ペアシナリオライティングで学ぶシナリオ製作【第1回】
ハカセ(以下 ハ)「全国10万人のTRPGシナリオライティングフリークの皆様、こんにちは。今年もこのシーズンがやってまいりました。全日本シナリオライティング選手権 ペア部門。冬の北風が吹くピッチ上で、出場選手たちの熱気が春の息吹を立ち上がらせるかのようです」
キツネさん(以下 狐)「・・・」
ハ「まさに絶好のシナリオライティング日和! 昨年の熱戦が眼に浮かぶような、いや、あるいはそれ以上の気迫をピッチ上から感じます。」
狐「・・・」
ハ「本日は解説に、オンラインサークルみすてり部からキツネさんをお招きしております。狐さん、このピッチ上の気迫、たまりませんねぇ!」
狐「はい、選手たちのアツい戦いが・・・って、ついていけねぇよ!! なんだよ、ピッチってどこだよ!」
ハ「・・・狐さん!」
狐「今度はなに!?」
ハ「ピッチはいつも、僕たちの心の中にあるんですよ・・・」
狐「・・・」ハ「・・・」
狐「ないね。心のグーグル検索にかからなかった」
ハ「うん、僕もないと思う。ヒット0件」
狐「それで、今日はなんのために呼び出されたの?」
ハ「TRPGシナリオ作成大全Vol.1に、面白い提案が書かれていたんですよ」
狐「まさか・・・」
ハ「そう、『ペアシナリオライティング』です。というわけで、一緒にクトゥルフ神話TRPGのシナリオ書いてみませんか?」
狐「別にいいけど・・・」
ハ「そんなツンデレみたいな言い方しないでくださいよ〜照れちゃうじゃないですか!」
狐「はいはい・・・でも、俺ってシナリオ作ったことないんだけど、いいの?」
ハ「それが狙いですよ、ツンデレ狐さん!」
狐「ツンデレじゃないから!」
ハ「シナリオを作るのに慣れてしまうと、いったいどういうところで苦戦するのかがわからないんです。だからこそ、狐さんと一緒にシナリオライティングをして、初心者の苦労ポイントを知ろうというわけです」
狐「あー、なるほど。俺はシナリオが書きたい。ハカセはライティングのノウハウを再発見したい。まさにwin-winのペアシナリオライティングってわけね」
ハ「なお全編演出を加えて会話形式でブログ記事にされます」
狐「えっ?」
ハ「つまり架空人格ツンデレ狐が生まれます」
狐(なんかこっちだけwinしてない気がする・・・)
第1回 ひとことテーマではじめよう
アイディアを並べて雰囲気を共有する
ハ「・・・あれからすでに四半世紀。世界の情勢は大きく変わっていた! デデンッ!」
狐「1週間しか経ってないからね!?」
ハ「それで、アイディアを用意しておいてもらえましたか?」
狐「いちおう3つくらいは用意してみたよ」
〈狐さんが用意してくれたアイディア集〉
1.病院、幽霊、おいかけっこ
2.部屋の歪み、脱出
3.夢の外の夢、死による覚醒、連鎖を断ち切る
ハ「アイディアがあるならシナリオは完成したも同然! 俺たちのシナリオライティングはこれからだ! 第3部完!」
狐(よし、流そう・・・)
ハ「今日はシナリオの雰囲気というか、イメージを共有します!」
狐「雰囲気? どういうこと?」
ハ「つまり、狐さんが書きたいシナリオが、パニックホラー的なのか、サスペンスホラー的なのか、サイコホラー的なのか、そういうところから決めていきます」
狐「へー」
ハ「というわけで、1番の方、お入りください!」
狐「は?」
1番のアイディア「こんにちはー」
狐(ほんとに入ってきたーーっ!?)
ハ「ではまず問診から始めましょうねー。 ええと、ご趣味は?(モジモジ」
狐「ちょっと待って! 設定ちゃんと固めてからショートコントして!」
ハ「狐さんは真面目だなぁ!」
狐「ハカセが飛ばしすぎててついていくのでやっとなんだよ・・・」
ハ「さて、1番のアイディアさん、病院内で幽霊と追いかけっこをするそうですが・・・そのときプレイヤーは壁を叩き壊したりしましたかね?」
狐「いや、するわけないだろ(苦笑」
ハ「ふむ・・・では、幽霊はたくさんいましたか? それともたった1匹?」
狐「1匹かなぁ。でも増えるのも面白いかも」
ハ「プレイヤーたちに対抗手段は残されていますか? 銃とか」
狐「基本的には逃げることしかできなくて、最終的な対抗手段はあるってくらい」
ハ「わかりました・・・診断が出ました。1番のアイディアさん、これはただの風邪です。抗生物質出しときますね」
狐「あー抗生物質なら要りま・・・ってさぁ、ハカセ!」
ハ「はいはい、ちゃんとした診断ありますって。これは青鬼型逃走劇クローズドですね」
狐「あー、青鬼か、たしかにそれっぽい」
ハ「OUTLASTの前半と言って通じたらちょっと嬉しい」
狐「あー、あれか、わからなくはない」
ハ「では、さくさく2番のアイディアさんに入ってきてもらいましょうか」
狐「部屋の歪みからの脱出」
ハ「これは入るたびに部屋の姿が変わっている館から脱出したりするアレですかね?」
狐「あー、違う違う。目に見える空間が歪んじゃっていてっていう、認識と物理的空間がズレちゃうみたいなことをやりたい」
ハ「ほうほう、では、どこに怖さがあるんでしょうか? 今の時点だと、酔っぱらっちゃったり目が回っただけという可能性もありますよ?」
狐「感覚器の間で情報が違うっていうのはなかなかに怖いかなと思うんだけど、難しいかなぁ」
ハ「うーん、一般に言って、認識や意識がおかしくなってしまう系シナリオは、プレイヤーと面白さを共有するのが難しいんですよ」
狐「やっぱり?」
ハ「はい。だからそういうのをテーマにしたホラーゲームって少ないんですよね。かろうじてアランウェイクやサイコショックあたりがそういう要素を含んでいたように記憶していますけど、作品全体のテーマというわけでもない」
狐「じゃあ今回は採用しないでおこう。いつか作れたらいいなぁ」
ハ「そうなりますかねぇ・・・」
狐「気を取り直して3つ目! これは結構こだわりがあるんだよね」
ハ「うん、言葉を見るだけで、他と気合の入り方が違うっていうのが伝わってくる」
狐「これはループものを想定してるんだよね」
ハ「ほう? ループというと、死んだら元の場所に戻るんですか?」
狐「そういうこと」
ハ「それで、このシナリオは銃や爆薬は使うんですかね?」
狐「いや、使う予定はないよ」
ハ「ひょっとして、基本的にプレイヤーは孤独?」
狐「あー、うん、そのイメージ。ループするからプレイヤーは1人じゃないとうまくいかないし」
ハ「舞台のイメージに近いのは、宇宙船・タイル張り・木造のうちでどれ?」
狐「タイル張りというか、わりと現代的な感じの・・・」
ハ「照明は全体に暗い? 明るい?」
狐「暗いかな」
ハ「よし、これはSAWシリーズをイメージしましょう。ああいう暗い場所に、死ぬたびに引き戻されるという・・・」
狐「あー、なるほど、ああいう感じか。たしかに、密室を組み合わせたかった」
ハ「ミッ◯ールーム?」
狐「ハハッ!」
ハ「ミッ室へようこそ! ハハッ! ここからは逃げられないよ!」
狐「つまり、密室から逃げ出して一安心したら、何かしらで死んでまた密室に元どおり。密室とループとの2つの閉鎖から逃げ出さないといけないっていう感じ」
ハ「面白そう!」
狐「でしょ?」
本日のまとめ
ハ「よーし、じゃあ全部だいたいの雰囲気を共有できたところで、今日のまとめに入ります!」
狐「ちゃんと講座みたいなこともするんだ・・・」
ハ「今日伝えたかったことはズバリ『アイディアの時点で思ったよりいろんなイメージを抱いているものだ』ということです!」
狐「たしかに、尋ねられたことには全部答えられたな」
ハ「そうでしょ? 自分がこれまでに見てきた作品やプレイしたゲームなどの影響を受けながら、『こんなゲームが作りたい』というのを人は密かに考えているんです」
狐「だからそのイメージを具体的な作品名をあげたり、銃器が出てくるかとかを言葉にして確認するわけか」
ハ「そういうこと。そのイメージが、あなたのシナリオの『軸』になってくれるわけです」
狐「あーたしかに、始めイメージしてたことではあったけど、言葉にしておくと間違えないで済むな」
ハ「慣れないうちは要素を詰め込み過ぎてしまって、どえらい長いシナリオになってしまったり、面白さがピンボケしてしまったシナリオになったりして、プレイヤーが楽しめないという失敗に陥ってしまうんです」
狐「だから、始めに抱いていたイメージと『軸』をしっかりと押さえてから、細かいシナリオの設定に入らないといけないってわけか」
ハ「パーフェクトですよ、狐さん!」
次回予告
ハ「さて、次回は『問題と解決方法のパッケージ』を作ります」
狐「パッケージって、スーパーとかで売ってそうだね」
ハ「17時からのタイムセール、今なら『問題と解決方法のパッケージ』が3割引!」
狐「まぁ! 今日の夕飯はTRPGシナリオで決まりね!」