インスマウスの影【要約で読むラヴクラフト】
ラヴクラフト全集を読みます。毎回1つの話を2000字程度で紹介する予定です。
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大西尹明
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1974/12/13
- メディア: 文庫
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まとめるとどんな話?
母方の出自をたどりインスマウスという海辺の街を訪れた“わたし”は奇妙な生物の噂を耳にし、自らに危機が迫ったことを察知して逃走を図った。その過程で噂に聞いた魚と蛙と人間の混ざったような生物を目撃したが、命からがら逃げ出すことに成功したのだった。しかし今や私はその化け物の血が自らに受け継がれていることに気づいてしまった。
話の展開
物語は全てが終わった後、“わたし”がことの顛末を話す形式で進みます。
結末と聞き込み
インスマウスの住民は逮捕され、町外れの荒屋は軒並み焼き払われた。沖の岩礁には潜水艦によって魚雷が打ち込まれたらしい。その措置が取られたのも、“わたし”がその街の情報を届けたからである。
“わたし”は旅程の急な変更で偶然にその街を通り、途中下車してみることにした。その街の評判はすこぶる悪く、その「インスマス面」以外にもよほど奇妙なものがあるに違いないと思ったからだ。なんでも悪魔と契約した船長の噂とか、ダゴン秘密教団という秘密の宗派の噂とか、役人が行方不明になる事件などが伝えられているのだ。
インスマウスへ
生臭い匂いのするジョーの運転するバスに乗ってインスマウスに向かう。インスマウスにはとにかく人気がなく、人がいるとすればそれは醜く不快感を催す何かを伴っていた。街には実際にダゴン秘密教団が存在し、海辺には厳重に釘が打たれた人が住んでいるはずもない小屋がならんでいた。
ザドック老人
すっかり気が狂れてしまったザドック老人を見かけ、この街の過去について話を聞くことにする。ザドック老人はなかなか口を割らなかったが、やがてこの地に伝わるカナカイ族と蛙のような魚人の話を語る。その恐ろしい混血の契約をこの街で再現しようとしたオーベッドの企みが露見して拘束された夜、怪物たちが海から現れて街で殺戮を繰り広げてから、インスマウスは魚人たちと生きざるを得なくなったという。再び混血が進み、子供達は怪物じみてきて、今や総仕上げに『ショグゴス』なる怪物を用意しているという。
そこまで話した老人は奇声をあげ、“わたし”に逃げるように促す。曰く「奴らに見られてしまった」らしい。
インスマウスからの脱出
街から抜け出すために乗り込んだバスは故障のため運行を停止した。やむなく宿泊することになった“わたし”だが、宿で忍び寄る足音と鍵を開けようとする物音を聞く。それら人間らしからぬ息遣いの追っ手に恐怖を抱きながら、“わたし”はとっさにドアを塞いで窓から脱出を試みた。
街の外へ通じる道が封鎖されたために、“わたし”は古い鉄道の線路跡を辿って脱出を試みることにする。ようやくそこにたどり着いた時、目の前を蛙のような白い腹に人間の手足を持って、顔ばかりは魚の顔をしたその化け物たちが通り過ぎる。覚悟していたものの、あまりの光景に“わたし”は茂みの中で気を失ってしまったのだった。
最後の秘密
翌日目を覚ました“わたし”はなんとか隣村までたどり着き、アーカムで役人たちに事の次第を伝えた。その結果起こったことは初めに話した通りなのだが、なおも恐ろしいことが明らかになった。
そもそも“わたし”は母方の田舎を旅していたのだが、どうやらその母方の曽祖母はオーベッドの娘らしいのだ。“わたし”は日に日に変わり果ててゆく自らの顔に初め絶望を感じたものの、連日夢見る深海の世界に次第に魅了されていった。いまは同じように変貌して監禁されたいとこを助け出して、共にあの深淵に潜って、永遠にそこに棲む計画を立てている。
オススメ度:5/5
この作品はクトゥルフ神話の作品群の中では非常に有名な一作で、登場する「深きものども」にしても「ショグゴス」にしてもよく知られています。その点では他の作品よりも読みやすい一作ということができます。
作品の作りとしては、情報の上書きを繰り返すことを意図して書かれていると思われます。第1章で語りの情報を得て、第2章で実際の街を目にします。第3章で語りのなかの殺戮と恐怖を聞き、第4章で自らその恐怖を経験します。第5章ではこれ自体が語りの中の恐怖であることを思い出させ、私たちの身に迫る第6章を予感させて終わりを迎えるという仕組みです。
正常な語り部が狂気に沈むエンディングは、その点で非常に現代的な手法が利用されているということができます。こうした工夫から言っても、本作は代表作と言われるだけの魅力を備えた物語です。
この物語を収録しているのはこちら
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大西尹明
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次回「壁の中の鼠」