難易度のアトム【TRPGの難易度を解きほぐす(1)】
難易度。
高いと言われれば身構え、低いと言われれば冗談のロールプレイを挟みやすくなる。
…でも、その難易度、本当に参考になるんでしょうか?
そもそも難易度ってなんなんでしょう。どういう形式で測定して、どこまでが楽しめる難しさで、どうやって伝えればいいんでしょうか。
これから全10回以上の長編連載として、TRPGにおける難易度について、徹底的に議論してみようと思います。
第1回は「難易度のアトム」というタイトルで、次のことを議論します。
すなわち、TRPGにおける「難易度」は、(ルールやシナリオ単位ではなく)セッション中に登場する判定やロールプレイなどの「行動」を単位として発生する「負荷」の集合と考えられます。
第1回メニュー
1.難易度、この抽象的なもの
2.TRPGにおける「行動」
3.非平等性ゲーム
4.難易度のアトム
1.難易度、この抽象的なもの
難易度は「物事の難しさの尺度」を意味します。あるいは、「ある事物の実現しやすさ」とも説明されます。
「難」と「易」が対義語の関係であり、「難易度が高い」という言葉が「A.この物事を行う・達成するのは難しい」という意味なのか、「B.この物事の実現しやすさは高い」という意味なのか、厳密にはわかりません。
しかしゲームに限定すれば、通例として「A.この物事を行う・達成するのは難しい」という意味で用いた方が自然でしょう。以降このシリーズでは、「難易度が高い」は「達成が困難である」という意味を指して用いられていることを前提にします。
さて、その「難易度」の用法を見てみましょう。
ちょうどいい難易度の戦闘になっているか否か
マスタリング難易度が高いとは聞いていましたが
これによって、シナリオの難易度も高くすることが可能になり
(PLの予想外の行動に対するアドリブという)難易度の高い作業
これらはすべて、私のブログ内でこれまでに使用してきた「難易度」という言葉です。
TRPGの話題ばかり話しているのに、難易度はたくさんの場面で使われていますね。
戦闘、マスタリング、シナリオ、アドリブ対応…様々な要素に「難易度」を見出しています。ブログ内だけではなくTRPGクラスタのTwitterにまで視野を広げれば、もっとたくさんの用法を見出すことができるのかもしれません。
こんな様々な使い方がされている「TRPGにおける難易度」を、どうやって解きほぐすことができるのでしょうか?
2.TRPGにおける「行動」
はじめに定義しなければならないのは、TRPGにおいて「難易度が発生する瞬間」です。難易度は「物事を行いにくさ・達成しにくさの度合い」なのですから、TRPGというゲームにおける「行動」を定めていきましょう。
「ゲーム」は非常に奇怪な営みです。ゲームの王様チェスがそうであるように、ゲームではその中で許可された「行動」に制限があります。チェスは駒を動かすことしかできず、相手の駒を叩き潰したり、季節の野菜と和えたりすることはできません。
TRPGも同様のことが言えます。「行動」の具体的な形式はルールによりますが、原則として、大きく次の三つの「行動」だけがゲーム内で許されています。
第一には、プレイヤーキャラクターの能力値を利用したダイスロールを行うことができます。ダイスはTRPGのチェスボード(ゲーム内世界)に干渉する代表的な方法です。
第二には、ロールプレイと呼ばれている方法があります。ここでは役割分担という意味ではなく、プレイヤーキャラクターになりきった演技を使って、TRPGのチェスボード(ゲーム内世界)に干渉する方法を指します。
第三には、資源・アイテム利用によるランダム性のない干渉が可能なルールもあります。この性質はカードゲームにおいて先鋭化されましたが、TRPGにおいてもこの要素を持ったルールは存在します。
ゲーム内世界に干渉する手段として、プレイヤーに許されているのはこの3種類の「行動」だけなのです。
従って、TRPGの難易度の第一義は、これらの「『行動』を通じて目標を達成することの難しさ」として現れると考えてよいでしょう。
3.非平等性ゲーム
一方、ゲームマスターに目を転じると、全く別の「行動」ができることに気づくでしょう。
ゲームマスターにはプレイヤーの3行動に追加して、次の「行動」が許されています。まず、プレイヤーには許されていない状況描写を行う権利があります。また、トラップや敵、情報など、ゲーム内世界にイベント配置を行う権利があります。これらの「ゲームマスター専用行動」も、TRPGの難易度を語る上で欠かせない要素です。
プレイヤーとゲームマスターという二種類の“プレイヤー”が存在するTRPGは、そのルールの中に非平等性があります。“不”平等ではありません。“非”平等です。是正する必要のない不平等を組み込んでいるという点から、非平等という言葉を使ってみました。
チェスやたいていのスポーツの場合には、プレイヤーは等しく「行動」機会を与えられた状態で、その巧拙を競います。それぞれの「行動」の難易度(行動目標の達成しにくさ)は、相手プレイヤーの「行動」によって定義されます。
一方、TRPGでは、プレイヤーとゲームマスターそれぞれに異なる「難易度」が課されることになります(「行動」が非平等に配分されているのだから、当然ですね)。しかし、基本は変わりません。プレイヤーが見出す難易度は、プレイヤーの「行動」に対応した、ゲームマスターの「行動」によって決定づけられます。この点は、逆もまた然りです(ゲーム内の状況を決める要素が「行動」しかないのですから、これも当然ですね)。
ただし、平等性ゲームと決定的に異なる点があります。すなわち、手段を多く配分されたゲームマスターが勝利を志向しない点です。ゲームマスターがプレイヤーを駆逐したとしても、それは手段の非平等性に起因するため「勝利」の二文字が躍ることはありません。プレイヤーだけに「成功」と「失敗」の権利が開かれており、ゲームマスターはその“ふるい”の役割を果たすにとどまります。
この点からも、ゲームマスターの「行動」に対して課される難易度を定義するのは難しくなります。ゲームマスターの第一目標はプレイヤーの「行動」を制することにはありません。ゲームマスターが「行動」において「何を達成しようと働きかけるのか」という課題を考察しなければ、ゲームマスターの難易度を定めることはできないのです(この点については、マスタリング難易度の回などで考察します)。
4.難易度のアトム
さしあたって、TRPGというゲームの中で登場する最も小さな単位の難易度は、次のように定義できます。
プレイヤーとゲームマスターの「行動」が対抗するとき、双方の「目的を達成することの難しさ」を難易度の最小単位(アトム)呼ぶ。
この最小単位は、TRPGセッションあるいはシナリオの難易度を考察する際に有用です。これまで、漠然と思い描かれていた難易度を個別のアトムの集合として論じることが可能になります。
ここで忘れてはならないのは、「行動」には種類があったことです。
つまり、TRPGセッションあるいはシナリオの対プレイヤー難易度は、次の三つの要素の集合として論じることができます。
- ダイスロールによる目標達成困難度
- ロールプレイによる目標達成困難度
- 資源・アイテム消費による目標達成困難度
これら個別の要素が、ゲームマスターによる次の5つの「行動」に対抗される形で決定されます。
- ゲームマスターのダイスロール
- ゲームマスターのNPCロールプレイ
- ゲームマスターの資源・アイテム消費
- ゲームマスターの状況描写
- ゲームマスターのイベント配置
まとめ
今日はこれからの議論の礎になる部分を整理しました。何事も定義が重要なのです。
ざっくり言えば当然の話なのですが、難易度はゲームマスターとプレイヤーの対抗関係の中で生まれます。ゲーム内世界で発生する難易度は、すべてこのメカニズムに基づいて発生するのです。
難易度はプレイヤーがゲーム内世界に干渉する手段別に発生し、セッションを通じてそれらの集合を形成します。この集合が、日常語としての難易度であると考えられます。
もちろん、ゲームマスターは“本気で”プレイヤーを制圧しようとはしていません。それゆえ、プレイヤーにとっての難易度とゲームマスターにとっての難易度には、異なる考察が必要になることでしょう。
次回は、「難易度のパラメータとバロメータ」と題して、難易度という測量不能な存在をどうやって操作・推測するかという議論を行う予定です。このシリーズ全体のもう一つの基礎になります。長いシリーズになりますが、ご興味の方は引き続き宜しくお願い申し上げます。