ダイスゲーム型シナリオの基本構造【ソード・ワールド2.0】
ソード・ワールド2.0のシナリオ構造として、ダイスゲーム型というものを提案します。
ダイスゲーム型シナリオは次のような悩みを解決してくれます。
- セッション時間が長くなってしまう
- プレイヤーたちの行動が自由すぎて処理しきれない
- うまく探索関係の行為判定を組み込めない
一方で、ダイスゲーム型シナリオは次のような課題を抱えています。
- 物語的な展開に欠ける
- マップや演出を省略するため没入感に欠ける
この記事では、物語的な要素を減らす代わりにスムーズな進行を実現したダイスゲーム型シナリオについて、その基本的な作り方と応用的テクニックを紹介します。
ダイスゲーム型シナリオとは?
ダイスゲーム型シナリオとは、シナリオ内で発生する判定とその報酬・ペナルティの一覧によって構成されたシナリオで、プレイヤーの主要な目標がリスト全ての判定の克服に置かれるようなシナリオ構造です。
ダイスゲーム型シナリオの例
たとえば、「サーベルタイガーを討伐してほしい」という依頼について、次のような設計を行います。
サーベルタイガー討伐シナリオ
見識判定14 生息地を予測しよう(全員挑戦可能)
成功:以下の判定の目標値−1
失敗:ペナルティなし。再判定不可軽業判定15 危険な岩場を越えろ(代表1人挑戦)
成功:岩場の先に遺跡が! 情報を売れば追加報酬2000G
失敗:岩場から落下。2d6+5物理ダメージ地図製作判定16 迷いの森を抜けなければ(全員挑戦可能)
成功:蛮族の武器が捨て去られていた。追加報酬500G
失敗:危険な植物の生息地に入ってしまった! 戦闘!天候予測判定14 なんだか雲行きが怪しい(全員挑戦可能)
成功:大雨の予感! 休憩した岩屋で遺品を発見。追加報酬500G
失敗:大雨だ! 防寒着のない冒険者は2d6水・氷属性魔法ダメージ足跡追跡判定14 獣道を見つけた(全員挑戦可能)
成功:サーベルタイガーを発見した! 戦闘!
失敗:見つからない……再判定を実施する
プレイヤーたちはこのリストから好きな順序で冒険を進めることができます。それぞれペナルティと報酬が設定されているので、どの程度の報酬を求めているのか、どの程度の回復リソースが用意されているのかによって、プレイヤーたちは挑む判定を選ぶことができます。
ダイスゲーム型シナリオの作り方
ダイスゲーム型シナリオを作るにあたっても、通常のシナリオと同様、ボスエネミーの選定から始めましょう。ルールブックの指示通り、冒険者たちのレベル平均+2程度を意識しつつボスを選び、さらに数匹のエネミーを加えながら、冒険者たちのパーティ構成に沿ったエネミー構成を作りましょう。その用意ができたら、次の手順でダイスゲーム型シナリオを作っていきます。
舞台と主要な判定の設定
エネミーの性質に合わせて舞台を設定します。エネミーの「生息地」の中から一つを選びます。「さまざま」となっている場合は自分で任意のものを選びましょう。
続けて生息地やエネミーに合わせた行為判定を一つだけ選びます。自然環境での蛮族や動物相手なら足跡追跡判定や罠設置判定、探索判定などが候補になるでしょう。遺跡の中なら探索判定や解除判定などを通じて遺跡の奥に進むように設定してみてはどうでしょうか。
判定に失敗したとしても、ソード・ワールド2.0には判定時間を延ばして再判定するルールがあります*1。このルールを利用することを前提とすれば、たとえ判定に失敗したとしても、何度も繰り返すうちに高確率でボスの元までたどり着いてくれるはずです。
〈作業1〉ボスにつながる行為判定の設置
行為判定の一覧から、ボス戦の開始条件になる行為判定を選ぶ。
ここで考案するのはボス戦直前の一つの判定のみで構いません。「この舞台ならこんな探索の行為判定ができるかもしれない」とか「この場所でこういう判定をしてボスにたどり着けたら劇的だな」という想像を膨らませて考えてみましょう。
行為判定リストの作成
次に、プレイヤーたちが望むなら挑戦できる行為判定のリストを作ります。行為判定の一覧*2から舞台にあったものをいくつか抜き出し、初めから5つから6つの候補としてメモ書きしておきましょう。
たとえば、遺跡の中ならば解除判定や軽業判定、罠感知判定などが活用しやすい行為判定です。逆に自然環境ならば隠密判定や足跡追跡判定、危険感知判定などが活躍させやすいことでしょう。
〈作業2〉行為判定の一覧からいくつかを書き出す
探索技能種別、判定ボーナスの能力値がばらけるように行為判定を選択。
舞台に沿うものであることを確認しながらリスト状に書き出す。
それぞれの行為判定には、成功時の報酬と失敗時のペナルティが書き込まれます。2〜3行程度のゆとりを持たせておくと以降の作業が楽になります。
状況と挑戦可能人数の書き込み
続いて、書き並べられた行為判定に具体的なシチュエーションを書き加えます。なぜその判定を行う必要が生じたのかを書き添える程度で構いません。これをしておくとしておかないとでは、プレイヤーに対する印象が全く異なってしまうため、必ず書き加えておくことにしましょう。
〈作業3〉行為判定の状況と挑戦可能人数を書き込む
舞台と矛盾しない形で、行為判定の状況と挑める人数、必要成功人数を書き込む。
状況を具体的に示すことで、探索用の魔法や探索用の冒険道具類を活用しようというプレイヤーの発想を支援することができます。それぞれの魔法やアイテムが利用がされたときには、その効果を参照しながら判定を自動成功として省略するか、目標値を下げるにとどめるか、個別に判断しましょう。
また、判定可能人数の設定も重要です。罠ならば解除に挑んだ一人だけがダメージを受けることもあるでしょう。そうした状況がプレイヤーにも伝わって初めて、誰がどのリスクを負うのかをプレイヤーたちが相談することができます。
成功報酬と失敗ペナルティの書き込み
最後に、それぞれの行為判定について成功報酬と失敗ペナルティを書き込みましょう。
成功報酬は必ず必要であることに注意してください。通常のシナリオと異なり、ダイスゲーム型シナリオでは、その判定に挑むか否かをプレイヤーが決定できます。その性質から、失敗時のペナルティしか書かれていないものは、プレイヤーたちに挑む理由がありません。
また、ダイスゲーム型シナリオでは判定は順不同で実施されます。したがって、成功失敗の結果が他の判定を不可能にしたり、逆に可能にするような状態を作ると、場合によっては辻褄が合わなくなってしまいます。時系列や順序を必要とする場合には、応用的テクニックの記事(執筆中)を参照してください。
〈作業4〉成功報酬と失敗ペナルティの書き込み
次の例を参考にしつつ、各行為判定の報酬とペナルティを書き込む。
【成功報酬の例】
- 報酬の増加
- 他判定の目標値減少
- ボスエネミーの構成弱体化 など
【失敗ペナルティの例】
- HP・MPに対するダメージ(単体/全体、物理/魔法、属性)
- 報酬の比較減少(成功時より少ない報酬)
- ボスエネミーの構成強化
- 小規模戦闘の実施 など
これらすべてを書き込んだら、そのままそれをプレイヤーへの公開用のリストとします。ゲームマスターによっては、ペナルティや報酬を隠したい方もいるかもしれません。その場合には公開用に状況と判定難易度、挑戦可能人数だけを記した公開リストを作成しましょう。
ダイスゲーム型シナリオのまとめ
今回はダイスゲーム型シナリオの最も基本的な構造を紹介しました。冒頭で注意を喚起した通り物語的な展開に欠けますが、多くの判定機会が設けられ、利益とリスクを判断して探索に挑むコンパクトなゲームとして仕上げることができます。また、状況が必ず記されていることで、探索関係の魔法やアイテムに活用機会が得られる点も特筆に値します。短い時間の中で探索関係の行為判定を含むシナリオで遊びたいとき、この構造を念頭に置いて、スムーズなシナリオを作って運用してみてはいかがでしょうか。
なお、今回紹介したものは最も基本的な構造に過ぎません。今後このスタイルをさらに複雑化させる応用的な技術についても紹介していこうと思います。