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プレイヤーの相談がまとまらない!【クトゥルフ神話TRPG】

 クトゥルフ神話TRPGのキーパリングをしていると、しばしば遭遇する事態があります。

 

すなわち、「プレイヤーたちが必死に相談するけれども、次の行動が決まらない」という事態です。キーパーの方からアドバイスをするべきなのか、あくまでプレイヤーたちに委ねるべきなのか、キーパーは悩むことになります。

 

はじめに断っておくと、こうした事態に対する万能の対処法はありません。

というのも、「プレイヤーたちの行動が決まらない」事態の原因にはいくつかの種類があり、それによって対応が異なるからです。

 

今日は「プレイヤーたちの行動が決まらない」場面がどういうときに発生するのかを、状況別に整理しながら、キーパリングによる対応策を考えてみましょう。

 

 

状況1:場面・状況の伝達に失敗している場合

 キーパリングに慣れていないうちは、しばしば状況の説明が少なくなりすぎてプレイヤーが何も行動を取れない事態が発生します。

KP:彼の案内で、奇妙な教団の教会に連れてこられました。彼は司祭を呼ぶと言って待っているよう言い、あなたは聖堂で一人残されます。

PL:ひとまず待ってます

KP:(探索したらイベントが起こるんだけどなぁ……)

 このような事態が発生するのは、キーパーによるメッセージが不足しているため発生します。次のように探索して欲しいところを明示的に伝えるようにしましょう。

キーパリングによる解決

KP:彼の案内で、奇妙な教団の教会に連れてこられました。彼は司祭を呼ぶと言って待っているように言い、その間教団の発行している雑誌でも読んでいてくれと言います。教会には見慣れない形の像が置かれており、彼が歩き去った扉の他に、入り口に近いところに2つの扉があります。今なら誰にも見られずに行動することができるでしょう。

PL:時間的にはどれか一つしか探れない感じですか?

KP:そうですね、この場で調べられるのは一つとします。どれを選んでもきっと探索にはプラスになりますよ。

  この例では、明確に探索可能な地点を説明することで、プレイヤーに選択肢を提供する方法で解決しました。

 

 しかし、他の解決方法もあります。

 すなわち、あらかじめ「そこに何があり、何を調べるために向かったのか」を明らかにしておく方法です。

シナリオによる解決

KP:というわけで、教授が言うには、教会の入り口のすぐ右側の扉が固く閉ざされていて、そこに教団の秘密が隠されているにちがいないということです。

PL:じゃあ教会に入れさえすれば、真相に近づけるってことか

〈中略〉

KP:彼の案内で、奇妙な教団の教会に連れてこられました。彼は司祭を呼ぶと言って待っているよう言い、あなたは聖堂で一人残されます。

PL:周りには誰もいませんよね? 例の閉ざされた扉はありますか?

KP:はい、周りには誰もいませんし、南京錠のかかった扉があります

PL:固く閉ざされたって聞いてたからね。鍵開けいきます

 第2の解決手段を用いる場合、シナリオ設計や序盤のキーパリング の段階から、プレイヤーの誘導を考えておく必要があります。また、伏線にしておいた情報をプレイヤーが忘れている場合もおこるので、そういうことがないように目につくところに重要情報としてメモを残しておきましょう。

 

状況2:行動のリスクを高く見積もりすぎている場合

 プレイヤーにとって、いくつかの行動は極めて危険です。キーパーはシナリオを知っているために安全だと思い込んでいる選択肢が、プレイヤーの目線では自殺行為に見えてしまう場合があります。

KP:気づかれないようにその化け物を追うと、岩壁の間に開いた穴に入って行きました。どうやらその洞穴を住処にしているようです。

PL:ひとまずここが住処ってことは覚えておいて、一旦街まで帰ります

KP:(もう街には何も情報がないよぅ……)

 シナリオ側の想定では、ここで危険を承知で突入することで物語が前に進むのですが、プレイヤーがその通りの行動を取ってくれるとは限りません。

 

 このような事態が発生するのは、やはり情報の不足に原因があります。プレイヤーが危険度を低く見積もることができるよう、なんらかの演出を加える必要があります。

KP:怪物が岩壁の間に開いた穴に入っていこうとしますが、ひどく臆病に左右を見て、中に入ったかと思えば飛び出してきたコウモリに驚いて、そうしてようやく中に入って行きます

PL:……なんか弱そう

KP:そういう印象は受けると思います

 このように様子を描写すると、PLたちが感じるリスクが小さくなります。PLたちの行動選択肢として、洞窟に侵入するという候補が加えられることになるでしょう。

 

 また、あらかじめ絶対に安全であるという保証を与えてしまうのも良い手段です。これもシナリオレベルでの準備が必要になりますが、例えば次のようなものが挙げられます。

KP:技能に成功したので、次のことがわかります。どうやらこの奇妙な鐘の音を怪物は嫌悪していて、これが鳴っている限り怪物はあなたに近づくことすらできません。

PL:倒せはしないけど身を守れはするってことね。十分十分!

〈中略〉

KP:気づかれないようにその化け物を追うと、岩壁の間に開いた穴に入って行きました。どうやらその洞穴を住処にしているようです。

PL:こっちには鐘があるし、中を見てみる分には大丈夫かな。行き止まりに追い詰めたらどうなるんだろう

KP:さあどうなるんでしょう

PL:そこまではわからないからやりすぎ注意か、とにかく行ってみよう

 このように、プレイヤーの感じるリスクを下げる方法はいくつかあります。プレイヤーによってリスクの見積もり方はそれぞれなので、どの程度の安全を保証するのが正しいという基準はありません。プレイヤーの性格に応じて情報量を調整し、プレイヤーを誘導するように心がけましょう。

 

状況3:プレイヤー間で遠慮がある場合

 実はプレイヤー間の遠慮も相談がまとまらないことの原因になります。そして思いの外こうした事態は多く発生しています。

KP :図書館です。古新聞のコーナーと専門書コーナー、あとはオカルト本のコーナーあたりが今回の探索候補になりますかね

PL1:(ストーリー的には真っ先に古新聞にかじりつきたいけど専門技能あるし専門書かなぁ……)みなさんどれ調べますか?

PL2:(重要そうなのはオカルトで私オカルト担当だけど図書館低いんだよなぁ……失敗したら申し訳ないし無難なやつやるべきだろうなぁ)私は残ったやつやりますよ

PL3:(僕ルールとかクトゥルフとか詳しくないし、決めるのはPL1さんに任せた方がいいかなぁ)どれでもいいですよ

 これに類する事態は表に現れていないだけで、頻繁に発生しています。キーパーはしばしば「どうでもいいから早くダイス振って欲しい」「シナリオ予定時間が削れる」などと思いながら、にこやかに待つことになります。

 

 こうした事態が発生する原因は、プレイヤー間での意思疎通の失敗にあります。こういうときには、ディスカッションで利用される意見を個人に求める方法を利用しましょう。

KP:図書館です。古新聞のコーナーと専門書コーナー、あとはオカルト本のコーナーあたりが今回の探索候補になりますかね。パパッと決めちゃいましょう。一番図書館使い慣れてそうな探索者のPL1さん、図書館にたどり着いて真っ先に調べたくなることはなんですか?

PL1:そう聞かれたらキャラ的には古新聞で過去のこと知りたくなるかな。技能的には専門書分担した方がいいんだけど

KP:序盤の探索ですし失敗したらフォローしあえば大丈夫! じゃ古新聞でダイス振っててください。お次はPL3さんに選んでもらおうかな。残りは専門書かオカルトか。失敗しても問題ないので、探索者のキャラ的に専門書読むって柄かどうかで決めちゃっていいですよ

PL3:じゃあオカルト本調べます!

KP:じゃあPL2さんは二人の様子を見て、あとでPL1の探索者にフォローしてもらおうと思いながらも専門書を一応探してみるって感じでどうでしょ? 失敗したらPL3さんと一緒にオカルト本読んでてください

PL2:オカルト気になるぅ! はーい、振っちゃいます

 これは優先決定権をキーパーが誰かに与えてしまう方法です。実はこの短い会話で様々なことが行われています。

  1. 個人名を指名して、全員がその人の決定を優先する状況のセット
  2. 失敗リスクと責任の免責=判断の軽量化(序盤の探索ですし〜)
  3. 各探索者に対する判断基準の提示(調べたくなることは? キャラ的に〜)
  4. 低い技能値の探索者へのフォロー(失敗したらオカルト本読んで)

 あくまでプレイヤー間の相談で進行するべきだという考え方もありますが、そう重要な場面でないならキーパーが進行を担ってもそう大きな問題は発生しません。もちろん、終盤の生死のかかるような場面でこの方法を採用すると、プレイヤーから不満が噴出しかねません。その探索の重要度に応じて、これらの方法を採用しましょう。

 

状況4:キャラクタープレイに熱中している場合

 また、キャラクタープレイが隆盛したことにより、プレイヤーたちの会話が弾んでいるにもかかわらず、シナリオが進行していないという特殊な状況も発生するようになりました。

 実際、探索者としての掛け合いはそれだけで楽しいので、そちらに意識がいってしまう気持ちもわからなくはありません。しかしキーパーとしては困りものです。なんせセッションの時間が想定よりよほど間延びしてしまうのですから。

 

 しかし、キャラクタープレイに熱中した状態のプレイヤーに対して、どうやって行動を促すことができるでしょうか?

 下手にやると空気の読めないキーパーとのレッテルは避けられませんし、実際楽しげな空気を壊したいわけではありません。その楽しい空気のまま、探索にエネルギーを割いてもらいたいというのがキーパー側の望みなのです。

 

 そこで二つの解決策を提案します。

自分もキャラクターとして介入する

 もっとも円い解決方法は、ゲーム内の登場人物として会話に参加し、行動を促すことです。友好的なNPCとして会話に参加してもいいし、敵対的な生物として状況を急変させても構いません。とにかく、プレイヤーたちに行動することの重要性をメッセージとして提供しましょう。

 メッセージは段階的に強化すれば良いので、初めは穏やかな存在で介入しましょう。それでも度々進行が止まるようなら、脅威を段階的に上げてゆけばよいのです。結果として、シナリオのギミックとして脅威が増すという演出とも重なるので、この方法にそう不快感は生じないと思われます。

キャラクタープレイに目標・着地点を設ける

 キャラクタープレイがキャラクタープレイに留まってしまうのは、それがシナリオの解決になんら寄与しないからです。しかしもし、キャラクタープレイがシナリオの解決に寄与するなら、それはロールプレイへと早変わりします。

 そこで、プレイヤーたちがキャラクタープレイが好きだとわかったなら、キャラクタープレイの場をあえて設けてしまいましょう。その際、「次にその屋敷に向かうことに決めるところまで、好きにロールプレイしてもいいですよ」などと着地点を示しておきましょう。

 通常のセッションでは、そういった些細な会話は全てカットされてしまいます。しかし、探索者が個人として価値を持って生きているということを常に意識させる方法として、キャラクタープレイにより細部を補うのは有効な方法です。少し時間がかかってしまうのは事実ですが、プレイヤーのニーズと折り合いをつける一つの方法と言えます。

 

状況5:情報の整理に失敗している場合

 最後に紹介するのは、プレイヤーたちが情報の整理に失敗し、情報が集まっているのに行動を決めかねるという、セッションのクライマックス前に発生しがちな事態です。情報量が多く複雑なシナリオを遊んだり、プレイ期間が長期間にわたってしまい序盤の情報を忘れてしまっていたりするとこの事態に陥りがちです。

 また、クトゥルフ神話TRPGの終盤では、全ての謎を解き明かしてから突入したいという心理が働きます。これにより、プレイヤーは得た情報から「課題の解決には直接に寄与しない裏設定」の解釈に時間を割いてしまいがちです。こうなると、セッションは一向に進まなくなってしまいます。これも情報整理の失敗の一つの姿と言えます。

KP :これで情報は調べ尽くしました。次の行動を相談して決めてください

PL1:これAが狂信者で、警察と繋がってたわけでしょ?

PL2:じゃあ過去の事件っていうのが警察にもみ消されてたのもそのつながりで……

KP :(その辺はシナリオ終わるときに全部わかるし次の行動には関係ないんだけどなぁ……)

 このような事態に陥ったときには、キーパーは遠慮なく「次に何をする必要があるのかだけ考えてください」などと議論の焦点を絞らなければなりません。

 また、プレイヤーたちの情報整理が追いついていないなら、思い切ってキーパーも情報整理に参加しましょう。このとき、どの点をプレイヤーが見落としているのかを探りながら、基本的に疑問文で議論に参加するのが望ましい態度と言えます。

KP :お困りのようなので、ちょっと情報を整理してみましょうか

PL1:はいはい

KP :まず目標を確認しましょうか。みなさんがやりたい、やらなければならないのはなんでしょうか?

PL2:怪物を封印しないといけないね

KP :そうですね。では、封印の方法についてわかっていることを整理してみましょう

PL1:封印には鏡のアーティファクトが必要で、あとは魔導書に従って呪文を唱えないといけない

KP :「鏡のアーティファクト」と「魔導書の呪文」というキーワードが出ました。いま手に入っているのは……?

PL2:魔導書の方だけだから、鏡を手に入れないと目標は達成できないわけでしょ?

KP :では、鏡のアーティファクトの場所について、それらしい情報を得たことありましたかね?

PL1:……あー あったよ、ほら、前に一回侵入したときに、そのときはなんなのかわからなかったけど

PL2:あれか! じゃあまた侵入か。危ない橋になるな……

KP :では、侵入の方法を考える方針でいいですかね?

PL1:おっけーおっけー

 テキストセッションなどで日をまたいでしまうと、簡単な情報でも忘れてしまうことがしばしばあります。そういうときにはあえて情報整理の補助をすることを恐れてはいけません。

 この短い会話でも、クトゥルフ神話TRPGにおける情報整理の重要なポイントがいくつか隠れています。

  1. 何をしなければならないのか、目標を意識させる
  2. どうすれば目標を達成できるのかをわかりやすく共有する
  3. 思い出す・情報が結びつく興奮を奪わない
  4. 最後に「〜でいいですか?」と尋ね、プレイヤーの意思決定だと感じさせる

 行動に結びつかない議論は基本的にセッションを間延びさせます。常に現在の目標を意識してもらうように配慮しましょう。また、その目標の達成手段は探索の過程で可能な限りわかりやすく共有しておきます*1

 特に重要なのは後半の二つです。情報処理が必要なシナリオでは、シナリオの面白さの一つに情報が結びつく瞬間のミステリーの興奮が据えられています。キーパーがそれを奪ってしまうと、シナリオの面白さが一つ抜け落ちてしまいます。あくまでシナリオの課題をクリアしたのがプレイヤーたちだと感じさせることを忘れないようにしましょう。

 

 

まとめ:キーパーの二つの役割

 プレイヤーが行動してくれない、あるいは行動が決まらない状況について、5つの例に分けて説明してきました。

 

 これらの例を見てみると、キーパーは必ずしも「課題の提示者」とか「プレイヤーの敵」という存在ではないことがわかります。たしかに、これらの表現はキーパーのある側面を表す言葉であり、これらの仕事をこなさないわけにはいきません。

 しかし、キーパーは同時に「プレイヤーの伴奏者」とか「導き手」としても振舞わなければなりません。クトゥルフ神話TRPGがホラー世界をゲームとして体験することに重きが置かれたシステムである以上、課題の克服よりもホラー世界の再現に注力するべきです。プレイヤーがよりホラー世界を楽しむことができるように、課題の克服に少しばかりの助力をするのは責められるべきことではありません。

 

 情報提供や相談のアシストなどは慣れないうちは難しい技術ですが、挑戦しながらバランスをとって、より楽しいセッションを目指してみましょう。

 

 

*1:ちなみに、条件を揃えれば必ず成功するというものより、条件を揃えれば挑戦できるという程度の難易度の方がドラマチックになりやすい