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身体心理学とエリクソン催眠

「心」とはいったいなんでしょうか?

この問いは認知哲学や心理学の領域で「心の哲学」と呼ばれています。

 

この問いかけに対して様々な回答が寄せられる中に、身体心理学という考え方があります。この理論では、心と体を切り分けることをしません。人間は、身体という心を持って生きていると考えるのです。

 

一番典型的なのは、笑ったり泣いたりする体の反応です。笑っていればなんだか楽しいような気がしてきますし、涙を流す時間的余裕もなければ、悲しさも上手に感じることができません。

この考え方はジェームズ−ランゲ説と呼ばれています。人間の心や感情と呼ばれるものは、ほかならぬ体の末端の反応のことであるという考え方です。1880年代に提唱された理論で、以降の身体=心論を牽引する嚆矢となりました。

 

さて、そんな理論を背景にして、20世紀前半に活躍したのがミルトン・エリクソンさんです。

エリクソンはずば抜けた観察力と独自の話術によって、エリクソン催眠と呼ばれる新しい催眠療法を開拓しました。

 

通常の催眠が断定系の文章で催眠誘導する(少しずつ力が抜けてきます…とか)のに対し、エリクソン催眠はダブル・バインドを利用します。相矛盾する二つの状態を継続的に示すことで、どちらに転んでもよい安心感と意識混乱を作り出し、催眠誘導します。

 

「あなたの力は抜けてくるかもしれませんし、体は硬直したままかもしれません。そのどちらもが正しいというわけではありませんが、正しい催眠導入の方法でも誤った催眠状態に入ることもありますし、誤った催眠導入の方法でも正しい催眠状態に入ることがあります…(相手の様子を見て、脱力型と判断したら)あなたの力が抜けてきているなら、力が抜けて、そしてリラックスすることになるでしょう…」

 

という具合に、とにかく「催眠導入・催眠状態とはこのような状態である」ということを全く術者が指定しません。

ここがエリクソン催眠の最大の強みです。特定の方法・過程でしか催眠導入できない通常の催眠では、まったく術の効果を受けない患者がいます。そうした方々に催眠導入するためには、患者自身のリラックス状態を常に維持しながら、その心身の状態の推移を丁寧に言葉で追っていき、意識を身体に集中させてあげなければなりません。

 

このときエリクソンが利用するのは、体の生理的な反応に対する研ぎ澄まされた観察力です。心の状態が生理反応と一体化して現れるという仮説に従えば、人間の心の状態を観測することは十分に可能です。

 

 

エリクソン催眠は、通常の催眠と同様に、人の潜在意識を発見するために利用されます。それゆえ、患者に寄り添ってその自己啓発を行う目的で利用されるようになりました。

NLP、神経言語プログラミングと呼ばれるようになったこの技法は、現在自己啓発セミナーなどで利用されています。とはいえ、実証的なエビデンス(証拠)が論証されていない方法であるために、学術的には軽視されていることは言い添えておくべきでしょう。なんらかの効果を得ることができるにはできるでしょうが、そのメカニズムや本当にそれがポジティブな効果しか持たないのかなど、あらゆる面で不確定な方法ということになります。

その背景には、この技法が患者によってまったく別の手順で催眠誘導するという独自の性質があります。単一の方法を確立させないことがエリクソン催眠の強みである以上、相当な量の患者に対してこの手法を実践したデータを取れない限り、論文として扱うことはできないでしょう。

その効果は依然、信じるか信じないかという主観問題の域から脱してはいないのです。