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電源・非電源ゲーム全般の紹介・考察ブログ

【SWノベル】ぬいぐるみの人:01 ロシレッタの朝

ロシレッタ港は、今日も活気で溢れていた。潮の香りが街を駆け抜け、航海を終え積荷を降ろす水夫たちの歌う声が、街のあちこちで響いている。大型の貨物が次々と船から運び出され、街を支えるバータム商会の倉庫へと吸い込まれていくようだった。

その様子を、街路脇のパラソルの下で茶を飲みながら、二人と〈ひとつのぬいぐるみ〉が見つめていた。見る人によっては、一人と〈ふたつのぬいぐるみ〉に見えるかもしれない。しかし一方は確実に生物、タビット族だった。

 

「そろそろ仕事せんといかんなぁ。」

ぼそりと呟く。前回の一件以降、一番腕の立つ冒険者だったボブソンと組むことにしたのはいいものの、二人ともあまり危機感がなく、〈ぬいぐるみ〉を囲んだ朝のひと時を過ごすばかりだった。ひとつだけやった冒険者らしいことといえば、銃を新調したくらいのものだ。ボブソンに及んでは、冒険者らしい行動を何一つしていないのではないだろうか。

「この街で、冒険者の仕事を受けるためには、どこに行けばいいんだろうな。」

ボブソンもぼんやりと、ため息をつくように言った。そう言ってすぐに、〈ぬいぐるみ〉に手を伸ばし、耳についていた埃をつまんで払う。

・・・本当に危機感を抱いているのかねぇ。

ラビットは銃の点検をしながら、小さく嘆息する。

だいたい、その〈ぬいぐるみ〉はなんなんだ。前回の山賊狩りの時から気になっていた。初めて店で見かけたときも、夜道を馬車で揺られていたときも、あの忌まわしきレッサーオーガとの戦いに彼が駆けつけたときも、そこにはこの〈ぬいぐるみ〉があった。

あのときレッサーオーガの魔法によって大怪我を負ったボブソンに肩を貸したあもちんぽに対しても、ボブソンは間違いなく、「〈ぬいぐるみ〉をとってくれ」と言っていた。命が危なくなっていて、それでも出てくる言葉が〈ぬいぐるみ〉だ。たしか「〈ぬいぐるみ〉がないと寝れねぇだろうが!」と声を荒げたこともあった。

たしかに、少女の家に邪魔するときに、あの〈ぬいぐるみ〉が役に立ったことはある。それは間違いない事実だ。その甲斐あって、あのときは敵の大将を罠に陥れて、有利な状態で戦うことができた。

 

それでも、だ。

だいたい冒険者で〈ぬいぐるみ〉を持っているやつなんて聞いたことがない。もしもコンジャラーの能力を持っていて、その〈ぬいぐるみ〉を自由に操れるなら、まだ頷ける。しかし、ボブソンは完全なグラップラーだ。こんな殴る蹴るの攻撃しか持たない男に、どうして〈ぬいぐるみ〉が必要なのだろうか。

しかも、〈ぬいぐるみ〉の運搬が必要な時には、グラップラーに必須のセスタスを装備しない徹底ぶりだ。それでも、鍛え上げられた蹴り技だけで戦ってみせている。きっとセスタスを装備して、四肢を活かして戦えば、さらに強くなるに違いない。しかし、この爺さんはそれをやらないのだ。

ただ〈ぬいぐるみ〉を運ぶためだけに。

 

そんなことを考えていると、遠くから衛兵の呼び声が聞こえてきた。

「バータム商会で冒険者を大量に雇うぞ!腕に自信のあるものは衛兵詰め所に集まってくれ!」

 

「お、仕事ですかねぇ。」

銃を点検する手を止めて、声を上げて走る衛兵に向かって、掲げた銃を振って合図をする。

「仕事は入ってくるものだよ。」

ボブソンはそれだけを言って茶を口に運ぶ。余裕を覗かせているが、わざわざ〈ぬいぐるみ〉を携えた冒険者を雇う依頼主も、そうそういないだろう。まだ駆け出しの二人は、どちらかといえば、仕事を見つけに行かなければならない立場のはずだ。

 

「もしかして冒険者さんですか?ちょうどよかった。腕が立つなら衛兵詰め所に行ってみてください。うちの商会が仕事を依頼しますから。」

「それはいい話を聞いたな。」

椅子の上に立って、ボブソンの方を見る。

「それで、どういう種類の仕事なんだ?」

ボブソンは特に衛兵の方を見るでもなく、むしろ〈ぬいぐるみ〉の方を見ながら言った。

「なんでも蛮族に対する一斉攻撃を行うそうです。報酬は弾んでくれるそうですよ。それでは、私は他にも呼びかけてきますので。どうか宜しくお願いします。」

それだけを言うと、衛兵は小走りに駆けていき、また声を出し始めた。

 

「話だけでも聞いてみましょうか。」

俺の提案に、ボブソンは同意した。

「話を聞いてから決めればいいことだ。」

そういいながら、我が相棒は彼の相棒たる〈ぬいぐるみ〉を脇に抱える。

その動作は、あまりに慣れきっていて、まるで熟練者が刀を抜くような、一縷の隙もない動きだった。

 

「なあ、ボブソン。その〈ぬいぐるみ〉さあ、」

思い切って聞いてみることにしよう。

「臭くならないの?」

 

ボブソンは小さな無言を挟んで、応じた。

「それは、当然、なるに決まってんだろ。」

 

そりゃあそうだよ。こっちも何が聞きたかったんだか、よくわからなかった。

 

 

つづく