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シナリオを測量するいくつかの尺度について【クトゥルフ神話TRPG】

 表題の通り、シナリオの性質を測るためのいくつかの定規(測定方法)を思いついたので置いておきます。

 基本的には、シナリオの性質を測定し、ライティング・キーパリングの参考とするための手段として設計してみました。自分自身のシナリオに客観的な批評を加える一つの手段として、これらの方法を利用することができます。ただし、それぞれの尺度はカウントするときに主観も関わってしまうので、完全に客観的な尺度とは言えません。利用する際には自分の判断基準を意識して利用し、シナリオ上の表記にズレがないかを反省的に考えることを忘れないようにしましょう。

 

 

トリガー分析定規

トリガー分析の基礎概念

 イベントのトリガー(発生条件)をプレイヤーとキーパーのどちらが握っているのか、すべてのイベントについて判断し、その比率からシナリオを評価します。全イベントのうちプレイヤートリガーのイベントが何%になっているかを統一的な尺度として利用し、単位をpt(プレイヤートリガー)とします。

トリガー分析の方法

 すべての探索行動について、「そのイベントをプレイヤーが引き起こそうと考え、プレイヤーが行動宣言することで、実際にそのイベントが発生する」状態にあるとき、そのイベントは「プレイヤートリガーのイベントである」とみなします。この条件に少しでも合致しない場合、それは「キーパートリガーのイベントである」とみなします。

間違えやすいポイント

 プレイヤーがなんとなく(無目的に)行動したとき、あるいは他の目的をもって行動したときに、偶発的に想定外のイベントが引き起こされるように設定されているとき、そのイベントは「キーパートリガーのイベント」とみなされます。たとえば、図書館に伝承についての本を調べに向かっている途中で、謎の人物と遭遇したりする場合、このイベントのトリガーはキーパーが握っているとみなします。

 一方、プレイヤーが図書館判定を想定して行動したときに、イベントの方で言いくるめや信用の判定を要求する場合もあります。こうした場合には、獲得する情報の種類が同一なら「プレイヤートリガーのイベント」とみなします。

トリガー分析の意義

 トリガー分析を用いてシナリオを評価することで、セッションの主導権をどの程度プレイヤーに譲渡しているかを判定することができます。指標を多く集めることで、ノベル型シナリオとプレイヤー主導シナリオを計量的に区別できる可能性があります。

トリガー分析の例(参考数値)

悪霊の家(屋敷内を除く)

探索イベントの総数 14
プレイヤートリガー 12

トリガー分析(pt) 85.7pt

悪霊の家(屋敷内のみ) 

探索イベントの総数 12
プレイヤートリガー  1

トリガー分析(pt) 8.3pt*1

悪霊の家(全体)

探索イベントの総数 26
プレイヤートリガー 13

トリガー分析(pt) 50.0pt

 

したがって、悪霊の家は屋敷の外を探索する場合、プレイヤーの自発的な行動が重要なシナリオとなり、屋敷の中だけで探索する場合には受動的な態度で探索することになるシナリオ構造をしていると言えます。双方が組み合わさることで、シナリオ全体としてはプレイヤートリガーとキーパートリガーの比率が1:1になり、50ptというバランスのとれたシナリオと評価できます。

 

 

探索型分類定規

探索型分類の基礎概念

 探索型とは、明示性と網羅性の二つの性質により四類型に分類される、自由探索過程の特徴の類型です。明示性とは、探索項目あるいは探索対象がプレイヤーに明示されるか否かを指します。網羅性とは、すべての探索項目を調査しなければならないか否かを指します。これら二つの成否に基づいて、探索過程を4つに分類することができます。

  1. (明示, 網羅):構造化された判定連鎖ゲーム
  2. (明示, 選択):経路選択による探索戦略ゲーム
  3. (秘匿, 網羅):推論による調査再現ゲーム
  4. (秘匿, 選択):進行性のオープンワールドゲーム

 これら4つの類型は、異なるゲームをプレイヤーに課す点で相互に独立しています。また、それぞれシナリオ内のゲームが異なるため、プレイヤー・キーパー・ライター全員に異なる姿勢が求められます。

探索型分類の方法

 すべての探索対象について、探索可能性が情報として明示されているか否かを確認します。ここでいう明示性は「この空間に赴いて(行動対象)特定の判定を実施することで(判定名)、特定の情報・進捗を得ることができる(発生イベント)」とプレイヤーに対して説明されているか否かを基準にします。これら3条件のうち2つを満たしていれば、明示されていると判断します。

 続いて視野を広げて、探索イベントの網羅と選択を確認します。ここでいう網羅性は「シナリオの結末までにすべての探索対象を調査することができる(実際にはプレイヤーの判断で一部を探索しなくとも良い)」という状態とします。したがって、選択性のゲームと判断されるのは「シナリオの結末までにプレイヤー行動の結果一部の探索行動が実施できない状況に陥る」という状況にある場合です。

 シナリオ内の探索パートが重要イベントによって複数に分かれている場合、判定される探索シーンが複数あるものとして扱います。

探索型分類定規の意義

 探索型分類を行うことで、シナリオが要求しているのがどういう種類のゲームなのかを自覚することができます。特にライターの場合には、自身のシナリオ意図とシナリオ構造が合致しているのかを考察するのは極めて重要な意義を持ちます。

 また、探索型はキーパリングによって柔軟に変更させることができます。たとえばサンプルシナリオ「悪霊の家」は、シナリオ資料だけを見れば(秘匿, 網羅)の「推論による調査再現ゲーム」として構成されていますが、キーパーが探索箇所をあらかじめリスト化することによって(明示, 網羅)の「構造化された判定連鎖ゲーム」に置き換えることができます。

 これらの点から、探索型分類はプレイヤーにどのようなゲームを体験させたいかを強く意識することに寄与します。

 

情報提示類型スコア定規

情報提示類型スコアの基礎概念

 情報提示類型スコアは、探索型分類・トリガー分析と同時に利用することで、シナリオが構造的に機能するか否かを定量的に判定する指標です。情報提示類型には試験的に次の三種類を用意しました。

  1. 明示 ゲーム内外の表現で探索対象の存在を示す方法
  2. 示唆 ゲーム内の表現でのみ探索対象の存在を示す方法
  3. 推論 ゲーム内の情報を総合すれば探索対象を発見できる秘匿状態

 ここでいう「ゲーム内の表現」とは、たとえば状況描写や参照テキストなどの形態を意味します。一方「ゲーム外の表現」とは、キーパーが探索箇所リストを提示したり、情報を得るための行動条件を説明するなどの、いわゆる「メタ説明」によってプレイヤーに探索対象を明示するような表現を指します。

情報提示類型スコアの利用方法

 すべての探索イベントについて、その探索イベントの存在を示す情報(原情報)の配置を遡って確認します。このとき、原情報がいずれの情報提示類型によって原情報が提供されているかを確認し、次の規則に基づいて点数付けします。

  1. 明示 5点
  2. 示唆 3点
  3. 推論 1点

 一つの探索イベントの原情報が複数ある場合、スコアを加算します。スコアを探索イベントごとに加算した結果、点数の高いイベントは、セッションにおいて発生しやすいイベントとみなすことができます。

情報提示類型スコア利用時の注意点

  基本的に、いわゆる「メタ説明」のみによってしか提示されない探索対象はこの類型には加えられていません。これはクトゥルフ神話TRPGにおいて、そのような探索は避けるべきだとする設計者の個人的な理念によります。利用者によっては探索箇所のリストを示され、各所で指定された判定を行って進行する形式を好ましく思うかもしれません。その場合には、次の分類を追加することで情報提示類型スコアを拡張することができます。

 

 一覧 ゲーム外でリストとして探索対象の存在を示す方法(3点)

 

情報提示類型スコアの意義

 情報提示類型スコアを利用することで、シナリオの機能性を定量的に判定することができます。また、プレイヤーに対する情報提供量が十分であるかを判断することができるため、ライターには修正の機会を与え、キーパーにはセッション進行方法の検討機会を与えてくれます。

情報提示類型スコアの例

悪霊の家:黙想チャペルイベントの評価

 黙想チャペルに情報があるかもしれないとの推測は、次の4つの情報を総合しなければなりません。

  1. 推論 図書館で得られる訴訟と遺言に関する情報
  2. 推論 文書保管ホールで得られる遺言執行人に関する情報
  3. 推論 警察署で得られるカルティストの事件に関する情報
  4. 推論 近隣住民から得られる黙想チャペルの位置情報

したがって、黙想チャペルイベントの情報提示類型スコアは4点です。

悪霊の家:地下室コービット部屋突入イベントの評価

 地下室にコービットが敵対的な態度で残存しているかもしれないとの推測は、次の情報を総合することで形成されます。

  1. 示唆 図書館で得られる遺言の情報
  2. 明示 黙想チャペルで得られる遺言執行記録の情報
  3. 推論 地下室で得られる壁の性質の違い

したがって、探索者がコービットの部屋に突入するイベントの情報提示類型スコアは9点となります。

情報提示類型スコアの課題

 情報提示類型スコアはまだ研究段階にあります。たとえば上述の例で、黙想チャペルイベントのスコアを4点、地下室イベントを9点と評価しましたが、これには難点があります。一言に要約するなら、それは経路依存性の問題です。

 コービット部屋突入イベントの最大評点をもつ「黙想チャペル情報」の発生評価は「4点」にすぎません。また、黙想チャペルイベントの推論情報となるイベントは、それぞれ「0〜1点」の評点しかもちません。これらのことから、実際には黙想チャペルイベントは評点以上に圧倒的に発生しにくいイベントになります。*2

 

まとめ

 シナリオの性質を定量的に分析する試みとして、3つの尺度を提案しました。どの程度有用なのかは、シナリオの性質やキーパリングの習性によっても変化することでしょう。それでもシナリオを定量的に分析する試みはこれまであまりなされておらず、一定の意義を持っているものと思われます。これらの参考指標を利用して、自身のシナリオの特徴を把握したり、改善に役立ててみてはいかがでしょうか。

 

 

*1:ただし部屋への進入行動をプレイヤートリガーの情報と見做した場合、42.1ptとなる。今回は探索イベントの置かれていない部屋はイベントとして加算しなかった。

*2: この性質を取り入れるためには、評価点数に基準値を設け、経路に応じて積算する方法が考えられます。たとえば4点を基準にするなら、黙想チャペルイベントの推論情報は各4分の1点しか発生可能性がないため、スコアは「4分の1×1点を4つ」で計1点に止まることになります。

 このとき、地下室イベントの明示情報も4分の1しか発生可能性がないと判断できるため、明示の点数評価は4分の5点にとどまることになります。この手法で計算すると、黙想チャペルイベントの情報提示スコアは1点なのに対し、地下室イベントはおよそ5点のスコアを持つものとして計上されます。

 こうした手法を今後開発する必要がありますが、そのためには基準値を定める必要があります。仮に4点と設定しましたが、今後利用例が増えれば、十分に情報が提示されたと判断できる点数の基準が見えてくるものと思われます。今は基準を設定せずに、今後の応用を待とうと思います。