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【SWノベル】ぬいぐるみの人:05 炸裂!ぬいぐるみ殺法!

「死ぬかと思った!・・・死ぬかと思った!!!」

戦線後方まで全速力で駆け抜けたボブソンは、向かい合うように持った〈ぬいぐるみ〉に向かって、大きな声で二度叫んだ。その様子はずいぶん奇妙なもののはずだったが、なんとなくそれに慣れ始めている自分がいるのを感じてしまった。ボブソンはこれでいいのかもしれない。

「ラビット。作戦本部に報告しよう。ゴート君でなければ倒せない蛮族がいると。そして戦線は私たちのところで崩壊した、と。」

キリッとした表情でボブソンがいう。それが敵前逃亡した兵士の言うことかね。いや、まあ、俺たちは兵士ではないのだけれど。

「なんにせよ、援軍が必要なことは確かですね。もう一度攻囲戦が行われるなら、俺たちがあのレッサーオーガがいたあたりにまで本隊を先導しないと。」

「おい、ラビット。お前、今、信じられないことを言わなかったか?」

ボブソンが確かめるように言う。

「ボブソン。いくらあいつが僕たちにとっておぞましい相手であったとしても、今はあれを倒すためにできるだけのことをしなくちゃならない。そうだろう?」

魔香草の煎じ薬を飲みながら、俺は応じた。

「もう一度面する時に、自分たち以外の兵士が何人か一緒にいてくれれば、なんとかなるはず。なんなら狙撃だけやって、ボブソンはそのガードに付いていれば、他の兵士たちが倒してくれるさ。」

配給された弾丸をガンベルトに詰め直しながら、諭すように言う。

「冒険者にとって一番重要なのは、勇気でも知恵でもなくて、任務を生き残って完遂するために、最善の努力を欠かさないこと。そうでしょ?」

銃のリロードを終えて、動作確認のためにボルトを引く。ガシャリ、という乾いた音が響いて、出撃の合図代わりになった。

「よし、行こうか。」

 

衛兵・冒険者混成軍は、俺たちの欠けた穴を埋めようと、努力したようだ。しかし結局、あのレッサーオーガを止める決定打を欠いたために、防衛線を構築するにとどまり、臨時に計画された第4次作戦を決行する運びとなっていた。ゴートの部隊が当たらなかった限り、レッサーオーガの出たエリアは敗北しただろうとのことで、特に俺たちに対するお咎めもなかったのは幸いだった。少なくとも、取り分が減るということはなさそうだ。

といって、それに甘えていても名が廃る。悪目立ちしているボブソンのせいで、俺たちは常に最善の成果を上げる必要があった。名声も悪名も、冒険者たちの間ではすぐに広まるのだ。『〈ぬいぐるみ〉のボブソン』の二つ名とともに。

 

「よぉ、ジイさん。あんたたちがデカブツに遭ったんだってな。」

今日も金属鎧をガシャガシャ言わせて、ゴートが現れた。周りには仲間の冒険者と思しき男女を伴っている。

「ああ、ゴートか。」

声をかけられたボブソンは、面倒そうに応じる。

「レッサーオーガは、あんたにとってどのくらいのものなんだ?」

まるで試すようなことを訊く。たしかに年齢ではボブソンの方が上だが、冒険者としては明らかにゴートの方が格上だ。ゴートとボブソンの関係はよく知らないが、いくらか失礼な言い方には違い無い。

「レッサーオーガねぇ。まぁ、まずこちらがやられるってことはないが、少し手間だな。まぁなに、今回は俺の連れと爺さん達も一緒なんだろ?そう難しい戦いじゃないさ。なんにせよ、よろしく頼むぜ。」

ゴートは軽い挨拶だけで去っていった。

「なぁ、ボブソン。ゴートとは知り合って長いのか?」

ボブソンがこちらを向いて応じる。

「ああ、俺にしてみれば、舎弟みたいなもんだな。あいつを育てたのは俺だよ。」

「弟子が師を超えたわけか。」

すぐに嫌がらせをいう。

「まあ、そういうことだな。師匠にとっては嬉しいことさ。」

ボブソンは嫌味に気づかなかったのか、本心からそう思っているのか、歩き去っていくゴートの背中を見ながら言った。

 

作戦が始まる。再び草原を進み、小さな森に行き当たる。敵は隊をまとめて下がったようだ。つまり、このまま進めば、援軍を伴ったレッサーオーガに突き当たることになる。ゴートがいるとはいえ、いくらか不安だ。

「僕が敵の足を止めるので、その間にみなさんで蹴散らしてください。」

ショック・ボムの有用性は証明されている。あれを使った後に敵を叩けば、おそらく一息に切り倒すことができるだろう。射出距離の限界である10mにまで接近する必要があるのが、本来狙撃手のラビットにとっては不都合ではあるのだが、いずれにせよ接近を許してしまうことだろう。

「止まれ。」

ゴートが小声で合図する。前方でスカウトにあたっていたゴートの連れが、樹上からハンドサインを送っている。

「この先に、ゴブリンと一緒だそうだ。奥の方にねぐらのような洞穴があるらしい。他にも出てくるかもしれねぇな。全員武器を。いくぞ。」

パーティが多いとこういうこともできるのか。ラビットは素直に感心する。

「初めの一撃は狙撃手に頼もうじゃないか。そのタイミングでこちらも仕掛ける。よろしく頼むぞ。」

「任せてください。」

銃を握る手がわずかに緊張する。ゴートの強さを見たことがない俺にとっては、レッサーオーガとの戦闘は、やはり恐怖を覚えさせるものだ。

「緊張するな。俺たちに任せろ。外してもいい。敵をねぐらから引き離せれば、増援が来る前にねじ伏せられる。」

ゴートが笑っていう。戦場で信頼に足る男というのは、こういうものか。こういう姿が、追随する冒険者たちの羨望を集める理由なのかもしれない。

「よし、配置につこう。」

隊が分けられる。スカウトが登っていた木の下まで行くと、スカウトはさらに少し進んで、敵の方向をハンドサインで指示した。

「木登りは苦手なんだけどね。」

スカウトが立っていたところよりもやや低い幹まで駆け上ると、指示された方向に見覚えのある浅黒い肌の巨体が見える。警戒しているのか、奴は周囲を睨みつけながら、左右にうろついている。幹の上で立射の姿勢をとり、アイアンサイト越しに敵の頭を狙う。

———————魔力の収束。制御。炸裂。

少し高めの魔力炸裂音が響く。

「グオォォォォッ!」

弾丸を受けた巨体が、効いていないぞと言わんばかりに、こちらに向かって大きな叫び声を上げる。その声がまだ響いているうちに、奴はこちらに走り始めた。

「ボブソン、ゴートさん!お願いします!」

ボルトを素早く操作しながら叫ぶ。声に応じるように、ゴートのチームが右の木陰から踊り出し、レッサーオーガに斬りかかる。そしてボブソンが・・・。ボブソンが・・・。

 

いない。

 

出てこない。

 

「あいつ逃げやがったな!」

銃を構えなおし、ゴートたちと乱戦状態にあるレッサーオーガやゴブリンに狙いをつける。

ゴートがゴブリンを事も無げに切り倒し、振り下ろされるレッサーオーガの斧を両手で持った大剣で受け流す。

「頼りになるパートナーはいいねぇ!」

やけくそになりながら照準を合わせ、精密射撃でレッサーオーガを狙う。

小気味よく響く炸裂音が響いて、レッサーオーガの右腕に弾丸が魔力をつきたてる。やはりいい銃を買うと違う。

銃口をおろさないまま、素早くボルトを操作して、再び狙いをつける。

ゴートとそのパートナーの斬撃で、すでにレッサーオーガの動きは鈍り始めている。これなら、急所を打ち抜くこともできるかもしれない。

いつもより強い魔力を弾丸に付与する。ここで急所を撃ち抜けば、勝負は決まりだ。

 

ズバァアン!

敵は肩から血を吹く。急所は外してしまったみたいだ。それでもゴートなら、ゴート先輩なら!

ゴートの振り上げた大剣によって、レッサーオーガの左腕が中空に弧を描く。この距離から見ても、その一撃は致命的な一撃だった。相手の乱雑な反撃を大剣で受け止めたゴートは、その斧を弾き飛ばして、回転切りを繰り出す。

レッサーオーガの腹部が深く裂かれ、ついに巨体は膝をついた。

 

「洞穴から敵!」

スカウトが声をあげ、ついに木から飛び降りてゴートたちの元へ合流する。ここからではよく見えないが、援軍が詰め掛けて来れば、それを一体ずつ確実に仕留めればいいという話だ。宿敵のレッサーオーガは切り倒したのだから、あとは消化試合にも等しい。

 

気を緩ませていた俺の耳を、ゴートの大声が貫く。

「援軍を直視しすぎるな!固まるぞ!」

 

 

つづく