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罪深いシナリオ“クリア”の話【クトゥルフ神話TRPG】

シナリオを書いていたり、キーパーをやっていると、シナリオにグッドエンドとかバッドエンドとか、クリアとかいう概念が出てくることがしばしばあります。特にノベル型シナリオやクローズドルームズ型シナリオにはこうした概念が含まれていて、半ば当然の存在として受容されています。

しかし、シナリオ“クリア”とかグッドエンドといった考え方を前提にすると、プレイヤーに思わぬ不愉快を与えてしまい兼ねません。今日はシナリオ“クリア”を前提にしてしまいがちな、ノベル型・クローズドルームズ型シナリオについて、どういう風に考えるとよいのかを整理してみます。

 

 

シナリオ“クリア”という不思議

実は、クトゥルフ神話TRPGにおいて「シナリオをクリアする」という発想はいくらか特殊なものです。

ルールブックに見るシナリオ

たしかにクトゥルフ神話TRPGのシナリオでは「恐怖から生還する」とか「脅威を排除する」というような結末が前提とされがちです。サンプルシナリオの「悪霊の家」なら元凶を排除するという目標があり、「死者のストンプ」なら元凶を回収するという目標があります。こうした目標を達成することで、「シナリオをクリアした」と考えることができるのも頷けます。

しかし実際にクトゥルフ神話TRPGのルールブックを紐解けば、克服するべき課題を示したものがシナリオだとは書いていません。たしかに「探索者が危険に対決するために、手がかりや証拠を使う*1」という場面は推奨されているので、収集した情報に基づいて危険と向き合うことが想定されているのは確かです。しかし「ロールプレイのために考案されたまとまりと構想を持つ物語*2」と言われていることにも目を向けるべきでしょう。

サンプルシナリオの結末

サンプルシナリオの結末部分をよく読んでみましょう。

探索者が問題を解決してコービットを葬り去ることができた場合には、家主は大喜びで……(中略)。探索者が家主にあの屋敷には何も変なところはないと報告した場合には、……(云々)

「悪霊の家」クトゥルフ神話TRPG第6版300ページより

重要なのは、どちらの結末が「クリア」だとか「グッドエンド」だとか明示されていないということです。このゲームの目的が「楽しい時間を過ごすということ*3」である以上、いずれの結末を迎えても、楽しい時間を過ごせていればゲームとしては目標を達成したことになります。

これらの結末の差異は、報酬の有無にあります。たしかに探索者の目線では、報酬が存在する方が目標を達成した「クリア」に該当し、報酬が存在しない結末は「失敗」に該当するのかもしれません。その点、「シナリオクリア」という概念が発達したのもそう不思議なことではありません。

小結:ルールブックにも目標達成の有無はある

今日「シナリオクリア」という語がどういう意味で利用されているかは定かでありませんが、少なくともルールブック時点でそれに類する概念は存在していました。すなわち「目標の達成」という概念です。シナリオには目標があり、シナリオ目標を達成すれば報酬が与えられ、達成しなければ報酬が与えられないように書かれています。

一方、水準をシナリオからゲームに移すと、ゲームの目標は「楽しい時間を過ごすということ」です。この点を考慮すれば、クトゥルフ神話TRPGをプレイするとき、二つの水準の目標意識がプレイヤーに課されていることがわかります。すなわち、〈楽しむこと〉と〈目標を達成すること〉の二点です。

 

シナリオ目標が生み出す“クリア”

したがって注目すべきなのは、シナリオの目標設定というポイントです。ノベル型、クローズドルームズ型のシナリオにおける目標設定を再考してみましょう。

クローズドルームズ型シナリオの目標

目標達成と失敗

一般的なクローズドルームズ型シナリオでは、シナリオの目標は「閉鎖空間からの脱出」に置かれます。ルールブックに規定された結末のように、シナリオ目標の達成と非達成を併置すると、次のようになります。

達成:閉鎖空間からの脱出+報酬

失敗:閉鎖空間に残留

こうした二つの結末が存在すること自体は、ルールブックでも十分想定されています。しかし、クローズドルームズ型シナリオの特徴を加味すれば、この目標設定が大きな失敗に繋がっていることも理解できます。

オチとして死亡や発狂を足す

クローズドルームズ型シナリオでは、そもそもシナリオの始まりは「閉鎖空間に残留していること」に他なりません。もし目標達成に失敗した場合、物語の開始と結末が全く同じ状態になる危険性があります。このとき、「オチがつかない」という事態に発展します。

そこでシナリオとして無理にでも「オチをつける」ために、失敗時にはしばしばイベントが追加されます。閉鎖空間という特殊な設定の都合上、その多くは探索者の死亡や発狂を招くものです。逮捕や精神病院への収監といった結末を採用できない閉鎖空間では、プレイヤーが未来永劫閉鎖空間に囚われるというオチの採用が最も容易なのです。

 

 

ノベル型シナリオの目標

同様にノベル型シナリオについて考えてみましょう。ノベル型シナリオには明確な物語の筋があります。その物語の筋は概ねハッピーエンドから不幸な結末にまたがっていて、プレイヤー達の取り組みの末に物語の結末が変容するという形式をとっています。

目標達成と失敗

一般的なノベル型シナリオでは、シナリオ目標は「最も幸福な物語の再現」に置かれます。シナリオ製作者が描いたいくつかの物語のうち、脅威に立ち向かって克服した場合にたどり着くのが「最も幸福な物語」であるように設計されていることでしょう。

したがって、失敗した場合には、「最も幸福な物語とは異なる物語」へと収束します。通常のシナリオとの違いは、〈物語的幸福〉という概念が含まれ、それをシナリオ側が規定しているという点にあります。〈物語的幸福〉は日常語の幸福に加えて、物語としての伏線の回収量や、納得感、まとまりの良さといった「物語としてよくできている」という感覚を含みます。日常生活における幸福感が多少なり一致することは期待できますが、〈物語的幸福〉は物語の嗜好性や読解・解釈能力、過去の読書習慣等によって大きく左右されます。

〈物語的幸福〉と情報量

ノベル型シナリオでシナリオ“クリア”の概念が登場するのは、〈物語的幸福〉が存在する以上、避けられないことです。シナリオ執筆者は自身の考える〈物語的幸福〉を前提に諸情報を配置しており、全ての情報を集めれば同じ〈物語的幸福〉にたどり着いてくれるはずだと考えることでしょう。

そしてその報酬として、三つの目標を一つの結末に結びつけます。すなわち、

  • ゲームの目標:脅威の克服
  • 探索者への報酬:生存や正気度回復
  • 〈物語的幸福〉:伏線の回収と登場人物の幸福

の三つが、たった一つの結末に共存することになります。そうすることで、プレイヤーが積極的に想定結末へと向かうことを支援し、物語の再現性を高めようとするのです。

この措置はシナリオ作者の配慮*4から生まれていますが、その一方で、単一の結末のもつ報酬を過剰に高めてしまってもいます。ゲーム的目標を達成し、なおかつ〈物語的幸福〉を実現して、探索者報酬を得られるような状態は、いくら他の結末が物語として魅力的な展開を含んでいたとしても、やはり“クリア”に相当する結末に違いありません。

 

 

一回性のゲームで“クリア”はツラい

“クリア”が導く“良いプレイヤー/悪いプレイヤー”

以上の整理に示したように、ノベル型やクローズドルームズ型シナリオでは、目標の達成と失敗は通例よりも落差の激しいものとなりました。それぞれ簡潔に整理しましょう。

クローズドルームズ型
達成:閉鎖空間からの脱出+報酬
失敗:閉鎖空間への残留+死亡やそれに類する状態

ノベル型
達成:〈物語的幸福〉+報酬
失敗:相対的に不幸な結末(NPCなどの死亡)

こうした状態は、事実上*5「単一の結末以外を認めない状況」と言えます。このとき、シナリオは“良いプレイヤー”と“悪いプレイヤー”をふるい分ける装置になってしまい、失敗したプレイヤーは「シナリオに“悪いプレイヤーだ”と撥ね付けられた」という印象を抱き兼ねません。これではプレイヤーは〈楽しい時間を過ごす〉というゲームそれ自体の目標達成にも失敗してしまうかもしれません。

“クリア”は本質的に言い訳ではないだろうか

ここまで考察してみると、シナリオ“クリア”という言葉は、コンピューターゲームの概念を借りてくることで、こうした事態に言い訳を与えているようにも思われます。実際、コンピューターゲームでは、“クリア”という概念は当たり前に利用されています。個別の課題に失敗すればキャラクターは死亡して、少し前のところから再スタートさせられます。

しかしリトライを前提とした“クリア”概念の運用と、一回性のゲームにおける“クリア”概念の運用は明確に区別する必要があります。プレイ時間の長さと情報ゲームという性質から、一つのシナリオは一回性の遊びと認識されます。たとえばコンピューターゲームにおける長編RPGを遊んでいて、100時間ほど遊んだ末に、あなたの決断は間違っていたから抵抗不可イベントで即死してセーブデータを削除しますと言われるような、強烈なペナルティなのです*6

 

シナリオから“クリア”を取り払う

こう考えると、シナリオ“クリア”という概念の罪深さがようやくわかってきます。ましてやそれを事実上ダイスで左右しようというのですから、あまり楽しいものとは言いにくいかもしれません。そこでノベル型シナリオやクローズドルームズ型シナリオから“クリア”概念を取り払うことを意識する戦略について考えてみましょう。

ルールブックに立ち返る

この記事を通じて、「目標の達成」と“クリア”は異なる概念として用いてきました。特に達成と失敗の差が大きく開いているとき、人はそこに“クリア”を見出してしまうと論じています。そこで最も基本的な方策は、ルールブックでも認められている「目標の達成」を控えめに受け止めて、そこに過剰な報酬や幸福を加えないように配慮することです。

「死者のストンプ」の例

一例として「死者のストンプ」の結末を見てみましょう。実に細かく結末処理の条件が書かれています(ルールブック第6版326ページ)。これを報酬量をベースに整理すると次のようになります。

「死者のストンプ」の結末と報酬

最高報酬:悲劇の阻止・リロイの発狂・魔具の破壊・犯罪者の逮捕

平均報酬:悲劇の阻止・リロイの発狂

報酬なし:悲劇の発生・リロイの死亡

これまでに回した経験から、犯罪者を逮捕した報酬を得る例はほとんどないと考えられます。魔具の破壊についても、そこまでは描写しないで結末とすることがしばしばです。したがって、平均的な結末ではシナリオ目標である「悲劇の阻止」と「リロイの発狂(生存)」という結末を迎えます。

このとき、“クリア”という概念は相対的に発生しにくくなっているのがわかります。プレイヤー達が「犯罪者の逮捕」や「魔具の破壊」にこだわりを見せず*7、しばしば描写外に追いやられていることからも明らかです。

あえて改悪すると見えてくる

もしも次のような報酬配置になっていた場合、これは明瞭な“クリア”型シナリオと認識されたでしょう。

“クリア”型の報酬配置の例

最高報酬:悲劇の阻止・リロイの正気での生存

平均報酬:なし

報酬なし:悲劇の発生・リロイの死亡

うまく悲劇を阻止できれば、リロイは悲しみを乗り越え素晴らしい音楽を吹き鳴らしてくれるという結末だと、俗にいうハッピーエンドにはなります。「悲劇の阻止」は「シナリオ目標の達成」と関わっているため、これ自体は問題ありません。しかしその結果に伴って明確に幸福と不幸が変化するような状態だと、“クリア”の概念が頭をよぎってしまいます。

このシナリオでは「発狂して生存する」という灰色の結末が利用されることで、達成と失敗の差を小さくとどめています。さらに最高報酬をあくまで付加的なおまけ要素に関わる部分に配置して、最高報酬の実現が必ずしも〈物語的幸福〉とは関わらないように配慮されています*8

クローズドルームズ型の目標を変える

シナリオ目標非達成=脱出失敗=死亡はやりすぎ

上述の方法でノベル型については多少の対策をとることができます。しかしクローズドルームズ型となるとそうもいきません。クローズドルームズ型では「閉鎖空間からの脱出が実現できるか否か」がシナリオの根幹にある区分律です。それゆえ、この要素を残しながら、“クリア”概念を排除して、“良いプレイヤー/悪いプレイヤー”の区別を感じさせないように改変する必要があります。

クローズドルームズ型シナリオを“クリア”的にしているのは、失敗時に伴われる探索者の死亡というペナルティです。まずはこれを取り払うことにしましょう。それでは探索者はシナリオ目標に失敗しても生存することになってしまいます。まずはこれを受け入れ、シナリオ目標に失敗しても密室からの脱出を果たすものと割り切ってしまいましょう。

シナリオ目標を脱出と切り離す

しかし密室からの脱出はシナリオ目標そのものと密接に関わっていました。そこでシナリオ目標を〈脱出〉とは別に追加します。これによってクローズドルームズ型シナリオの目標と報酬設定は次のように変化します。

クローズドルームズ型シナリオの改変

達成:《悲劇の阻止》+報酬(+密室からの脱出)
失敗:《悲劇の発生》(+密室からの脱出)

このように設定し直せば、達成と失敗の間の差異はかなり小さくなります。ここで重要なのは、シナリオ目標を〈脱出〉から《悲劇の阻止》へと移行させることです。悲劇の内容はシナリオにもよりますが、プレイヤーはその悲劇をプレイできるのが理想です。そして悲劇は仮想の密室の内部ではなく、現実的な空間で発生するように設定するのが理想的だと思われます*9

 

まとめ:非達成が許容できる作り

クトゥルフ神話TRPGというゲームの性質上、シナリオ目標の非達成になんらかの悲劇が発生するのはやむを得ません。しかしサンプルシナリオを見てみると、実はシナリオ目標の非達成が直ちに探索者の死を招くことはありません。一方、なんらかの克服し難い悲劇的な状況に直面したり、親交のあったNPCが死亡するなどの事態は発生します。

こうした配慮はシナリオ達成と非達成の報酬差が大きく開くことを防止し、シナリオの“クリア”の感覚を生じにくくして、多様な物語の展開を許容しやすくしています。今回は特にノベル型シナリオとクローズドルームズ型シナリオについて対策を紹介しましたが、この考え方は他のシナリオについても言えると考えています。

プレイヤーが目標の非達成とそのペナルティを許容できるように設計することで、シナリオの展開自由度は大きく広がります。草稿が完成したら、一度この考え方についても省察してみてはいかがでしょうか。

*1:第6版の147ページ

*2:第6版の37ページ

*3:第6版29ページ

*4:探索者の積極的な行動が良い結果を生み出すようにしておきたいという配慮

*5:たとえシナリオライターが他の結末を許容する心構えを持っていたとしても、こうした結末が設定されている時点で、プレイヤーの「単一の結末以外を認めない状況」という認識を導きかねないという意味。

*6:こうした感覚はプレイヤーによって違っていて、たとえば毎日セッションしている人なら「明日にリトライできるからいいや」と受け取るだろう。しかし1ヶ月に1回だけセッションしている人は、1ヶ月後に同じシナリオを遊びたいかと問われると、別のシナリオを遊びたいと考えるため、事実上一回性の遊びになってしまう。

*7:せいぜい回収すれば十分という認識が多いように思われる。それを破壊するかどうかはキーパーに尋ねられると破壊しておくとか口にすることが多い。

*8:多くのプレイヤーがそれらおまけ要素を軽視するということは、〈物語的幸福〉とは縁遠い要素であることを示唆している

*9:このあたりは説得的になりさえすればあまりこだわる必要はない