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【ホラー本読み漁り】君のような勘のいいガキは嫌いだよ【「異形再生」を読む】

読書記録 シナリオソース シナリオライティング

タイトルは、名作「鋼の錬金術師」の言わずと知れた名シーンです。

娘のニーナと飼い犬のアレキサンダーと交流しながら、研究ノートを見せてもらっていた主人公のエドワードと弟アルフォンス。ついに今年も人語を解する合成獣の創造に成功したと言うショウ・タッカーが見せてくれたのは、人語を解する犬の合成獣でした。そこで主人公エドワード・エルリックが次のように問いかけます。

エドワード「タッカーさん、人語を理解する合成獣の研究が認められて資格とったのいつだっけ?」

タッカー「ええと、2年前だね」

エドワード「奥さんがいなくなったのは?」

タッカー「2年前だね」

エドワード「もう一つ質問いいかな?」

エドワード「ニーナとアレキサンダー、どこに行った?」

タッカー「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

生きたままに自らの娘と飼い犬を手にかけ、自らの研究の道具として使った狂人の恐ろしさを描いた名シーンとして、今でも高く評価され続けています。

 

本日紹介するのは、これと極めて似た構図を現実風味に作り出した奇書「異形再生」です。

 

  

異形再生: 付『絶滅動物図録』

異形再生: 付『絶滅動物図録』

 

 

 

和訳が2014年、原著は2013年の発売のようなので、こちらの方が明らかに後に書かれたものであることは注意しましょう。

 

本書の内容

前半は19世紀半ばに活躍したとされるスペンサー・ブラック博士の記録です。

この人物は解剖学の優れた技術を持っており、若くから将来を嘱望されていた人物として描かれます。しかしこのスペンサー医師は医学院での仕事を次第におろそかにし、個人的な研究に没頭します。

 

個人的な研究とは何か?

 

それが異形、平たく言って奇形の研究です。双頭性奇形児を筆頭に、脚部や頭骨の異常をもった人々の解剖学的研究と、部位欠損に対する移植手術による治療を追究したのです。

次第にメインストリームの学者からは見放され、大学を解雇されたスペンサー博士は奇形児たちを見世物にした興行団とともに行動をともにすることになります。博士は実際に幾人かの部位欠損を死者からの移植手術によって治療し、奇形に悩まされる人々から神聖視されるほどの評価を得ます。

その一方で彼が唱え続けた自説は、学界や宗教家達を激怒させます。スペンサー博士が言うには「伝説上の生物と言われている生物は現実に存在し、そうした奇形の存在達の遺伝子が再び活性した姿こそが現在の奇形なのである」とするものでした。科学的にも宗教的にも到底受け入れがたいこの学説は、スペンサー博士に対する迫害を引き起こすには十分なものだったと言います。

 

そしてこの伝記の一つのハイライトに到達します。それは彼の妻と息子、そして彼の狂気を聞きつけて説得に訪れた彼の兄に対して、ついに伝説上の生物の再生に成功したとよろこんで見せつけたシーンです。

それは翼を移植された犬で、すでに息も絶え絶えな様子でかろうじてその翼を動かします。その姿を見て狂気を笑みを浮かべるスペンサー博士に恐怖を抱き、妻達は立ち去り、兄は激しく叱責します。しかし今や狂ってしまったスペンサー博士には、なぜ兄が怒り狂うのかが理解できません。

いよいよ恐ろしい狂気を理解した妻は二人の息子をこの兄に託し、すべてを焼き払うことを決意します。自らの夫に銃を向け、実験動物達を撃ち殺し、研究室に火を放った彼女はスペンサー博士もろとも心中を試みたのです。しかしこのもくろみは失敗します。

彼女は重度の火傷を負って、自らもスペンサー博士の手術に供されなければ生きられない状況に陥ってしまうのです・・・。もう一つの誤算は、長男アルフォンスがすでに父親の狂気に魅入られてしまっていたことです。その後スペンサー博士によって永遠に老いない体へと作り変えられたとされるアルフォンスの行方は、未だにわかっていません。

 

 

本当にノンフィクションなの?

…君のような勘のいい読者は嫌いだよ。

 

どうやらフィクションのようですね。そもそも書いてあることがおかしいんです。山羊の脚をした奇形児なんてありえませんし、後半で登場するような生きたままキメラ化した生物が実際に動くということも考えられません。なんといっても拒絶反応が発生しますし、胚細胞移植の技術がなければキメラを安定して生み出すことはできません。

 

…え? はい、そうですよ? 胚細胞の移植技術があればキメラは作れます。

日本で言えば、豚の体内に人間の臓器を発現させて、移植用臓器を生産しようというプロジェクトがこれは普通に推し進められています。また奇形という点でいえば、遺伝子組み換え技術だけでも作り出すことができます。脚の部分にすべて目を発現させたハエなんかは実験動物として生み出されたことがあるのはよく知られています。

これらに共通するのは、対応する部位を別の要素で書き換えるという方式です。つまりただ背中に唐突に翼を生やすことはできませんが、腕のパーツを翼に書き換えることはできるかもしれない、というような条件があるわけです。

CRISPR/cas9なんていう技術ももてはやされている昨今ですから、現代のスペンサー博士はいつだってもう少しリアリティを持って幻想動物を生み出せるのかもしれません。もっとも、それをやっていかほどの意味があるのかは疑問ですが。

 

 

この本を紹介した理由

さて、TRPGに帰ってきましょう。この本を紹介したのは、この本で利用されている技法が極めてクトゥルフ的だという印象を受けたからです。

伝記風の部分には大量の手記が引用され、ほとんど事実であるかのように描かれています。スペンサー博士が作り出した名状しがたき生物達の断片的な描写は非常に優れており、狂気に落ちた博士の考え方、世界の見え方を見事に切り取ってくれています。また、残された屋敷とアルフォンスの危険性を匂わせる記述は、後に引く恐怖感を演出してくれています。

 

この一冊だけで、一つのキャンペーンを作れそうなレベルでアイディアの詰まった一冊ということができます。スペンサー博士の屋敷にまだ奇妙な生物が残されていたら? もしもスペンサー博士の主張が正しかったとしたら? 博士の息子が狂気の研究を引き継ぎ、どこかで活動を続けていたとしたら? アメリカを舞台にした様々なシナリオの可能性が浮かび上がってきます。

 

ちょうど異形の生物をテーマにしたキャンペーンを執筆しようと思っていたところだったので、私も早速、この本と架空(?)の人物スペンサー・ブラック博士をテーマにしたシナリオの執筆に取り掛かろうと思います。