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【ゼロから始めるゲームづくり〜TRPG編〜】第5回 スキル制と役割形成

 キャラクターメイクにおいて役割を作り出す工夫のひとつに、スキル制というものがあります。今日はスキル制による役割形成の理念を勉強してみましょう。

 

 そもそもスキル制とは次のものを指します。

スキル制

 実施される判定ひとつひとつに対応する「スキル」を設置し、キャラクターはこれを習得あるいはこれに配点することで成功確率を上昇させることができるような、キャラクター役割の形成システム。

 典型的なものはクトゥルフ神話TRPGで、説得判定の成功率を左右するためには〈スキル:説得〉に配点する必要があります。これに類する構造をもつ役割形成システムをスキル制と呼びます。

 

 

スキル制のシステム設計

 同じスキル制のシステムでも、複数の運用方法があります。

単純スキル制

 最も典型的なスキル制では、スキル値以外の値を参照しません。キャラクターの基本的な身体能力とスキル習熟度は切り離されています。このためキャラクターの基本的な能力値は参照される機会が少なくなり、習得するスキルの選択やその配点状況にゲーム的な比重が重く置かれることになります。

 標準システムの一つであるベーシックロールプレイングはこの形式を採用しており、キャラクターの基礎ステータスはスキルで判定できない場合にのみ利用されるにとどまっています(対抗判定を含む)。

合算スキル制

 一方で同じスキル制でも、基礎能力値の参照を含む場合があります。たとえば高い知能を有したキャラクターなら、知識系のスキルを習得せずとも判定にボーナスが得られるような状態になります。この状況では単純スキル制に比べればスキルの重要性は下がりますが、そのぶん基礎能力値の平等制を確保することが重要になります。

 たとえばダブルクロス3rdにおける技能判定は、ダイス個数として基礎能力値を、判定値ボーナス固定値としてスキル値を参照します。このためスキルの重要度は相対的に下がっています。その一方、基礎能力の平等制を確保するためにダイスによって能力値を決定せず、シンドロームの選択によって確実に全てのプレイヤーが平等に基礎能力を得られるように設計されています。

波及スキル制

 スキル制の亜種として、一つのスキルを習得するとそのスキルを近傍の他のスキル判定にも流用できるというシステムも設計されています。一つのスキル習得が他のスキル判定の成功率にも波及するという意味で、波及スキル制と呼びましょう。

 波及スキル制にはスキル一覧と波及規則の設定が必要不可欠です。たとえば「同じ『交渉』系列なら〈スキル:説得〉のスコアを半分にして〈スキル:信用〉の成功率として利用できる」というような波及規則のことを指します。

 この効果を最も視覚的に効率的に表現したシステムとして、標準システムのひとつであるサイコロ・フィクションを挙げることができます。スキル間の波及規則はスキル間のマス数として視覚的に表現されており、誰でも簡単に波及スキル制を使いこなして遊ぶことができるようになっています。

 

スキル制の長短

 いずれのシステムを採用したとしても、スキル制には明確な長所と短所があります。

スキル制の長所

判定指示の明快性

 全ての判定が対応するスキル名称を指示する形式で宣言されるため、簡潔で明快です。ゲームマスターは「ここで〈スキル:運転〉で判定を行います」と宣言し、プレイヤーは(3つのスキル制形式に従って)参照値を確認して判定を行います。なお判定操作の明快性において、単純スキル制に勝るものはありません。合算スキル性や波及スキル性はこの点ではスキル性の長所を伸ばすものではありません。

キャラクター能力の伝達可能性

 スキル名称は短い熟語でわかりやすく書かれているため、キャラクターに何ができるのかを容易に理解することができます。また「できること」の説明以上に重要なのが「できないこと」の説明が容易である点です。〈言いくるめ〉と〈説得〉のように似た行動であっても、スキル的に分離されていれば一方ができるだけでは他方はできないということを明示的に伝えることができます。

個性のデータ的表現が可能

 可能な行動が細かく分類されていることで、「あれはできてもこれができない」というキャラクターの個性を細かく設定することができます。単に〈スキル:格闘術〉という括りがある場合より、〈スキル:パンチ〉〈スキル:キック〉〈スキル:投げ技〉と分離されている方が、キャラクターの個性がデータに反映されます。ボクサーなのかムエタイ選手なのか、柔道家なのか、はたまた総合格闘家なのかをデータ的に表現できるからです。同様に、〈スキル:学術〉と括られているより、〈スキル:化学〉〈スキル:生物学〉などと分かれていた方が、同じ知的キャラクターでも細分化した表現が可能になります*1

スキル制の短所

役割分担意識の希薄化

 短所の最たるものは、スキル習得に制限が設けられない限り役割分担意識が薄くなってしまうことです。もしスキルが戦闘系列・交渉系列・探索系列などと分類されており、第一の系列で4つ、第二の系列で2つ、第3の系列で1つ習得するなどの規則があれば、プレイヤーたちは自然と役割分担を意識することになります(3人が3人とも、第一の系列に戦闘系列を選ぶということはないでしょう)。しかしいくらかのスキル制ではそうした制限を課しておらず、プレイヤーたちは役割分担をあまり意識することなく奔放にスキルを取得してしまいます。

 この問題への解決策として、合算スキル制や波及スキル制は非常に有効です。合算スキル制は基礎能力の水準で役割分担を意識させる効果があり、波及スキル制はスキル全体が淡く塗りつぶされるようにプレイヤー全体でバランスをとるよう意識しやすくなっています。

スキル検討候補数の肥大化

 長所である個性のデータ的表現可能性には代償が伴います。すなわち初めてのプレイヤーが把握しなければならないスキルの絶対数が多いことです。例えばクトゥルフ神話TRPGの現代探索者であれば61個のスキルから自分がポイントを配分するスキルを選ばなければなりません。次回紹介するクラス制のソード・ワールド2.0では、ポイントを配分するべき選択肢は15種類しかありません。同じくクラス制のアリアンロッド2Eに及んでは、メインクラスは4種類しかありません。これらクラス制と比較したとき、明らかにスキル制は情報量の多いシステムと言えます。

活躍機会設定の困難さ

 この選択肢の多さは、ゲームマスターに別の苦労を強います。すなわち60種類もの技能をシナリオに登場させなければ、参加者全員に活躍機会を提供できない危険性があるのです。この特徴は単純スキル制ほど強く、取得したのにセッション中一度も使われなかったスキルが発生することもしばしばあります。このため、役割を網羅すること自体が馬鹿らしくなり、結果として役割分担意識の希薄化を助長することになります。

 この点、合算スキル制や波及スキル制は配慮あるシステムと言えます。基礎能力での判定参加やスキル流用による判定参加ができるため、担当した役割での活躍機会をえやすくなり、従って役割分担意識の重要性を再帰的に認識することができるのです。

 

今日のまとめ

 今回はひたすらスキル制について整理しました。

 同じスキル制にも様々なものがあり、合算スキル制や波及スキル制は単純スキル制の短所を改善したものと言えます。役割形成を重視したシステム設計を目指すならば、合算スキル制や波及スキル制を採用するのが適切と言えそうです。

 しかし単純スキル制には他には代え難い明示制と個性のデータ表現可能性という長所があり、現在のクトゥルフ神話TRPG人気に一役買っているものと思われます。

 

 次回はクラス制について整理し、その次の回にはゲームの多重化と2つの役割を作る技術について整理し、さらに今度は判定から分離したメタ役割とアビリティ取得について議論を伸ばしていきます。

 

【ゼロから始めるゲーム作り〜TRPG編〜】第6回 クラス制とメタ役割による役割形成 - TRPGをやりたい!

*1:ここで利用された〈スキル:格闘術〉や〈スキル:学術〉といった大きな括りは、次回クラス制を考える上で重要な概念になります