TRPGをやりたい!

電源・非電源ゲーム全般の紹介・考察ブログ

改めてクトゥルフ神話TRPGシナリオの書き方を整理する

f:id:xuesheng:20170112142756j:plain
 何度となく書いてきましたが、その都度理論が変わりますから、現在の理論でシナリオの書き方を整理してみましょう。

 ただし、僕のシナリオライティングは昨今流行しているキャラクタープレイ推奨型シナリオのメカニズムとは根本的に異なります。もしキャラクターたちにシチュエーションプレイを要求するシナリオを書きたいのであれば、残念ですが他を当たってみてください。

シナリオとはなんなのか?

 はじめに、そもそもシナリオとはなんなのかを自分なりに説明できるようになりましょう。すでに「キャラクターたちにシチュエーションプレイを要求するシナリオ」というジャンルを紹介しましたが、これも答えの一つです。

 クトゥルフ神話TRPGは汎用システムBRPを利用していることもあり、多様な解釈で遊ぶことのできるシステムです。その多様な解釈のうち、自分が目指しているシナリオがどういった目的を持ったものなのかを把握しておきましょう。

不可避の要素:設定の解釈

 いかなる目的を持っているにしても、必ず「設定の解釈」という要素が関わります。つまり、舞台となる街で発生している事件を解明するプロセスは必要不可欠です

 その点、設定の解釈それ自体をシナリオにするというのが最も基本的な手法になります。たとえば「3日前に被害者Aが神話生物Cによって殺害されている」という命題1は、それ単独では物語ではなく設定です。「探索者がNPC1に対して交渉系の技能ロールに成功すれば命題1を獲得できる」と設定するだけで、原理的にはシナリオの“部分”として機能します。

断片と連結

 一見すると、シナリオはこうした断片的な命題に還元することができるように思われます。しかし実際には、命題の間には階層構造が存在しています

 たとえば先ほどの命題1に加えて、「被害者Aの自宅には地下への通路があり、主に同居人Bが出入りしていたとみられる」という命題2を入手したとしましょう。このときプレイヤーとしては命題1と命題2が直接に意味していない第三の命題「同居人Bが被害者Aの死に関わっているのではないか」という仮定を生み出します。

 この仮定に基づく調査(たとえば、その地下通路を調査してみるなど)の末に、「同居人Bは冒涜的な信仰に関わっており、対立の末被害者Aを殺害したとみられる」という命題3を確定できるようにしてみましょう。このとき、命題1と命題2がなければ、命題3を単独で獲得するのは困難です。

シナリオとは:断片とその連結による学習の娯楽化構造

 ここでは、シナリオを次のような構造として解釈します。すなわち断片化された命題と、その連結構造の二つで成立する、設定解釈という学習を娯楽化した構造です

 したがって、この理論におけるクトゥルフ神話TRPGシナリオの執筆のためには、4つの手順を経る必要があります。


設定の執筆

 シナリオ作成のためには、はじめに設定を執筆する必要があります。

不思議・恐怖の中心の決定

 ことクトゥルフ神話TRPGでは、なんらかの不思議な出来事や恐ろしい事件がシナリオに関わっています。設定の執筆作業を開始するにあたって、まずはこれを決定しましょう。

 とはいえ残念ながら、この段階のためのガイドラインはありません。強いて言えば、ルールブックやマレウス・モンストロルムの諸生物の設定などを読み、興味をそそられるものを選ぶという手法の難度が低いということくらいです。

 しかしこの段階での選択は案外素朴な判断で構いません。たとえばクモが嫌いだからクモ系の神話生物を使いたいという素朴さで、レンの蜘蛛を選ぶというのもよい選択の例と言えます。

3つの事件を設計する

 次にその恐ろしい存在について、3つの事件を設計します。3つの事件はそれぞれ「過去・現在・未来」の事件であり、順を追って深刻でおぞましい事件に変貌していくべきです。

過去の事件

 過去の事件を設計するにあたっては、軽度の事件になりすぎないように注意しましょう。警察が動いていたり、新聞に取り上げられていたり、人々の記憶に深く印象付けられているのが理想です。

 実際、サンプルシナリオの「悪霊の家」においても、過去の事件として一家が心霊現象に見舞われて入院したという事件が設定されており、この事件は人々の記憶に深く印象付けられています。

 過去の事件の役割は二つあります。まず探索者たちに調査のきっかけを与える役割です。たとえば探索者に依頼が持ち込まれるきっかけになったり、近親者が被害にあって自ら調査に乗り出すなどの展開もあり得ます。探索者たちは何も事件が起こっていない状況から調査を開始することはできません。

 もう一つの役割は、探索者たちの初期調査の方向性を形作る役割です。進行形の事件についての調査より、すでに発生した事件の方が物証・証言を得やすく、またすでに時間が経過しているなら新聞記事や専門家の著作などの報告も期待できます。過去の事件を設定することで、シナリオ初期のプレイヤーのストレスを軽減することができます。

現在の事件

 といって、過去の事件についてのみ調査を重ねるのは退屈な作業です。それは恐怖に立ち向かうというより考古学や警察の事件調査に近く、ただひたすらに物証を積み重ねる地味な作業になってしまいます。

 そこで探索者自らが巻き込まれることになる現在の事件を想定します。ここでもサンプルシナリオの「悪霊の家」を例にとるならば、探索者たちは実際に「悪霊の家」で心霊現象に見舞われることになるという要素がこれにあたります。

 ここで重要なのは、この事件それ自体が探索者の生命や正気度を完全に奪うことがないようにすることです。といっても、基本的には確率のゲームでもあるため、よほど不運が重なれば不可避的に死に陥ってしまうかもしれません。そうした例外は別にして、9割以上の確率で死亡しない程度の事件を想定しましょう。

 探索者の死亡はプレイヤーを萎縮させてしまいます。萎縮は調査の停滞につながるため、クライマックスに到達するのを妨げてしまいます。どうしても死亡や発狂を含む演出を利用したい場合は、同行NPCを利用しましょう。死や発狂を含む危機は緊張感を高めるのに有効ですが、緊張が萎縮を招けばシナリオは失敗に終わってしまいます。

未来の事件

 未来の事件は概念的なものでも構いません。未来の事件とは、いわゆる「起こりうる最悪のシナリオ」というもので、探索者たちが事件の解決に失敗した場合に発生する悲劇的な事件を意味します。

 最も典型的な未来の事件は邪神の復活です。先ほど取り上げたレンの蜘蛛であれば、アトラック=ナチャが姿を現したり、それがいる空間に探索者たちが招かれたりするという結末をたどることになります。そこで具体的に何が起こるかはわかりませんが、とにかくそれが探索者たちにとって悲劇的な結末であることに変わりはありません。

設定の断片化

 次に執筆した設定を断片化します。このとき、プレイヤーの調査手順などは考えず、それぞれの事件設定を解釈するのに十二分な断片を設置するようにしましょう。

過去の事件の断片化:物証化

 最も重要なのは、過去の事件の断片化です。過去の事件はプレイヤーの初期調査の対象となり、その後の事件全体の理解を補助する役割を果たします。

 そこで最終的に到達する過去の事件の真相そのものを命題Xとしてシナリオ内に配置してしまいます。この命題Xをどの段階で手に入れるのかについては、次の手順で考えるので今は考えません。

 次に命題Xの中から、神話生物の関与を疑わせる部分を取り除き、残った部分を断片化します。やや複雑な操作なので、例示しましょう。

過去の事件の断片化

命題X「被害者Aは同居人Bが招いたレンの蜘蛛に襲撃されて死亡した。レンの蜘蛛はAおよびBの自宅である邸宅の地下に作られた祭儀場に匿われている」

(1)神話生物の関与を取り除く
 命題X'「被害者Aは同居人Bの手により死に至らしめられた。その手段は不明だが、邸宅の地下に秘密があると思われる」

(2)命題を分割する
 命題1「被害者Aは同居人Bの手により死にいたらしめられた。」
 命題2「邸宅の地下に秘密がある。」

(3)命題を物的証拠・証言に変換する
 命題1−1「被害者Aによる走り書きのメモ『Bは気が狂っている!』」
 命題1−2「階段に残された血痕と粘液『転倒では死亡していない』」
 命題1−3……

 以上のように過去の事件を断片化します。この時点では「どうやって手に入るのか」は設定しません。断片化された証拠証言は主要な探索対象になるでしょう。

現在の事件の断片化:状況化

 クトゥルフ神話TRPGでは、こうした過去の事件の真相を解き明かす作業が現在の探索者たちの置かれた状況と響き合う必要があります。過去の事件はこれから探索者たちを襲う事件の隠喩であり、対応関係になければなりません。そのことがプレイヤーに伝わるためには、過去の事件と現在の状況が一致していることを表現しなければなりません。

 そこで現在の事件の断片化の際には、小さな証拠への断片化ではなく、状況の一致性を断片化して伝えることを重視します。これまで例示してきたレンの蜘蛛の事件であれば、探索者たちが同じ邸宅に数日間宿泊しているとか、現在連絡が取れないはずの同居人Bの行動の跡が散見されるとか、そういう要素をちりばめます。

 シナリオにもよりますが、過去の事件と同じ魔術的紋章を目にするとか、特定の何かを食べてしまうとか、怪物の姿を目撃するとか、知人が過去の事件に酷似した狂気に陥っているようだとか、さまざまな状況の一致がありえます。こうした要素を追加する段階で、過去の事件の物的証拠の断片に追加を行っても構いません。

 実際、「悪霊の家」を振り返ってみると、証言で聞いていた怪現象が次々発生することで、この家に悪霊が住み着いているという確証を与える構造になっています。情報をいたずらに増やすよりは、過去の事件との一致性によって恐怖を演出した方がシナリオがコンパクトにまとまる好例と言えるでしょう。

未来の事件の断片化:真相の配置

 未来の事件に関する命題は、魔道書やクトゥルフ神話技能による伝達としても構いません。通常のプレイングの範囲でプレイヤーに伝わるのは、「なんかやばいことになる」とか「とりあえず私たちは死ぬ(狂う)」程度で構いません。

 実際のところ、破滅的な予感はあってもなくても構わないというのがクトゥルフ神話TRPGシナリオです。たとえば「悪霊の家」では、放置したところで何が起こるわけでもありません。「屋根裏部屋の怪物」でも似たようなものですし、「死者のストンプ」も多少の騒ぎになるでしょうが軍隊で封殺できそうな程度です。

 しばしば悲劇的な結末(探索者の死亡や発狂、あるいは世界の破滅など)を用意することが推奨されますが、むしろ僕からはそうしたものは必要ないと述べておきます。というのも、探索者の調査が失敗に終わることはしばしば発生しますし、そうした場合に探索者を不可避的に死亡させたり世界を終焉させるのが正しいかといえば首をかしげざるを得ないからです。

 この点については別の記事で詳しく論じていますので、そちらをご笑覧ください。

trpg.hatenablog.com

断片を構造化する

 ここまで断片が揃ったら、構造化を開始します。構造化は三つの手順で行います。すなわち階層化・連結・秘匿化の三段階です。

階層化

 まずは階層化という作業を行います。階層化とは、セッションのどの段階でどの情報断片にアクセスできるかを決める作業です。シナリオは概ね3つか4つの段階に区別されます。ここでは最も基本的な構造である3層の構造を紹介します。

第1階層:外縁部

 第1階層では探索者たちは過去の事件を調査する立場です。自分たちの身に危険が迫っているというよりは、過去の事件の真相を解き明かすつもりで事件に関わります。したがって、この段階ではどれだけ情報を得られたとしても、過去の事件の断片のうち神話生物の影を取り除いた命題X'を限界とするべきです。むしろそれに至らない情報断片しか手に入らないとするのが妥当でしょう。

 サンプルシナリオを例にとって外縁部を例示すると、次のようになります。まず「悪霊の家」であれば、家に入るよりも前の段階を意味します。前の住人に聞き取り調査をしたりしますが、探索者が過去の事件と同じ状況に陥ることはありません。あるいは「屋根裏部屋の怪物」であれば、これもやはり屋根裏部屋のあるあの家に入る以前の段階です。

第2階層:状況下

 第2階層では探索者たちはリスクを帯びた状況に置かれます。つまり現在の事件の状況が開始され、自らが過去の事件と一致した状況にあるということがわかり始めます。自分たちがいる場所がまさしく過去の事件と同じだったり、同行していた人物が過去の事件と全く同じ狂気を発症し始めたり、自らの体に過去の事件と同じ異常が起こり始めたりします。

 したがって、この階層には過去の事件に関わる命題Xを含む全ての命題と、さらに状況の一致を物語る現在の事件の断片が配置されます。さらに第2階層の情報断片を全て獲得したとき、プレイヤーは未来の事件の予感を獲得している状況が望ましいと言えます。ただしここで獲得するのはあくまで予感であり、「特定の場所に赴けば真相が明らかになるだろう」とか「特定の道具が事件の真相に関わっているだろう」といった解決の予感と表裏一体であるのが望ましいでしょう。

 第二階層を終えたとき、プレイヤーはすでに過去の事件の概要を理解しており、現在の自分たちが危険な状況にあることを十分に理解しています。そのうえで、さらに危険な状況に関わって事件の真相を解き明かし、起こりうる最悪の事態を回避することを試みるのか、あるいは真実から目を背けてどこか安全な場所に逃げ出そうとするのか、探索者たちは選ぶことになるでしょう。

第3階層:クライマックス

 これまでに回収してきた断片をもとに、事件の真相を直視し、怪異の中核と対峙します。この段階に配置する情報断片は特にありません。魔術書や祭器などの決定的な存在を利用できる形で獲得する(獲得していたものが使えるようになる)段階とも言えます。そうした重要なオブジェクトには破滅的な結末が描かれていることもあるでしょうから、同時に未来の事件の予感を抱かせることもできるでしょう。

 クライマックスは基本的にプレイヤー側の発想に従うことになります。シナリオ側でその処理を詳しく決めることはしないでおいた方がよいでしょう。ただし、クライマックスの前半にダイスロールが必要な部分を多数配置するのはセッションの緊張感を高める良い演出です。実際にそうした判定指示をゲームキーパーが採用するかはわかりませんが、クライマックスに際して多数の技能ロールを実施することをキーパーに意識させるようにしましょう。

連結

 3つの階層に配置分けした断片の間に連結構造を作ります。最初の方で説明したように、順序立てて獲得するのが望ましい断片もあります。そうした断片についてのみ、連結構造を作ります。連結構造にはいくつかの種類がありますが、ここでは最も単純な広場と鍵の二つだけを紹介します。

広場

 たとえば同じ部屋とか同じ街の中で、順不同に自由に手に入れられる状態の情報断片を広場と呼びます。広場を作ることで、探索先をプレイヤーが選択するという要素が生まれます

 広場の形成には空間のデザインが要求されます。広場に含まれる断片が多過ぎればプレイヤーは途方にくれますし、具体的な探索対象が示されなければ(たとえば「図書館か大学教授のところか画家のところに行ける」とか、「書斎と寝室とクローゼットを調べられる」とか)やはりプレイヤーは途方にくれます。

 一方、特定の断片を取得したりその断片の取得を技能でスキップするなどの過程があってはじめてアクセスできる情報断片の構造もあります。このとき、条件になる情報断片やその代わりの役割を果たす技能を「鍵」と呼びます。

 その名の通り、シナリオ内でも鍵のイメージを持つと理解しやすくなります。たとえば鍵を含む情報断片を手に入れることで、教会の地下という広場へのアクセスが可能になるという関係を「鍵」と呼びます。当然、鍵開けなどの技能がこの手順をスキップさせてくれます。

 他にも誰かからすでに事情を聴いていたり、事件に関わる重要な品を譲り受けていれば、硬い口を開いてくれるといった展開もあり得ます。この場合でも説得や信用などの技能が代替してくれることでしょう。

秘匿化

 最後に構造化した情報に技能判定が必要か否かを設定しましょう。とはいえ、技能判定は確率で失敗するものであり、技能の失敗でセッションが停止するのは望ましくありません。

 そこで二つの方法で情報の秘匿を行います。最も広く用いられており、すでに組み込まれているのは「鍵」のスキップとして技能を用いるパターンです。この場合、技能に失敗したとしても、その代わりになる「鍵」の断片を取得することでセッションの停止を回避することができます。

 もう一つの方法は、追加的な断片に対して技能を課すという方法です。クライマックスへの到達に必要不可欠な情報には技能を課さず、一方でよりプレイヤーの目的に即した断片には技能判定を課すことで、探索の意義を作り出すことができます。

 したがってここで重要なのは、どの情報断片がシナリオの停止を回避するために必要不可欠なのかを判断することです。欠落したとしてもクライマックスまで到達は可能であり、生存や狂気の回避の条件となるだけの情報断片については、チェックマークを書き加えるなどして技能判定が必要になることを把握しておきましょう。

娯楽化:解釈過程をゲームにする

 さて、ここまでで探索過程がデザインされ、十分に遊べるシナリオとして仕上がっていることでしょう。しかしこの段階ではエンターテインメントとしての視点が欠落しており、展開が単調だったり、ひたすら図書館通いというか、技能ロールを繰り返すばかりのシナリオになってしまっていたりします。

 そこで最終段階ではシナリオをゲームとして仕上げる娯楽化の作業を行います。娯楽化は最も高度で複雑な段階であり、それ以上に重要なこととして、いかなるプレイヤーに対しても必ず成功する手法は存在しない段階と言えます。それゆえ、どのようなプレイングを想定してシナリオを娯楽として作り上げるのかを具体的にイメージする必要があります。

 そうした事情から、ここでは娯楽化のいくつかの手法について整理するに止めようと思います。

正気度判定の追加

 第一の手法として、適時正気度判定を組み込むことで、展開にアクセントをつける方法があります。

 クリーチャーによってひどく損壊された死体を発見したり、神話生物の存在を匂わせるメモが残っていたり、あるいはクリーチャーそのものが出現したりするとき、正気度判定が実施されます。シナリオの各所で正気度判定の場面を組み込むことで、シナリオが平板なものではなくなります。

 ただし、特に脈絡のない正気度判定はプレイヤーに対するストレスの原因ともなります。通常、正気度判定が実施される場合には、それにふさわしいだけの情報的な前進を伴うようにしましょう

盛り上がりの曲線を意識する

 また、単に正気度判定をまばらに配置するだけでは、全体のテンポがつかみづらくなります。そこで重要なのが、シンデレラ曲線などと呼ばれている物語の盛り上がりを示す曲線です。

 クトゥルフ神話TRPGの場合、探索者たちが置かれている状況の危険度が上がるほど、シーンの緊張感が増し、盛り上がるシーンとなります(これにダイス判定の頻度を比例させるのが通例です)。

 複数の曲線型がありえますが、最も典型的なものとして二種類の曲線を提示しておきます。

開幕でホラー展開があるパターン

f:id:xuesheng:20190420234509p:plain
 開始早々に明確な恐怖が展開するシナリオパターンです。正気度判定やダイス判定の多くなるシーンが開幕とクライマックスに集中します。そのかわり、緊張感の少なくなる中間で探索を行うという構成になっています。

 曲線の性質上、事件に巻き込まれたり知人が死亡するなどの展開から開始されるのが一般的です。そうした展開が望ましいと判断する場合、この構造を意識してみましょう。序盤に正気度判定を含む恐怖シーンで盛り上げ、探索シーンをサクサクと描写して、クライマックスのホラーシーンへとつなげていくことを意識しましょう。

 なお、公式シナリオでは「死者のストンプ」や「もっと食べたい」などが該当します。

途中から襲撃を受けるパターン

f:id:xuesheng:20190420234523p:plain
 一方、開始時点では恐怖の断片が見えていないパターンもあり得ます。普通の事件と思っていた事件の調査を進めるうちに恐怖の世界に足を踏み入れていき、途中で神話的恐怖を目撃し、それに立ち向かうというオーソドックスなクトゥルフ神話の構造でもあります。

 曲線の性質上、依頼を受けることで始まるシナリオに適しています。今日の社会では他人の依頼を受けて本格的に調査することは稀で想像しにくいかもしれませんが、そこはフィクションとして許容しましょう。

 また、巻き込まれるタイプのシナリオであっても、船や館などの閉鎖空間に閉じ込められる場合には、この曲線を利用することができます。

 なお、公式シナリオでは「悪霊の家」「屋根裏部屋の怪物」などが該当します。


複数の手段を用意する

 以上の演出上の配慮に加えて、ゲーム上の配慮も欠かさないようにしましょう。

 すでに連結の手順中でも述べましたが、クトゥルフ神話TRPGでは全ての技能の成否が確率で決定されるため、全ての技能が成功することを前提にシナリオを作ってはなりません。こうした事態を回避するためには、情報断片を獲得するために複数の手段を用意する必要があります

人媒体と物媒体

 一つ目の手法は、同じ情報を物語る人物と物質を用意しておく手法です。証言だけに依存してしまうと、交渉系の技能の重要度が異常に上昇してしまい、推奨技能とか必須技能という扱いになってしまいます。そこで同じ情報命題を獲得する他の手段として、必ず物質媒体の証拠を残すようにしましょう。

 これによって、〈鍵開け〉や〈化学〉などの対物技能の重要性も等しく上げることができ、シナリオとしてのバランスを最も容易に取ることができます。

技能なしの迂回ルート

 また、忘れがちですが、たとえ複数手段を用意したとしても、すべての技能に失敗する探索者はあり得ます。そうした場合にシナリオが完全に停滞してしまうと、セッションが失敗に終わってしまいます。

 対策として、手順が増えるものの確実に技能をショートカットして、シナリオ進行に必要不可欠な情報命題を獲得できる手段を用意しておきましょう。あくまでこの手順を整えるのはシナリオのクライマックスに到達するために必要不可欠な情報だけで構いません。それ以外の追加的な情報については、こうした配慮はむしろ入れない方がよいでしょう。

 ここで誤解してはならないのは、クライマックスとはあくまで「対峙」のことであり「撃退」とか「勝利」を意味しないということです。最終的に神話生物に対峙することを保証するだけでよく、探索者の無事を保証する必要はありません


まとめ

 シナリオの製作手順を整理しました。以上の手順を確実にこなせば、シナリオが完成しないということはまず起こりません。必要なのはプレイヤーたちに解き明かしてもらう設定を作成し、それを適宜断片化する想像力だけです。

 シナリオ製作の手順は定式化されておらず、しばしば極めて難しいものと誤解されがちですが、実際には誰でもこなすことのできる遊びの一つです。気負うことなく、自分好みのシナリオ制作を楽しみましょう。