です。

 

従来の脱スキル化論では、技術によって特定の技能が不必要になる過程に意識を集中していました。しかし新しい技能の誕生と、その新しい技術を使いこなす技能が再スキル化される過程にも意識を向けておく必要があります。

 

いま、人工知能がたくさんの仕事を人間の手から奪い、多くの失職者が登場することが予想されています。

これと同時に強調しておかなければならないのは、人工知能を通じて、現在には存在しない新しい仕事が登場し、まったく新しい技能が労働者に求められるようになるということです。

 

またそれ以上に重要なのは、ただただ仕事を奪われるという意識で人工知能を警戒するような姿勢は、いずれ自らの首を締めるということです。機械化工業に反対した人々が結局新しい生き方を模索しなければならなかったのと同じように、人工知能化産業に反対しても、いずれ“その日”はやってきます。

であれば、考えるべき点はむしろ次の点です。

人工知能が浸透した社会で成立する新しい労働とは、どういうスタイルであるべきだろうか?

人工知能が浸透した社会だからこそ成立するビジネスとは、どんなものがあるだろうか?

 

そういう意識を持ち続けることが、人類の絶え間ない営みを引き継ぐための、最良の意識ではないでしょうか?