心に救済を与えるアーティスティックパズル【GRISレビュー】
素晴らしいゲームをプレイしました。アーティスティックなデザインと配慮の行き届いたゲーム設計でプレイヤーの心に「美の力」を教えてくれる快作、GRISを紹介します。
まずは美しさを共有しよう
なにはともあれ、百聞は一見にしかず。トレーラーをご覧ください。
ミニマルなヒーリング音楽風のBGMに、水彩の手書き画面。どこを切り取っても絵になる画面運び。一度プレイを始めるとクリアするまで手を止めることはできません。プレイヤーはこの美しくも恐ろしい心象世界に引き込まれ、小さくも大きな冒険によって彼女に救済を与えようと歩み続けることでしょう。
アクションパズルとして
その美しい世界感に目が止まりがちですが、ゲームとしては横スクロールのアクションパズルとして作られています。最初期はプラットフォーマー(ジャンプアクションゲーム)の一種かと誤解されるかもしれませんが、このゲームには基本的に落下による中断は発生しません。アクションの難易度はかなり抑えられ、むしろパズルとして全体が構成されています。
非言語ゲーム
GRISはゲーム内で言語をほぼ用いません。かろうじて新しい要素が登場した際に、どのボタンを押すのかが表示されるにとどまります。たとえばはじめに習得するブロック化のチュートリアルは以下のような画面です。
これ以外に言語が表示されることがないゲームと考えれば、十分ノンバーバル(非言語)と評価してよいでしょう。
上質なレベルデザイン
それにもかかわらず快適なプレイ感を実現しているのは、空間の中に情報を適切に配置したレベルデザインの巧みさに由来しています。
たとえばブロック化の利用法はプレイヤーに委ねられています。プレイヤーは状況によって多様な利用法を思いつかなければなりません。衝撃で床やオブジェクトを壊すのはもちろん、勢いよく水に沈んだり、重りとして利用したり……しかし教えられるのはただ「このボタンでブロックになれる」ということだけです。
それにもかかわらず、謎解きに詰まることはほぼありません。次のような乗ると傾く床を目にしたとき、ブロックになって何をすればいいのかを想像するのはそう難しいことではありません。
このように毎回確実にヒントとなる要素がマップに組み込まれています。プレイヤーの自然な発想が物語を駆動させ、ストレスのないプレイ感が実現しているのです。
シームレスなシーン遷移
このゲームはプレイヤーにひと繋ぎの物語を体験させてくれるのですが、物語として体感するために違和感を抱かせる部分が見事に取り除かれています。
落ちる:場面転換
このゲームでは『落ちる』という動作を頻繁に行います。物語が大きく展開したとき、プレイヤーの目の前には広大な崖があり、勇気を持って飛び降りることになります。心のもっと奥の方に進んでいくような抽象的で詩的な印象を受けるシーンです。
そうした効果と同時に、スムーズなシーン遷移を実現しています。ステージからステージへ移動しているにも関わらず、扉を超えたりロードを挟んだりすることがないからです。画面は絶え間無く動いていて、一連の移動をひと繋ぎの物語として受け取ることを助けてくれているのです。
転ぶ:失敗しても続く
もう一つ言及しておきたいのは、このゲームにゲームオーバーが存在しない(らしい)ことです。完全に確認したわけではありませんが、この仕様は実に優れた要素として取り上げるに値します。
プレイヤーがパズルの過程で失敗すると、落下したり、転んだりします。しかしその程度の失敗なら、また前を向いて歩き出すことができるでしょう。この要素によって、物語は決して後退することも中断することもなく、たえまなく前進し続けるのです。
ムービーかプレイか
また、ムービーとプレイの境目でさえも曖昧です。一見してムービーに見えるシーンでも、プレイヤーの入力が受け付けられています。その入力によって微妙にムービーの展開が変わる様は、水彩の美しいアートもあいまって、自分がこの物語を動かしているのだという感覚をプレイヤーに抱かせてくれます。
皆さんもプレイしてみる際にはムービーをムービーと思わず、入力を続けてみてください。いえ、そんなこと言わずとも、思わず入力を続けてしまうことでしょう。それほどにまで完成している作品です。
GRISを遊ぶなら
現在steamでの配信と、Nintendo Switchでの配信が行われています。
1周のプレイ時間は2時間強、長くて3時間といったところです。短い時間とはいえ、充実した時間を過ごすことができることは保証します。大変完成度の高い作品だったので、皆さんも是非プレイを検討してみてください。
ちなみに、僕の方でプレイ動画(実況なし)も投稿しています。末尾に声でコメンタリを入れていますが、最後なので気に入らない方は飛ばしていただければと思います。プレイ感を見てから購入したい方は是非ご覧ください。