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知識経済の到来とこれから

商売して儲かる原理には様々な種類があります。

その昔、はるか西方の香辛料をはるか東方に運ぶことで利益を得る交易経済が最高の儲けを叩き出す経済と考えられていました。その方法は航海術の発達を経ても変わりませんでした。

 

しかし、蒸気機関を利用した機械工業の発達は新しい経済を作り出しました。それが量の経済です。他の人よりも少しでも多く生産することで、最高の儲けを叩き出すことができるようになります。

これは誰しもが必要になる財について成立するモデルです。最初期には紡績業がこの形で莫大な利益を上げました。衣服がまだ十分に流通していない時代、少ない労働者で生産する安い衣類は世界中で買い手のつく魅力的な商売だったのです。

 

この工業経済のまま発達した結果、欲望が主導する消費社会が到来しました。

その到達点は1920年代アメリカにおけるフォーディズム(フォード社のベルトコンベア式自動車生産)に見ることができます。同じ仕様の商品を、他社よりも効率的に生産する技術こそ、儲けを作り出す最良の手段だったのです。

それと同時に、衣服と同じように車もテレビも洗濯機も、何もかもを人々が欲しがらなければ、経済自体が成立しないという構造が深化していきます。それが消費社会です。

 

初期の消費社会で重要な役割を果たしていたのは労働力でした。機械がいくら発達しても、労働力による補助は必要でしたし、労働力のどの部分までを機械化するのかということこそが、利益を作り出すために必要なマネジメントでした。

 

しかし、後期消費社会において、この様相はまったく変化してしまいます。

 

同じものを効率よく作っているだけでは、他社の新製品に出し抜かれるようになったのです。ここで生み出されたのが「技術革新」と「ブランディング」という二つの戦略でした。

 

技術革新によって初めて電子レンジを作った企業は大儲けすることができます。食洗機、コンピューター、携帯電話…様々な技術を先取することが、儲けるための条件に変わったのです。

 

これこそが、知識経済の始まりでした。

珍しい品を運ぶことによる利益は、流通の発達により儲けが少なくなりました。

大量生産による利益は、開発競争と商品の多様化により儲けが少なくなりました。

それでも、技術開発による利益は、いまでも強い戦略として活き続けています。

こうして優れた技術開発部門を抱えた企業や、新技術を利用したベンチャー企業が活躍する知識経済の時代が到来しました。

 

知識経済の到来は、1960年代にフリッツ・マッハループという経済学者が指摘したのが初めだと言われています。

マッハループの分析はやや恣意性のあるものだったとして、今日の評価はそう高くありません。とはいえ、アメリカで知識経済が国家経済の25%近い生産高を占めていると指摘したことで、強烈なインパクトを与えました。

この分析を再び取り出して世に示したのは、あのピーター・ドラッカーです。ドラッカーは知識経済の占める割合は今後増大し、いずれ50%を越えることになるだろうと予言しました。

 

こうした流れの中で、労働者に求められるスキルの中身が変化してきました。

これまで単純な作業力を計測していた労働力は、知的生産力にその力点がシフトしていきます。これによって、ブルーカラー労働者に対するホワイトカラー労働者の比率が増加し、営業戦略や商品開発、マネジメントなどの部門が重要視されるようになりました。

 

さらに、マスメディアとインターネットの発達はこれを促進させます。

商品の中に込められた知識の差が利益を生みだすだけではなく、ただ純粋に「知識(情報)」を生産することで利益を得られるようになったのです。

もちろん、この言い方には語弊があります。実際には情報を伝達するTVショーや雑誌、動画、記事などを生産しているので、これは「情報を生産している」とは厳密には言えません。つまり本質的には、商品の中に込められた知識(情報)の差が利益を生んでいると言ってよいでしょう。

 

さて、すでに知識経済の拡大が指摘されてから50年以上が経過して、いまや新しい段階に経済は移行しつつあるのかもしれません。

情報通信技術と人工知能は、技術革新やマネジメントに革新をもたらしました。いまや証券取引も自動化され、顧客管理も、生産管理もサーバーを通じた自動化が進んでいます。さらに人工知能の発達が、その保守点検に携わってきたホワイトカラー労働者の立場を危うくすると予言されています。

 

人工知能が人類の技術開発速度を凌ぐようになれば、もはや技術革新による利益確保を前提とした知識経済は破綻することになります。

そこで注目されているのが、ブランディングという最後の戦略です。

どんなに優れた技術が利用されていたとしても、肩に鋭いトゲのついた衣服や、翼の生えた車では、購入者が限られてしまいます。ここで機能しているのが、消費者の趣味や選好です。同じ技術であっても、ボタンの配置や商品の色使い、さらには広告に起用されるタレントや商品ロゴなどの要素で商品は差別化されます。

これらの要素を利用して、他の同種商品よりも優れた商品として支持を集めることが、次の経済の一つのありかたなのではないかと指摘する論者もいます(評価経済を参照)。

 

次の時代の経済がどのような形式になるかはわかりませんが、技術の発達が経済のありかたを変えてきた歴史の流れは、これからも続いていくことでしょう。

 

 

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