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【連載】ラインズ 線の文化史 を読む(4)

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こんにちは。「ラインズ 線の文化史」もいよいよ後半戦です。

 

 今回扱うのは「系譜的なライン」という項目です。かなり短い章なので、さっくりといきましょう。

 

 そもそも「系譜」とはいわゆる家系図的なもので、祖先から子孫へという列を線的なものとして認識する私たちの考え方に根ざしています。しかし「祖先から子孫へという列を線的なものとして認識する」とき、皆さんはどのようなイメージを持っているでしょうか?

 

 

家系図というネットワーク

 歴史的な資料や祖先をたどるようなドキュメンタリ番組などでは、「家系図」という方法がしばしば採用されます。この方法は歴史的に見ればキリスト教の影響下で近親婚を禁じるために家系図を記録した方法に端を発します。

 しかし系譜図の記録には難しいところがあり、つまり遠い祖先が幹になり、現在を生きる人間が枝葉になってしまうのです。時が経つにつれ系図は三角形に系図はひろがっていくことになります。とはいえ、中世での土地の相続目的の系図運用がはじまっても、幹の部分に歴代の当主を書き加え、枝葉に傍系親族を書くという手法が続きました。

家系図表記法の確立

 こうした系図法を学術的に体系化したのは人類学者のリヴァーズで、男性を△、女性を○で表し、婚姻を=、親子関係を線でつないだものでした。学術領域ではよく見かける図ですが、常用としては記号の代わりに顔写真や名前などを用いるのが一般的です。

 しかしこの方法は明らかにネットワーク的です。個人はその位置に固定されていて、誰とどう関わったとか、いつまで生きていたのかとか、そういうったことはわかりません。したがって、本当の意味で私たちが抱いている「連綿と続く系譜」のイメージに見合った表現方法とは言えないのではないかと主張されます。

 とはいえ、この方法にも明らかに有用性があります。それは私たちが何かを受け継いでいる一個体に押し込められる場面です。たとえば遺伝形質を受け継いでいるという点だけに集約するとどうでしょうか? 実はちょうどダーウィンの「種の起源」にそういう図が登場すると指摘されています。

 

線的な系譜図

 しかしもし、私たちが受け継いでいるのが“文化的な形質”とでも言うべきものだと考えたとき、この表現は果たして適当でしょうか?

 

 そこで用いられるのが線的な系譜図です。アンリ・ベルクソンという哲学者の発想に端を発し、人間のライフスパンを線で表現し、その接触を線の絡み合いで表現するという方法です。

 それは一種の組紐細工の様相を呈します。綿密に触れ合っていた頃には互いにもつれあっていますが、時間の経過につれ一度二つの紐が遠くに離れ、片方の紐に絡み合うようにもう一つの紐が生まれてまた分かれます。その紐は最初の紐とも時折絡みながら、また別の紐を生み出していくことでしょう……

 

 親族関係だけをこのように描写するのは本来不適切であり、より広く多くの人々がこの組紐細工に関わっているはずです。これこそが文化や習慣の伝承の姿であり、系譜的なラインの本来の表現系ではないでしょうか?

 

蛇足

 という短い章でした。しかし実に示唆に富む話が書かれていたようにも思います。

 この章で展開された内容は、実は様々なものに活用できます。たとえばゲームの話をしてみます。任天堂によるマリオシリーズの歴史を系譜的なラインとして考えてみましょう。それは次のような系図として描くことができるかもしれません。

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 単線的に発売順に並べると(後半はシリーズでまとめてあったりもしますが)、開発順の系譜的な関係を理解することは確かにできます。しかしもし、「マリオシリーズが持つエッセンスの系譜関係」を描こうとすると、こうした描写では不適切です。

 そこで次のような組紐のような系図に書き換えてみましょう。

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 様々な線が作品において絡みあい、次の作品へと伸びていったり、ある作品で無視されていたり、「マリオシリーズ」という作品群が線的な関係から面的な配置を獲得し始めているのがわかるかと思います。

 ここにさらにヨッシーシリーズの系譜を配置したり、マリオカートやパーティ、テニスなどの周辺ゲームの展開を並置してキャラクターの相互利用状況などを組紐細工として抽出すると、「マリオシリーズ」という布のような表面が編み出されることでしょう。このような組紐細工として系譜を理解するという発想を提案したのが本章の内容だったということになります。こうして整理するとかなりわかりやすいですね。

 

 こうした理解は単線的な発展性を前提としなくなる点で、作品分析にも適していると思われます。「前作からある要素がなくなって、ある要素が追加された」とか「あの作品のコンセプトに立ち返った」とかいう理解ではなく、作品はすでに「マリオシリーズという布の上にある」以上、どの糸を集めてきたのかという表現で語られることになります。単純に新しい要素を追加するだけで新作だとみなすより、その組紐の巧みさ、新しい組み合わせ方に作品の魅力を見いだすことができるのではないでしょうか。

 

 というわけで、今回は短いパートでしたが、系譜的なラインについて扱いました。このシリーズもあと2回です。最後までどうぞお付き合いください。

 

次回へつづく